【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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第62話 金の切れ目が縁の切れ目

『火事です! 火事です!』

 

 夜の住宅街に、1km先まで聞こえそうな大音量で、合成音声が叫び続ける。

 

 それを聞きつけた近隣に動きがあり、玄関ドアなどから出てきた。

 

 車の運転席から、それを見届けた俺は、冷静に告げる。

 

「出してくれ」

『りょー!』

 

 可愛らしい声のカペラ。

 

 黒い高級車は、俺たち3人を乗せたまま、帰路に就く。

 玄関ドアを開けっぱなしで俺が仕掛けた装置による合成音声が、だんだん遠ざかっていった。

 

(あの白骨死体の棚に置いたから、嫌でも気づく……)

 

 サイレンを鳴らした緊急車両とすれ違いつつ、座ったままでぼやく。

 

仲四氏(なかよし)真琴(まこと)である確認は……警察の仕事だ」

 

 あの白骨死体で立証するところまでは、面倒を見切れん。

 

 警視庁のサポートチームには、報告済み。

 今ごろ、警視総監がここの県警本部長にでも話しているだろう。

 

『検問だよー!』

「ワープする」

 

 次の瞬間に、景色は東京のレジデンスの近くへ。

 

 後部座席で、天ヶ瀬(あまがせ)まりんの声がする。

 

「今ので、バレたのでは?」

 

「どうでもいい! この1回では誤作動もあり得るし、んなことを報告書に書いた日にはそいつが左遷されるだけだ……。位置情報は切っているし、追跡していても関係ない」

 

 その気になれば、遠隔操作で盗聴やらもできるらしいが。

 

 とにかく、眠い!

 

 レジデンスの屋内駐車場に入り、車が停まった時点で、全員が息を吐いた。

 

「はい、終わり終わり! 深夜1時か……。思ったより、時間がかかったな? 降りるぞ!」

 

 ガチャッと、それぞれのドアが開く音。

 

 女子2人を見れば、とても眠そうだ。

 

「あの白骨死体で決まりだろうし、俺の家で休むか? 客用のマットレスとかは、ある……かな? ゲスト用の部屋でもいいが」

 

 パンッと手を叩いた『まりん』が、すぐに応じる。

 

「いいですわね! さ、参りましょう?」

 

 まりんは、未来の母親となる天ヶ瀬(うらら)の手を引き、俺の顔を見た。

 

「明日の午前中までは、ゆっくりできるだろう」

 

 屋内を歩いて、俺の家へ。

 

 元々、家族で暮らすための間取りゆえ、不都合はない。

 

 

 ――翌日の朝

 

 警視庁から、電話がかかってきた。

 

『――そういうわけで、仲四氏の偽者は県警が緊急逮捕しました!』

 

 警視総監が本気だけに、怖い怖い。

 

(検死だって、かなりの順番待ちだろうに……)

 

 それができる人間を叩き起こした。というか、医療の上にいる人間に頼んだってところ。

 

「俺たちは、これで降りますよ? 報告書を書けとは、言わないですよね?」

『ハッハッハッ! むろん、書類はこちらで作ります! あとは大丈夫だと思いますが、話が続いた場合はご連絡しても?』

 

「あー、はい! このスマホは処分するんで、レジデンスの代表電話にお願いします」

 

『承知いたしました! いやー、これで首が繋がりましたよ!! ほんっとうに、ありがとうございました!』

 

 俺の専属だった班の責任者である野見山(のみやま)も、これが失敗したらタダでは済まなかったらしい。

 

 非公式とはいえ、警視総監が俺に土下座してのお願いだからな……。

 

 担当するのは、総監の懐刀(ふところがたな)か、切り捨てても痛くない問題児のどちらか。

 いずれにしても、失敗すれば良くてクビ。

 

(下手すれば、殺されかねんな、マジで……)

 

 ともあれ、麗たちとゆっくり過ごした後で、家族の時間を得た『まりん』はご満悦のまま、カレナに連れられて行った。

 

 

 仲四氏真琴の口座は国内外を問わずに凍結され、金をもらえなくなった奴らは手のひらを返した。

 

 アバターによる配信チャンネルも、アカBAN。

 

 ネットで検索しても、仲四氏の遺産がどこかにある? という、第二の埋蔵金になっているようで。

 

 それを知っていそうな地元の中学の卒アルが流出して、特定された卒業生が今ごろになって襲われるなど、散々だ。

 

 久々に自宅でゆっくりしている俺は、ボソッと呟く。

 

「同じ中学だった奴らには他人事で、大迷惑だ。しかし……」

「当時の仲四氏も、助けて欲しかったんでしょうね?」

 

 俺の膝の上に座っている麗が、続きを述べた。

 

「ああ……。ま、気持ちは分かると言ったが、別に仲四氏はどうだっていい」

 

「そうですか……」

 

 息を吐いた麗は、自分のスマホを見た。

 

「仲四氏と会っていた配信者も、襲われたり、警察に事情聴取をされたりしてますね?」

 

「大金が絡むと、誰が情報を流すか、分かったものじゃないさ!」

 

 自業自得という雰囲気に、麗は反論しない。

 

 俺は、ヌイグルミのようなポジションの彼女を見た。

 

「今回は、お疲れ様」

「いえ! 私は、重遠さんと一緒にいただけで……」

 

 『まりん』との約束でもあるし、麗と過ごすために南乃(みなみの)詩央里(しおり)に許可をもらう。

 

 電話が終わった後で、麗がおずおずと言う。

 

「あの……。気が早い話ですけど……。わ、私たちの娘ができたら、是非つけたい名前があるんです」

 

 ゆっくりと息を吐いた俺が促すと、彼女は告げる。

 

「まりん、と……」

 

「いいんじゃないか?」

 

 俺が肯定したら、麗は微笑んだ。

 

(鶏と卵は、どちらが先なのか?)

 

 そんな哲学をしていたら、いつもと変わらない衆議院選挙のニュースが流れる。

 

 大多数の人には、世は全てこともなし、だ。




過去作は、こちらです!
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