英雄たちが求めるエンディング   作:岩ノ川

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第7話 神の恩恵 byアスタ

<アスタ視点>

星暦2023年 春の10日 無の日 早朝

 

 旅占い師のロップさんと出会った日から約3年の時が経った。

 何事もなく平穏な日々を送ることができ、こうして俺は無事に10歳を迎えることができた。そして今年、神の恩恵を受けるためペレーハ村から出てとある街に滞在している。

 

 名はスラッタの街。

 

 ペレーハ村と比べて雑草や土といった自然物が少ないが、土地がとても広くて建築物がとても多い。分かり易く言えば都会だ。

 父さんはお店があるため村に残り、母さんが付き添いで一緒に来てくれた。息子の記念日だと言うことで、母さんはこの日のために少しお洒落な服を用意してくれた。普段着のまま行きたいのだが用意してくれた母さんの気遣いを無下にできず、早朝に起きた俺はその服を着替えた。

 

 正装かぁ……懐かしいなぁ。いや、今世では初めてか。思っていた以上に堅苦しいけど……我慢するか。

 

「アスタ……とても似合っているわよ」

 

「……ありがとう、母さん。じゃあ、行きましょう」

 

 母さんが俺の姿に感激してくれた。少し身長が伸びた俺は、神の恩恵を受けるため教会へと向かった。

 宿屋を出ると、隣接している大通りに入って教会へと向かい始めた。流石は都会、その道はしっかりと舗装されて、幅は馬車が並列しても通れるように広く造られている。それだけではなく建築物も立派だ。外見は木造建築のペレーハ村に対し、スラッタの街はそのほとんどがレンガやコンクリートで建てられている。

 

 ペレーハ村から街まで馬車で丸一日。いくら最端の村とはいえ、この圧倒的発展の差に少し落ち込んでしまう。この世界の建築技術、知らなかっただけで意外に発達しているんだな。外観だけなら一世代前の地球の街並みと変わらないかも。……こうして観ると、俺の村がどれだけ田舎なのかよく痛感してしまうな。

 

 しばらく歩き続けると、教会へ向かう他の親子がちらほらと見え始めてきた。俺のように正装している子もいれば、着慣れた普段着の子もいる。楽しみなのか無邪気に笑っている子もいれば、緊張して肩に力が入ってカチコチになっている子もいる。

 この世界でもああいう子はやっぱりいるんだな。まあ俺も人のことを言えた立場ではないけど。それにしても……人族しかいない。街だから、いや神の恩恵だからもっと色んな種族の人たちを見られると思ったんだけどなぁ。

 

「アスタ、着いたわよ」

 

 隣にいる母さんがその場に止まって、そう言いながら1つ建物に指をさした。うん、想像していた通りの教会だ。外観は特に派手な装飾はなく、日本にあっても特に違和感を抱かないシンプルな建築物だ。どうやらここで神の恩恵を受けるらしい。

 次々と他の子供たちが教会の中へと入って行く中、俺はまじまじと観察を続ける。

 

「あら、どうしたのアスタ?もしかして……緊張しちゃった??」

 

 母さんは謎の笑みを見せながら聞いてきた。母さんは意外に人をからかう悪戯心がある。恐らく目前まで近付いた神の恩恵に緊張して固まってしまったのだろうと考察して、それをからかおうという魂胆なのだろう。

 しかし、そんな母さんの目論見を叶えさせることが出来ず、俺は率直な教会への感想を口にする。

 

「……本当に教会だ」

 

「逆にどんなの想像していたのよ?」

 

 “神の恩恵”。この世界の住民にとって必ず通らなければならない行事。そして人生に1度しか受けることが出来ない。それほどの大きな行事なのだからきっと行う教会もそれなりに規模が大きなものだと勝手に想像、言い換えれば期待をしていた。可愛げのない息子の返答に、逆に母さんを困惑させてしまったようだ。

 

「アスタくん~!おはよぉ~!」

 

 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。周辺を見渡して声の主を探すと、俺たちの後方からまた声が聞こえてきた。

 

「こっちだよ、こっちぃ~!お~い!」

 

 俺たちの後ろから聞こえてきた。後ろに振り返ると、そこには少し身長が伸びたナエナちゃんがいた。その隣に彼女のお母さんもいる。彼女は手を振りながら駆け足で近付いてきた。

 

「おはよう、アスタくん!」

 

「……おはよう、ナエナちゃん」

 

「やっと来たね、恩恵の日!」

 

「ナエナちゃん、楽しみにしていたもんね」

 

「うん!今日の日が待ち遠しくてお目々パッチリだよ!あっ、といっても昨日はちゃんと寝たけどね!」

 

 この3年間で俺はナエナちゃんに対して普通に会話ができるようになってきた。まだ多少歯切れの悪い時もあるが、前と比べれば幾分マシになったと思う。

 一方ナエナちゃんは、ご覧の通り性格は以前とあまり変わりない。予想通り、神の恩恵という人生に一度の大イベントに大はしゃぎの様子である。もちろん俺も楽しみではあるが、彼女の様子を見ると自然と高揚せずに落ち着いていられる。

 

「サーネスさん、おはようございます。せっかくなので一緒に座りませんか?」

 

「あら、いいですね!2人もいいよね?」

 

 ナエナちゃんのお母さんがそう俺の母さんに提案を出してきた。2人はご近所さんだけあって付き合いが長い。だからこそ、こんな風に何気なく誘える。

 しかし、本日の主役は俺たち子ども。律儀に確認してくれた。

 

「うん!」

 

「はい」

 

 断る理由はなく俺たちはすぐに承諾した。昔の俺ならナエナちゃんが近くにいるのを躊躇っていたが、少し慣れたせいか成長した今のナエナちゃんを見ても緊張しなくなってきた。

 

「アスタくん、隣同士で座ろう!」

 

 流石にそれはまだ無理……。

 ナエナちゃんはいい笑顔で提案してきた。流石にそこまでの無理だ。しかし未だに自分の意思を相手に伝える勇気がなく、きっぱりと断ることができずに半ば強引に隣同士で座ることになった。

 

 教会に入ると、出入り口から奥の祭壇まで真紅カーペットが敷かれており、木製の長椅子が隣接していた。その椅子の数は壮観と思えるほどの数が用意され、俺の予想した入れる人数は多くて100人前後だと思っていたが、ここはその倍の200人以上が入れるほどの空間がある。

 意外に壮大な内装にも驚いた俺を置いて、3人は適当に空いてあった席を見つけて座り始めた。母さんに呼ばれて俺もすぐに向かう。ナエナちゃんのお母さん、ナエナちゃん、俺、母さんの順に席に座り、神の恩恵の始まりを待った。

 

 他の親子も着々と教会に集まり、空席だった他の席が徐々に埋まっていった。待ち続ける他の子供たちの様子は、まだかまだかと待ちわびている子もいれば、近くにいる他の子と話して時間を潰す子もいる。待っている間の姿勢や様子は様々だが、みんな共通して笑みを浮かべている。

 他の子達の様子を観察している俺が気になったのか、隣にいるナエナちゃんが指摘してきた。

 

「ねぇねぇ~アスタくん、ちょろちょろ周りを見てどうしたの?友達になってくれそうな人探しているの?私も探そうか?」

 

 なんでこうも辛辣な言葉を平然と言うことができるのだろうか。悪意がない分、尚のこと心に効く。

 

「いや……そうじゃなくて、他の種族の子……いないなぁ、って思って」

 

 そう返答するとナエナちゃんも同じように周りの親子の姿を確認し始める。ぶんぶんと勢いよく首を回している、そこまで懸命に確認する必要はないよ?

 

「……本当だぁ、なんでぇ~?ここもペレーハ村みたいに人族だけの街なの?」

 

 そう、現時点ではあるが協会内にいる親子は、全員人族のみ。多種族の者が1人としていない。せっかく村から出られ、ロップさん以外の他種族の姿をこの目で観られるかもと期待していたのに。

 俺らの会話を聞いて、母親たちも周りを観て反応する。

 

「あらホントねぇ、この街には妖精族の人達も住んでいると思っていたのだけど……」

 

「ああ、妖精族の人達は全員別の街で恩恵を受けるそうですよ」

 

 ええ、そうなの!?……って言うか、何で母さんそんな事を知っているの?

 

「へぇ~、そうだったんだ!?何でわざわざ他の街に行っちゃったの?」

 

「この街に私の友達がいてね、その人から教えてもらったのよ。なんでも、私たちみたいな外から来る人が多くてこの教会じゃあ入りきれないから、妖精族の人達が親切に他の場所で神の恩恵を受けることにしたのですって」

 

「あら、そうだったのですの!?その人達には感謝しないといけませんね」

 

 なんとも自己犠牲的な精神、しかも数人ではなく妖精族全員が合意でわざわざ外の街まで行くとは。そういう人達を善人と言うのだろう。俺も見習ければならないな……。

 

 そう話していると、出入り口である扉が一人勝手に動きだし、バタンッと閉じる。当然、一体何事かと子供経ちはざわざわと周りの様子を窺い始める。そんな初々しい反応を見て、ニヤニヤと微笑む保護者達の様子はなんとも小悪魔っぽく見えてしまう。ちなみに俺は、この状況に一見落ち着いている様に見えるが、内心はビビりまくっている。

 そんな小さな騒動の中、教会内の一番奥にある祭壇の前に1人の神父らしい人が現れた。

 

「そろそろかなぁ……!」

 

 小声で楽しみの感情が漏れ出るナエナちゃん。その目は子供の様に輝いていた。まだ子供だけど。

 神父の存在に気付いた他の子供たちは口を止めて、教会内は一瞬で沈黙と化した。

 

「スラッタの街に集いし若人たちよ、まずはおめでとうございます。こうして無事にこの場にたどり着けたことに、神に感謝をしましょう。こうしてここにいる他の者と出会えたことに、神に感謝をしましょう。汝らは今日をもってそれぞれの種族の一人前になり、更にここから成長できます。しかし一人前になるということは……」

 

 神父はよくある神の教えを長々としゃべり始めた。前世の記憶のせいで、こんな風に誰かの演説を聴くのは久しく感じる。途中から話しを聞き流してボーっと前を見ていた。そんな俺に対し隣のナエナちゃんは熱心に神父の話を聞いていた。

 

 そういえば意外に真面目な子だったな。にしてもこんな使い回されそうなセリフをよくそんな熱心に聞いていられるな。……いや、今日という日がそれほど楽しみだった、ってことか。

 それにしても長いな……学校の朝礼並みに長い。しかもこの椅子、クッションがないからお尻が痛くなる。こんなに座ってキツいって思ったのは高校の卒業式以来だな。

 

「……であります。神々はいつも汝らを見守っています。それだけは忘れないように。さあ、若人たちよ、恩恵の時間です。1人ずつ私の前に」

 

 ようやく話が終わり、神父は祭壇からを降りてきた。どうやらここから神の恩恵を受けるようだ。端に控えていた側近の者たちも神父の側に近寄り、持っている布袋を手渡す。

 神父の言葉に反応して座っていた子供たちが次々に立ち上がり、赤いカーペットに出て神父の前に並び始めた。そして神父は先頭の子供から順に恩恵を始めた。みんなはしゃいでいるなぁ……ナエナちゃんみたい。いや、普通の子供ならこんなものか。

 

「ほら、2人も早く行きなさい」

 

「うん!アスタくん、行こう!」

 

「え、ちょっ!?」

 

 母さんにそう言われ、ナエナちゃんは俺の手首をつかみ強引に列に向かって連れ出した。他の子供たちの移動に紛れ少しずつ進み、何事もなく列に並べた。しかし少し出遅れたせいで、俺たちの前はすでに長蛇の列になっていた。順番がくるのはだいぶ後になりそうだ。

 

「アスタくん、どっちが先にする?」

 

「順番のこと?俺は……どっちでもいいよ」

 

「じゃあ私が先でいい?」

 

 予想していた返答に首を縦に振り、ナエナちゃん、俺と順になる。別に聞かなくても先を譲るつもりだったのだが、一応は俺にも気を遣ってくれた。待っている間しばらく暇だったから、俺は頭を列の横に出して長蛇の列を眺める。しかし改めてみると……子供の数、多いなぁ。俺の後ろにもまだ結構いる。

 

 確か神の恩恵は、各『街』と『王都』の教会、それと特定の地域で受けられるのだったな。その地域を除いてウエスト大陸中の子供たちが5つの王都と、10の街のどれか招集されている一日で行う、って考えると……まあこの人数の多さも納得できる。

 基本どの大陸もそうだが、街と王都はそれぞれの距離があり、その土地に近い村や町の住民が向かい神の恩恵を受ける。俺たちの場合、1番近かったのがスラッタの街だった。近くじゃないといけないという決まりはないが、他の街に向かうと余計に時間と路銀がかかるから、よほどの理由がない限りは行くことはない。

 

 列に並び始めて数分経過した。

 ここでようやく、順番はナエナちゃんの前の子の番になった。この距離ならしっかりと神の恩恵の様子を観ることができる。俺は再び顔を横に出して神父と子供のやり取りを黙視する。

 

「はい、これを食べて」

 

 神父はそう言いながら手に持っている布袋から、白くて丸いお菓子のような物を取り出し、子供に手渡した。本を読んでいたため、あれが何かは既に知っている。

 あれは“神菓子”と呼ばれ、口から体内に入れることによって“ある事”が出来るようになる代物。決して怪しい物ではなく、むしろ俺たちの人生に大きな支えになってくれる物である。

 子供は神菓子を受け取ると、パクッとその場で口の中に入れた。

 

「はい、もういいよ」

 

「はい!」

 

 神父の言葉を聞いた子供は元気よく返事をして自分の親の下へ去る。

 そして次はついにナエナちゃんの番になった。

 

「はい、これを食べ……」

 

 神父はまた袋から神菓子を出してナエナちゃんに手渡すと、彼女は神父の言葉を言い終わる前に、すぐ神菓子を口の中に入れた。普通の子は少し見る、もしくは少し躊躇ってから食べるのだが、彼女は本当に一瞬だった。あまりの速さに神父さんは少し驚いた表情になる。

 そりゃあ、そんな顔になるよね……。神父さん固まっているじゃん。

 

「え、え~っと……はい、もういいよ」

 

「はい!」

 

 固まった神父の口がようやくそう動くと、ナエナちゃんは良い笑顔で返事をして自分の席に走り出した。

 

「また後でね!」

 

 去り際にそう小声で俺に伝えてきた。これは流石に予想していなかったため、一瞬ビクッと驚いてしまう。不意とはいえ、今のは卑怯すぎる。

 ナエナちゃんが離れた後、二歩程前に進み神父の前に立つ。ついに俺の番がきた。

 

「はい、これを食べて」

 

 先の出来事は何事もなかったかのように平然な表情に戻し、神父は同じように神菓子を俺に手渡してくれた。

 それを受け取ると、俺は観察を始めた。本の書いていた通りの形、少し力を入れたら潰れそうだ。もう少し観察をしたいが、あまり長々といると後方の子たちに迷惑だからここまでにして、神菓子を口に入れる。本は味に関することが書いてなかったから少し興味があった。

 

 ……美味くも不味くもない、っていうかほぼ味がない。舌に乗った瞬間すぐに溶けて、口の中の水分を持ってかれた……小麦粉みたい。なるほど、確かにこれは本に記載するほどではないな。

 

「はい、もういいよ」

 

「……どうも」

 

 その言葉を聞くと、俺は神父に一礼してから母さんたちが座っている席に戻った。当然ナエナちゃんの様に走るわけもなく、ただ静かに歩いて戻った。

 席の前に戻ると、先に着いていたナエナちゃんはお母さんと和気藹々と談笑をしていた。俺に気付かず本当に楽しそうに話している。出迎えの言葉を送ってくれた母さんは、とりあえず恩恵の感想を聴いてきた。

 

「アスタ、おつかれ。神菓子(あれ)、美味しかった?」

 

「……全然味がしません。むしろ喉が渇きました」

 

「ふふ、でしょうね」

 

 母さんは小さく笑う。どうやらこの反応を予想していたようだ。知っていた上で聴いてくるとは、母さんの悪戯心には思わず笑ってしまう。

 俺たちの順番が終わっても、まだ並んでいる子供たちが沢山いる。神の恩恵の時間はまだまだ続きそうだ。俺も着席をして、子供達が終わるのを静かに待つことにした。

 

「あっ、アスタくんおかえり~!ねぇねぇ~、あのお菓子変な味したよね?でも不思議とまた食べたくならない!」

 

 ここでようやくナエナちゃんが俺に気付いて声をかけてきた。どうやら静かに過ごす事は出来ないようだ。

 

 席に戻って数分後、ようやく最後の子の神の恩恵が終わった。

 側近の者は神父から布袋を手渡されると元の位置に戻り、神父も再び祭壇に戻り終わりの言葉を話し始める。

 

「ここに集いし若人たちよ、汝らは神の恩恵を無事に受け取れました。これで皆一人前である。さあ、今日から汝らだけの旅が始まります。汝らに神のご加護があらんことを……」

 

 神父の言葉が終わると同時に教会の鐘がカーンカーン大きく鳴った。そして後ろの扉も一人勝手に開きだす。事前に練習していたのか、ってくらいのナイスタイミングだ。どうやらこれで神の恩恵は終わりのようだ。

 終了の合図が出ると、椅子に座っていた親子たちは次々と立ち上がり、教会から出て行く。俺たちもその流れに乗じて席から立ち上がり、外へと出る。大勢の中に入ると多少の圧迫感で苦しかった、少しずつ前に進む事ができ、扉を超えると他の者は各々で散らばってくれて肩身の狭さもなくなる。

 

「ふぅ~、ようやく出られたわぁ……。それにしてもすごい人の数ですねぇ!」

 

「そうですねぇ、流石は神の恩恵。アスタ、ナエナちゃん、2人ともお疲れ様」

 

「う~~~んっ、やっと終わったぁ~!」

 

 外に出るとナエナちゃんは背筋を伸ばす。今日は彼女と同感できる。本当に意外と疲れた。

 その後、俺たち母親は一緒の食事をしようと話し合い、一旦それぞれの宿屋に戻って支度をすることとなった。ナエナちゃん親子とは教会の前で一度別れて、俺たちも自分の宿屋へ戻った。

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