【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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原作の主人公は、悪役を理解できない。
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。

紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
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第43話 誤解による逃走、あるいは滅びへの道

 東京の下町。

 古い建物がひしめいている中で、総菜と炊いたご飯による食事が終わった。

 

 約束通りに、二条(にじょう)(さえ)は話し合う時間を設ける。

 1階の台所もあるダイニングルームで、向き合った。

 

「聞きたいことがありましたら、どうぞ」

 

 ずっと着ているセーラー服の臭いが気になるものの、ここに女物の服はない。

 

(あとで、睦月(むつき)さんに相談しよう……)

 

 先に風呂を使わせてもらい、同じものを着ている。

 下着は、汗を吸った感触。

 

 いっぽう、西永(にしなが)和一(かずいち)は、緊張したまま。

 

「二条さんは……。前にも、やっているのか?」

 

「何の話ですか? 【花月怪奇譚(かげつかいきたん)】は面白かったですけど、普段はウチの方針でゲームをやりません」

 

「そうじゃなくて!」

 

 苛立ったように、和一が叫んだ。

 

 思い切って、問い質す。

 

「あの会社で言っていただろ? 『駅前でパパを探す』と……」

 

 ギクリとした冴は、目をそらす。

 

「いえ、そのことは……」

「もう止めておけ! お前の育ちがいいのは、この短時間でよく分かった! 親が悲しむぞ?」

 

 自分の母親を思い出した冴は、憂鬱になった。

 

(お母さんは、どうしているかな?)

 

 畳の上で横受け身をしたまま、若いころの自分の夫があなたに手を出さないかと、非常に心配しています。

 

 むろん、冴は知る(よし)もなく……。

 

 冴の様子を見た和一は、優しい口調で諭す。

 

「なあ? 二条さんは、俺なんかじゃ話もできない学校だろう? もっと自分を大事にしたほうが――」

「何を……言っているのですか?」

 

 話が食い違っていることに気づいた冴は、首をかしげた。

 

 和一は、ついにハッキリ言う。

 

「援助交際なんて、もう止めろと言っているんだ! 目先のために体を売っても、あとで自分が困るだけだぞ!?」

 

 予想外のことに、冴は固まった。

 

 知識はあるものの、まさか自分が言われるとは思わず。

 さりとて、自分とまだ若い父親が異世界から来たことも説明できない。

 

 図星を指されたと判断した和一は、勢いづく。

 

「だから、あんなことはもう――」

 

 年代物になったダイニングテーブルをはさんで座る冴は、やり場のない感情のままに霊圧をぶつけた。

 

 この世界にないプレッシャーを受けた和一は、言葉を失った。

 

 彼女は優しい風貌だが、あの室矢(むろや)重遠(しげとお)の娘。

 非能力者の母親とは違い、超人的な力を持つ。

 

 ハッと我に返った冴は、ダイニングテーブルに両手をつき、かろうじて答える。

 

「私は……そんなことをしていません!」

 

「ご、ごめ――」

 

 彼女にしては乱暴に立ち上がり、謝罪する和一のセリフに構わず、そのまま玄関へ向かう。

 

 バンッと玄関ドアの閉まる音。

 

 

 ◇

 

 

 玄関ドアが閉まった音を聞き、フリーズしたままの西永和一は、ようやく動き出す。

 

 下町は、治安が良いとは言いづらい。

 特に――

 

(ヤバい区画へ迷い込んだら……)

 

 地元民が間違っても入り込まない、本当に危険なところ。

 たった1ブロックの差で、裏社会にいる連中や、失うものがない奴らが(たむろ)しているのだ。

 いわゆる、住み分け。

 

 そこへ足を踏み入れれば、何をされてもおかしくない。

 

 血の気が引いた和一は、自分の発言がとんでもない事態を招いたことを悟った。

 

(上にいる2人へ……。あいつを捕まえるほうが先だ!)

 

 座っていた椅子を後ろに蹴っ飛ばし、派手な音を立てるのに構わず、走り出した。

 

 急いで靴を履き、遅ればせながら外へ……。

 

 

 電柱の街灯と、せまい路地裏の左右にある建物から洩れる光だけ。

 

(どこへ行った!? ええい、携帯の番号を知っていれば!)

 

 周りの地形を思い出しつつ――

 

 見覚えのあるセーラー服の後ろ姿がチラッと見えて、曲がることで消えた。

 

「に……」

 

 大声で呼びかけようとしたが、時間帯と場所を考えて、思いとどまった。

 

 代わりに、全力で追いかける。

 

 

 ◇

 

 

 感情的に飛び出した二条冴は、異能を使うことも忘れ、普通に走った。

 

 気づけば、明らかに雰囲気が違う場所。

 

(嫌な気配……)

 

 立ち止まって、暗闇を見る。

 

 営業している個人店は、入りにくいオーラ。

 庭付きの古い戸建て。

 コインロッカーがぎっしりで、外と繋がっている店舗。

 

 人の姿はないものの……。

 

 冴は、五感を強化した。

 

 呼吸を整えながら、警戒する。

 

 ――足音が複数

 

 ――セミオートマチックの装填音

 

 ――リボルバーの回転音と、刃物を出し入れする音

 

「囲まれている……」

 

 身体強化をして脱出するつもりだったが、遅かったようだ。

 

 重遠の娘の中でも戦いに向いていないため、やはり逃げることを考える。

 

(近くに、建設中のビルがあった。そこへ……)

 

 アスファルトを削るように、靴が動いた。

 

 下町のスラム街に迷い込んだセーラー服の少女は、風のように走り出す。

 

 すると、ダミ声が響く。

 

「チッ! 逃げたぞ、追え!!」

 

 隠れていた男たちも走り出し、突然の鬼ごっこが始まった。

 

 

 鉄骨が組み上げられ、作業用の足場もあるビル。

 

 侵入を防ぎ、物が飛び散らないようにする仮設の壁を飛び越えた冴は、外からの灯りを頼りに建設中のビルを駆け上がっていく。

 

 遅れて、鍵を壊して侵入した男どもが、次々に入ってきた。




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