星暦2023年、春の10日、無の日、夜
店を出ると太陽は完全に沈み夜になっていた。しかし王都は全然暗くない。
王都バースは多すぎるというぐらい街灯がそこら中にあり、街道は夜になっても昼の様に明るかった。明るい王都の平民街のとある一本道に、私たちは宿屋に向かって歩いている。
「ふぅ~食った食った!でも少し小腹が空いた感じはするかな~」
「ケマくんどれだけ食べれるの?そんなに食べたらまた昔みたいに太っちゃうよ。せっかくここ数年で少しは痩せたっていうのに」
「それでもあれだけの量を食べてもまだ食べたいって言い出すのはすごいけどね」
でもケマくんの言い分の少しなら分かる気がする。
料理を食べきれるほどお腹に余裕はなかったけど、確かに小腹は空いている。まあ、それは私たちの分の料理も食べたケマくんが原因だけど。
「そういえばカナタちゃん、食べている時に気付いたことがあるんだけど……」
「んっ、なに?」
「カナタちゃんって八重歯だったんだね。さっき真正面で話している時たまたま気付いちゃった。とっても可愛いね」
「あー……うん、ありがとう」
コルルちゃんがそう言いながら私の一本生えている八重歯を指摘する。
これは乳歯に時に最後に生えてきた歯で、つい最近目立つようになって来たからパーティメンバーでも気付かないのは仕方がない。コルルちゃんは可愛いと好評してくれるが、私はこの八重歯のことでやや複雑な気持ちになる。
そういえば前世の私にも八重歯ってあったなぁ……今世でも生えてくるって、これって偶然かな?それに顔つきも心なしかパパやママに近付いていると言うより、前世の私に似てきているような……。転生する時に会った神様が気遣かってくれたのかな?……まあ考えても仕方がないよね。人の顔なんて頑張りようでどんな風にも変えられるんだから別にいいか。それに前世の私の顔つきはかなり整っていた方だし、寧ろ将来の顔が分かっていてラッキーって思うべきかな!
「あっ、宿屋が見えてきた」
談笑しながら歩いていくうちにもう着いた。
さっきの大衆食堂では満腹感はともかく、満足感は十分に満たされた。朝から色々とあり、私たちの身体はもう疲れている。今夜はぐっすりと眠れそうだ。そう思いながら私たち子ども3人は宿屋の出入り口へ向かおうとするが、先行して歩いている大人たちは何故か、そのまま宿屋の出入り口を見る気もせず通り過ぎて行く。この光景、なんだか今朝のやり取りに似ている。
「えっ、ちょっ、パパ、ママ!?どこ行くの、宿屋はここだよ?」
「どこって……さっき勇者様を見に行った広場とメインストリート」
父が取り残された私たちの方を振り向き答える。
私たちは一度3人で見合わせて、この後何かあるのかとアイコンタクトで確認し合う。2人は首を横に振る。どうやら今回は2人も何も知らないし聞かされていないみたい。
「パパ……広場に行って何するの?まさかまた勇者様を見に行くの?またあの人混みの中に混ざりに行くの?」
広場に行って肉厚に押しつぶされそうになったという苦い経験のせいか、無意識に少し不機嫌な表情をしてしまう。
「アハハ、そうしかめっ面になるな!安心しろ、今行ってももう昼間みたいなことは起きないから」
「じゃあ一体何しにまた広場に行くの?」
「まあそれは言ってからのお楽しみ……ということで。大丈夫、もうあんな事はないから。ほらっ」
父はそう言いながら私たちを広場へと誘導する。
この王都の出身である父がそこまで良いのだから、恐らく昼間のようなことは本当に起きないのだろう。父の言葉を信じてそのまま大人たちの後ろへついて行き、広場へと向かう。
「はぁ~、あんまり気乗りしないなぁ」
「どうしたのケマくん?」
「だってさっきあんなことがあったんだよ?みんなはどうだったのか知らないけど……僕なんか、何故か腕の間接が決められていたんだよ!ちょ~痛かったんだよ!数秒間あの体勢は本当に死ぬかと思ったよ!」
本当に何でそんなことになっていたの?もう運が悪かったとしか言いようがないな。……っていうか見とけばよかった。絶対に面白かっただろうな……惜しいことをした。
「……んっ?」
「今度はどうしたの?」
「何か広場の方で沢山の人の騒ぎ声が聞こえてくる。……ねぇ、本当に大丈夫なの?」
ケマくんの耳がビクンッと震えて何かに反応した。獣人族は聴覚が優れた種が存在し、ケマくんもその種だ。他の通行人の声のせいもあって私たちには聞こえない音でも、すぐにキャッチができる。
少しずつ広場の方へ近づくと、確かに何やら騒ぎ声が聞こえてきた。それは昼間の様な誰かが苦しんでいる声ではなく、楽しそうなわいわいとした感じの騒ぎ声だった。
「私にも聞こえてきた!」
「うん、確かにたくさん人がいるみたいだね。なんであんなに人が……お祭りでもやっているのかな?」
そう言った途端、父がある気ながら私の方へ向いてニヤッと笑う。最初はその笑みはどういった意味なのか全く理解できなかった。しばらく歩くこと広場に着き、私たちは昼間の時とは違った光景に目を見開いた。
広場とメインストリートの脇には、昼間にはなかったはずの多くて屋台が建てられてあり、そこから先に来て商品を購入して楽しむ人たちが目に映る。そう、王都バースは18時から祭りが執り行われていた。
「「「おおおお~~!!」」」
私たちは予想外の光景に目を光らせた。
屋台の種類は前世で見たことある物から初めて目にした物まで選り取り見取りだった。今世初の祭りにテンション上げずにはいられなかった。
「ねぇねぇ、早く行こうよパパ、ママ!」
「はいはい。喜んでもらえて良かったわね、アナタ。」
「ああそうだな。じゃあ今夜は目一杯楽しもうか!」
父の言葉と同時に私たちは広場に足を踏み入れて祭りに参加した。
王都バースの祭りの屋台は様々あった。貨幣を対価にして遊技をしたり、飲食物や期間限定の商品を購入したりと、私たちはお祭りのテンションに身を任せて大いに楽しんだ。大衆食堂で満腹にしていなくて本当によかった。おかげで、ここでたくさんの物が食べられる。
「カナタ、楽しんでいるか?」
「パパ、ほんっとうにありがとう!こんなにも色々と買ってくれて、今すっごく楽しいよ!」
「そうかそうか、それは良かった!じゃあ今日は一晩中楽しもうか!」
今朝から散々、最悪な日だと思い続けたが撤回しよう。神の恩恵という今日は、今世の中で最高の日になる。このまま他の屋台も回ろうとした時、私たちを見つめる2人の黒い影の視線を感じた。いや、正確には私たちではない。黒い影たちが見つめていたのは、私の父であった。
ケマくんとコルルちゃんとその両親と一旦別れて、各々で祭りを楽しむことにして、私たちは家族3人で歩き回っている。今世初の大きな祭りに夢中になり、影から忍び寄る2人の陰に誰も気付こうとしなかった。2人の影は父の背後に徐々に距離を詰める。
「ねぇねぇオネエ様、あのいかした声色と体格の人ってまさか……」
「あらあらもしかして、もしかするんじゃな~い?」
父は背後に現れた2人の声を聞いた瞬間、全身をびくんと震わせながら鳥肌を立てた。顔を確認しようと父は恐る恐る後ろを振り向く。その時の父の顔は今まで見たことがない程に顔を青ざめていた。
「そ、その声は……」
「「タユーリちゃん、見ぃ~っけ!」」
パツパツのワンピース、長い髪を結んでいる可愛らしいリボン、振袖からはみ出ている豪腕な腕、そし顔がとても濃い2人の男性と父は目が合った。
「うァァァァァアアアアア出たァァァァァアアアアア!!」
父は大声で叫んだのと同時にすぐさま2人から離れようと逃げ出そうとした。しかし、それを予想していたのか2人は父を逃がさぬように豪腕な腕でがっちりと抱きつく。
「も~タユーリちゃんったら!久々の再会なのに逃げることはないじゃない?」
「そうよもう、連絡もくれないから心配していたのよ!私たち寂しかったんだからね!だから今夜は……絶対に、離さない!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ、ギミー&ギモー!!よりにもよってこんな時に一番会いたくなかった奴らに会ってしまったァァァァァ!」
うわぁ……何あの女装した人たち!?ファッション……ではないよね。いわゆるオカマさん?パパと友達みたいだけど……うわぁ、パパあんな友達いたんだ。ケマくんやコルルちゃんと別れて良かった、こんなの他の人に見られたくない。……でもなんか楽しそう。
2人は父に抱きついたまま微妙に生えかけている顎髭でジョリジョリと擦りつけている。高速でそれをやられている父はかなり苦しそうな顔をしているけど、私からはとても滑稽と同時に面白く見えた。
2人に捕まったのを気付いた母はそぐさま父の下へ駆け寄った。
「お前らぁぁぁぁ、髭をこするなぁぁぁぁ!!」
「あなた……その人たちは?」
呆然とした表情で問いかける母に2人はジョリジョリを止めた。頭を密着したまま視線を母に向ける。
「あら、どちら様?オネエ様知っている?」
「いいえ、恐らくお初だと思うけど……」
「俺の女房だ!そしてその隣にいるのが俺の娘だ!だからお前ら……家族の前で恥をさらさせるな!」
「「まあ!!」」
父からそう聞くと、2人は父から手を放して今後は私たちの方へ駆け寄ってきた。不気味な表情を浮かべる濃い顔が2つ、気持ち悪さを感じて私と母は背筋が凍った。
「まあ~!あなた、タユーリちゃんの奥さんなの?」
「は、はい。……えっと、あなた方は?」
「初めまして私はギミー。それでこっちは
「初めまして……まあ~!オネエ様、見てこの子!確かにタユーリちゃんと同じ髪色をしているわ!かっわいいぃぃ!」
そう言いながらギモーさんは私の頬をペタペタと触ってくる。つねられたり、引っ張られたりともみくしゃにされた。反抗しようと思ったけど、間直で見る豪腕な腕で何をされるのか分からないから、何もできなかった。
弟って書いて“いもうと”って呼んだよね。じゃあそっちは兄と書いて“あね”って呼ぶのかな?自分たちが
「ギモーその辺にしておきなさい。嫌がっているじゃない」
「あらそう?ごめんなさいね」
「い、いえ……」
私の心境を察してくれたギミーさんが注意してくれたおかげで解放された。それほど乱暴に扱われていなかったから痛みは感じないけど、濃い顔面が近付いてきたせいか気分はとても気持ちが悪い。昼間の騒動の方がマシだと思えるほどに。
「しゅ、主人とはどういったご関係で?」
母が勇気を出して2人に問いた。迫ってきたオカマ口調の2人に対しておくさないとは、流石は母である。確かにこの人たちと父との接点がすごく気になる。
「そんなに畏まらなくていいわよ、奥さん。私たちに対しても気軽でいいから」
「は、はあ……」
「えっと、私たちとタユーリちゃんについてだったわよね?そうね……簡単に言うと元同じ仕事の同僚……ってことかしら?」
「あら、交易所の方達でしたか」
母さんは意外だわと思った感じで言う。
私も同じ気持ちだ。どっからどう見ても夜職の人にしか見えないのだもの。別にオカマさんだかたとかそんな偏見を有るからそう決めつけているわけではない。2人がゲイBarの店員かと思ってしまう程、奇抜で派手な格好をしていたから。
「違う違う!タユーリちゃんの交易所に勤める前の所の同僚よ」
「えっ?主人はずっと交易関係の所にしか就いていなかったって聞いていたのですけど……」
「あら?タユーリちゃん、あなた家族に騎士団に所属していたことを話していないの?」
「「えっ!?」」
いきなりのカミングアウトに私と母を大きく驚愕した。
父が騎士団に所属していた話なんて聞いたことがない。私も母と同じ様に、今まで交易関連の仕事しかしたことがないしか知らされていない。父の顔を見てみると少し都合が悪そうな表情を浮かべている。否定するつもりはない、つまり2人が言っていることは本当なんだ。
騎士団とは、王都や街などを拠点にして活動する防衛のエキスパート。主な活動は、侵入してきたモンスターや盗賊の討伐か捕獲、王都内の巡回や警備などによる治安維持、そして王族や貴族の身の回りの安全確保のための監視や護衛などを中心としている。例えるなら前世の地球で言う、警察やボディーガードなどに近い。集落の外に出て活動している冒険者を外向的だというなら、騎士団は王都に限るが内側で外敵から柄を護り続ける内向的という感じだ。
因みに収入は、仕事によって報奨金の格差のある冒険者と違って、騎士団はどの仕事でも一定の給料を保証してくれる。めちゃくちゃ儲かることはないけど、安定した収入は得られるらしい。
「ああもうっ、いい加減離せお前ら!ったく、ベラベラと勝手に話しやがって」
「あなた今の話、本当なの?」
「……ああ、そうだよ」
観念する様に父は2人の言葉を認めて、気まずそうに頭をかく。
「どうして話してくれなかったのよ?」
「別にわざわざいう必要がないかなぁっと思って。それに退団した理由もクビだから、男の意地というのもあって話したくもなかったが」
「一応補足をさせてもらうけど、タユーリちゃんがクビになったのはわっる~い貴族様の横暴のせいなのよ」
「生真面目で貴族だろうと仕事を全うしようとするタユーリちゃんのことを目の敵にしていたのよ。まあ貴族相手に自分だけクビになるだけで済んで良かったと思えあばよかったけれどね」
父も前世の私みたいに上司に勝手で辞めさせられた口か。だけど父は私と違って頑張って交易所に再就職をして、今日まで頑張ってきたっということか。父も人に振り回されて大変な人生だっただろうな。
父と2人の言い分を聞いた母は納得するように頷く。
「そうだったのね」
「ああ、隠して悪かったな。それにしても頬がイテェ……。お前ら、会って早々でこれとか相変わらずだな」
「もうタユーリちゃんったら、結婚していたのなら手紙一通でもいいから報告してほしかったわよ!」
「そうよそうよ!オネエ様の言う通りよ!私たちは知らない中じゃないんだから、お祝いの一品や二品くらい送ってあげたのに」
「……お前らっていう濃いキャラを妻や子に見せたくなかったんだよ。はぁ~……だから帰って来たくなかったんだ」
「なによ辛辣わね!」
「もう1回ジョリジョリしてやりましょうか?」
「もういいわ!寄るなッ!」
そういえば約3年前、私の神の恩恵の場所についての話し合いの時に父は今の様にやや不機嫌な表情で、私にこの王都へ行く選択を拒んでいたような気がする。あの時やたらとここの悪い所を刺激して、私に行く意思を削ごうとしていたのはそう言うことだったんだ。
「……つうかお前ら、いくら神の恩恵とはいえ少し燥ぎ過ぎじゃないのか?こんな公の場で堂々と私服でうろついている所を他の騎士団にでも見られたら、風紀の乱れとかで減俸されるぞ」
あっ、そういえば父の元同僚ってことは……この2人も騎士団ってことか!?父の意外な過去を知ってすっかり忘れていた!改めてみると……うん、全然騎士には見えない。……というか私服ってことは、ふざけたノリで来ている訳じゃなくて本当にオカマさんだから着ている感じなんだ。
「実は私たちもタユーリちゃんがクビにされてから、あの貴族様にクビにさせられたのよ!「気持ちが悪い」って理由で!本当に酷くない!この王都で私たちが一番強盗とかを捕まえてきたっていうのに!」
「ホントそうよねぇ~!まあ、貴族様もそうだけど、あそこの上司でやたらとミスをねちねちと言ってくる人がいるじゃな~い?だからクビになったのはちょっとラッキーだとも思っているけどね」
「ふ~ん、あっそ。どうせなら俺が居るうちに辞めて欲しかったよ。」
自分から聞いておいてすごい対応だ。でもこの2人の気持ち、何となくだけど共感できるな。私も前世は上司の勝手な考えで解雇させられたのだから……やっぱりこの世界でも上下関係が厳しいんだね。
「ねぇ~タユーリちゃん、そんなつまんない話よりさぁ~。久しぶり再会なんだし、この後私たちのお店に飲みに来な~い?」
「はぁ、お前たちの店?お前らの家業って飲み屋だったのか?」
「違うわよ。辞めた後、私たちでお店を建てて経営しているのよ。とってもいい雰囲気な店だから~」
「……ちなみに店の名前は?」
「『エンジェル ギミー&ギモーの隠れ家』よ。私たちの仲だから来てくれたら特別にサービスしてあげるわよ~?うっふ~ん」
「えーい、べたべたと体に触って来るな気色が悪い!!離れいッ!!」
2人は又もや父に近寄り、気持ちの悪い手つきで父の体を舐め回すようになで始める。父は必死に振り払おうとするけど、しつこい
あぁ~……さっきから素っ気ない態度をしていたのはそういうことか。パパにとって2人は天敵なんだ。最初は仲が良い同士のいちゃつきかと思っていたけど、パパはあれを本気で嫌っているんだ。でも2人はそれに気付いてもまだ続ける……いわゆるいじめ?親しい中にも礼儀ありって言うけど、2人にもそんなものはなさそうだね。
「俺はこれから家族と一緒に祭りを楽しむんだ!お前らなんかにかまっている時間はないんだよ、しっしっ、あっちに行け!」
「なによも~、相変わらずの頑固者!」
「今晩くらい別にいいじゃない、ねぇ~?」
「……別にいいじゃない。一緒に飲んで行きなさいよ、あなた」
「「「「えっ!?」」」」
母がそう言った瞬間、その場の空気が一瞬にして変わった。
私と父、ギミーとギモーで、それぞれ違う意味合いではあったけど、それを聞いて台詞がかぶった。父は聞き間違いじゃないかと思い、恐る恐る母に聞き返す。その表情は笑っているようで眼は笑っていなかった。
「あ、あはは……いやいや、気を遣わなくていいよ?俺とこいつらはちょっと見し合った関係なだけだし、こいつらよりもお前たちと一緒に居る方が……」
「でも久しぶりの再会なのでしょう?いいじゃない、一緒に飲んで行ったら!次はいつこの王都に帰るのか分からないんだから、今晩は元同僚さんととことん今までの事を語り合ってきたらいいわ」
母がはっきりとそう言うと父の顔色は一気に血色の悪く変化した。
純粋な優しさなのか、浮かび上がる笑みで見送ろうとする母に対して、父はそれ以上何も言えなかった。
うわぁ……めっちゃいい笑顔ではっきりと言うなぁ。明らかに嫌っているのを分かって何で……んっ?……もしかしてママ、パパがこの2人を嫌っていることに気付いていないの!?えぇー、このやり取りを見ていたら分かるでしょ普通ッ!……うわぁ、ママのこの表情、多分当たっているわ。
「いや俺は別にこいつらと一緒に居たいわけじゃ……」
父が最後まで言い切る前にギミーとギモーは再び父に抱きついた。ギラギラと輝かせた眼、最大まで上がった口角、2人は母の言葉を聞いて歓喜していた。
「……今の聞いたオネエ様?」
「ええ、はっきりと。奥さんから許可を貰ったわ……行きましょうか?タ・ユ・ウ・リ……ちゃん!」
「うわああああぁぁぁぁ止めろぉぉぉぉ!!」
父はそのままギミーとギモーに連行されて行った。成す術もなく父は明かりの少ない裏路地に入り、あっと言う間に濃い顔の2人と共に暗闇の中へと消えて行った。父の姿が私たちの視界から完全に消えたと同時に叫び声が響き渡る。
「助けてぇぇぇぇ!!」
私はその場で連れて行かれた父に合掌をする。
今世初のホラーな出来事が見れた。
「もうパパったら、久しぶりの再会にあんなに楽しそうにして。本当にここに来てよかったわね、カナタ」
「……うん、そうだね!」
母は良い笑顔で私にそう話しかけた。もう今さら言っても遅いから私はあえて何も言わなかった、
「カナタちゃ~ん、そんな所で何をしているの?」
「あっちに楽しそうなお店があったよ!3人でやってみようよ!」
少し離れた所からケマくんとコルルちゃんが誘ってきた。どうやら祭りの屋台に夢中になり、私たちのやり取りを見ていなかったようだ。
「うん、今行く!行こう、ママ!」
「はいはい」
私は母の手を握り、誘ってくれた2人の下へ駆け寄った。今晩は目一杯楽しもう。ここにいない父の分まで私たちが楽しもう。
祭りを十分に楽しんだ私たちは眠気に襲われて、渋々と宿屋に戻り就寝した。
次の日の朝、私たちに遅れて父が帰って来た。その時の父の姿は見るも無残だった。全身の服に無数のキスマーク、一体何があったというほどびりびりに引き裂かれた衣服、泥酔のせいなのかそれとも予想以上の惨劇を見たせいなのかその眼もとは涙目である。そんな父の帰還に私も母も絶句する。哀れに感じてしまったのか、私は思わず父に向かって合唱してしまう。