【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
お目当ての車に近づくも、その近くに警官が2人いた。
どうやら、路駐で違反切符のようだ。
「すみません!」
歩きながら叫べば、年配の警官が振り返った。
「……これの運転手? 放置駐車違反だから――」
「警視庁の
片手で上下に開いた警察手帳をかかげたら、彼はギョッとした。
食い入るように上の写真を見た後で、慌てて敬礼する。
「し、失礼しました!
「……えっ? ちょっ、ちょちょっ!」
フロントガラスに黄色いステッカーを貼ろうとする警官は、よっぽど集中していたらしく、その寸前で決めていた両手を止める。
年輩の警官が声にならない叫びを上げる中で、ギリギリの停止。
気まずい雰囲気だが、待っている暇はない。
「急いでいるので……」
「はい! 聞いております! 引き留めしてしまい、大変申し訳ございません! 原田!」
呆けていた警官も、慌てて敬礼する。
「失礼しました!」
「……御二人とも、ご苦労さまです。俺たちは行っても?」
ブンブンと首を縦に振った年輩の男は、頭を深く下げた。
「はい、お気をつけて!」
俺の後ろに立っている
「ステッカー……」
「い、いえいえ! 次に使えばいいので!」
使える放置駐車を急いで見つけるのか……。
息を吐いた俺が、締めくくる。
「特命ゆえ、こちらの名前を出したくありません。そういうことで……」
「承知いたしました!」
周囲の注目を浴びながら、俺は運転席に、女子2人は後部座席の左右から乗り込んだ。
警官コンビが、交通誘導を始めた。
「カペラ? この2人に悪いから、すぐに出してくれ」
可愛い女子の声が、スマホから流れた。
『どこへ向かうの?』
「ひとまず、下の道路で流してくれ」
『りょー!』
ウィンカーを点滅させて、黒い高級車は走り出した。
四方のガラスを通しての景色が、どんどん変わっていく。
俺はスマホをダッシュボードのホルダーに差し込みつつ、命じる。
「
『国内と海外に証券口座があって、主にそこ! 現住所は……新築タワマンの一室だけど。都内での引っ越しの履歴がすごい!』
「どれぐらいだ?」
『ざっと、20以上! それも、この数年で!』
後ろで、女子2人が呆れた気配。
未来の娘である天ヶ瀬まりんは、言い捨てる。
「怪しい……という次元ではありませんわね? 今のうちに、私たちの呼び方を決めておくべきでは?」
「そうだな! 俺と
「室矢さん、天ヶ瀬さん、カペラさんとお呼びします! わたくしのことは、『まりん』と呼び捨てで」
ビクッとした天ヶ瀬麗が、恐る恐る、確認する。
「えっと……。名字か、さん付けのほうが――」
「どうか、まりんとお呼びください」
上品に言われて、借りてきた猫のように、ハイと答える麗。
(自分の未来の母親から、よそよそしい呼ばれ方は、嫌だよな……)
そう思いつつ、指示を出す。
「じゃあ、まりんと呼ぶぞ? 今日だけで、住所の履歴を追いかける! 都内に限定するが、ほぼマラソンになるだろう」
眉をひそめた『まりん』が、バックミラーに映った。
「時間が足りないのでは?」
「壁抜けする! 警察の監視チームに教えるために、スマホの位置情報は俺だけオープンにするから」
ゲートによる瞬間移動をしないのは、そのためだ。
納得した『まりん』が、隣に座っている麗を見た。
「それでいいですか? 天ヶ瀬さん……」
「う、うん!」
コクコクと頷く麗が、可愛い。
「今から、俺のスマホは位置情報をオープンにする! ……室矢です。今から都内にある仲四氏の住所を古いほうから追います。スマホの位置情報で、そちらへの途中経過としますので」
『警視庁のサポートチームです。仲四氏の足取りを追うこと、了解しました! スマホの位置情報、現在は……3号線の六本木駅を通りすぎたぐらいで?』
「はい! 電話は、これで切ります」
『ご用がありましたら、いつでもどうぞ! 失礼します』
◇
俺を先頭に、ギシギシと鳴る床を踏みしめつつ、木造の階段を上る。
角から覗けば、人の気配はなく、薄暗い内廊下だけ。
左右には、引き戸が規則正しく並ぶ。
ズボンの前にあるグリップを意識しつつ、とある引き戸に両手をかける。
ガタガタと音がしながらも、出入りする空間ができた。
鍵すら、かかっていない。
昼でも暗い場所に入ってみれば――
「何もないな……」
遅れて、女子2人も、ハンカチで口を押さえつつの入室。
「何もありませんわ……」
「本当に、人が住んでいたの?」
『少なくとも、住民票の履歴ではね?』
スマホのスピーカーで、カペラの声がした。
(一番古い場所で、これか……)
今となっては廃墟だが、それでもショボい構造。
管理人どころか、他の住人すらいない。
それも、見ただけで分かる。
「警察が匙を投げるはずだ……。コンテナハウスのほうが、立派だな?」
『現住所のタワマンを除いて、詳細が分かったよ!』
全員で俺のスマホをのぞき込めば、残り19ぐらいの物件リスト。
「取り壊された四畳半、都内にある戦中からの木造……」
「現存しないか、悪だくみをする場所ではありませんね?」
「お金をばら撒くわりに、自分はとんでもない場所に住んでいたの?」
首をひねっている女子2人を追い立てて、車に乗り込んだ。
「カペラ! 今のタワマンに向かってくれ!」
『りょ~』
ダミーか、心を病んでいたのか、それとも、自分が狙われる心当たりがあったのか……。
今の住所であれば、何らかの手掛かりを得られるだろう。
他は、時間のムダだ。