英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第55話 神の恩恵 byカナタ

星暦2023年、春の10日、無の日、早朝

 

 イースト大陸の特徴ともいわれるキキラ砂漠、その中心部にあるキキラの街から王都バースに向かうため馬車に乗って出発した。

 3つの街々を経由して4日の時が経ち、昨日の夕方でようやく王都バースに到着した。私も含め馬車の乗客全員は長旅で疲労感と睡魔に襲われてヘロヘロ。そのまま予約した宿屋に直行して、すぐに就寝した。神の恩恵当日は、早起きしなければいけないから、この睡魔で熟睡できそうでありがたい。

 

 現在、私は宿屋に借りた一室で、父と母と共に神の恩恵のために正装している。人生で最も大切な日のようで、子供はみんな身なりを綺麗にして向かうようだ。普通の街でならここまでしなくてもいいらしいけど、王都のような大都会だとどうしても身形とかを気にしなきゃいけないみたい。

 

「ほ~ら、カナタ。これでもうばっちりね!とっても似合っているわよ!」

 

 この日のために母が買っておいた服を私に着せると、母は満足気な表情を浮かべてテンションを上げる。てっきりスカートを着させられるのかと思っていたけど、普通の男の子が履くようなズボンを用意してくれた。こんな風に堅苦しい格好するのは久しぶりだ。前世でまだ会社員だった頃を思い出す。

 

「おっ、いいじゃんその服!カナタ、すごくカッコいいぞ」

 

「あはは……ありがとう……」

 

 カッコいいって……私は女の子なんだけど……。でも確かにこの格好ならそう思われるのか。……まあ、悪くはないわね!

 

 部屋に置かれてある姿見鏡で自分自身を見て、満足気な表情を浮かべる。

 自分で言うのもあれだけど美少年っぽくてカッコよく見える。一家全員の正装を終わると部屋から出て、宿屋の1階のフロントに向かった。そこにはすでに一緒に向かおうと約束したケマくんとコルルちゃん、そして2人の両親たちが待っていてくれた。

 

「あっ、カナタちゃんが来たよ!おはよう!」

 

「おはよう、カナタちゃん。とても似合っているよ」

 

 ケマくんとコルルちゃんは相変わらず元気な挨拶をしてくれた。

 やはり種族によって文化や価値観が違うのか、2人は私のとは全く雰囲気が違う正装をしている。決して2人の格好が似合わない訳ではない。逆に、普段見ることのない2人の姿に新鮮味が相まって似合い過ぎている感がある。この世界にカメラがあったら2人の姿を撮りたいくらい。

 

「おはよう。2人も正装とっても似合っているよ」

 

 そう褒めると2人ともあからさまな照れ顔を見せる。

 せっかくならキーちゃんとクアルくんの正装も見てみたかったな。鬼人族と鳥人族の正装が気になるというのもあるけど、2人の身形を整った姿を見てみたいという気持ちの方が強い。

 時間通り集合した私たちは一緒に宿屋を出て、神の恩恵を受けに教会へと向かい始めた。

 

 宿屋から教会まで意外に距離があり、30分近くは歩いているけど一向に教会らしい建築物は見当たらない。だけど向かう道中に王都バースの街並みを拝見しているおかげか、長い距離の移動に対して全く不満を感じない。初めての王都に次々に目移りをして心を躍らせる。

 

 正直に言って王都バースを舐めていたわ……。異世界っていう理由だけで街並みは大したことはないって思っていたけど、想像以上にすごい!建物から道路まで全部レンガを使っているけど、様々な色のレンガで芸術性を感じられる。建物も地球では見たことがない建築物ばかり……本当に舐めていたわ……。

 

「ふふ、カナタ、少しは落ち着きなさい。田舎者って思われるわよ?」

 

「ごめんなさい。初めての王都だから色々と驚いちゃって……」

 

 叱られちゃった……。確かに挙動不審みたいになっていたかな。反省しよう……。あとケマくんコルルちゃん、後ろで笑っているの分かっているからね?そんなに私が親に叱られるのが面白かったのかな?2人とも帰ったら覚えておきなさいよ??

 

「あっ、見えてきた。皆さん、あれが教会ですよ」

 

「「「「「おおおおお~!」」」」」

 

 父が大きな建物を指にさすと、全員が同じ反応で声を出した。

 周りの建物は少し暗めのレンガが使われているのに対して、その建物は白いレンガがほとんど使われているせいか、王都の中でかなり目立っている。ここが今日、神の恩恵を受ける教会らしい。私たち子供は教会の想像以上の大きさ、そして日の出に反射して輝く神々しさに驚かされる。

 

「すっごぉぉぉい!でっかぁぁぁい!」

 

「思っていたより綺麗……!」

 

「これ……どっちかというと神殿じゃない?これが他の王都にあるって……信仰心がすごいな」

 

 ケマくんとコルルちゃんとは少し違う反応をするけど、私もかなり驚いているのには変わりない。私たちはそのまま歩み続けて教会へ近付き、他の親子たちと同様に大きな門を通り教会に入る。

 教会中は既に多くの同い年の子供たちと同伴者がおり、用意された席の半分近くが埋まっていた。私たちもみんなで座れるように急いで席を確保する。どうやら神の恩恵までまだ時間があるようだ。それまでケマくんとコルルちゃんとで談笑して時間を潰すとしよう。

 

 しばらくすると教会内の全席が埋まり、建物内は子供たちの話し声でまさに大騒動。そんな中、教会内の一番奥にある祭壇の前に1人の喪服姿の者が現れた。

 

 なんか徳の高そうな人が出てきたわね、神父さんかしら?はぁ、ようやく始まるみたい。この椅子のクッション、綿が少ないのか全然反発してくれないからお尻が痛くなってきちゃった。

 

 神父さんの登場に気付き始めた教会内の人たちは口を次々に閉じて、建物内は瞬く間に沈黙と化した。神父さんは自分に視線が集まっていることを確認すると、教会内の人たち全員に聞えるように声を張って語り始める。

 

「王都バースに集いし若人たちよ、おめでとうございます。こうして無事にこの場に来られたことに、神に感謝をしましょう。こうしてここにいる他の者と巡り出会えたことに、神に感謝をしましょう。汝らは今日をもってそれぞれの種族の一人前になり、更にここから成長できます。しかし一人前になるということは……」

 

 うわぁ……でたよ、よくある意味があるそうで意味のない長ったらしい無駄話が。学校みたいでなんか懐かしいな。よく部活のことを考えて全然聞いていなかったっけな~、あの校長の話し毎年使いまわしだったし。……本当に大した内容じゃないんだし、別のこと考えてもいいよね?

 そうね……そういえば今後の方針とか考えていなかったわ。やっぱりこうして私たち5人が神の恩恵を受けて各々のステータスが分かるようになるわけだし、それを基にもっと細分化した個人練習を設けた方がいい気がするわね。それかキキラの街から出て、身体を遠出になれさせる訓練をするのもありだね。環境を変えることで良い刺激になることもあるし。

 思い切ってもう冒険者になりに行くのもアリかな?試験の参加条件は神の恩恵を受けた10歳以上の者だったはずだから、今日から私たちも試験に挑むことはできる。大人たちの話しでは、冒険者登録試験は確か毎年、夏の1日で行っているんだっけ?残りの訓練の時間は……大予想で50日前後かな。……あっという間ね。いや、ようやくこの時が来たって言うべきかな。

 

「……ます。神々はいつも汝らを見守っています。それだけは忘れないように。さあ、若人たちよ、恩恵の時間です。1人ずつ私の前に」

 

 神父さんが最後の一言を言い終わると、ずっと座っていた子供たちが急に立ち上がって祭壇の前に走って並び始めた。別のことを考えていた私は突然のことに困惑する。

 

 えっ、えっ、えっ、なに!?みんな一体どうしたの!何か始まったの!?

 

「カナタちゃん、私たちも速く並ぼう!」

 

 頭を左右に動かして少し焦っている私に、いつの間にか席から離れていたコルルちゃんに手を引っ張られる。何も理解していないまま彼女に身を任せた。

 行き先は神父さんの前に並ぶ、子供たちによる長蛇の列。私たちはその最後方で私、コルルちゃん、ケマくんの順に並び始める。しかも最後方だったのは束の間、次々に私たちの後へやって来る子供たちによって、その長蛇の列はまだ続く。

 

「えっと……コルルちゃん、これはいったい何なの?」

 

「えっ、これから神の恩恵を受けるんだよ。知らないの?」

 

 あっ、神父さんの話を聞くだけが神の恩恵じゃなかったんだ!?いや普通に考えてそりゃそうか。それだけでステータスウィンドウを使えるようなら、この世界はどれだけ楽で都合が良い世界なんだって話よね。

 

「具体的には何をするの?」

 

「神父さんがくれる白いお菓子を食べる。それだけだよ」

 

 白いお菓子!?なにそれ、犯罪臭がぷんぷんするんだけど!流石に比喩表現だと思うけど……ここからじゃ何をしているのか分からないな……。

 

 私たちは長蛇の列の中間にいる。長いのか短いのか何とも言えない場所。ここから覗き込むように列から頭を出しても最前方は一体何をしているのか全く見えず、逆に最後方は誰が並んでいるのか分からないという感じ。結局何も確認できずに、分かったことは先が長いという事だけ。最後にため息をついて黙々と自分の順番になるまで待った。

 並び始めて10分以上が経った。流石は年に一回の大イベントだけあってその子供の数は尋常ではなく、私の順番まで時間が掛かる。両腕を組んでつま先で床をトントンとリズムを奏でながら待ち続けた。そして、ようやく順番は私の前の子まできた。前の子と神父さんのやりとりを見てみると、確かにコルルちゃんの言う通り、神父さんが手に持った袋から薄い円形の白いお菓子の様なものを出して、前の子に手渡した。

 

 なにあれ、見たことないんだけど!?あれ口に入れて大丈夫よね?……何故か知らないけど、私の中であれが何かヤバい物に見えてきた。

 

 前の子がそれを口にした後、礼儀良く神父さんに一礼をして親の元へ走り出す。遂に私の順番がきた。前のスペースが開くと私は2歩前進して神父さんの前に立つ。

 

「はい、どうぞ」

 

「どうも……」

 

 神父さんは他の子同様に袋から白いお菓子を取り出して、私に手渡す。今になって緊張したのか、それとも不安になったのか私は若干歪んだ笑みでそれを受け取る。

 

 ……大丈夫よね?ええい、ここまで来たんだ、女は度胸!ママよ!!

 

 白いお菓子を飲み込むように口の中に入れた。白いお菓子は舌に乗った途端、口の中の水分で一瞬にしてなくなった。味の感想を言うと、ほぼ何も感じない。強いと言うなら小麦粉の味が後からやってきた。とりあえず害はなさそうかな。私の杞憂だったみたい。

 

「……カナタちゃん、そろそろどいてもらってもいいかな?」

 

「そーだそーだ、早く僕にも食わせろー!」

 

「あっ、ごめん!えっと、ありがとうございました。」

 

 後ろコルルちゃんとケマくんによる苦情が来た。白いお菓子の味を堪能しすぎたみたい。とりあえず神父さんに一礼をしてからすぐに立ち去る。両親の元へ戻る道中、少し待たせた私が気になるのか他の子たちが凝視してくる。

 

 うぅ……すごく恥ずかしい。まあ私が悪いけど。これ絶対に街に帰ってケマくんに笑いのネタにされる奴じゃん。はぁ~、せっかくの記念日なのになんか最悪。

 

 午前7時から行われた神の恩恵。開始から2時間経ち、ようやく終わろうとしていた。

 あの後、列の最後尾に並んでいた子にも渡し終えると、神父さんはもう一度意味があるそうで意味のない長話しを始めた。今度は聞き逃さぬように最初だけは真剣に聞いていたけど、話が段々と宗教系へ傾き、聞くだけで疲れてきたから前半の話しと同様に頭の中で別のことを考えて時間を潰した。ある程度自分の中で考え終わるともう一度神父さんの言葉に耳を向ける。

 

 はぁ、まだ話している……。そんなに話して一体何が楽しいんだか。他の子たちも明らかに疲れ始めているし。ケマくんに至っては普通に寝ているし。集中力がないってイメージだったから別に面白可笑しく思わないけど。コルルちゃんは……真面目に聞いているな。

 

「……であります。さあ、ここに集いし若人たちよ、これで汝らも一人前である。さあ、今日から汝らだけの旅が始まります。汝らに神のご加護があらんことを」

 

 神父さんが最後にそう言いと教会の上にある鐘がカーンっと大きく鳴り響く。どうやら今のが神の恩恵の終了の合図らしい。他の親子たちは次々と席から立ち上がり教会から出て行く。

 私たちも人混みに紛れて教会を出ると、お昼前の時間帯のおかげか晴天に輝く青空が私たちを迎えてくれた。後ろから次々と人が出てくるから通行止めをしないように直ちにその場から離れる。

 

「う~~ん、疲れた!あの神父さん話が長すぎ、耳にタコが出来ちゃったよ!」

 

「ほとんど寝ていたくせに何を言っているの?ケマくんが疲れているのは寝起きだからでしょ?」

 

「確かに神父様の話しは少し長かったけど、とってもいいお話だったよ」

 

 とってもいいお話ねぇ、毎年あそこに立っているんだからどうせ使いまわしだと思うけど。まあいいわ、それよりお楽しみはこれから。なんたって晴れてこれで……ステータスウィンドウを開けられるようになったんだから!

いや~待ちに待ち過ぎたよぉ~。これで遂に私もファンタジー世界の住民に仲間入りだね!さ~て、どうやって開くのだったかしら……。

 

「みんな、少し急ぎ足で向かいましょう!早くしないと良い場所が取れなくなるわ!」

 

 母はそう言いながら私の腕を掴み、急ぎ足で宿屋の方へ向かう。突然のことに私だけではなく父や他の人も困惑している。だけど私以外はすぐに母の言動を理解する。

 

「あっ、そっか!この後あれがあったんだ!母さん、俺達も急いで向かおう!」

 

「あっ、忘れていた!」

 

 ケマくんとコルルちゃんは何かを察したかのように、母と同様に少し焦った感じで歩き出す。そして母に遅れてみんなも急ぎ足で駆けだす。みんなだけ理解しているけど私は未だ何も分からない。

 

「ちょっとママ、一体どうしたの!?」

 

「いいからいいから、急ぐわよ!」

 

 母は答えてくれず、ただ私の腕を掴んだまま歩き続ける。この後の予定は特に何も聞いていない、急な用事でもあるのかな。

 しばらく歩き続けると昨晩宿泊した宿屋が見えてきた。内心帰って清掃から着替えなおすのかなと思いきや、母は私の腕を掴んだまま宿屋前を素通りする。

 

「えっ、ちょっ、ママ!?宿屋通り過ぎちゃったよ!?」

 

「分かっています!私たちが向かっているのは広場なの!」

 

 母は一体何をしたいのか全く見当がつかなかった。またしばらく歩き続けると母が言っていた広場に到着した。

 そこは大きく円形状に空間を空けられて、中央には巨大なかがり火があり、容器内の炎は盛大に燃え上がっている。恐らく王都バースの観光名所の1つだろう。何故か広場の北から南をかけて、多くの鎧姿の騎士たちが一本道を作るように整列していた。道の幅はとても広く、かがり火の周りにはさらに広く空間が確保されている。まるで重要人物を通ると言わんばかりに騎士全員が外向きに立ち、厳重に警備している。

 騎士たちの周りには多くの住民たちが集まっている。よく見ると女性の人が多い。住民たちは鎧と鎧の間の隙間を懸命に何かを覗こうとしている。

 

「うっわ、何あの人だかり?」

 

「よかった、間に合ったわ!」

 

 到着すると母は嬉しそうな表情をする。

 

「ママ、あの人たちは一体何を……?」

 

「いいから、私たちも並ぶわよ!」

 

 本日3度目の「いいから」言いながら母はまた腕を引っ張り、先客同様に騎士たちの前に立つ。突然現れた私たちに何人かの騎士が兜越しでギロッ見つめる。

 

「えっ、あっ、どうも……。」

 

 とりあえず挨拶をしたけど、仕事に対して勤勉なのか騎士たちは全く返答してくれず視線を前へ戻す。騎士とはこういった不愛想な者なのだろう。

 私たちが騎士たちの前に並んで少し経つと、後から私たちと同様に急ぎ足で向かってくる人たちが大勢集まって、私たちの周辺もあっという間に人混みと化した。もう一度周辺を見渡してみるとやはり女性の人が多い、何故こんなに集まっているのか私は理解できないままでいる。とりあえず両隣にいるケマくんとコルルちゃんにどういう状況なのか聞いてみる。

 

「ねぇ2人とも、何でこんなに人が集まっているのか分かる?」

 

「えっ、カナタちゃんマジでそれ言っているの!?」

 

「本当に知らないの?!」

 

 2人は明らかに驚いた表情で私の顔を見る。

 うん、全く知らない。とりあえず首を縦に振る。

 

「……じゃあカナタちゃんは、何で王都バースに来たの?」

 

「神の恩恵を受けるためでしょ?あとはパパの実家でもあるから。それ以外に理由はない……かな?」

 

 2人はお互いに向かい合わせて2、3回眼を見開く。

 

「えっと……カナタちゃん、確かに王都バースに来た人は神の恩恵を受けることもそうだけど、多分ほとんどの人は別の目的で集まっているの」

 

「人によっては神の恩恵よりも、こっちの方がメインって考えているかもな」

 

 えっ、神の恩恵よりも大切な目的って何!?……ヤバい、全く想像がつかない。

 

「……じゃあその一番の目的って何なの?」

 

「今、私たちの前にある道があるでしょ?今日のお昼、長旅から帰ってくる勇者様があそこを通るんだって。だからみんなここで勇者様の顔を見たいから集まって来てるんだよ」

 

 コルルちゃんはそう説明しながら騎士たちの間に見える一本道に指をさす。私はそれを聞いた途端、コルルちゃんとその一本道を交互に2度見する。

 

「えっ、そうなの!?」

 

 勇者、それはファンタヘルムの5大陸からそれぞれ1人ずつ選ばれた人類の希望ともいえる人たち。その役割は時代によって異なり、飢饉に苦しむ人々を救済したり、経済的に苦しむ一国家を発展させたり、更には出現した魔王の退治など、普通の人では成しえない偉業をこなすと言い伝えられている。

 両親からおとぎ話程度で聞いていたけど、まさかこうしてお目にかかれる日が来るとは思いもしなかった。

 

「そうだったんだ……」

 

「本当に知らなかったみたいだね……」

 

「それにしても勇者様ってすごい人気なんだね。神の恩恵があるとはいえ、こんなにも一目見ようと人が集まっちゃうんだから。……そういえば、さっきから女の人が多いような」

 

「あー、勇者様は女の人に人気があるから、この日のために神の恩恵とは無縁の人も、他の街々から来ているわけらしいよ」

 

 あ~、なるほど。今では子連れも多くなってきたけど、それでも大人の女性だけのグループもあるな。勇者ってこの世界で言うカリスマ的な存在……いうなれば地球で言うアイドル的な存在なのかな?どっちにしても1人の人物を一目見ようと、よくこんなにも人が集まったわね。

 一体どんな顔しているのだろう。クール系かな?それともワイルド系かな?ちょっと楽しみになってきた。

 

「やっぱりか……。お前がやけに王都(ここ)へ来たがっていたのはそう言うことだったのか」

 

 後ろで何やら父と母が話している。

 どうやら私たちの会話を聞いていた父は母に愚痴を言っているようだ。その表情も少し引きつっている顔だ。

 

「何が“ご両親に挨拶がしたい”だ!?ここが勇者様の拠点にしているのを知って、ただ単に勇者様が見たかっただけじゃないか!お前これは捉え方によっては浮気だぞ?俺泣くぞ?この歳で泣いちゃうぞ?」

 

「べ、別にいいじゃない、見るだけなんだから!?勇者様よ、勇者様!長い人生で顔を見られるのはそう何回もあるわけじゃないんだから!あなたはいいじゃない、一度は見たことあるかもしれないんだから!私なんて一回も見たことないのだから、それくらい許してもらってもいいじゃない!」

 

 へ~、勇者って滅多に拝めるものじゃないんだ。まあ住んでいる所が遠いから、それに関しては仕方がないと思う。テレビや写真があれば、その欲求も解消されたかもしれないけど、この世界には生憎ないからね。

 じゃあ私が今日見られるのはラッキーってことかな?尚のことしっかりとそのお顔を見とかないとな~……っていうか何時になったらその勇者様は出てくるの?

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