【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。
紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
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夕方の赤い光に変わった。
古い木造二階建て。
よく言えば、普通の住宅に泊める民宿だ。
その二階の広い和室に陣取った俺と、
木の板を並べた天井には、同じく古い灯りが、ぼんやりした光を放っている。
せまい路地をはさんで怪しい建物が向かいにあるから、窓を閉めたまま。
お互いに、色あせた畳の上で座っている。
「で?」
「ちょうど、護衛の当番だったから! 霊体化したままで抱きついてた」
目をそらしている睦月。
(こいつ、カレナの権能を借りて未来予知したな?)
あまりにタイミングが良いことで怪しむも、助かることには違いない。
「お前がいてくれて、良かった! 他の
首を横に振った睦月は、肩をすくめた。
「いないよ! 今回は、元の世界に帰れるかが不明だから……」
「そもそも、お前らは夕花梨の式神だしな?」
俺は、団体客に向いている和室をぐるりと見た。
家主である
俺の未来の娘となる
男子の一人暮らしで、冷蔵庫にまともな食材があるはずもない……。
心配した睦月は、提案する。
「ねえ? 僕が護衛についたほうがいいんじゃない?」
「近所のスーパーに行くだけだ……。こっちの世界に異能はない。それより、あの男子がいないうちに話すぞ?」
原作である【花月怪奇譚《かげつかいきたん》】のシナリオを書いた
「おそらく、始末する話だろうね……。でも、大丈夫? あのカレナが『自分と同格』と認めた相手だよ?」
その恐怖は、計り知れない。
ため息をついた後で、ツッコミを入れる。
「俺の魂があのゲームで転移した以上、作った本人もいずれは俺たちの世界に来るだろう! 遅かれ早かれだ」
「そうだけどさ……」
同じく息を吐いた睦月は、座ったままで後ろに両手を突いた。
天井を見上げつつ、ポツリと呟く。
「冴は、どーするの? 昔の重遠よりも戦闘に向いていないし」
「あいつは、元の世界へ帰そう」
俺の判断に、しばらく目を閉じた睦月は息を吐いた。
改めて、
「重遠、それで自分が大幅に弱くなることは分かってる?」
「覚えている! 正直なところ、迷っているんだ……」
どちらを選んでも、メリットとデメリットがある。
睦月が明るい声で、話題を変えてきた。
「あの2人が帰ってくるまで、何をしようか?」
◇
西永和一は、隣を歩くセーラー服の二条冴を見た。
(改めて見ると、芸能人みたいだ……)
けれど、芸能界に特有の「何でもやってやる!」というギラギラした感じはない。
ちょっとした動きにも品を感じることから、間違いなく良い育ちだ。
「あのさ?」
「はい?」
商店街で、左右の呼び込みがある生活道路。
夕飯の時間が迫っており、実演販売などで総菜の良い香りが漂う。
限られた道路は、前へ進む流れと、後ろへ向かう流れの2つ。
人気の総菜やお値打ちな食材から、飛ぶように売れていく。
冴の笑顔に見惚れた和一は、照れ隠しに言う。
「二階の窓から登場した槇島って女子だけど……」
「ああ! 睦月さんですか? びっくりしたけど、私がよく知っている人です! 心配いりません――」
「お前……二条さんは、どこから来たんだ? それぐらいは良いだろう?」
しかし、後続がどんどん追い越していく。
周りを見た冴は、手短に答える。
「(別の世界にある)東京の日本家屋に住んでいます。睦月さんは、東京と京都を往復している感じです……。すみません、ここだと他の方のご迷惑になるので! お夕飯をいただいたら、時間を取ります」
目立っていることに気づいた和一は、慌てて応じる。
「わ、分かった!」
「えっと……。どうします? 私、料理をできますけど……」
お金を持っていないことから、スポンサー次第だ。
それを悟った和一は、キョロキョロと見回す。
店の前にもテーブルを並べている男が、ニヤッと笑った。
「西永、ついに彼女ができたんか!? 初々しいねえ……」
「違うって!」
どうやら、知り合いのようだ。
そう思った冴は、人混みを避けるために移動する。
彼女を見ていた和一も、仕方なく。
総菜のパックを並べている親父は、愛想よく営業する。
「らっしゃい! どれも、出来立てだよ!」
冴の視線を受けて、和一は観念した。
「4人分で……予算は500円」
「それだと、パック1つだぜ? 足りるのか?」
「いいんだよ! 米を炊いておけば、それで……」
聞いている冴は、それなら自炊したほうが、と思うも、口に出せず。
その間にも、店主と和一の掛け合い。
「4人だったら、1,500円は出せよ?」
「1,000円」
話がまとまったようで、現金のやり取りから、パックをビニール袋に入れる流れ。
見ていた和一は、思わず声を漏らす。
「あれ?」
「1つは、サービスだ! ようやく彼女ができたお祝いに」
「だから、違うと言ってるだろ!?」
「ありがとうございます」
お礼を述べた冴は、上品に頭を下げる。
付け焼刃ではない仕草。
そもそものオーラが、下町とは違う。
周りの視線が集まる。
猫の手も借りたい繁忙期にも関わらず、その瞬間には彼女が主役だった。