【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。
紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DHMQJXVL
東京の下町。
古い建物がひしめいている中で、総菜と炊いたご飯による食事が終わった。
約束通りに、
1階の台所もあるダイニングルームで、向き合った。
「聞きたいことがありましたら、どうぞ」
ずっと着ているセーラー服の臭いが気になるものの、ここに女物の服はない。
(あとで、
先に風呂を使わせてもらい、同じものを着ている。
下着は、汗を吸った感触。
いっぽう、
「二条さんは……。前にも、やっているのか?」
「何の話ですか? 【
「そうじゃなくて!」
苛立ったように、和一が叫んだ。
思い切って、問い質す。
「あの会社で言っていただろ? 『駅前でパパを探す』と……」
ギクリとした冴は、目をそらす。
「いえ、そのことは……」
「もう止めておけ! お前の育ちがいいのは、この短時間でよく分かった! 親が悲しむぞ?」
自分の母親を思い出した冴は、憂鬱になった。
(お母さんは、どうしているかな?)
畳の上で横受け身をしたまま、若いころの自分の夫があなたに手を出さないかと、非常に心配しています。
むろん、冴は知る
冴の様子を見た和一は、優しい口調で諭す。
「なあ? 二条さんは、俺なんかじゃ話もできない学校だろう? もっと自分を大事にしたほうが――」
「何を……言っているのですか?」
話が食い違っていることに気づいた冴は、首をかしげた。
和一は、ついにハッキリ言う。
「援助交際なんて、もう止めろと言っているんだ! 目先のために体を売っても、あとで自分が困るだけだぞ!?」
予想外のことに、冴は固まった。
知識はあるものの、まさか自分が言われるとは思わず。
さりとて、自分とまだ若い父親が異世界から来たことも説明できない。
図星を指されたと判断した和一は、勢いづく。
「だから、あんなことはもう――」
年代物になったダイニングテーブルをはさんで座る冴は、やり場のない感情のままに霊圧をぶつけた。
この世界にないプレッシャーを受けた和一は、言葉を失った。
彼女は優しい風貌だが、あの
非能力者の母親とは違い、超人的な力を持つ。
ハッと我に返った冴は、ダイニングテーブルに両手をつき、かろうじて答える。
「私は……そんなことをしていません!」
「ご、ごめ――」
彼女にしては乱暴に立ち上がり、謝罪する和一のセリフに構わず、そのまま玄関へ向かう。
バンッと玄関ドアの閉まる音。
◇
玄関ドアが閉まった音を聞き、フリーズしたままの西永和一は、ようやく動き出す。
下町は、治安が良いとは言いづらい。
特に――
(ヤバい区画へ迷い込んだら……)
地元民が間違っても入り込まない、本当に危険なところ。
たった1ブロックの差で、裏社会にいる連中や、失うものがない奴らが
いわゆる、住み分け。
そこへ足を踏み入れれば、何をされてもおかしくない。
血の気が引いた和一は、自分の発言がとんでもない事態を招いたことを悟った。
(上にいる2人へ……。あいつを捕まえるほうが先だ!)
座っていた椅子を後ろに蹴っ飛ばし、派手な音を立てるのに構わず、走り出した。
急いで靴を履き、遅ればせながら外へ……。
電柱の街灯と、せまい路地裏の左右にある建物から洩れる光だけ。
(どこへ行った!? ええい、携帯の番号を知っていれば!)
周りの地形を思い出しつつ――
見覚えのあるセーラー服の後ろ姿がチラッと見えて、曲がることで消えた。
「に……」
大声で呼びかけようとしたが、時間帯と場所を考えて、思いとどまった。
代わりに、全力で追いかける。
◇
感情的に飛び出した二条冴は、異能を使うことも忘れ、普通に走った。
気づけば、明らかに雰囲気が違う場所。
(嫌な気配……)
立ち止まって、暗闇を見る。
営業している個人店は、入りにくいオーラ。
庭付きの古い戸建て。
コインロッカーがぎっしりで、外と繋がっている店舗。
人の姿はないものの……。
冴は、五感を強化した。
呼吸を整えながら、警戒する。
――足音が複数
――セミオートマチックの装填音
――リボルバーの回転音と、刃物を出し入れする音
「囲まれている……」
身体強化をして脱出するつもりだったが、遅かったようだ。
重遠の娘の中でも戦いに向いていないため、やはり逃げることを考える。
(近くに、建設中のビルがあった。そこへ……)
アスファルトを削るように、靴が動いた。
下町のスラム街に迷い込んだセーラー服の少女は、風のように走り出す。
すると、ダミ声が響く。
「チッ! 逃げたぞ、追え!!」
隠れていた男たちも走り出し、突然の鬼ごっこが始まった。
鉄骨が組み上げられ、作業用の足場もあるビル。
侵入を防ぎ、物が飛び散らないようにする仮設の壁を飛び越えた冴は、外からの灯りを頼りに建設中のビルを駆け上がっていく。
遅れて、鍵を壊して侵入した男どもが、次々に入ってきた。