英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第69話 ケマくんの異変

 総合適正の試験についての説明を聞き終わった参加者一同は、昼食を挟んだ休憩時間を設けられた。

 私とパーティメンバーたちは落ち着けられる場所へ移動しようと地下訓練所が出て、冒険者ギルドの1階のフロントで手足を伸ばして休んでいる。

 

「とりあえずみんな試験お疲れ様」

 

「お疲れぇ~」

 

「本当に大変だったぜ!特に武術の試験は!」

 

「……」

 

「私とカナタちゃんを見ていたよ、クアルくんの試合。最ッッ低なだったけど、勝ったんだから良いじゃん」

 

 メンバー全員、特に大きな怪我がなくてよかった。

 中には魔力を消費してやや疲労気味な者もいるけど、この休憩時間で何とか回復できるから問題ない。こうして無事に集合できたことに心底安堵する。

 

「それじゃ早速だけど、試験はどうだった?まずはクアルくんから」

 

「んぁ、俺?まあそうだな……結構よかったと思う。武術の試合には勝って、魔術のなかなかいい反応してくれたぞ」

 

 クアルくんは魔術の試験では2つは攻撃魔法で、1つは補助魔法を披露してそうだ。3つとも彼の得意な風の魔力を含んだ魔法で、彼曰く、担当のギルド職員の表情はかなり驚いていたそうだ。高評価は間違いないらしい。

 

「試合に勝つなんて本当にすごいと思うよ。……勝ち方は最ッッ低だったけど」

 

「コルルちゃんまだそれ言うの……。しょーがねぇだろ?紳士的な闘い方じゃ勝てない相手だ。俺だって必死だったんだから」

 

「まあまあ。それで、コルルちゃんの方はどうだった?」

 

 武術の試験はクアルくんの試合を静観する際に聞いていたから知っている。問題は次の魔術の試験だ。コルルちゃんの魔術の試験では、3つとも補助魔法を披露したそうだ。2つは回復系統の魔法で、残り1つは妖精族特有の魔法を使用した。とても物珍しいのかギルド職員だけではなく、他の参加者たちからも歓声が起きたそうだ。思い出してみると、隣の青グループで1回だけ大きな歓声が起きたことがある。それがコルルちゃんによるものか。

 

「アハハハ~!流石はコルルちゃんだねぇ~!」

 

「ありがとう。でも武術の試験で負けちゃったからねぇ……。次の最後の試験で何とか挽回しないと」

 

「だね。それにしてもやっぱり需要ある回復魔法はいい反応受けるんだねぇ。」

 

「そういえばさっき、すんごい爆音が聞こえたけど……あれ絶対にキーちゃんのだよね?」

 

 ここでクアルくんが私たち赤グループの様子を問いかける。それを私が淡々と順を追って説明した。

 クアルくんの予想通り地下訓練所中に響かせた爆音の正体は、キーちゃんの魔法によるもの。話を聞いたクアルくんとコルルちゃんは予想が的中して思わず苦笑いをする。気持ちはわかる。もし私が2人の立場だったら、私もそんな表情をしてしまう。

 

「どう、びっくりしたぁ~?」

 

「ああ、かなりな。参加者のほとんどが獣人族だから、みんな音に敏感でぶるぶる震えていたぞ」

 

「私の所は真隣だったから、どっちかっていうと光に驚いたよ。いきなり眩しい光がきたから一瞬身構えちゃった」

 

「何の前ぶりもなく急に来たらそれぐらい驚くよね。……ところで、私の魔法もキーちゃん程ではないけど結構、音も光もしていたと思うよ?何で私のにはノーコメントなの?」

 

 今度は私からそう問いかけると、2人はそっぽを向いた。眼を合わしてくれない。分かっている、キーちゃんと比べる以前にそれほど派手ではないと。隣の青グループには目に入って多少なりと驚いてくれたらしいけど、壁の向こう側にいた2グループには気付かなかったそうだ。せいぜい耳障りな音が聞こえてきた程度のようだ。

 

「何それ……ひどっ!」

 

「いやいやいやいや!?そもそも聞こえる方がおかしいじゃん!?」

 

「ちょっと待ってぇ~、それじゃあ私がおかしいって言うのぉ~?」

 

「キーちゃん……少しは自覚した方がいいよ?他の参加者の魔法を見て再度思ったけど、私たちの歳であの威力は本当におかしいと思うよ?」

 

 コルルちゃんがここでキーちゃんを慰める。

 私の入れ知恵で魔法を完成させたのだが、我ながら本当にすごい逸材を育ててしまったものだ。このまま前世のアニメの技など教えていくとどれぐらい覚えられて、それをどうアレンジするのか楽しみだ。

 

「そういえば、ずっと黙っているけど、ケマくんの方はどうだった?」

 

 最後にケマくんの試験の具合を聞こうと振り向くと、彼は椅子に座りながら顔を上に向けて寝ていた。視界の端で姿だけは見えていたけど、寝ていることに全く気付かなかった。見事な鼻ちょうちんを呼吸と共に収縮させている。何ともまあ器用な子だ。ギルド職員に防具の着用を強制されて今も私たちは防具を装備しているけど、彼はそんの気にせず気持ち良さそうに仮眠している。いや、ここまで安らいでいると最早熟睡とも言える。

 

「すぴぃ~……すぴぃ~……」

 

「やけに静かだと思っていたが、ずっと寝ていやがったのか……」

 

「どうするカナタちゃん、次の試験が試験だし……起こす?」

 

「今朝から眠そうにしていたしぃ~、きっと試験で一気に疲れてきたんじゃないのぉ~?休ませた方がいいと思う~」

 

 面目上いまだにリーダーである私にキーちゃんとコルルちゃんが問いかけてきた。

 コルルちゃんの言う通りケマくんは今朝から眠そうに何度も目元を擦っては欠伸を見せていた。ケマくん曰く、今日の試験に気持ちが高揚して眠れなかったそうだ。男の子にはよくある現象。このまま寝かせてあげたいのはやまやまだけど、それでスロースタートになっては困る。総合適正の試験では彼の力が必須。ここはケマくんの機嫌を損ねてしまうかも知れないけど、起こすことにしよう。

 

「クアルくん、お願い」

 

「よぉし、任された!スゥ~……起きろぉおおおお!!」

 

「あわわわわッ!!」

 

 クアルくんに起こすように頼むと、彼は寝ているケマくんに近付いて、丸い熊耳に向かって大声で叫ぶ。するとケマくんは何かの異常事態だと思い、手足をドタバタと上下に振って眼を空ける。一体何事かとケマくんは頭をぶんぶん振り回して周りの状況を確認する。

 

「えっ?えっ?な、何?何?!」

 

「グッモーニン~グ。いってぇッ!?」

 

「“グッモーニン~グ”じゃないわよ。声デカすぎ。周りの人に見られているじゃん」

 

 コルルちゃんがクアルくんの頭を叩く。

 限度なく大声で叫ぶものだから他の人たちにちらちらと見られている。これは流石の私でも少しは恥ずかしいと思う。とりあえず眼を覚ましたケマくんに試験の様子を聞こう。

 

「えっ、僕の試験の具合?だーっはっはっはっ、それが聞いてよ!これまた見事に2つとも大失敗しちゃったよ!」

 

「「「「えっ?!」」」」

 

 ケマくんの思いもしない発言に私を含むメンバー全員が目を点になる。

 ケマくんの話しでは、実技試験の際にグループ別に分かれた後、黄グループで1人になった彼はすぐさま寝てしまったらしい。どうやら武術の試験で自分の番になるまであまりにも暇すぎるため、寝て時間を潰していたそうだ。いざ自分の番になると、当然寝起きの彼は冒険者相手の試合に手も足で出せずにそのまま場外負けとなった。間違いなく評価は最悪だろう。

 次に魔術の試験では、これも自分の番になるまで寝てしまったそうだ。そして自分の番になると、これも当然寝起きの彼には集中力がないため、魔力を安定して発動することが出来ずに上手くアピールすることが出来なかった。これも間違いなく最悪な評価にされるだろう。つまりケマくんは、このパーティ内で最も低評価を受けていることになる。

 

「だーっはっはっはっ!やっちまったよ!」

 

「「このおバカー!!」」

 

 最悪な状況なのに高笑いするケマくん。それに対して激しく彼の頭を叩きながらツッコみを入れるクアルくんとコルルちゃん。先のクアルくんの大声と同等の大きい声だったけど、今はそんなこと気にする場合ではない。

 

「アハハハ~!これは笑えないねぇ~!」

 

「そう言いつつも笑っているじゃねぇか!?はぁ……本当にどうするんだよ?」

 

「まあまあ、次の試験で汚名挽回してみせるから!」

 

「汚名を挽回してどうするの!?返上して!」

 

「……まあ確かに、最後の総合適正の試験での活躍次第じゃあ挽回できるかもしれないけど……本当に大丈夫なの?」

 

 総合適正の試験。それは間違いなく冒険者登録試験の最後に相応しい、最大難解の試験である。

 内容は、参加者の同士で話し合って5~9人のパーティを組んで王都メラルフを出てすぐにあるメラルフ高山にて、明日の早朝6時までサバイバルをすること。その際に、指定された植物、鉱石、果実を一定数できるだけ採取して、試験終了の際に報告する。万が一、モンスターと対峙した時、無理な戦闘を強要されていない。寧ろ逃走するようにと勧められている。

 

「ケマ、しっかりと頼むぜ!この試験、お前の【索敵】と【直感】のスキルがカギを握っているんだからな!」

 

「分かっているって。流石にみんなの足を引っ張りたくはないし、俺も頑張って眼を開けるよ!」

 

 総合適正の試験では、当然私たち5人でパーティを組んで挑むつもりだ。その場合はクアルくんの言う通り、物や気配を探すことに特化した獣人族であるケマくんの活躍がかかっている。

 こんな阿呆ではあるけど、獣人族としての役割を果たせる程の索敵能力を持っている。彼がいればモノの採取からモンスターの発見まで容易に行えると言っても過言ではない。正確にはこの2年間で鍛えたと言った方が正しい。

 

「……ねぇケマくん。そういえば昨日、何時に起きて何をしていたっけ?」

 

 とある疑念が浮かびケマくんに問う。彼は先ほど“頑張って眼を開ける”と言った。つまり、あれほど長い時間寝ていたにも関わらず、まだ眠気があると言うこと。

 

「えっ?え~と……何時だったっけ?」

 

「昨日は6時に起きていなかったっけぇ~?ほら、昨日もぉ~「わくわくが収まんねー!」って言ってぇ~、1日中何処かに行っていなかったっけぇ~?」

 

「あーそうそう!昨日は今日のために1日中訓練していたんだ!」

 

 キーちゃんの言葉で思い出したケマくんは、手をポンと叩いて昨日の行動を話す。

 昨日は自由行動にしていた。試験に対する緊張をほぐすための遊びの時間として設けたつもりだったのだが、まさか訓練をしていたとは知らなかった。昨日は何事もなく普通に宿屋に帰っていたから特に気にせず聞かなかったけど、こうなるのなら聞いておけばよかった。

 

「……因みにどんな訓練をしたの?」

 

「魔法で木をたくさん生やしたり、その木をドサドサって倒したり、王都の外周を走ったりした!」

 

 あぁ、なるほど……。それだけ動き回って、魔力をめちゃくちゃ使って、疲労感全開なのに一睡もしていない。……そりゃあ眠いに決まっているわッ!!ヤバい、本当にどうするの……!?

 

 昔から体力の限界を知らない子ではあったけど、まさかここまでとは思いもしなかった。2年間で身体は逞しくはなったけど、中身はあの時のまま。ケマくんのコンディションの悪さにようやく気付き、頭を抱える。

 

「お前、何気にスゲェーことしていたんだな」

 

「言っている場合じゃないよ!コルルちゃんの回復系統の魔法で何とかできないの?」

 

「流石にそんな都合のいい魔法はないかな……。出来るとしたらせいぜい、鼻に向かって水をぶっかけることしか……」

 

「イヤだよ、そんな拷問みたいなことされるの!?試験中ずっと、ちゃんと起きているから大丈夫だって!」

 

 ケマくんはそう見栄を張るが、恐らくそれは無理だろう。24時間活動し続ける辛さや怠さは、前世で数多く経験したことがある私は良く知っている。まだ会社にいた頃、嫌がらせの様に上司から1人ではこなせない量の仕事を渡されたことが何度もあった。その度に近くのネットカフェで一夜にして何とか全て終わらせた。当然ものすごく身体が怠くて悲鳴を上げていたけど、次の日も仕事。休むわけにはいかず結局そのまま休む暇もなく会社で働いた。思い出すと苦い経験だ。

 ケマくんは間違いなく総合適正の試験中に眠ってしまう。これは私の中だけで理解するのではなく、本人にも認めてもらわなければ困る。私は椅子から立ち上がり、ケマくんに近付く。

 

「ケマくん、正直に答えて。まだ眠いでしょ、しかもかなりに?」

 

「……うん。正直、めちゃくちゃ眠いかな……」

 

 今後は少し圧を込めてケマくんに聞くと、申し訳なさそう笑いながら正直に答えてくれた。これは仕方がない。私たちはまだ12歳、世間から見ればまだまだ成長途中の子供。そんな子が24時間活動し続けて、たった1時間程度の仮眠では眠気に襲われてしまうのも無理はない。こうなったのは私の責任だ。もっとみんなに気を配っていれば、こんなことは起きなかったはず。

 何とかパーティのこの状態で総合適正の試験を乗り切る策を考える。私は勉強もできなければ、よい作戦なんてパッと浮かんでくるはずがない。それでも私は懸命に思案を巡らし続けて、1つの案が浮かんだ。

 

 

星暦2025年 夏の15日 土の日 昼

 

 休憩時間が終了した私たち冒険者登録試験の参加者、計234人は時間になると一度冒険者ギルド1階のフロントに集合して、ギルド職員の指示の下で王都メラルフの外へと移動する。

 ギルド側から参加者1人ずつに背負いバックを支給してくれた。中身を確認すると、1ℓ程度しか入らない空の水筒、乾燥させて歯応えがあり過ぎるパンが2個、少し汚れた粗悪な寝袋、簡素な治療手段として1人分の包帯とタオル、やや大きめの麻袋が1つ、最後に何やら1枚の紙が入った謎の封筒が詰められてある。ギルド職員曰く、参加者の殆どはサバイバル経験がないためギルド側の配慮だそうだ。少なくとも私たちはそんな訓練したことがないため、配慮は正直に言って嬉しい。遠慮なく使わせてもらおう。

 王都メラルフから出た私たち参加者は、ずっと歩き続けているせいか、それとも夏の日差しのせいか、参加者の数名が疲労の汗を流し始めている。防具だけでも十分重量感があるのに、加えて武器や先のバックのせいで全身が重い。普段着慣れていない人からしたら足が重くなるのも無理はない。しかし先頭には強面ギルド職員が率いるギルド職員たち、最後尾は先の試験に引き続き冒険者たちがいる。悪印象を見せまいとみんな必死に歩き続ける。それに比べて私のパーティメンバーは、まるでピクニック感覚で楽しそうに談笑していた。

 

「アハハハ~!楽しみぃ~!1度だけ野宿とかしてみたかったんだぁ~!……クアルく~ん、何でバックを槍に通して持っているのぉ~?」

 

「翼があるから背負えないんだよ!ったく、余計な手荷物が増えたわい……」

 

「はぁあ~~……超ぉねむぃい~……」

 

「ほらケマくん頑張って。試験が始まるまでの辛抱だから」

 

 他の参加者たちは緊迫した雰囲気だというのに、打って変ってとても落ち着いている。これから一晩サバイバルするというのに全くもって頼もしすぎる。いや、あれはメンバーたちなりの緊張の解し方なのだろう。全員、表情や言葉はゆるい感じを出しているが、その眼は心なしか揺らいでいる。きっと心の内で多少なりの不安が募っている。当然私にもある。初めての野営、しかもそれが試験なのだから余計に。だけど、このまま何も言わずに不安を募らしたままにしてはいけない。私も談笑に混じって少しでもパーティの士気を平常に保とう。

 

 王都メラルフから出発して1時間が経過した。

 運悪く雲1つの無い快晴のせいで、炎天下の下で歩く参加者たちは防具の下の服が汗で濡れ始めている。私のパーティメンバーたちも同様だ。どんなに体力や気力があっても熱さだけはどうしようもない。参加者たちがもう限界を迎えて弱音を吐こうとすると、目的地が見えてきた。

 

「見えてきた、あそこだ。諸君らが一晩サバイバルを行う場所である」

 

 先頭にいる強面ギルド職員はそう言いながら、前方の崖の下にある広大な森に指をさす。

 そこは太い樹木が生え渡り、視界に入る色は淀みのない緑、離れた個所で太陽の光に反射する長くて幅のある川、耳をすませば微かに聞こえる小鳥たちの鳴き声、そして果てしなく遠い所には一角の高山。どうやらここが総合適正の試験を行うメラルフ高山のようだ。

 強面ギルド職員はここで足を止めて、一度参加者一同を座らせた。休憩を兼ねた最後の確認をするのだろう。他のギルド職員や冒険者たちも参加者たちから距離を取って、私たちと強面ギルド職員で完全に孤立させた。

 

「それではこれより最終試験、総合適性の試験についての最終確認を行う。まず初めに諸君らにはこの森にて一晩過ごしてもらう。明日、正午6時にこの場から終了の合図を出す。それを聞き次第速やかに戻ってくるように。そして、明日の朝までに諸君らにはそれぞれ個別で依頼をこなしてもらう。その依頼の詳細は諸君らのバッグの中の封筒に記してある。個々にどんな依頼を配布したのかこちらは把握している故、誤魔化しても無駄だ」

 

 どうやら謎の封筒は依頼内容についてだったみたい。パーティ内で何人か同じ内容だったらありがたいのだけど、それ程都合よくはないだろう。後で全員のと確認し合って計画を立てないといけない。

 

「例のルールは日が完全に落ちた夜から行う。我々のタイミングで勝手にやらせてもらうがため注意するように」

 

 そう、この試験にはより本格的なサバイバル感を出すため、ギルド側でもう1つルールが設けられた。それは“盗賊の襲来”。

 盗賊とは、国によって定めた法や秩序を破り自由奔放に暴れまわるお尋ね者、簡単にいうと犯罪者のことだ。当然そんな者たちを入れる街町など存在せず、彼らは基本住む場所が無く洞窟や高山などで暮らしているそうだ。

 

 一見、冒険者側からしたら無関係にも見えるけど、実は彼らの存在は時によっては大きな死活問題でもある。問題一例は、冒険者が依頼等の理由で野宿している眠りについた隙に、金品目当てとして盗賊たちに夜襲を仕掛けられること。その時の冒険者は当然すぐに反応できずに一方的な暴力を受けて、最悪命を落とすような事件が少なくない。近年、冒険者ギルド本部は盗賊と出会った時のための備え等の対抗策を講じ続けている。

 その一環及び新人育成を兼ねて、この総合適正の試験にその様なルールを組み込んだという。つまり盗賊に襲われた場合でも対応できるのか、それも試験内容というわけだ。設定としては、後方の現役冒険者たちが盗賊役として参加者が集めた依頼品目当てに襲ってくる。参加者はそれを死守と同時に撃退。因みに盗賊を撃退しても、依頼品の免除はならないらしい。つまりは戦う意味はない。私個人このルールが一番面倒くさいと感じているが、試験である以上仕方がない。

 

 強面ギルド職員がそのルールの再確認をすると、冒険者たちが“ふっふっふっ”と小さく笑い出した。参加者たちに恐怖感を抱かそうとしているのだろう。頑張っているところ申し訳ないけど、演技感が丸出しで全く怖くない。寧ろ数名呆れている。もっと前もって練習してほしいものだ。

 

「尚、この高山には当然モンスターが生息している。事前に冒険者たちがある程度の討伐・後退をさせてはいるが、いつまたこの周辺まで戻ってくるのかは我々も予測不能だ。だからもしモンスターと出くわせた場合、速やかに逃げることを勧める」

 

 私は寧ろ、会って戦いたい。討伐すれば依頼品免除されるのだから。正確にはモンスター5体討伐に対して1人分免除になる。私たちの場合だと10体倒せれば良いと言うこと。細々と依頼品を集めるよりかは楽だ。

 

 訓練の一環で、キキラの街の大人たちと共によくモンスターを討伐してきたから、私たちはそれなりにモンスターと戦える自信はある。しかし逆に私たちは砂漠地帯に生息するモンスターとしか戦ったことない。メラルフ高山には一体どんなモンスターが生息しているのか全く知らない。自信はあっても気は引き締めておこう。

 

「説明は以上だ。それでは冒険者登録試験の最終試験……総合適性の試験の開始だッ!!」

 

【泥魔法:コンバート・ワ・ブレイク】

 

 試験の最終確認を終えて強面ギルド職員がそう叫びながら力強く真下の地面を殴りながら、大規模な魔法を発動した。座っていた地面は瞬く間に泥へと変わり、私たち参加者一同は魔法によって造られた急な斜面を泥によって流されて崖の下へ落ちていく。さしずめウォータースライダーの泥バージョン。泥の濁流には誰一人抗えなかった。

 

「それでは諸君らの健闘を祈っている!」

 

 そう言いながら大規模な魔法を発動した強面ギルド職員は、下へと流れていく泥を蹴りながら悠然と上へ登り、他のギルド職員や冒険者たちと合流する。彼らが参加者から距離を取ったのは巻き込まれないためだったのか。これほどの急展開には焦るしかなかった。

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!マジでかッ!?ここまでするのかッ!?なにが「我々は諸君らの安全を第一に考えている」んだ嘘つきー!!最悪これで死人出るよ!?一体何を考えているの、バカじゃないのッ!!

 

 事前に、これで怪我人が出るのかどうか冒険者の協力をしてもらい実証していた。結果は怪我人はなし。安全性はあると認知したギルド側はこれ採用した。つまりはこれで死人どころか怪我人は出ない。しかし、そんなこと知るわけがない。参加者全員、泥に体を取られてただ流されるしかなかった。

 

「「「「「わぁああああぁぁぁぁ!!」」」」」

 

 勢いよく落下する参加者たちは大怪我覚悟で着地しようとする。何が何でも生き抜こうと決意する。しかし、そんな覚悟は無用だった。参加者を巻き込んで崖の下へと濁流する泥は地面に触れた瞬間、低反発の布団の様な質感へと変わり、参加者たちを落下の衝撃から守ってくれた。濁流が治まり、私は自信が無事なことに安堵のため息をする。

 

 あぁ~ヤバい……本当に死ぬかと思った。地球のジェットコースターでもあんな臨死体験はできないぞ。……って他のみんなはッ!?

 

「い、生きてる……?」

 

「うぅ~……土で服の中がぁ~……」

 

「ばっきゃやろぉ!!死ぬところだったぞぉぉ!!」

 

「クアルくん落ち着いて。多分これも試験の一環じゃないの……いくら何でもやり過ぎだと思うけど」

 

 4人とも私の周囲にいる。幸運にも先の説明の時、全員が密集していたおかげで離れずに済んだ。すぐにパーティメンバーに声をかけて怪我の確認をしてもらう。全員怪我はなく、せいぜい服が汚れた程度。何度も何度も確認して、本当に怪我はないと理解すると安堵のため息をつく。

 

「他の参加者も無事みたいだね。この泥がいいクッションとして守ってくれたんだ」

 

「十中八九、ケガをしない計算であんなことしたんでしょうね。にしても1人であんな大規模な魔法を……やっぱり大人ってすごいんだ」

 

「さっきは焦ったけどぉ~、今思い出すとドキドキして楽しかったねぇ~!」

 

「……今ので眠気が覚めると思ったけど、まだ眠いや……」

 

「お前ってホンッット逞しいな!?」

 

 突然の開始に合図だったけど、パーティメンバー全員は気が多少の動転をみせるけど平常心を保っている。普通の子供ならここで多少の怯えや泣いたりするのに。そう考えると本当に私のパーティメンバーたちは逞しく育ってくれた。

 始まりはどうであれ兎にも角にも、冒険者登録試験の最終試験である総合適性の試験が開始した。前方に何本も立ち並んでいる太い大樹たちを見つめながら心の帯を締めなおす。

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