総合適正の試験が開始してから1時間が経過した。
パーティメンバーは私の指示で、泥の山の前で待機させている。正確には唯一空を飛べるクアルくんだけ別行動してもらって、私たちは残って服に付いた泥を掃いながら休憩中。
「カナタちゃ~ん、まだぁ~?」
「もう少しだけ待って。他の参加者たちの様子を見たいし」
何故こんな指示を出したのかというと、他の参加者たちの今度の方針や動きを見てみたいから。
流石の前世の記憶のある私でも野営をするのは初めて。しかも競争相手がいる状況なんてどうすればいいのか分からない。とりあえず他の参加者がどう動くのか参考にしたい。
今のところ、約7割の他パーティは急いで依頼品を採取しようと躊躇なく森へと駆けて入る。ほとんどの参加者が獣人族だから走るのが速く、あっという間に森の中へと消える。残った他パーティは、念入りに計画を立ててから行動に移るみたい。どうやら残ったパーティの中にサバイバル経験者がいる様子。しっかりと聞き耳立ててどういった方針で行くのか観察しよう。
「確かに他の人たちの行動も気になるけど……私たちも速く動いた方がいいと思うよ?このままだと私たちの依頼品、先に取られて私たちの分がなくなっちゃう……」
少し前に、お互いどんな依頼内容なのか確認し合った結果、見事に全員の採取する依頼品が別々だった。
私が青りんごを20個、キーちゃんがグリーン・メラルフキノコを13個、クアルくんがバイオレット・ホルル草を17個、ケマくんがイエロー・メラルフフィッシュを25匹、コルルちゃんがレッド・チェリーフラワーを15個の採取。それぞれの特徴や詳細についても書かれており、メラルフ高山ならどこでも採取できるモノばかりらしい。丁寧に絵もある。
だけど問題は追記で「同じ依頼内容の参加者がいますので採取は早めに」と書かれている。つまり作物や魚には限りがある、早い者勝ちと言うこと。コルルちゃんはそれを危惧している。
「大丈夫だよ。確かに依頼も大事だけど、それよりも優先すべきことがあるの。分かってくれる?」
「カナタちゃんがそう言うのなら信じるけど……本当に大丈夫?特に……ケマくんの依頼品集め」
そう一番の問題は、ただ今絶賛爆睡眠中のケマくんの依頼品の採取だ。何故か彼の依頼品の数が異様の多い。
多分さっきの試験の挽回として依頼品の量を増やしたのかもしれない。嬉しいようで全く嬉しくない。一見、魚なのだから川に【雷魔法】を使えばいいと考えたけど、何でもこのイエロー・メラルフフィッシュの皮膚は雷に抵抗でき、よほど強力な【雷魔法】でなければ感電死しないみたい。
しかも魚かぁ……嫌だなぁ。絶対ぬるぬるして触りにくいだろうなぁ。私、こんなんだけど一応は女の子だし、これ以上手が荒れる様なことはしたくなーい!だったら冒険者になるなって話になっちゃうけど……。
「最悪、キーちゃんとクアルくんの本気の【雷魔法】を同時発動してもらえば何とかなると思うよ?」
「何とかなるって……そこは不確実になっちゃうんだ」
「アハハハ~!任せてよぉ~カナタちゃ~ん!クアルくんなしでもぉ~、私一人で十分だからぁ~!」
コルルちゃんが徐々に不安を募らせる気持ちは分かるけど、初めのこと……特にみんなのことになると流石の私も大胆な指令は出せない。こういう時、リーダーは辛いな~。……ってか何時まで私は仮リーダーをし続けなきゃいけないんだろう?こうして頼ってくれるのは嬉しいけど……私は頭を使って考える柄じゃないんだよな。う~ん、このまま私が正式にパーティリーダーになっちゃったらどうしよう……パーティ名も私が考えるの?
確かキキラの街にいた冒険者の話しじゃ「リーダーは依頼の手続きや書類の確認、あと毎日パーティメンバーの状況チェック等の全責任を負わなきゃいけない」って聞いたことある。うっわ~……リーダーは続けたいけどめんどくさ……。何でこの世界に来てまで前世の社畜みたいなことしなくちゃいけないの?そう言えばコルルちゃん、計算とか早く解けるようになってきたっけ?……書類とは全部コルルちゃんに押し付けちゃお。
「……何でそんな悪い顔で私を見てるの?」
「ううん、別に~」
「絶対今、悪いこと考えていたよね?……まさか他の参加者の依頼品を盗もうって思っていない?」
「おっ、それはいい案だね!そうだな~、私の【火魔法】でボヤ騒ぎを起こして、参加者が騒いでいるその隙に……」
「いやいやいやいや!?森の中で放火とか止めてよ!?」
コルルちゃんに説教を兼ねたツッコみを入れられてしまった。
ここ数年、コルルちゃんは私たち以外の友人を多くつくり、そのおかげで彼女の語彙力が高くなった。彼女の反応と言葉が面白く、だからなのか私もついついボケてしまう。その後に説教されるのは勘弁してほしいけど。
今後の行動について話し合いをしていると、クアルくんが空から帰ってきた。彼は器用に地面に着地して私の方へ歩み寄る。
「たっだいま~!」
「遅い。んで、どんな感じだった?」
クアルくんに2つの指示を出した。
1つ目は、メラルフ高山の大まかな様子。要は森の中にモンスターがいるのかどうかと言うこと。正直、私の中でこれだけの量の依頼品を集めることは半分諦めている。ケマくんを除いて4人でこれだけの量を探し出すのは結構骨が折れる。それに比べてモンスター5体討伐だけで1人分の依頼の免除というのは非常に楽な話だ。だから私はまだこの森にモンスターがいないか、それを上空で確認してもらっていた。
「すまん、木々の枝や葉っぱで上からじゃ森の中は良く見えなかった。唯一分かったことと言やぁ、森の中にはモンスターの群れらしき気配は見当たらなかったぜ。せいぜい動いていたのは、先に入った参加者たちぐらいだ」
「間違いない?」
「上空からの偵察だったからな。絶対とは言い切れない」
まあ、それしか言いようがないよね。仕方がない、諦めて青りんご20個探そう。……めんどくさ~。でも無理に危ないことしなくていいって考えれば幾分マシかな。それでもめんどくさいな~……。
「見つからなかったんならしょうがないね。じゃあ、もう1つの方は?」
2つ目は、最低3人が寝られる安全そうな場所の捜査。
支給されたバックの中には野営用の寝袋は入っているけど、組み立て用のテントはない。つまりギルド側は地面にそのまま寝ろと言っている。私たちは別に一向に構わないけど、せめて盗賊役の冒険者から隠れられるような場所は必要だと考えた。
ケマくん以外のパーティメンバーは気付いていたようだけど、武術の試合では相手の冒険者は手加減をしてくれていた。それがもし盗賊役として本気を出されたら、正面で闘ったら恐らく負けて依頼品を奪われる。
対策として、盗賊とは戦わずに隠れて過ごそう、という結論に至った。逃げまわるという案も出てけど、その時間帯になると私たちもケマくんの様に睡魔に襲われて逃げ切れない気がする。だから隠れて一夜過ごそうと考えた。
「あっちの方でちょっとした窪みがあったぜ。ただ3人か4人が入れるかどうかのサイズだった。どうしても1人か2人は余っちまう」
クアルくんはそう言いながら北北東へ指をさす。
ギリギリでも4人が入れるのなら上等な方だ。その窪みの形や周り地形、深さなどの詳細を確認する。
「正確にはデッケェ木の根っこの間に出来た空間って感じだ。斜め掘りで1回中に入ってみたけど、頭が当たってしまう程の深さだ。周りは草や茂みが生え並んでいた」
「他に周りには特徴的なモノはなかった?例えば川があったとか、大きな岩とか」
「いいや。本当に森に一部って感じだ。目立つ場所と言やぁ、その窪みくらいだったぜ」
なるほど……うん、悪くないかも?いやむしろ良いかも!最悪木の上で隠れようと考えけど、それと比べたら全然良い!窪みの出入り口の周りもキーちゃんかコルルちゃんの【木魔法】で茂みや草とかでカモフラージュすればいいし。
「うん、そこにしよう!クアルくん、ここからだとどれくらいの距離にあったの?」
「う~ん、ここから……10キロあるかないか程度だったかな?」
意外と遠いな……。いや、ここから出来るだけ距離を取って盗賊たちに見つけにくい方がいいか。それに【俊敏化】を使えばすぐに着けるし、問題ないか。
「よしみんな、とりあえずそこに向かおう!クアルくん、案内よろしく!」
「はいはぁ~い!」
「うぃ~っす!」
「すぴぃ~……」
「了解。……ってケマくんはどうするの?」
◇
星暦2025年 夏の15日 土の日 夕
クアルくんの案内で隠れ家になりそうな窪みに向かい歩き続けること1時間以上が経った。
この方向には他の参加者たちが通らなかったのか、道中でそれぞれの依頼品が多く見つかり、移動途中で採取もしている。依頼の紙を見た時に数が多いと思ったけど、この調子だと盗賊出現前には依頼品を集めきることができそう。強いと言えばケマくんの依頼品が1つも手に入れられていない。まだ一度も川が見つからないから仕方がない。因みにその肝心なケマくんはというと、キーちゃんにおんぶしてもらって運んでいる。
「すぴぃ~……すぴぃ~……」
「本当によく寝るねぇ~。……というかぁ~、何で私なのぉ~?」
「しょうがねぇだろ。俺じゃあ翼が邪魔で背負えないし、カナタちゃんやコルルちゃんはそいつ運べるほどの筋力はないし」
「まあ消去法よね。頑張って、キーちゃん」
キーちゃんはパーティ内で一番パワーがあり、ケマくんを背負って移動してもらっているけど、全然呼吸が乱れていない。多少の疲労は感じているようだけど、まだいける様子。
キーちゃんがケマくんを背負っているせいで自分のバックを背負えなくなっているから、私が彼女の分も一緒に運んでいる。背中に自分のバックを背負い、全面でキーちゃんのバックを付けている状態。非常に動きにくいけどキーちゃんと比べれば弱音は言えない。
歩いている道中にまたしても依頼品が見つかった。木の枝に生えている青りんご、私の依頼品だ。
自分で採取しようと一度運んでいるバックを下ろして、身軽な状態になって木に登る。訓練でパルクールをしてきているから、この程度の高さの木など怖気ずに採取できる。
「あああああ!」
離れている間にパーティ内でちょっとして問題が発生した。
寝ているケマくんが涎を垂らして、運んでもらっているキーちゃんの防具についてしまった。それを先に気付いたクアルくんとコルルちゃんは恐る恐るキーちゃんの表情を窺うと、眉がびくついていた。
「すぴぃ~……すぴぃ~……」
「……アハハハ~。みんなぁ~、早速晩餐が決まったよぉ~!熊鍋ぇ~!!美味いかどうかは保証できないけどぉ~!!」
「こいつの食生活によるな。確かこいつ甘党でいつもお菓子とか食っていたよな?肉も甘ったるいんじゃないのか?」
「考え方が外道過ぎる……。もう、ふざけてないで速く行こう」
冗談交じりの談笑を続けて私たちは目的地へと歩き続けた。
ケマくん以外の依頼品の着々と採取が出来ている。その後も晩御飯にしようと他の果物もかなり手に入った。幸先が良い。ケマくんに対する仕返しなのかキーちゃんは移動中ずっと体を大きく揺らしていじめていたのは余談である。
談笑と依頼品の採取をしながら森を歩いている一旦森を抜けると今後は川に直面する。川は幅が広く、そして深い。臍まで浸かることになる。水の流れは大したことはないにしろ、これを渡ったらかなり体力が持っていかれる。窪みを発見したクアルくんの話しでは、この川の反対側にあるらしい。
そんな川を見た瞬間、私は眉間にしわを寄せる。別に川に対して不機嫌になったわけではない。自然の中なのだから仕方がないと割り切れる。不機嫌になったのは別件。この川の存在を知らされていないことだ。
「……聞いていないんだけど?」
「……忘れたぜ」
社会、いや日常生活にとって連絡事項のし忘れは一番いけない。前世でその大切はよく知っている。社畜だったのだから。今度からこの様なことが起きないように訓練で報連相について熱く語らなければならないようだ。男子たちには特に。
「どうする?泳いで行けとか言わないよね?」
「う~ん……。夏だけど服を濡らしたまま一晩過ごしたら風邪ひいちゃうよね?迂回して浅瀬を探すのも面倒だし……仕方がない。クアルくん、責任持って1人ずつ
「えぇ~~……」
クアルくんが露骨に嫌そうな顔を見せる。
前々から緊急退避方法としてクアルくんの飛行能力でメンバーを1人ずつ手掴みで運ぶ訓練をしてきた。訓練ではギリギリではあるけど成功してきた。だけど、それは防具を装備していない軽量の時。しかし今は、本気で試験に挑むために胴だけではなくしっかりと肩、肘、膝も装備している。それに加えて武器や集めた依頼品の入ったバックも含めれば数段体重が重くなっている。
だけど仕方がない。私たちは濡れたくはない。こういう力仕事の時こそ男子に頑張ってもわらなければ。
渋々指示を了承したクアルくんは数十分かけて、何とかメンバー全員を反対側に運ぶことができた。運んでいる最中の彼はとても危機迫る表情で精一杯翼を使って持ち上げてくれた。想定以上に重かったみたい。
翼と両手に力を入れて最後の寝ているケマくんを運び終えると、クアルくんは四つん這いになって荒い呼吸で息を整えている。
「はぁ……はぁ……!!」
「お疲れ様クアルくん!それじゃあ日が暮れる前にとっとと目的地に向かおうか!」
そう言うとクアルくんは辛そうな表情で私の方を見つめる。
申し訳ないがもうすぐ夜になってしまう。盗賊たちがいつ動き出すのか分からない今、ここでたらたらと無駄な時間を過ごすわけにはいかない。クアルくんの腕を掴んで立ち上がらせる。
「キーちゃん、またケマくんをお願い。ほらクアルくんしっかりして」
「うぅ~、またケマくんをぉ~……」
「……カナタちゃん。ちょっとあれを見て」
移動しようとした時、ずっと川を凝視していたコルルちゃんが呼び止める。振り向いくと彼女は川の中に指をさしていた。
「どうしたの?」
「あれって……イエロー・メラルフフィッシュじゃないかな?」
コルルちゃんが見つけたのは私たちの中で一番採取が困難なケマくんの依頼品だった。
名前の通り黄色い鱗を持った魚、絵もあるし間違いない。しかも幸運にも群れ泳いでいる。納品数の25匹まではいかないが見つかっただけありがたい。
「ほぉ~、こりゃまた大量なこった!」
「コルルちゃん、ナイス!それじゃ早速捕まえよう。クアルくん、【雷魔法】よろしく!」
「また俺の働かす気か!?ってか【雷魔法】ならキーちゃんだろ!?」
「キーちゃんのは音がデカすぎるから盗賊たちに場所を特定されちゃう。いいから早く、ほらっ!」
そうクアルくんの背中を押すと、彼は小さくため息を吐きながら川に片手を入れる。手に雷の魔力を集中させた魔法を発動させる。
【雷魔法:フル・サンダー】
これは使用者の熟練度に応じて威力が上がる【雷魔法】。現在クアルくんの【雷魔法】の熟練度はレベル8。他の数値と比べたら少し劣っているけど、それでも普通の魚なら感電死する程の威力はある。
クアルくんの手に沿って川の表面に電流が走った。もちろん表面だけでなく、中にも確実に電流が流れた。しかし流石は指定された魚、未だに悠々と泳ぎ続けている。心なしか少し元気になっている様にも見える。自信のあった【雷魔法】で1匹も仕留められなかったことにショックを受けたのか、クアルくんはそっと川から手を放して固まる。
「……」
「……どんまい」
「うるさいなぁッ!しょうがないだろ?!まだ発展途中なんだから!」
慰めようと思い声をかけるが、どうもクアルくんからしたら皮肉に聞こえた様で急に逆ギレしてきた。別にそんなつもりじゃなかったのに。
しかし困ったな。あの魚が思ったより雷に対する抵抗が高いとは思いもしなかった。手持ちに釣竿も網もない。どうやって採取しようか顎に手を当てて考える。
私の火魔法で直接攻撃する……いや、私のはそこまで火力がないからすぐに鎮火されちゃう。【小花火】を使えばいけるかもしれないけど、あれも音がデカいしこっちにも火種が来ちゃう。どうしたものかな……。
「じゃあここは私に任せてぇ~!」
「「「えっ?」」」
そう思案を巡らせている中、キーちゃんが手を上げる。
どうやら魚を採取してくれるみたいだけど、キーちゃんが使える【雷魔法】は1つしかない。それを知っていたパーティメンバーは彼女がその魔法を発動する瞬間、すぐさま飛び込むように川から離れて両耳に両手を当てる。
【雷魔法:
「「「うぅわああああぁぁぁぁ!!」」」
キーちゃんの指先から一筋の雷が川に放った瞬間、爆音が響く。それに生じた爆風が近くに樹木の葉っぱを散らし、川には水と雷による大きな柱が盛り上がる。その柱は瞬く間にまた川へ戻ると、川の表面に逆らが浮かび上がる。それは1匹や2匹ではない、10単位の量だ。しかもイエロー・メラルフフィッシュだけじゃなく他の魚たちもちらほらと見える。
「うわぁ~!見てみてカナタちゃ~ん!これでたくさん採れるよぉ~!……あれぇ~?」
キーちゃんのように大喜びするべきだろう。だけど私たちはそれどころではない。彼女が嬉々として私の方へ振り向くと、そこには耳を塞いで起き上がろうとしない私とクアルくんとコルルちゃんの姿だった。
これだよッ!?こうなるのが分かっていたから使わせたくなかったのよ!あぁ~耳だけじゃなくて頭も痛ッ!?
「ああああぁぁぁぁ、耳がぁぁぁぁッ!」
「キーンってする……。あぁ……!」
いくら耳を塞いでもそれ程距離が近ければ関係ない。例え様がない爆音に私たち3人は耳を傷めている。まさかアイディアを提供した私がその魔法で苦しむとは。本当にとんでもない魔法を創らせたものだ。
「アハハハ~……ごめんねぇ~?でも早く魚集めないとみんな流れて行っちゃう~……ん?」
キーちゃんがそう言いながら右側の方を見つめる。