【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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原作の主人公は、悪役を理解できない。
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。

紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
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第42話 育ちの良さは下町でもすぐに分かる

 夕方の赤い光に変わった。

 

 古い木造二階建て。

 よく言えば、普通の住宅に泊める民宿だ。

 

 その二階の広い和室に陣取った俺と、槇島(まきしま)睦月(むつき)……。

 

 木の板を並べた天井には、同じく古い灯りが、ぼんやりした光を放っている。

 せまい路地をはさんで怪しい建物が向かいにあるから、窓を閉めたまま。

 

 お互いに、色あせた畳の上で座っている。

 

「で?」

 

「ちょうど、護衛の当番だったから! 霊体化したままで抱きついてた」

 

 目をそらしている睦月。

 

(こいつ、カレナの権能を借りて未来予知したな?)

 

 あまりにタイミングが良いことで怪しむも、助かることには違いない。

 

「お前がいてくれて、良かった! 他の夕花梨(ゆかり)シリーズは?」

 

 首を横に振った睦月は、肩をすくめた。

 

「いないよ! 今回は、元の世界に帰れるかが不明だから……」

 

「そもそも、お前らは夕花梨の式神だしな?」

 

 俺は、団体客に向いている和室をぐるりと見た。

 

 家主である西永(にしなが)和一(かずいち)はいない。

 俺の未来の娘となる二条(にじょう)(さえ)と共に、夕飯の買い出しだ。

 

 男子の一人暮らしで、冷蔵庫にまともな食材があるはずもない……。

 

 心配した睦月は、提案する。

 

「ねえ? 僕が護衛についたほうがいいんじゃない?」

 

「近所のスーパーに行くだけだ……。こっちの世界に異能はない。それより、あの男子がいないうちに話すぞ?」

 

 原作である【花月怪奇譚《かげつかいきたん》】のシナリオを書いた笹西(ささにし)新太(あらた)を見つけて――

 

「おそらく、始末する話だろうね……。でも、大丈夫? あのカレナが『自分と同格』と認めた相手だよ?」

 

 室矢(むろや)カレナと同格。

 

 その恐怖は、計り知れない。

 

 ため息をついた後で、ツッコミを入れる。

 

「俺の魂があのゲームで転移した以上、作った本人もいずれは俺たちの世界に来るだろう! 遅かれ早かれだ」

 

「そうだけどさ……」

 

 同じく息を吐いた睦月は、座ったままで後ろに両手を突いた。

 

 天井を見上げつつ、ポツリと呟く。

 

「冴は、どーするの? 昔の重遠よりも戦闘に向いていないし」

 

「あいつは、元の世界へ帰そう」

 

 俺の判断に、しばらく目を閉じた睦月は息を吐いた。

 

 改めて、琥珀(こはく)色の瞳でこちらを見据える。

 

「重遠、それで自分が大幅に弱くなることは分かってる?」

 

「覚えている! 正直なところ、迷っているんだ……」

 

 どちらを選んでも、メリットとデメリットがある。

 

 睦月が明るい声で、話題を変えてきた。

 

「あの2人が帰ってくるまで、何をしようか?」

 

 

 ◇

 

 

 西永和一は、隣を歩くセーラー服の二条冴を見た。

 

(改めて見ると、芸能人みたいだ……)

 

 けれど、芸能界に特有の「何でもやってやる!」というギラギラした感じはない。

 ちょっとした動きにも品を感じることから、間違いなく良い育ちだ。

 

「あのさ?」

 

「はい?」

 

 商店街で、左右の呼び込みがある生活道路。

 

 夕飯の時間が迫っており、実演販売などで総菜の良い香りが漂う。

 限られた道路は、前へ進む流れと、後ろへ向かう流れの2つ。

 

 人気の総菜やお値打ちな食材から、飛ぶように売れていく。

 

 冴の笑顔に見惚れた和一は、照れ隠しに言う。

 

「二階の窓から登場した槇島って女子だけど……」

 

「ああ! 睦月さんですか? びっくりしたけど、私がよく知っている人です! 心配いりません――」

「お前……二条さんは、どこから来たんだ? それぐらいは良いだろう?」

 

 しかし、後続がどんどん追い越していく。

 

 周りを見た冴は、手短に答える。

 

「(別の世界にある)東京の日本家屋に住んでいます。睦月さんは、東京と京都を往復している感じです……。すみません、ここだと他の方のご迷惑になるので! お夕飯をいただいたら、時間を取ります」

 

 目立っていることに気づいた和一は、慌てて応じる。

 

「わ、分かった!」

 

「えっと……。どうします? 私、料理をできますけど……」

 

 お金を持っていないことから、スポンサー次第だ。

 

 それを悟った和一は、キョロキョロと見回す。

 

 店の前にもテーブルを並べている男が、ニヤッと笑った。

 

「西永、ついに彼女ができたんか!? 初々しいねえ……」

「違うって!」

 

 どうやら、知り合いのようだ。

 

 そう思った冴は、人混みを避けるために移動する。

 

 彼女を見ていた和一も、仕方なく。

 

 総菜のパックを並べている親父は、愛想よく営業する。

 

「らっしゃい! どれも、出来立てだよ!」

 

 冴の視線を受けて、和一は観念した。

 

「4人分で……予算は500円」

「それだと、パック1つだぜ? 足りるのか?」

「いいんだよ! 米を炊いておけば、それで……」

 

 聞いている冴は、それなら自炊したほうが、と思うも、口に出せず。

 

 その間にも、店主と和一の掛け合い。

 

「4人だったら、1,500円は出せよ?」

「1,000円」

 

 話がまとまったようで、現金のやり取りから、パックをビニール袋に入れる流れ。

 

 見ていた和一は、思わず声を漏らす。

 

「あれ?」

 

「1つは、サービスだ! ようやく彼女ができたお祝いに」

「だから、違うと言ってるだろ!?」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を述べた冴は、上品に頭を下げる。

 

 付け焼刃ではない仕草。

 そもそものオーラが、下町とは違う。

 

 周りの視線が集まる。

 

 猫の手も借りたい繁忙期にも関わらず、その瞬間には彼女が主役だった。




過去作は、こちらです!
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