クアルくんの試合を静観して2時間近くが経過したところで、赤グループ全員の武術の試験を終えた。ギルド職員の話が聞こえる様に、参加者は囲むように座って待機している。数人の参加者は軽傷を負ったけど、ギルド側はそれも想定の範囲内なのか試験を進行する。
因みに、あれからキーちゃんに何度も謝罪をしたり慰めたりを繰り返して、ようやく機嫌は直してくれた。今後こそ自分の試験を見てもらおうと、彼女はずっと私に抱きついて拘束している。2時間ずっとだ。季節が夏ということもあり身体が熱くなって離れて欲しいけど、こうなったのは私のせいだから文句は言えない。彼女がまた解釈を起こして角から抱きついてこないように頭を撫で続けている。
「えぇ~、赤グループの皆さん武術の試験お疲れ様でした。このまま“魔術の試験”を行っていきます」
まさかケガしている人を気にせず続けるとは。私は無傷で終えたから良かったけど、本当に滅茶苦茶な試験だな。
「魔術の試験はその名の通り、皆さんの魔法の技量を測ります。内容は、参加者皆さんの会得している3種類の魔法を発動してもらい、それを我々ギルド職員が評価します。使用する魔法は攻撃魔法、補助魔法どちらでも構いません。しかしスキルは対象外とさせていただきます」
しまったな、まさかスキルはダメかぁ……。私の【俊敏化】はかなりレベルが高いから披露したかったのに、かなり痛いなぁ。まあスキルだと、どうしても発動しているかどうかわかりづらいから仕方がないか。
魔法はどっちでもいいって言うけど、どうしよっか……。取り敢えずアレとアレは確定で。後は……アレにしようかな。でもな……あれは宴会芸ようだし。うぅ、この試験ヤバいかも……。
「先の試験が力試しとすれば、この試験は己のアピールタイムと思って挑んだ方がいいでしょう。我々ギルド職員に”魅せる”と考えても構いません。そのため、自分の魔法がより良く我々に好印象に残すためなら、必要となる的や人を前もって進言してくれればこちらで用意します」
的は分かるけど、何で人も必要なの?……ヤバい、全く分からない。……まあいっか!
「順番は先の武術の試験と同じように番号順で行います。それでは……1番、ポール君」
「はいッ!!」
名前を呼ばれてポールが大きな声で返事をして勢いよく立ち上がる。この人は1番ということもあって印象深く覚えている。まあどっちかというと悪い印象だけど。
ポールは再び武術の試験を行った枠の中に入り、ギルド職員と会話を始める。
「何か必要な物はありますか?」
「それでは、外傷を負ったケガ人を1人と的を2つお願いします!」
ケガ人?これ魔法を見せる試験だよね?えっ、まさか……。
「分かった、すぐに用意する。おい、誰か怪我している奴、こっち来てくれ。あと土魔法が使える奴も」
「じゃあ、あたしが行くよ!」
「しゃあない、手伝いか~!」
暇そうに談笑していた冒険者側から1人ずつ女性と男性が名乗り出てきた。男性は武術の試験でポールと、女性は私と試合をした冒険者だ。
ケガ人として名乗り出て女性冒険者は右腕に包帯が巻いてある。どうやら他の参加者との試合で負傷をしたみたい。
「的同士、ある程度スペースを空けて作ってくれ」
「へいへい」
的を作る役を買った男性冒険者は、ギルド職員に指示されると地面に両手をついて魔法を発動させる。
【土魔法:リ・クリエイト】
少し離れた所に、先端が円形の土の棒が2本出てきた。あれが的みたい。ご丁寧に先端の円形には分かりやすく2重線が引かれてある。
「これでいいですか、ポール君?」
「はい。ご協力ありがとうございます」
「うむ。ではさっそく始めてください」
ギルド職員はそう言うと1歩後退する。今のが試験開始の合図か。武術の試験と比べて締まりのない始まり方だね。
ポールはまず女性冒険者に歩み寄って「怪我を見せてください」とお願いする。女性冒険者は包帯を外して、腕にできた大きな傷を見せた。恐らく木刀や槍を腕でガードした際に出来てしまったのだろう。ポールはその腕に自分の両手を添えて、魔法を発動する。
【光魔法:リ・ヒール】
ポールの両手が小さく光った。
緑色に輝くその光を浴びた女性冒険者の傷は徐々に小さくなっていき、数十秒後には傷跡は綺麗になくなった。それを見ていた赤グループにいる全員が声を上げた。
「「「「「おおぉぉ~!」」」」」
「すっげ~!回復系統の魔法だ!」
「【光魔法】の適性を持っているんだ!珍しいなぁ!」
「あれはすごいな!」
何故これほどみんなが驚くのかと言うと、【光魔法】を使えることが珍しいからだ。
【光魔法】の適性を持っている人は少なく、色々な職業から重宝される。理由は単純、【光魔法】はポールが発動したように傷や状態異常を治してくれる、初級魔法で唯一回復が出来るから。仕事の度に傷を負う冒険者にとってこれほどありがたい人材はいない。
予想はしていたけど、まさか回復する魔法を使うなんてね。まあ、全然驚かなかったけど。確かにレアだよ、回復系統の魔法は。だけどね……私に抱きついているキーちゃん、この子も【光魔法】の適性持っているし。何だったらコルルちゃんも持っている。寧ろ2人と比べたらあの傷を治すのに時間掛かり過ぎ。2人だったらもっと早く治せると思う。
「ねぇキーちゃん。キーちゃんだったらあの傷、どれくらいで治せる?」
「アハハハ~!あんなの10秒もかからないと思うよぉ~」
訓練の度に私たちが傷付くと、いつもキーちゃんとコルルちゃんに治してもらっている。そのおかげで彼女たちの回復系統の魔法はかなり上達している。それと比べると申し訳ないが、ポールの魔法はしょぼく見えてしまう。
「……うむ。ポール君、お疲れ様でした。では次の試験まで休んでいてください」
「はいッ!ありがとうございました!」
そう考えている間に、ポールは2種類の魔法を披露し終えていたみたい。
作ってもらった的は少し色が変色して一部欠けていた。残りは攻撃魔法でも披露したんだろう。興味なかったから全然気付かなかった。
「さてと、次は私か。キーちゃん、そろそろ放してくれるかな?」
「……そう言ってまた他のみんなの所に行くんでしょ~?」
「違いよ!?これから私の試験なの!」
どう解釈と妄想をすればそれに到ったのか説明してほしいものだ。
取り敢えずキーちゃんを落ち着かせて一旦その拘束する腕を離してもらう。2時間ぶりの自由に私はその場に立ち上がって軽く背筋を伸ばす。
「では次、2番、カナタさん」
「はい」
ギルド職員に呼ばれて返事をする。
対人戦と違って今回は1人で何かをする。少し不安になってき始めた。
「カナタちゃん、頑張ってねぇ~!って今回は別に対戦じゃないから心配はないかぁ~!」
「上手くいくか不安だけどね。じゃあ行ってくる」
キーちゃんに見送ってもらい、私は枠の中へと入った。
さて、見せる魔法の順番はどうしたものか。やはり私を好印象で覚えてもらいために派手な魔法を後で発動した方がいいだろう。てことは、最後は宴会芸用の魔法にするのがいいか。
「カナタさん、何か必要な物はありますか?」
「それじゃあ……的を2つお願いします。できれば新しいので、さっきのより先端の円が大きい奴を」
「おっけ~!」
より魔法の技術を見てもらうため、敢えて新しくて大きめの的を用意してもらう様にお願いする。了承してもらい、男性冒険者にまた新たに的を作ってもらう。
【土魔法:リ・クリエイト】
地面から出てきた的は要求通り、さっきより大きめ。この的ならいい感じに魔法が派手に見えだろう。
「これでいいですか、カナタさん?」
「はい。ありがとうございます」
「うむ。では始めてください」
ギルド職員はそう言うのと同時に、さっきと同じように一歩後退した。
本当に締まりのない始まり方だ。まあいい、気にせず魔法を発動しよう。
「じゃあまずは、これからッ!」
用意してくれた的のうちの1本に対して横向きに態勢を変える。
円形の中心にしっかりと狙いを定めて、深呼吸をして集中する。これ程、緊迫した状況でこの体勢になったのは前世以来だ。
さ~て、気合入れなきゃッ!正直これも自信ないけど、やるしかないか!一球、入ぅ……魂ッ!!
【火魔法:
右手に野球ボールサイズの火の球を出現させて、それを的の中央に向けて全力投球する。オーバースローから投球した縦回転のストレート、想定通りに軌道に乗り火の球は的に命中する。その際に、そのサイズからは考え割れないほどの爆音が鳴り、土の的は煙を上げる。
この魔法は前世の高校時代、部活の助っ人として野球部に参加した経験を活かそうと思い作った魔法。実際のポジションは
「ナイスヒット!」
「派手さが足りないが、威力は悪くねぇな!」
「おお~!なかなか……いや、かなり精度の高い魔法ですね!それに繊細!色々と応用が利きそうですね!」
煙がなくなり焦げ跡は的の中央ではなく下部についてある。円形のギリギリであった。
やっぱり思った通りの場所に着弾していなかったみたい。だけど着弾までの過程が良かったのか、それとも命中する衝撃が良かったのか、なかなか良い評価が貰えた。みんなの表情を見て、心底ほっとする。
あっぶなッ!思いっきり真ん中から外しちゃったよ!?念のために的を大きくしてもらってよかった……。この魔法、開発してから毎日練習しているけど、コントロール上達しないんだよな。かなり調子に乗って思いっきり投げちゃって、当たるのか不安だったんだよね……。当たってくれてよかった、本当に。
誰にも気付かれていない額に出る冷汗を拭きとり次の魔法を披露する。と、その前にギルド職員に確認を取った。
「あの~、すいません。次の魔法は的に近付いて使いたいのですが……」
「ええ、構いませんよ。好きなようにどうぞ」
次はどちらかというと近距離特化。【火球】と違ってここから発動しても的には絶対に届かない。ギルド職員に許可をもらい、的から2mまで近付いて発動の体勢に入る。
反動で飛ばされないように足を前後にスタンスを取り、右手の親指と人差し指で輪を作る。2本の指に大量の火の魔力を収縮させて、循環させるように輪の内側にて回転させる。私の性格上これ程の繊細な魔法はかなり集中してしまい、精神が削れていく。準備が整い次第すぐに魔法を発動した。
「ふぅ~~……すぅぅぅぅ!」
深呼吸してできる限りの空気を肺に取り込み、指で作った輪を口元に近付けて息を吹きかける。
【火魔法:
吹きかけた空気が輪の中を通ると火へと変化する。魔力を輪の内側で回転させることによって発動する火は円形を保ったまま渦状にて放出される。近距離で放たれた火の渦は瞬く間に的を覆いつくした。土の的を熱によりみるみる黒色へと変色していく。
この魔法は【火球】と同様に訓練中に思いつきで創造したもの。試し打ちとして発動してみると、思っていた以上に射程距離が長く、たまたま近くにいたクアルくんとケマくんに命中してしまった。当時はクアルくんの翼の羽が数本焼かれ、ケマくんは髪がチリチリになる程度で済んだが、正直に言って危なかった。むやみに使ってはいけないと瞬時に理解した。現時点で私が創ったオリジナル魔法の中で最も殺傷性と危険性が高い魔法だ。しかし、この魔法には欠点がある。私の呼吸によって発動できる魔法。いくら訓練で体力が着いた私でもまだ子供、いくら深呼吸をしても5秒前後しか発動できない。つまり持続性は低い。
今回も予想通り5秒足らずで息が切れてしまい火の渦は消滅してしまった。果たしてこれも好評をもらえるだろうか。近距離でしか使えないうえに持続性が低い。個人的にはかなり大きな弱点だと思う。
「凄まじい魔法ね……。場所によっては一気に火災を起こせるわね」
「殺傷性もかなりありそうだ!まとも食らえば火だるまだな!」
「うん。攻撃面では申し分ないですね」
意外にも高評価を受けた。もしかしてこれを最後にしておけばよかったのかな。まあいい、してしまったのだから仕方がない。良し、最後の魔法へと移ろう。
この場から振り返って最後にとっておいた宴会芸用の魔法の発動の準備をする。両手を横に伸ばして両足のスタンスを少し開けて、両手に魔力を集中させて発動した。
【火魔法:
右手に黄色の火の玉、左手に橙赤色の火の玉を出現させて、両手を前で添えるのと同時に2つの火を合わせて、1つの火の玉へと変形させる。素早く火の玉を天井に向けて目一杯の力で放り投げた。相容れない2種類の火が玉の中で激しくぶつかり合い、私が投げてほんの数秒で大きな爆音と同時に爆発した。空中の黄色と橙赤色の火の粉が輝かしく散り、そして寂しく消えて行った。
これは私が考えて創ったオリジナル魔法。日本の夏でよく見た花火をモチーフにして想像した。これを創ろうと思った発端は、ある日、非常に花火が見たくなった時があった。そんな時、自分は火の適性であることを思い、それを実現しようと試行錯誤の末に【小花火】として完成させた。私の知っている花火よりかは規模が小さく、全然色鮮やかではないけど、いつかは完成させようとひそかな課題としている。
「「「「「おおぉぉ~~!!」」」」」
「あら綺麗……!」
「殺傷能力が高そうだな。攻撃魔法にしてはちと惜しいと思うくらい鮮やかで見惚れてしまうな~」
「おぉ~。これは面白い魔法ですね」
赤グループのみんなの方へ顔を向けると、すぐに耳に入って来たのは驚きによる歓声だった。ギルド職員代表の人の表情を見てみると良い表情で手元にある紙に何かを記入している。派手さ注視の魔法だからそれほど評価は期待できなかったけど、どうやら私の杞憂だったようだ。
「すごいね、あなた!あんな魔法見たことないよ!」
「さっきの試合もそうだったし、本当に大したもんだよ!」
「あはは、ありがとうございます!」
確認のためギルド職員の所に戻ると、傍にいた女性冒険者と男性冒険者に頭を撫でられ肩を叩かれ褒められる。【火魔法】に関しては見様見真似で発動してきて比べる対象がほとんどなかった。だから魔法に関しては自信がなかったけど、今回で少しは自信が持てそうだ。
「……うむ。カナタさん、お疲れ様でした。では次の試験まで休んでいてください」
紙に記入し終えたギルド職員にそう言われ、私はその場にいる3人に一礼をして枠の外へ出てキーちゃんの元へ戻った。戻ってきた私を見ながら彼女は満面な笑みで迎えて入れてくれた。
「お疲れぇ~、カナタちゃ~ん!上手くいってよかったねぇ~!」
「ありがとう。正直これも危なかったところもあったけどね」
「でも言った通り心配なかったでしょ~?」
そう言いながらキーちゃんは笑う。どうやら彼女は私が失敗するなんて到底思わなかったようだ。これ程嬉しい言葉ない。しかし、だからといってまた巻き付くように抱きつかないでほしい。【火魔法】を発動した後のせいか先ほどより一層体温が熱く感じてきた。