【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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原作の主人公は、悪役を理解できない。
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。

紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
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第44話 カレナと同格も認めるコロッケ蕎麦の美味さ

 外側に目隠しがあったり、工事の職人が行き来する足場や、すでに床だけは完成しているフロアーも。

 

 ちょっとしたアトラクションだが、置きっぱなしの資材の中には鉄骨やボードなどの危険なものもある。

 

 そもそも、一般人が立ち入れない空間。

 立体的に組み上げられた鉄骨が、完成後の輪郭だけを示す。

 

 夜空の月光と、ぼんやりした街灯、さらに遠くのイルミネーションが、わずかに差し込む。

 風に吹かれて、外側の目隠しが旗のようにパタパタと動く。

 

 ほぼ真っ暗な、立体的なビルの原型。

 

 そこをどんどん駆け上がっていくのは、セーラー服の女子高生、二条(にじょう)(さえ)だ。

 

「おい、嬢ちゃん! もう逃げられねえよ? 怪我をする前に、諦めな!!」

 

 追いかけてきた連中のリーダーらしき男が、大声を上げた。

 

 実際、これだけ暗ければ、現場に出入りしている人間でも(つまず)いて転ぶか、落下しかねない。

 

 心理的にプレッシャーをかけつつ、その兄貴はジェスチャーで配置をしていく。

 

 建設中のビルで下に降りられる場所は、限られている。

 一時的な階段を塞げば、あとは飛び降りるしかない。

 

 のしのしと歩く兄貴とは別に、全力で走り続ける男たちが迫っていく。

 これも、駆け引きの1つだ。

 

 声に気を取られるほど、距離が縮まる。

 

 (ふところ)に手を入れた兄貴は、セミオートマチックを取り出した。

 上半分のスライドを後ろへ引き、手を離す。

 

 中のスプリングの力ですぐに戻り、シャコンと小気味いい音。

 

 上に見えている冴へ銃口を向けて、トリガーを引く。

 

 パンッ! チュンッ ギィンッ

 

「きゃああっ!」

 

 冴の悲鳴。

 

 鉄骨で跳ね返り、数回の跳弾となった。

 暗闇にその火花が瞬き、イインッと金属が震える音も。

 

 思わず足を止めた先行組は、すぐに走り出した。

 

 遅れて、冴も。

 

 銃口を下ろした兄貴は、それを見ながら、説得する。

 

「痛い目に遭う前に、俺たちに従え! ちょっとお願いを聞いてくれりゃ、お家に帰してやるからよ!!」

 

 けれど、冴は上へ昇り続ける。

 

 お願いとは、廻しながら撮影すること。

 下手をすれば、頭が吹っ飛ぶヤクも……。

 

 本能的に恐怖を感じた冴は、それを知らずとも、言うことを聞かない。

 

「チッ!」

 

 舌打ちした兄貴は、ホルスターに拳銃を仕舞い、両手をズボンのポケットに突っ込んだままで歩く。

 

 

 ◇

 

 

「くそっ! どこに行きやがった?」

「俺は、あっちを探す」

「下への階段を押さえておけば、逃げ場はねーよ!」

 

 先行していた数人は手分けして、見失った二条冴を探す。

 

 1人が、工事用の布が下ろされた場所で、2本の足が見えていることに気づいた。

 

 ニヤニヤした男は、脅しのためにリボルバーを握りつつ、もう片方で布をつかむ。

 

 力いっぱいに、引きちぎれば――

 

 向かい合って立つ人物の目が、光ったような気がした。

 

 銀色の光が小さく瞬き、前へ突っ込んできた人間により、その男は思わず後ろへのけぞった。

 

 てっきり、気づかれないように祈りながら震えている女子がいると思っていて、完全に意表を突かれたから。

 

 胴体の中央に吸い込まれた切っ先は、ある程度まで刺さる。

 まさに、心臓の位置だ。

 

 口に逆流してくる血の味を感じながら、自分が日本刀を突くための姿勢で待っていた男に刺されたと理解する。

 

 慣れれば、暗闇と違うことが分かる剣道着。

 

 そんな服装の青年は、魚をさばくように――

 

 刃を上にして、相手へ切っ先を向ける(かすみ)の構えから、正面に立つ男を突き刺したのだ。

 

 中央から頭まで左右に分割しながら、刀を背負うような切り上げ。

 

 室矢(むろや)重遠(しげとお)は後ろへ倒れ伏した男に興味を持たず、片手で血振りをした後で、残りへ向かう。

 

 

 ◇

 

 

 途中で霊力による身体強化をした二条冴は、両足を揃えてのジャンプから出っ張りで再び飛ぶことを繰り返し、屋上へ辿り着いた。

 

 普通ではなく、高所の職人が歩き回るような状態だ。

 

 ゲームのような足場をたどりつつ、外の景色を一望できる端へ……。

 

 セーラー服のままで、地上の光を見下ろした。

 

「帰りたい……」

 

 その独白に、場違いな女子の声が応じる。

 

重遠(しげとお)も、その考えのようだよ?」

 

睦月(むつき)さん……」

 

 自分より幼い容姿に、敬語を使う冴。

 

 槇島(まきしま)睦月は、息を吐いた。

 

「まあ、僕と重遠はしばらく残るけど……」

「え!?」

 

「事情は話せない……。とにかく、ここから下りよう!」

 

 

 ◇

 

 

 ゆっくり追っていた兄貴は、舎弟が倒れていることでパニックに。

 

「ちくしょう! 事務所に戻って、兵隊を連れてこねーと!」

 

 走ってビルの外へ出たときに、上から風切り音。

 

 立ち止まって、見上げれば――

 

 自身の権能である糸で、スーッと吊り下がってくる睦月と、その後ろに抱きついている冴の姿。

 

「は!?」

 

 見覚えのない女子がいること。

 飛び降りているのに、そのまま地上へ降り立てそうなスピードであること。

 

 思考停止に陥った兄貴は、棒立ちに。

 

 パンッ!

 

 落下中の睦月が両手で構えている拳銃からの一発は、兄貴の眉間に当たった。

 

 間抜け顔のまま、兄貴は後ろへ崩れ落ちる。

 

 携帯電話が普及し始めた時代だ。

 監視カメラも令和とは比べ物にならず、ここに完全犯罪が成立した。

 

 

 ――東京の立ち食い蕎麦屋

 

 スーツ姿のサラリーマンや、途中で立ち寄った配達員、ドライバー。

 仕事の匂いを感じさせる面々が、マシーンのように最適化された動きを続ける店主から注文した丼を受け取っていく。

 

 誰もが1秒を気にする空間に、若い男のイケボが響く。

 

「……お忘れになっていますよ?」

 

 隣に立つ客に声をかけられたサラリーマンは、食事用のカウンターに置いたままのカード入れに手を伸ばした。

 

「ああ、すみません! 助かりました!」

 

 ペコペコするサラリーマンは、新社会人ぐらいの男を見た。

 

 白というより銀髪で、短めだがセンスのいい髪型。

 淡い金色に見える瞳。

 

 視線を感じた若い男は、微笑んだ。

 

「何か?」

 

「いえ……。ひょっとして、芸能人の方ですか?」

 

「違います。……マスコミ関係ではあります」

 

 自慢のようだが、嫌味に感じない。

 

 チラッと見れば、相手の注文はコロッケをのせた掛け蕎麦だ。

 

 ファッションショーに出そうな雰囲気で――

 

「コロッケで味が変わっていくのが、好きでしてね?」

 

「そ、そうですか……。失礼します」

 

 もう食べ終わっていたサラリーマンは、会釈してトレイを持った。

 ツカツカと歩き、返却してから立ち去る。

 

 若い男は、上品な動きでコロッケを崩した。

 食べ方を気にする場ではないのに、まるで高級レストラン。

 

「……来たのか」

 

 誰が?

 

「フフ……。手間が省けていいね?」

 

 上機嫌になった若い男は、急ぎながらも綺麗な食べ方。

 

 同じく食べ終わり、返却して店外へ……。

 

 すると、携帯電話のコール音。

 

 ガラケーと呼ばれる機種を耳に当てた男は、口を開いた。

 

「はい、笹西(ささにし)です」

 

 誰あろう、【花月怪奇譚(かげつかいきたん)】のシナリオライターだった笹西新太(あらた)だ。

 

「……申し訳ありません。ボクの都合で、時間が必要になりまして」

 

 相手が詰問している様子。

 

 それに対して、新太が答える。

 

「大事なことです……。そう、ボクの悲願を達成するための」




過去作は、こちらです!
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