星暦2023年、春の10日、無の日、昼
広場について数時間が経った。
あれから更に多くの人が集まり、今では騎士たちによって造られた一本道以外の空間は人々によって埋め尽くされている。どうやら母はこうなることを予想して、神の恩恵が終わってすぐに急ぎ足で向かったみたい。
振り返ってみると、さっきの神の恩恵での長蛇の列とは比較にならないほど最後尾が遠い所にいる。あんな場所では勇者の顔なんて絶対に見られない。それに引きかえ私たちがいる場所は騎士たち隙間から見える道だけではなく、反対側で整列している騎士たちまでハッキリと見える。問題なく勇者の顔を拝められる。だけど長時間立ったままということもあり少し疲れてくる。
「はぁ~……立っているだけでも疲れてきた。ねぇママ、勇者様はまだなの?」
「おかしいわね~、確かお昼過ぎにあそこから出てくるって聞いていたのだけど……」
「えっ、勇者様が出てくるって話、もしかして噂なの!?」
「そんなことないわよ。王都に着いた時にちゃんと新聞で確認しなんだから間違いないわ」
焦ったぁ……ここまで待たされてから「実は与太話でした」って言われたらどうしようって思った。まあ現に騎士たちが道を確保しているんだし、流石に嘘ではないでしょ。ここまで人を集めてから「ウッソで~す」みたいな盛大なドッキリだったら逆に笑えるわね。もう少し頑張って待つか……んっ?
王都バースへの出入り口、南門に続くメインストリートの端から何やら観衆たちのざわめく声が聞こえ始めた。最初は小さかったざわめきは波のように徐々に私たちの方まで伝わり、やがて広場にいる全員がまるで疲れを感じさせない声を出し始める。遂に待ちに待った時がきた。
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉー!!」」」」」
「「「「「きゃあああああぁぁぁぁぁー!!」」」」」
「「「「「勇者様ぁぁぁぁぁー!!」」」」」
うわっ、なにこの盛り上がり!?
観衆たちは盛大に黄色い声援を出し始めた。老若男女関係なく、全員が一斉に声を上げるものだから思わず身体をびくつかせてしまった。
目の前に見える一本道から南から北へゆっくりと進む乗馬した騎士たちが見え始めてきた。騎士たち全員が整列した者と同様の鎧と兜を装着しているけど、1人だけ明らかに違う色の鎧を装備して、素顔を見せながら乗馬している者がいた。観衆たちはその者を見つけるとさらに盛り上がりを見せる。
「おい、勇者様が来たぞ!」
「勇者様、こっち振り向いてー!」
「ああ、また勇者様を見られるなんて……感激!」
どうやらあの人が待ちに待った勇者らしい。私は騎士たちの隙間から一本道を覗き込み、その勇者の顔を凝視する。
勇者様は銀色の髪の毛を持つ獣人族。見た目は20代前後の美青年。頭にある丸い耳、ケマくんにはない毛並みが綺麗な尻尾、種類は狸種。その身形は勇者と呼ぶにふさわしい真紅の鎧をまとい、腰には鞘に納められてもその溢れ出る神々しさを感じさせる片手剣。まさに文句の付けどころのない勇者がそこにいた。
「カッコいい……!!」
勇者のあまりに風貌に私は思わずそう呟く。
溢れ出るカリスマ性に私たち観衆は釘付け、彼から目線を離せれない。いや寧ろ近づいて来たことにより熱狂がさらに上がった。
「きゃああああ、勇者様ぁぁぁぁー!!こっちを見てぇぇぇぇ!!」
「お願いします、もう少し、もう少しだけこちらの方へ寄って来て下さい!!」
「ちょっとアンタどきなさいよ!?勇者様が見えないじゃない!?あっ、勇者様ぁぁぁぁー!!」
私たちの後方で何やら女性たちが騒ぎ始める凍絵が聞こえてくる。それと同時に突如として私の後ろに立っていた両親が私たちの背中を押して、前にいる騎士たちの鎧に押し当てる。
「うわっ、ちょっ、なに!?イタイイタイ!!パパママ、痛いよ!!」
「ごめんカナタ、急に後ろの人が押して来たのよ!」
「おい、子供たちがいるんだぞ!!ちょっ、これ以上押すな!!」
どうやら勇者を見たいがために後方の人たちが前に詰めようとしているみたい。整列している騎士たちも必死に観衆たちを制止させようとするけど、あまりに多い数に声を張って止めようとしても誰も止まろうとしない。
まさか早く来て最前列に並んだことがこんな風にあだになるとは。私たちは肉厚に押されて痛み苦しむ。
「みなさん、押さないでください!危ないので押さないでください!おい、絶対に誰一人この先に通すなよ!」
「りょ、了解!!」
「痛い、痛い!?」
「く、苦しい……!」
「2人とも大丈夫!」
ケマくんとコルルちゃんもかなり苦しそうに声を出す。友人に辛い思いをさせて私は今にキレそうだ。
そんな観衆たちの騒動に気付いた勇者は馬を停止させて、私たちの方をじっと見つめる。その後、腰にある剣を抜いて空に大きく掲げた。
【炎魔法:イグナナシュタ・セブニードル】
掲げられた剣は光り放つと、剣先から7つの炎の針が四方八方へ飛び散る。7色に分かれた炎の針たちはそれぞれ異なる動物へと変化して、観衆たちの上空に舞い、そして踊り始めた。動物たちは上や下、右や左へと動き回り、まるでサーカスのようなショーを私たちに見せる。
勇者の色鮮やかな魔法により観衆たちの騒動を一瞬にして制止させた。観衆たちが魔法に目移りしている間に、勇者は1人の側近に拡声機を受け取る。
「あ~あ~、本日は晴天なり……」
勇者が拡声機にそう呟くと周りへ一気に声が広がり、観衆たちの視線は勇者様へ注目する。
「え~とですね、皆さん……今日は確か神の恩恵でしたよね?だから今日はここ王都バースにも、いつもより多くの子供たちが集まっていますよね?今もここ沢山の子供たちが来ていますよね?ここからでも十分に見えていますよ?自分勝手な大人たちによって苦しそうに押しつぶされそうな子供たちが……ここからでも十分見えていますよ?少し大人気ありませんか?少しみっともありませんか?少し……下がってもらえませんか?」
勇者優しい笑顔でそう拡声機に声を吹き込み、騒ぎ出した観衆たちに注意する。それに堪えたのか私たちの後ろを押していた観衆たち……主に女性たちは苦々しい表情を浮かべながら一歩二歩と後退し始める。しばらくすると私たちの周りには先のように余裕があるスペースが確保できるようになった。
「イタタタ……カナタちゃん、コルルちゃん、大丈夫?」
「うぅ、何とかね、コルルちゃんは?」
「大丈夫なようで大丈夫じゃない、本当に痛かったよ……」
とりあえずはケマくんとコルルちゃんは無事のようだ。大切な記念日に大事がなくてよかった。2人の様子を確認した後、私は再び勇者の方へ振り向く。すると勇者も私の方を何故か見ており、目が合った。
その途端、勇者は微笑みを見せた。私たち子どもの身の安全を確認が出来たからであった。どうやら勇者は私たちの危機を感じて魔法を発動したり、拡声機で注意をしてくれたようだ。勇者の意図が伝わり、私は思わずもう一度同じ言葉を言う。
「か、カッコいい……!!」
見た目だけではなく善良な心遣い、まさに世界を救済する人格者、勇者であった。前世も含めて私はこんな人として素晴らしい人は間近で見たことはない。勇者は私たちの安全と騒動が落ち着いたのを図り、もう一度拡声機を口元へ近づける。
「私の勝手な要望に応えてくれてありがとうございます。そのお礼と言ってはなんですが……私からのささやかなプレゼントです、どうぞご覧のほうを!」
そう言うと勇者はもう一度剣を上に掲げた。同時に観衆たちを自分に注目させるため空で制止させていた炎の動物たちが再び動き出した。
動物たちは再び観衆たちの真上を舞い踊ると、1匹ずつ天高く跳ね上がり、大きな音と共に派手に爆散した。その模様はまるで前世でよく見てきた花火。7匹の動物たちはそれぞれの色の花火として消滅して、最後にこの広場を大いに盛り上げてくれた。
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉー!!」」」」」
花火はこの場にいる全員に大好評。勇者はそんな観衆たちの笑顔を見て微笑み、神々しい剣を鞘に納めて再び馬を進ませる。
「いや~、突然止まってすいません。僕、ああいうの見るとつい気になってしまってしまうんです」
「いいえ、むしろ我々の仕事を手伝っていただいたことに心から感謝をしていますッ!」
「そう言ってもらえると助かります。それじゃあ早く王様の下へ向かいましょうか。いつまでもここにいては他の人の邪魔ですし」
「はっ!総員、進め!」
勇者一行をそのまま北へと進み、観衆が最も集まっている広場から去って行った。取り残された観衆たちはその後も、もう一度戻ってくるわけでもないのにいつまでも勇者の後姿を見つめ続ける。それは私たちも同様であった。
◇
星暦2023年、春の10日、無の日、夕方
勇者が広場から立ち去って数分後、私たちも人混みをかき分けて広場から離れて、普段着に着替えるため一度宿屋に戻った。正装した自分の姿も気に入ったけど、やっぱりいつもの格好の方が落ち着く。ケマくんとコルルちゃん達ともう一度宿屋のフロントにて集まり、一緒に夕食を食べに出た。
幸運にも父が王都バースの出身のおかげで、団体でも大丈夫なお店に案内してくれた。探す手間が省けたというもの。現在、私たちは父が勧めてくれた大衆食堂『チョーダさんの御馳走へ』という大きな建物の中で食事をしている。
「どれもこれも初めてだけど……おいし~い!」
「カナタちゃんカナタちゃん、こっちの料理も美味しいよ」
「どれどれ」
注文して出てくる料理は両親の言う通りどれも美味しかった。私はケマくんとコルルちゃんと一緒に食べている。流石に9人同時に座れるテーブルがなかったため、大人と子供でそれぞれ分かれて食事することにした。同年代の子との食事はやはり楽しい。
「それにしても、さっきのあれは本当に酷かったね」
「ん?あれって?」
「さっきの広場でのあれだよ。本当に苦しかった、勇者様を見たかっただけなのにあんな目に合うなんて……」
「ああ、あれのことね」
ケマくんはさっきの広場での騒動を思い出したみたい。
確かにあれは酷かった。良い大人が周りのことを気にせず自己満足のために行動していたと思うと、もう一度当時の苛立ちが蘇ってくる。
「あの時は本当にイラっとしたね。……イライラのあまり私、思わず【火魔法】発動しようかと思ったよ」
「もうカナタちゃんったら、またまたそんな冗談言って。……冗談よね?」
何故かコルルちゃんは最後に疑問形でいう。
私なりの冗談に決まっているでしょ。あんな人口密度多い場所でボヤ騒ぎでも起こしたら、いくら子供でも捕まってしまうわ。
「で、でも、勇者様の起点のおかげでそこまで大事にならなくてよかったね。今思うと流石は世界を救済する人だね、心遣いが普通の人とは全然違うね」
「確かに。それにあの魔法もすごかったねえ。火が動物に変わって上空で飛び回るなんてね、あれはすごかった。見る限り火魔法に似ていたけど……カナタちゃん、真似できないの?」
「絶対に無理。まず火をあんないろいろな色で発動することすらしたことないもん。あれは相当レベルの高い魔法よ。真似なんて出来っこないよ」
まあもっとも、勇者のあの魔法が【火魔法】なのかすら怪しいレベルの魔法だった。この3年間、魔法の訓練に関してはパーティの中で誰よりも頑張ってきたつもりだ。それでも、あれ程の芸術的で繊細な魔法に近付ける自信が持てない。
「ていうか勇者の魔法を真似しろってかなり無茶ぶりだよ?」
「いや~、カナタちゃんなら頑張ったらいけるかな~って思って」
ケマくんは何故そんなに私のことを期待しているの?無理だからね?私は君と一緒の10歳児だよ?そりゃあ勇者と同じくらいの年になったら分からないけど……あれ?
「……ねぇ、そういえばイースト大陸の勇者様って思ったより見た目が若かったけど、歳はいくつ位なの?」
私がそう聞くと2人は何故か食べていた料理を詰まらせてむせた。思いもしない質問に驚いたようだ。とりあえず2人に水を飲ませて落ち着かせた。
「え、えっ!?カナタちゃん、それ本気で聞いているの?」
「大丈夫?最近勉強していなかったから俺よりアホになったの?」
なんだとケマくんコラ。私は別にアホではない、ただ単に世情に疎いだけ。それにしてもまさかここまで驚かれるとは……もう少しこの世界の世間一般的な知識を学んだ方がいいわね。とりあえずここは素直に教えてもらおう。
「うん、全然知らない。お願い、教え~て♪」
「……まさかカナタちゃんに何か教える日が来るなんて思いもしなかったよ」
私なりに可愛く要求したけど、コルルちゃんはそれよりも私の意外な一面を知ったせいなのか、少し呆れ顔になった。こんなコルルちゃんを見るのは初めてだ。
「えっとねぇ、まずカナタちゃんがどこまで知っているのかな……。昔この大陸にいた魔王の話しは知っている?」
「それはあれでしょ、百年以上前に出現した魔王が全種族を集めて無理矢理奴隷にして働かして、自分の王国を造ったイースト大陸の経済を独占したっていう話のことでしょ?」
これは勇者の話しをしてもらった時、両親から何となくだが教えてもらった。内容は曖昧だけど、それくらいは知っている。
「とりあえずそれで合っているよ。それでね、長く暴挙を続けたその魔王に挑んで倒したのが、さっき見た勇者様とその当時パーティなの」
「へぇ~。……んっ、ちょっと待って?これって100年以上前の話だよねッ!?」
「うん、そうだよ。勇者様は100年以上も前から生きている人だよ」
いやいやいやいや、いくら何でもそんな歳には見えなかったよ!?どう見ても20歳前後にしか見えなかったよ!?獣人族特有の若作りとか?いやそれでも……あり得るのかな?!
「ま、まあ落ち着いて。それで勇者様が魔王を倒した際に、魔王の体から大量の返り血を浴びたんだって。その血が勇者様の体に染み込むと、【不老】っていう特別なスキルを習得したんだって」
「……じゃあ勇者が今日までずっと若いままだったのは、そのスキルのおかげってこと?」
「そう言うこと。どんなのかは知られていないけど他にも多くのスキルを獲得したんだって。結構有名な話だよ?本当に知らないなんて……カナタちゃん、私は少し不安になって来たよ」
コルルちゃんは再び私に少し呆れた表情を見せる。
言い返せる言葉が出ない。仮とはいえ私はパーティリーダー、もう少しこの世界のことを学ぶべきかな。
大衆食堂『チョーダさんの御馳走へ』。内装は飲食店にしては清潔でとても居心地がいい。私たちが入店してしばらく経った時には全てのテーブルが埋まり、お店は満員御礼の繁盛をしている。
客は年に1回の記念日である神の恩恵だからか、全員がとても楽しそうに飲み食いしている。私もこの場の空気に流されてはしゃぎたい気持ちなのだが、今はそういうわけにはいかない状況になってしまった。
「カナタちゃん……世情ついて疎い事は仕方がないとして、勇者様の話しは世間一般的な知識なんだよ?私たちのために色々と尽くしてくれるのは嬉しいけど、もう少し自分のために勉強とかしてください」
「……はい」
あまりの世間知らずである私はコルルちゃんに説教されている。
パーティの中で一番しっかりとしている子だとは思っていたけど、まさか教える側だった私を説教するほどまで成長するとは思いもしなかった。箸の手を止めて淡々と責められている。
うぅ、まさかこんなことになるなんて……。別にいいじゃん、少しくらい知らなくて。日本では少しおバカな女の子の方が可愛いって言われていたんだよ?ファンタヘルムでそれを言っても仕方がないか。何か段々自分がみっともなく感じてきた、早くこの説教何とかしないと。……ってこの子、こんなキャラだったっけ?もっとおっとりな性格だと思っていたけど……。
「ね、ねえ、コルルちゃん……話は後でもいいじゃない?今はほら、食べ物があるんだし、冷める前に食べちゃおうよ、ね?」
「……話を逸らそうとしていない?」
意外と鋭いな、この子。私の誘導があからさま過ぎたのかな?
「そ、そんなことないよー!ご飯が冷めたら勿体なーと思って……」
「ご飯ならケマくんが全部食べてくれたよ?」
「えっ?」
テーブルの上を見てみると、皿の上にはすで全ての料理がなくなっていた。ケマくんの方へ振り向くと、彼は膨らんだ自分のお腹を撫でながら満足そうな表情を浮かべていた。急に喋らなくなったと思えば、どうやら私たちが話している間ずっと1人で黙々と食事をしていたようだ。よく食べるな~と思いそれほど気にしていなかったけど、まさか全部食べられるとは思いましなかった。
「ふぅ~、大満足……げっぷ」
「ケマくん何してくれてんの!?私が残しておいたものまで全部食べちゃって!」
「えっ、もう食べないから残したのかと思って……ゴメン」
「ゴメンじゃないよ!えっ、ちょっ、えー……本当に全部食べちゃったんだ……」
ケマくんは大家に見合う程の大食漢だ。まさかこのタイミングでそれが披露されるとは思わなかった。美味しいと思って残しておいた料理まで食べられて私は少しガッカリとする。
「はぁ~……」
「えっと……もっかい同じ物を頼もうか?」
「もういいよ。お腹も膨らんできたし、次頼んでも食べきらないよ」
「えっと……ほんとゴメン」
今日はせっかくの記念日なのに、なんかついていないなぁ。訳も分からずに急に走らされて、何か後ろから押されて潰されそうになって、挙句にパーティメンバーから説教される。せっかくの神の恩恵なのに、何か気分悪く……あっ!!
「そうよ、今日は神の恩恵だったじゃない!」
「ど、どうしたのカナタちゃん、急に大声出して……!?」
「……やっぱり料理注文する?」
コルルちゃんの反応は分かるけど、ケマくんはボケているのかな?私、別にそこまで食べ物が好きってわけじゃないよ?ケマくんの眼に私はどういう風に映っているのか気になるけど……まあいい、それより早く2人に聞いてみよう。
「2人とも今日は神の恩恵よ!今日から私たち、ステータスウィンドウが使えるようになったんだよ!」
「あぁ、そういえばそうだったね!」
「今日色々あって忘れていた!」
そう、私たちは教会であの怪しい白いお菓子を食べたことにより、両親や大人たちの様にステータスウィンドウが開けるようになっているはず。
「せっかくだし3人同時に出して見せ合いっこしようよ!」
「いいね!ふふっ、何かいざ出すと思うとなんかドキドキしてきた!」
無邪気な子供の如く、2人はノリノリで腕を前に出して準備をする。
「それはじゃいくよ?」
「うん!せ~……」
「ちょっと待ってッ!」
2人がステータスウィンドウを出そうとした時、私は待ったをかける。
まさか止められるとは思わなかったのか、2人は呆然とした表情で私を見る。正直に言って、私も今すぐに自分のだけじゃなく2人のステータスを観てみたい。だけど、今よりもっと観せるタイミングがあると思う。
「ねぇ2人とも、ようやく使えるようになったステータスウィンドウ使ってみたい気持ちはよぉ~くわかる。だけど、私たちが見せる時は、全員が揃った時にしない?」
「「えっ?」」
「だってそうじゃん。私たちのステータスを観てみたいのは自分でも親でもない。今日までずっと、一緒に頑張ってきたパーティ全員じゃん!それなのにキーちゃんやクアルくんがいない所で、私たちだけステータスを見せ合いっこするのは、なんか違う気がするでしょ?あとで自分や親に見せるのはいい。だけど、パーティメンバーに見せる時はみんな一緒の時!このお願い……聞いてくれないかな?」
私は前世の頃から、同じチームなのに誰かを除くような行為が嫌いだった。この行為が露呈してしまった時、例えそこに善意や悪意だろうと少なからずチーム内に亀裂を生んでしまうから。別に2人に悪意があるから止めたわけではない。ただ単に前世からの教訓で同じような思いをしたくない、私のエゴだ。
大変身勝手なお願いっていうのは重々承知している。いくら心身鍛えたとはいえ2人はまだ子供。ここで好奇心に負けてお願いを無視された時は、私も一緒にステータスウィンドウを表示して共に2人に怒られようと覚悟する。だけど、そんなものは意味がなかった。怪訝そうな表情を浮かべると思っていたケマくんとコルルちゃんは、笑ってくれていた。
「うん、そうだね!カナタちゃんの言う通り、仲間外れは可哀そうだしね!」
「こういう所はリーダーらしいよね、カナタちゃんって。わかった、じゃあみんなが揃うまでは公開はしないね」
2人が私の思っていた以上に大人になってくれてよかった。
私の我儘に付き合わせたという罪悪感と、思い通りことが進んだ悦びで気持ちがいっぱいだ。
「でもあっちでキーちゃんとクアルくんが見せ合いっこしていたら?」
「その時はその時よ。仕方がないって思うしかない」
「こんなことなら街から出る前に、そうお願いしておくべきだったね」
その後も何気ない会話を始めて盛り上がり、大人たちの食事が終わったのと同時に会計を済ませて店を出た。