最初の改善点を言うと、見事に全員驚いた表情を見せる。横にいるキーちゃんも同様に。これは私が考えていたことだから彼女にも話していない。
「私たちって思い返せばいつも一緒にいるよね?でもそれって逆に言えば、私たちは私たち以外の人と仲良くないよね?」
訓練を開始して3年、みんな毎日のように訓練所に集めって私の指示に従ってついて来てくれた。休みの日なんて前の日の気分次第で決めて、ほぼ毎日のように来てくれていた。だけどそれが逆に、みんなの道徳やモラルを養う機会を奪っていた。
「……えっ、それって何か問題あるの?」
「そうだよな?俺は別に他の人と仲良くする必要ないと思うけど?」
「私も別にみんながいればそれでいいけど……」
メンバーたちの反応がこれである。完全にパーティという枠に依存している。これじゃあ、いざ1人になった時、個人で考えてどうすればいいのか上手く行動できない。まさか、こんな残酷な現状を作ってしまうとは。
「いいみんな、私たちはパーティだけど以心伝心じゃない。ちゃんと1人1人個性を持った人なの。パーティメンバーとの仲も大事だけど、他に友達を作ったり、話す程度でも人と仲良くした方がいいと思う。視野を広げることで私たち5人だけじゃ知ることが出来なかったことが、誰か1人を通して情報を得られるかもしれないから」
後半あたりから少し友人作りの目的からズレているような気がするけど、特に問題はない。もしメンバーたちがこれを実行してくれれば、何かを固執することなく、正常に自分たちで物事を判断して行動することができる。私としてもメンバーたちとも距離をとってしまうことは、寂しく感じてしまうけど仕方がない。
言い終わるとメンバーたちは、今後は呆然とした表情で私の方を見ている。
「どうしたの?」
「えっ、いやっ、その……カナタちゃんってこういうことに関しては頭のいいことを言うんだなって……」
「俺もそう思った。この中で一番世の中について知らないくせに、言うことは達者なんだよなぁって」
「本当にすごい、見直しちゃったよ、カナタちゃん!」
「流石はカナタちゃんだねぇ~!」
おぉ……ここまで頭の悪い子認定されていたとは……つらっ。でもまあ、みんな理解してくれたみたいだし、最初の説得は成功。次は大丈夫かな?
「でも訓練は5日に1回って逆にそれ、訓練っていうより休みじゃないの?それにそんなに間があったら身体が鈍っちゃうよ」
「別に残りの4日間は休みというわけじゃないよ?ただ出来れば、さっき言ったように友達を作るだけじゃなくて、自主訓練もしてほしいかな。普段私たちが合同でやる訓練とは別に、各々に向いた訓練法を。合同で訓練する日はその自主訓練のせいかと、お互いの実力の確かめ合いってところかな。それ以外はどう過ごすのかはみんなに任せる。」
「自主訓練?各々に向いた訓練法?それって具体的に何をすればいいの?」
「それは自分で考えて。考えて自分たちで強くなる……これも一種の訓練でもあるから」
「う~ん……僕、考えるのは苦手なんだよね~。……あれ、もしかしてこの訓練が今までで一番難しい?」
早速ケマくんを始めにメンバーたちがどうすればいいのか思案を巡らす。真剣に考えるメンバーたちを傍観して、気持ちを高ぶらせる。
これだ、これなんだよ!私はみんなのこんな姿が見たかったんだ!ああ、こうして自分たちで何かを考えるなんて……なんか感激!
「それじゃみんなが集まる日、合同訓練する日はいつにするの?」
「水の日と風の日にしようと思う。もちろん今までみたいに用事とか体調不良とかで休んでもいいし。どうかな?」
「問題はないけど……何でその日になの?それにも理由があるの?」
「それは順を追って説明する。で、ここからはパパが考えてくれた案だけど、パパの仕事の関係者に元冒険者と冒険者志願者が大勢いるの。その人たちは仕事でキキラの街周辺のモンスターを討伐するんだって。その時に、私たちも同伴させてモンスターの狩り方を教えてくれないか、パパが前もってお願いしてくれていたんだ」
「えっ、それってつまり……」
「そう、これからは本格的なモンスターでの対戦訓練をしていく!」
モンスター、それは地球でも聞いたとこある言葉。空想上の生物、非科学的存在、化け物、これらのまとめた意味で地球では使われていた。だけどファンタヘルムには、モンスターという人ではない生物たちが存在する。
ファンタヘルムの住民からのモンスターへの客観的な視線は地球の住民と変わらず、恐れられて、嫌われている。そんな化け物たちとこれから先、戦い自分たちの糧にすると私が言った瞬間、パーティメンバーは嬉々とした表情を見せてはしゃぎ始める。
「マジでか、やった!こりゃ気合が入るわ!」
「僕、前々から戦ってみたかったんだ!楽しみだね!」
「うん、モンスター相手なら手加減しなくてもいいもんね!」
あれ~……何この反応??予想ではぷるぷる震えながら「怖~い」とか「そんなの無理だよ~」とか言い出すのかと思っていたけど。……何でみんなそんなに戦えることに喜んでいるの?みんないつの間にそんな戦いに飢えた子に育ちゃったの?みんないつの間にかサイコパスになっちゃったの?こんな軽い気持ちで大丈夫かなぁ……ま、まあ、怖気づいて戦う気力がなくなるよりかはマシ……なのかな?
「それでそれでカナタちゃん、いつからモンスターと戦えるの?」
目をキラキラと輝かせたケマくんが問いかけてくる。
取り敢えず動揺を隠しつつ答える。
「別に明日からでも構わないよ。パパがその人たちに前もって話をつけてくれたから、水の日と風の日以外なら連れて行ってくれるって」
「……なるほど、だから水の日と風の日はダメなんだ?」
話を聞いてコルルちゃんは1人で日程について納得する。そこに気付くとは流石だね。
「私たちって普段、街の外の砂漠をあまり見ないから気付かなかったけど、毎週水の日と風の日になると砂漠の環境が荒れるんだって。歩き慣れた大人なら大丈夫らしいけど、私たちじゃ無理だし危ないから、その日だけはダメって言われた。だから合同訓練の日を水の日と風の日にしたの」
「へぇー、合同訓練の日もちゃんとした理由があったんだ」
「あぁ~、そう言えば母さんから聞いたことがある」
「私もぉ~。普段~、壁の外なんか見ないから気付かないよね~」
この街に生まれて早くも10年、それなのに私たちは周辺の環境である砂漠について全く知らない。そんなものがあるな程度で認識していた。父の言う通りもう少し外の世界に興味を持った方がいい。
「これでようやくあの門をくぐれるって事よね!?あぁー楽しみだなぁー!」
「モンスターと戦うってことは本物の武器を使うって事だよな!?前から本物の剣とか槍とか振ってみたかったんだ~!」
「街に出るって言うことは砂漠に入るんだよね?えぇ~キキラの街は魔石があるから涼しいけど、砂漠って想像以上に暑いんだよね?僕、熱いのは苦手だな……」
「それも訓練の一環ってことでしょ?環境になれるのも冒険者としても素質だと思うよ。それに2年もあれば、私でもみんなに追いつけるはず!」
ようやくの実践訓練にメンバーたちはもう一度はしゃぎだす。
モンスターと対峙と言う殺伐とした内容さえなければ、年相応の楽しい会話に見える。メンバーたちに悪いけど、私はまだ大事なことを1つ伝えていない。
「あ~……でもね、みんな。そのモンスターを狩りに行けるのは……1日1人までなの」
「「「……えっ?」」」
クアルくん、ケマくん、コルルちゃんはその言葉を聞いて呆然とした表情で固まる。恐らくみんなで行けると想定していたからだろう。それでは5日に1回、合同訓練にした意味がない。
「それとパパには昨日、私たちが1人ずつでお願いをしてからじゃないと、連れて行かないでほしいって伝えておいたから。このまま誰もその人たちの所に行ってお願いしに行かないと、誰一人モンスターを狩りに行けないよ」
「な、何でそんな面倒くさいことを……!?」
3人の表情は変わり、今後は戸惑いを見せる。
私たちはパーティという枠のせいで、誰か1人、他の人にお願いをするまで決して行動しようとしなかった。子供だからか、それともパーティに依存しているせいか、メンバーたちから誰かにお願いすることはなかった。今、思い返してみると、メンバーたちは常に私に頼ってばかりいた。こんな言い方をしているけど、決してメンバーたちが悪いわけではない。気付かなかった私の責任だ。だから敢えて自主練習という形で、メンバーたちが自然に他者との交流を図れる機会をつくったのだ。
「知らない人と話すの?知らない人と狩りに行くの?1人で?……無理だよ」
「カナタちゃん、何でそんなこと言ったんだよ。みんなでモンスターを狩りに行った方が楽しいじゃんか?」
「お願い、もう1回カナタちゃんのお父さんと話してみんなで行けるようにできないの?」
メンバーたちは不安げな表情で私に要求してくる。無理もない、今まで他人と接しようとしなかったのだから。それを急に赤の他人にお願いしに行く、しかも一緒になってモンスターを狩りに行くなんて、少し酷は話だ。
だけど今ここで、この問題を解決していかないと後々になって本当に取り返しのつかないことになるかもしれない。だからこそ、みんなを必死に説得する。
「これを機会に色々な人と話せるじゃない。それに流石に初対面の人と1対1何かにしないよ。最初はみんなで一緒に行って軽く挨拶をして、それから後日、各々でお願いしに行けばいいから。それにその人たちの仕事の貢献具合によってはお金ももらえるらしいよ。ほら、冒険者登録試験には結構なお金が必要だったでしょ。これだと自分で稼いだことになるし……だから……」
自分なりに上手く説得しているつもりだけど、誰一人不安げな表情から変えない。理由は明白、納得させられていないから。それでも私は諦めずに何度も説得に言葉は言い続けた。そんな時、またキーちゃんが私の話を遮るようにメンバーたちに語りかける。
「みんなぁ~、もう少し真剣に聞いてあげてよぉ~。カナタちゃんが困っているでしょ~」
「……キーちゃんは、カナタちゃんの考えでいいの?みんなと一緒に居る時間が減って、知らない人と一緒なんて……嫌じゃないの?」
「そのこともぉ~、昨日カナタちゃんにうちに泊まって一緒に居たから知っていたよぉ~。もちろんその後にねぇ~、カナタちゃんを説得しようと考えたのぉ~。なんでわざわざ1人にならなきゃいけないの?今まで通りにみんな一緒に居ようよ?ってぇ~。でもぉ~、みんな知らないと思うけどその時のカナタちゃんの顔、至極真剣だったぁ~。1人で私たちのために考えてくれたことをぉ~、何も考えていない私たちが何かを言うのはぁ~、すごくぅ~……おかしいじゃな~い?」
「確かにそうかもだけど……」
「確かに私もぉ~、最初は嫌だと思ったぁ~。けどぉ~、昨日の夜カナタちゃんと一緒のベッドで寝てぇ~、カナタちゃんを抱いて寝たからそれでもう吹っ切れたぁ~!!」
「「「(何言っているんだこの子……!?)」」」
何言っているのこの子……!?このタイミングでカミングアウトはいらないでしょ!?ってかあの夜、妙に抱きついて来るかと思ったら意図的な行動だったの!?あれのせいで私寝不足なんだけど?キーちゃんを起こすのは悪いと思ってずっと我慢していたんだよ?……あれがわざとだと思うとイライラしてきた。
キーちゃんの突然の発言にメンバー一同は同じことを心の中で呟く。この後どんなことを言えばいいのか分からなくなり、訓練所はまた別に意味で静寂へと化した。キーちゃんのせいで私も言葉を失う。
「……ふっ、あははは!もう、キーちゃんったら!」
ここで唐突にコルルちゃんが笑った。彼女が何もない場面で笑いだすのは珍しい。それ以前にこんな風に大きく笑い出すことすら滅多にない。だけどそんな彼女の笑顔のおかげか、他のメンバーたちも表情が緩くなり始め、次第に笑顔を見せる。
「まあ、キーちゃんらしい納得の仕方だな。分かった、俺もカナタちゃんが考えてくれたことに従うよ」
「そうだね!どうせあと2年間この街にいるわけなんだし、せっかくだから色々とやってみよう!まだ正直に言って不安だけど……頑張ろうかな!」
「分かればよろしい~!」
……本当に分からないな、子供の気持ちって。正直に言って精神(なかみ)が大人の私には、さっきまでのみんなの心境がはっきりと理解できなかった。だけどキーちゃんのちょっと何気ないふざけた言葉が、みんなの心を揺るがせてくれた。やっぱり当事者(こども)には子供が対応した方が一番なんだね。……もしかしてキーちゃん、こうなるようにわざとあんなこと言ったの?だとしたら意外にキーちゃんってムードメーカーの質があったりして?なんにせよ、またキーちゃんに助けてもらった。
「……じゃあみんな、これからの訓練は……これでいいんだね!」
メンバーたちは同時に私の方へ振り向き、揺るがない瞳で頷く。
各々まだ思うところがあるだろう。しかしメンバーたちは、己のため、そしてパーティのためだと思い、何も聞こうとしなかった。
「みんな……ありがとう。じゃあ早速、今日の夕方にでもパパの仕事場に行って、モンスターの狩りに連れて行ってくれる人たちに挨拶しに行こうか!」
「夕方?」
「うん、その人たちは朝から街から出てモンスター狩って、夕方頃に帰ってくるんだって。だから今日はいつもより早く訓練を切り上げるよ!」
「今日はいつも通り訓練するんだ」
「当然!自主訓練は明日からだよ!言っておくけどこれからの合同訓練は今まで以上に厳しくするから!まずは……はい、テスト!身体だけじゃなくて頭も頑張っていくよ!」
「ひぃぃぃぃ!?この訓練だけは無くしてほしかった……。」
こうして私たちは冒険者登録試験に向けて、本格的な訓練を行うようになった。この時、私は理解した。このパーティの中で一番成長しなければならないのは私だと。今まで通りパーティを引っ張らなければいけない私が、誰よりも成長しなければならないと。この時から私は、力だけではなく、知恵も欲するようになった。
◇
訓練内容を改善した日から私たちのパーティは大きく変わった。いや、正確には良い方向へ変われた。私と父の思惑通り、パーティで一緒に居る時間を減らしたことによりメンバーたちは他者と関わる機会が増え、社交性やコミュニケーション能力を自然と育んだ。更には自分がしたいという“欲”も明確に判断できるようになり、誰かに頼らず自分だけで行動するようにもなってきた。
モンスターの狩りでは、私の言う通り各々で父の仕事場まで足を運び、自ら1人で頭を下げてお願いすることも多くなった。最初は人見知りのせいかなかなか声を出す勇気がなかったけど、次第に内気な気持ちがなくなり気楽に声をかけられるように。しかもモンスターの狩りに行くだけではなく、私たちのわがままを聞いてくれたお礼ということで、メンバーたちが自ら他の仕事も手伝いたいと言い出すようにもなった。まさか周りの人の気を遣うなんて、これは嬉しい誤算だ。
もちろん学問も怠ってはいない。合同訓練の度に抜き打ちチェックでメンバーたちの学力をある程度まで保ち続けてきた。冒険者登録試験では筆記試験がある。どんな内容が出るのか調べようがない。ある程度は答えられるように常識程度の知識をつけさせた。
そして私は自主訓練という時間を使い、メンバーたちには内緒で父とある秘密の訓練をしてきた。冒険者登録試験で使う機会があるのかは分からないけど、きっといつかパーティの役に立つと思う。
メンバーたちは私の指示に従い、人と会話したり、モンスターを狩りに行ったり、お金を稼いだり、勉強をしたりして、時間の経過と共に成長していった。父が提示した2年という長い時間が経った。
成長した私たちの姿を見て、父もメンバーの家族にも認めてもらえ、私たち遂に冒険者登録試験に受けに行く許可をもらえたのだ。しかも祝いにと父たちから大量の資金を私たちのために用意して渡してくれた。感謝の言葉しか出ない。こうして私たちパーティ5人は、王都メラルフに向けてキキラの街から去った。