私の試合が終わり2時間近くの時間が経った。
ギルド側が支給してくれた冷水を飲んで、ある程度は体力が回復できた。今はキーちゃんと共に他の参加者の試合の様子を傍観しながら談笑している。
「他の参加者たちもみんな頑張るね~。劣勢なっても制限時間10分まで粘るな~」
現在の試験の進行は19番のカードを持っている人が試合をしている。
さっきギルド職員の注意もあってか、3番目以降の試合では冒険者側がかなり手加減してくれるようになった。そのおかげで参加者はある程度、冒険者相手でも諦めずに必死に食らいつくような健闘をみせる。それにしても戦闘に対する熱気がすごいな。例え武器が手放したとしても即座に体術で闘った人もいた。みんなそれほどまでに冒険者登録試験に対して本気だということだ。すぐに降参を認めた1番のポールとは大違いだ。
「アハハハ、きっとカナタちゃんの影響だと思うよぉ~?」
「私?何で?」
「さっきのカナタちゃんの試合本当にすごかったもぉ~ん!普段訓練でカナタちゃんの強さを知っている私でもぉ~、あの行動には驚かされたんだもぉ~ん!」
「……あぁ~、あれか」
迫ってきた冒険者に猫宙で回避したり、すかさず背負い投げしたことか。キーちゃんの曰く、あんなとびぬけた発想は思いついても行動に移せないそうだ。彼女も他の赤グループの人たち全員が釘付けだったらしい。
「カナタちゃんの闘う姿を見て闘気が上がったんだと思うよぉ~?みぃ~んな鳥肌立てていたんだもぉ~ん!」
「まあ、運が良かったとも言えるけどね」
「でも勝てたんだから結果オ-ライじゃ~ん!まあ、そのせいで私の出番が先延ばしになっちゃうけどねl~」
キーちゃんの手元にあるカードの数字は24番。赤グループにいる参加者は全員で51人、真ん中あたり。その人の試合が終わり次第、次の人の試合を行う形式のせいでキーちゃんはいつ自分の番になるのか明確に把握できない。精神的に少しきついな。
「試合、そこまでッ!!」
ここで19番のカードを持っている人の試合が終了する。
キーちゃんとの会話であっという間に終わっていた。この調子なら彼女の番もすぐにくるね。
「あぁ~、暇だなぁ~。……お昼寝しちゃおうかなぁ~」
それはいくら何でもふざけ過ぎる。
普段からゆるい感じのキーちゃんでも、この緊迫した雰囲気で多少は気を引き締める物だと思っていた。だけど彼女の様子は周りの影響を受けず、相変わらずのマイペースぶりに思わず苦笑いをしてしまう。まあ気持ちに余裕を持てているから問題ないけど。
だけどキーちゃんの言う通り、暇なのは変わりない。他のメンバーの様子も気になるし、時間を潰すついでに感染でもしようと立ち上がる。
「どこに行くのぉ~?」
「次の魔術の試験まで自由にしているって言われているからね。暇だからクアルくんたちの様子でも見に行こうかなって」
「他のグループの所に行くのはまずいんじゃないのぉ~?」
「壁の向こう側まで行かないよ。壁際で見ているつもりだよ」
「じゃあ私もぉ~」
キーちゃんも立ち上がろうとするけど、それは流石に駄目と静止する。
「いやキーちゃんの出番は割とすぐだから、ここから離れちゃダメでしょ」
「えぇ~!」
「えぇ~じゃない!ほらっ、今のうちにしっかりと身体をほぐして。あと試合になったらどんな状況でも絶対に気を抜いちゃダメだからね。油断すると私みたいに奇襲を食らっちゃうよ」
「油断大敵ってやつだねぇ~。大丈夫大丈夫~。私はこれでもカナタちゃんほど抜けていないからぁ~!」
おっとそれはどういう意味かな?それは私の方が普段、気が抜けているって言いたいのかな?……まあ、否定はできない。あの試合での私のバカっぷりを見られたんじゃあ何も言えない。
キーちゃんは満面の笑みでそう返して、私の心を深くえぐる。きっと彼女自身無自覚で行ったのだろうけど、今の言葉は今日一番の精神的苦痛を受けた気がする。
キーちゃんと離れ、地下訓練所の中央にある巨大な壁の端にて他のグループの試験の様子を観る。赤グループと壁をはさんだ反対側は緑グループだった。確か緑のカードを受け取ったクアルくんだったはず。私は遠目で大勢の参加者の中からクアルくんを探し始める。
「……何処にいるのよあの烏……」
「なに不審者みたいなことをしているの、カナタちゃん?」
「うっわ!!」
クアルくんを集中して探す私の背後から女の子の声が聞こえた。
思わず変な声を上げて振り返ると、声の主は青グループにいるはずのコルルちゃんだった。
「コルルちゃん!?何でここにいるの?試験は?」
「私は14番目だったから、もう終わったところだよ」
そう返答されてコルルちゃんの肌や服を見てみると汗をかいた後がある。きっと激戦をした後なのだろう。
「そうだったんだ、お疲れ様。それで、試験はどうだった?」
何も考えず続いてコルルちゃんに質問する。
すると彼女は少し顔を伏せて落胆した様子を見せる。忘れていた、彼女の得意な戦闘スタイルは魔法を軸にした中遠距離による闘い。今回の武術試験では魔法やスキルの使用は禁止、しかも彼女は近距離戦闘が苦手、結果なんて目に見えていた。
「……ごめん、負けちゃった」
コルルちゃんは笑顔でそう答えてくれた。
眉が少し下がっている、必死に作り笑いしているのが分かる。もう少し考えてから発言すればよかった。聞いてしまった私は彼女と目が合わせづらかった。
「ふふっ、でも次の魔術の試験じゃあ絶対に合格するから!武術は最初から捨てていたし、何とか挽回してみせるよ!」
「コルルちゃん……!」
てっきり心境は悔しさや後悔で満ち溢れているのかと思っていた。しかし、その思い込みはただの杞憂だった。彼女はもう次の試験の事を冷静に思案している。今回がダメだったのなら次を頑張ればいいと真摯に現実と向き合っていた。この2年間の訓練で彼女は心身ともに強くなったな。
「カナタちゃんは勝ったんだよね?おめでとう。現役相手にすごいよ。流石は私たちのリーダーだね」
「えへへ、ありがとう……ってあれ?何で私が勝ったって知っているの?キーちゃんから聞いた?」
「私のグループからでも十分見えていたんだよ、カナタちゃんの闘い。それにあそこまで歓声がしたら、嫌でも目がいっちゃうよ」
コルルちゃん曰く、どうやら私の試験は青グループからも注目されていたそうだ。しかも12歳の女の子というのが一番の驚愕的だったみたい。青グループの参加者たちの話題は私で持ち切りらしい。ここまで注目されると逆に恥ずかしくなってきた。
「ところでカナタちゃん、やっぱり向こう側の男子たちが気になってこんな所にいるの?」
「うん。あの2人は魔法なしでも問題はないと思うけど……一応ね。コルルちゃんも?」
「最初は黄グループのケマくんの様子を見ようと思ったけど、向かう途中でカナタちゃんを見かけてからこっちに来ちゃった」
「大丈夫なのここまで来て……今は他の人の番とは言え試験中だよ?勝手に離れちゃあまずいじゃないの?」
「ちゃんと職員さんに確認を取ったよ。青グループ全員の武術の試験が終わるまでに戻ってくるなら大丈夫だって」
ってか思ったんだけどこの登録試験って、所々ゆるい所があるなぁ……。普通の試験じゃあこんな風に自由にしてていいなんて言わないよ?……まあこれは
「それで、クアルくんは見つかったの?」
「いいや、全然。1人だけ鳥人族だからすぐに見つけられると思ったんだけど、なかなか見つからなくて……」
そう返答するとコルルちゃんも壁際に立ち一緒にクアルくんを探し始める。
ここから緑グループの参加者まで20メートル以上の距離がある。赤と青グループ同様に試験している者以外の全員が座って観戦しているせいでクアルくんを見つけられなかった。何とか見つけようと睨むように目を凝らして探し続ける中、隣に立っているコルルちゃんが指をさす。
「……もしかしてあれじゃない?」
「えっ、どれどれ?」
「ほらあそこ、1人だけ前屈している人。……間違いなくクアルくんじゃない?」
コルルちゃんが指摘した場所を見つめると、そこには座位前屈をして身体をほぐしているクアルくんがいた。背中に生えた黒い翼を折り畳んで、念入りに深く前屈しているせいで全く気付かなかった。ある程度ほぐし終えたのか彼は立ち上がりギルドが提供してくれた槍を持って、今後は上半身の柔軟を始める。
「準備体操……ってことはまだ終わっていないみたいだね。どうする?近付いて応援する?」
「……ううん、ここにいよう。変に私たちに意識してクアルくんの試合の邪魔をしたくないから」
私の意見を納得したコルルちゃんはその返答に頷き、この場で静観することにした。私たちは武器や防具を装備しているため体が少し重いため、クアルくんの試合が始まるまで、その場に座ることにした。距離があるけどここからでも十分見えるから特に問題はない。
「負けた私が言うのもあれだけど、実技試験……私が思っていたよりも厳しめじゃなくてよかった」
「そう?私からすれば十分、キツイものだと思うよ。逆にどんなの試験を想像していたの?」
「参加者1人VS多数の冒険者での試合。」
何それ恐ッ!?もはやリンチじゃん!?
すごいバイオレンスな想像をするようになったんだね、コルルちゃん……。
「想像するとなかなかシュールな光景だね……」
「冒険者登録試験だから、そのぐらい厳しめにされるのかと思って。……カナタちゃんなら、そんな状況でも勝てるんじゃないの?」
「いやいやいやいや、無理だよ?どう頑張っても瞬殺だから?!私でもそれは泣いて逃げるよ?……ヒット&アウェイ戦法ならワンチャンあるかな?」
「ふふっ、ちょっと勝てる自信が出てきているじゃん。もし魔法やスキルがありだったら、カナタちゃんが放火魔みたいに燃えている剣を振り回す光景が思いつくけど」
「……それもありかな?」
クアルくんの試合までまだまだ先だと思い、私たちはここで談笑を始める。傍から見たら微笑ましいガールズトークに見えるが、その会話の内容は少し殺伐としている。それでも私たちはその話題で十分盛り上がった。そんな私たちの様子を親指の爪をかじりながら羨ましそう眺めるキーちゃんの視線に気付くことはなかった。
クアルくんの試合が始まるまで談笑をすること15分近くの時間が経った。緑グループの参加者も赤グループと同様に懸命に試合に挑んでいることもあって10分ギリギリまで抗って闘っている。情熱的で第3者から見てとても気持ちが熱くなるのだけど、そのせいで彼の試合が遅くなると思うと考え物だ。
「……よし。次、22番の者」
「ハイッ!」
21番目の試合が終わるとギルド職員は次の参加者を呼び、返答しながら鳥人族の男の子が立った。黒い翼を持つ男の子はクアルくんだった。待ちに待った彼の試合がようやく始まる。
「あっ、カナタちゃん!クアルくんの試合が始まるよ!」
「やっと?もうなにグズグズしているのよ。待ちくたびれたよ」
「それはクアルくん何も悪くないでしょ」
ついこぼしてしまった愚痴にコルルちゃんがやや呆れ気味で答える。確かに少し八つ当たり気味な言い方だったかも。私たちはもう一度立ち上がり、クアルくんの試合を見守る。
「種族と名前を」
「鳥人族のクアル!」
ギルド職員に確認されるとクアルくんは枠の中へと入り、装備している両手槍で軽く手首を鳴らし始める。彼の得意武器は両手槍。鳥人族の空を舞うという利点を考えて、彼は全て訓練を槍一本だけに重点的に頑張ってきた。
さっきまで試合をしてきた冒険者は、連戦と言うことも疲れたのか他の人と交代をする。
「すぅ~……よしッ!」
「気合入っているね~、少年!」
「ん?……あっ、さっきの!」
交替して枠の中に入ってきた冒険者は、先ほど私たちに色々と教えてくれたチョトさんだった。彼も緑グループの人だったみたい。忘れかけたけどチョトさんの事を思い出したクアルくんは軽く会釈する。
「まさかこうしてまた会うなんて思いもしなかったですよ!試合、よろしくお願いします!」
「ああよろしく。にしてもキミ、タイミングがわりぃなぁ~」
「……?どういう意味ですか?」
チョトさんの言葉にクアルくんは首を傾ける。
因みに私たちから会話内容がほとんど聞き取れていない。獣人族なら聞こえたかもしれないけど、私たちの聴覚ではこの距離で声を拾えない。2人の表情や仕草で何となく理解するしかない。
「いやなに、簡単な事だ。どうせ闘うなら相手が疲れている方がいいよなってこと。その方が闘いは自分の楽な方へと進められるしな。だけどところがどっこい、まさかの君から相手が元気満タンな俺と交代したっけわけ。普通に運がないな~と思って」
「そうですか?」
「まあ俺も仕事だから真面目にキミと戦わせてもらうよ。お互い悔いが残らむように頑張ろうや!」
チョトさんはそう言うとクアルくんに手を差し出す。試合前の紳士的な挨拶だろう。それに対してクアルくんは少し笑みを見せてその手を丁重に握り返す。
「はい、もちろん頑張ります!……ひひっ!」
「ん?」
「頑張って、勝たせていただきます……!」
「いいね、少年……!」
2人はほんの一瞬不敵な笑みを見せ合い、互いに距離を置く。
定位置に着くとクアルくんは槍の矛先をやや下へと下げ、しっかりと相手の中心を捉える。いつでも羽ばたけるように背中の翼をすこし展開して構える。チョトさんは短剣を装備している右手を前に出して左手を背中に隠すという、短剣使いの基本の構えを取る。短剣では明らかに槍と相性が悪いように思えるが、戦闘では何が起きるのか分からない。私たちは瞬きを惜しむ覚悟でこの試合を静観することにする。
「……あの2人、さっき何の話していたんだろう?」
「さあ?クアルくんのことだし「少しは手心を加えてくださいっすよ~」とか言ったんじゃないの?」
「それは適当に考えすぎでしょ……」
コルルちゃんと少しふざけていると2人の間にギルド職員が立ち、試合の合図を出そうとする。2人は静かに呼吸し、始まる瞬間まで全身に気配をただよらせる。
「では双方ともに、尋常……始めッ!」
「いくぜッ!!」