【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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召喚儀式は終わった。
室矢重遠が気づかないうちに……。

そして、咲良マルグリットの姿もない。

5巻目で、ベル女編がどうどうの完結!
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第32話 誰もが強いわけではありませんよ?

 時翼(ときつばさ)月乃(つきの)は、考え込んだまま。

 この短期間に衝撃的な事実を詰め込まれ、頭がパンクしているようだ。

 

(可哀想に……。破裂しそうなのは、その胸だけでいいのに)

 

 俺も心を痛めていたら、その月乃がこちらを見た。

 

「視線……。分かるんだけど?」

 

「すまない」

 

 俺は息を吐きながら、青空を見上げた。

 

(しかしまあ……。東アジア連合の要人か!)

 

 原作の【花月怪奇譚(かげつかいきたん)】が終わった後でも、ルートにない死亡フラグが追いかけてきやがる。

 

 原作ヒロインの1人、月乃が、どの展開でも死ぬわけだ。

 

 日本の四大流派である操備(そうび)流にとって、絶対に消したい女。

 さらに、東連(とうれん)の門派も……。

 

(原作の主人公には、手に余るな!)

 

 その鍛治川(かじかわ)航基(こうき)とは、高校卒業から会っていない。

 無関係にした後で、それっきり。

 

 まあ、そっちはいい。

 

 俺たちは、国際空港の見送りをする場。

 つまり、飛び立つ旅客機を見送れる展望デッキだ。

 

 見送りの人が多く、その中に紛れている。

 

「永 俊熙(ヨン・ジュンシー)と話さなくて、良かったのか?」

 

 経緯はどうあれ、彼女の父親だ。

 

 俊熙(ジュンシー)の息子である永 飛龍(ヨン・フェイロン)が言ったように、今生の別れになる。

 

(月乃が、東連に行かない限り……)

 

 最後の別れは済ませたものの、俊熙(ジュンシー)は最後まで連れて帰りたい雰囲気だった。

 

 すると、月乃は顔を上げる。

 

「うん……。ボクは日本で生まれ育ったし、ベル女が故郷だよ! それに、いきなり父親や腹違いの弟がいると知っても……」

 

 キィイイイン

 

 ゆっくりと動いている旅客機が、次々に飛び立つ。

 

 その度に、俺たちのような見学者の視線が動いた。

 

 本来ならば、俊熙(ジュンシー)たちが乗っている旅客機を見送るべきだが――

 

 月乃は、俺の顔を見た。

 

「もう、行こう?」

 

 その表情は、苦しそうだ。

 

「……分かった」

 

 時計によれば、連中が乗っている旅客機が飛び立つまで時間がある。

 

 でもな?

 

 どうせ、小さな窓から見ることはできない。

 

(ま、いいか!)

 

 正直なところ、どうでもいい。

 

 当事者の月乃が言うのなら、帰ろう――

 

 プルルル♪

 

「はい……。何だ、詩央里(しおり)か」

 

『若さま? 今日は、帰ってこなくていいので』

 

「え?」

 

『ですから! 時翼さんの相手をしてください! もちろん、アレの意味で!』

 

「え?」

『え?』

 

 電話口で深呼吸をした南乃(みなみの)詩央里が、質問してくる。

 

『あの、若さま? まさかとは思いますが、このまま帰す気で!?』

「ダメ?」

 

『ダメです! あのですね? ちょっと待ってください』

 

 ここで、ブツッという音。

 

 耳にスマホを当てていた俺は、電話が切れたことに気づく。

 

 しかし、超空間のネットワークによる念話へ。

 

『彼女が卒業したベルス女学校の友人がいても、所詮は同性に過ぎません! 今の時翼さんは、(すが)る相手が欲しいんです』

 

 そうか?

 

『若さま……。男女の違いを抜きにして、あなたは強い人です。だけど……』

 

 ある意味では、人の気持ちを分かっていません。

 

 そう言われて、俺は考え込む。

 

 いっぽう、詩央里は熱弁を振るう。

 

『あなたを追い詰めていた1人である私に、言う資格はないでしょう……。でも、言わせてください! 今の彼女には支えが必要です! そんなに、時翼さんが嫌いですか? メグの親友でもありますし』

 

 別に、抱きたくないわけじゃない。

 

 息を吐く気配のあとで、詩央里の声が頭の中で響く。

 

『なら、お願いしますね? 大学生になってまで、女にリードさせないでくださいよ?』

 

 余計な一言を残して、室矢(むろや)家だけの会話は終わった。

 

 気づけば、近くで立ち尽くす月乃が、こちらを見ている。

 

重遠(しげとお)?」

 

「ああ、すまない! 大した用事ではなかったよ? それより、今から時間はあるか?」

 

 一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた月乃が、頷いた。

 

 

 ――高級ホテル

 

 飛び込みで、有名な高層ビルの最上位にあるホテルへ。

 

 時翼月乃はその意味を分かっているだろうが、拒絶せず。

 大人しく、ついてきた。

 

 二面ともガラス張りになっている都心の絶景を見ながら、広いリビングにある海外ブランドのソファーに座る。

 

「えっと……。ボ、ボクは大丈夫! 大学のほうは、1日ぐらい休んでもカバーできるし」

 

 緊張している月乃が、わざと明るい声。

 

 それを聞いて、不思議に思う。

 

「俺は、室矢クァトル大学だが……。お前は?」

 

「同じところ! 明示(めいじ)法律大学の講義を受けているんだけど……」

 

「そうか……。あそこはキャンパスが多いし、共通の講義じゃないとすれ違いもあるか」

 

 ここで、月乃が顔を赤くした。

 

「あ、あの……。本当に申し訳ないけど、少しだけ自宅に帰ってもいい? す、すぐに戻ってくるから!」

 

 察した俺は、応じる。

 

 慌てたように、彼女は立ち上がった。

 

「い、1時間もかからないと思う! 待っててね?」

 

 バタバタと走り出した月乃は、絶景を眺められる自宅のような空間を後にした。

 

 残された俺は、ポツリと呟く。

 

「急な話だったからな……。準備ができているはずもないか!」

 

 特に、下着はな?

 

 今ごろ、待機していたタクシーに飛び乗って、自宅へ急いでいるだろう。




過去作は、こちらです!
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