【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
東京を流れている川。
発展途上国のような水上の住宅から、段差に応じての密集した木造の並び。
船がつけられる
ボロボロになった廃屋。
広い開口部を見る限り、中で加工する町工場か、一時的に保管する倉庫だ。
外からの光が差し込む、ランチタイムが迫っている頃。
薄暗く、ホコリだらけで、かび臭い。
鉄の臭いも漂っている。
中に残された木製のテーブルだったようなものに腰掛けた若い男が、鼻歌をしていた。
けれど、急にそれを止めて、ぶらぶらしていた片足を地面に下ろす。
モデルのように、すっくと立つ。
声優になれば人気が出そうな、低いイケボで喋った。
「やあ? 本当に久しぶりだね、テオフィル……。会いたかった」
オシャレな短い銀髪で、金色の瞳をしたイケメンだ。
俺は、返答に困った。
「人違いです」
「……今は違う名前か! しかし、まさかここで会えるとは! カレストゥーナが君を手放すとは思わなかったが」
俺が
「ボクは、ハイドネウスだ! 君の
『神話伝承テオフィル』の最後に出てきて、主人公のテオフィルと相打ちになった神格だな?
こいつは『神話伝承テオフィル』の大ファンで、中二病のようだ。
「
こいつが、笹西
向き直った新太は、悲しそうな顔へ。
「西永くんか! すまない……。つらい思いをさせたね? ボクにも大事な目的があって……。楽しかったよ、【
俺のほうを見る新太。
姿勢を変えずに右手を後ろへ回して、拳銃のグリップを握った。
いっぽう、新太は話し続ける。
「本当にすまない、西永くん……。ボクはもう、君たちといられないんだ。けれど、その姿を見るのは忍びない。せめて――」
ズボンのベルトに挟んでいた、セミオートマチック。
右手で握ったまま、銃口を前に立っている新太へ向けた。
その間に、左手を添える。
パアンッ!
当たるコースだったが、新太は片手を振るだけで受け止めた。
「テオフィル? 西永くんに死の安らぎをもたらすのに、邪魔をしないでくれ」
「へっ!?」
いきなり殺されかけた和一は、間抜けな声を上げた。
それに対して、俺は叫ぶ。
「
「分かった!」
和一の前に出た
微笑んだ新太が、短い銃身のリボルバーを持つ。
「あの刑事に借りておいて、良かったよ! たまには、こういう趣向もいいだろう!」
未来の娘である
「チッ!」
セミオートマチックを連射するも、手応えはない。
パンッ!
俺の片腕に当たった。
セミオートマチックを取り落とす。
パンパンッ!
横へ移動するも、片足の太ももに当たった。
その場で崩れ落ちる。
パンパンッ!
避けられないので、硬い部分で受ける。
「ガッ!? ぐうぅ……」
その場で座り込んだ俺に、感嘆した様子のやつが見下ろす。
「すごい……。急所となる臓器を避けて、骨で受けたのか!? しかも、まだ戦意を失わない。やはり素晴らしいよ、君は! 敬意に値する!」
銃口を向けたままトリガーを引くも、カチカチと鳴るだけ。
「もう終わりか?」
ヒュッと投げられたリボルバーは、ガシャンと音を立てた。
「
「もう止めてください、笹西さん!!」
観戦していた2人の叫びを聞きながら、俺は意識を失った。
◇
激怒した槇島睦月は、霊力を全開にしながら叫ぶ。
「お前えええええええっ!」
面倒そうに、笹西新太が振り向いた。
「うるさいよ? 君に用はない――」
「あなたにとって、死は救済でしょう。しかし……」
大人の女の声だ。
宙を舞っていた埃が全て、いきなり地面に落ちた。
今にも弾丸のように向かいそうだった睦月も、上から押さえつけられたように立ち止まる。
崩壊寸前だった廃屋も、一瞬で外側へ消し飛ぶ。
最も高くなった太陽に照らし出された一同は、優美なラインを描く白い騎士のような全身アーマーを着た人物を見る。
頭部だけティアラのような形状で、顔がよく分かった。
動くことでガシャリと鳴らしたのは、20代の前半で、長い黒髪をした女。
宇宙を思わせる、紫がかかった深い青色の瞳が、かつての宿敵をとらえた。
「ごきげんよう、ハイドネウス」
ため息をついたイケメンは、しぶしぶ応じる。
「カレストゥーナか……。いい加減、テオフィルに執着するのは止めたらどうだい?」
それも完全武装で、神話の終わりを告げた決戦を思い出す。
「あなたに言われる筋合いは、ありません!」