【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~   作:初雪空

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第67話 「だけど、そうはならなかったの! この話は終わりよ、一舞?」

 咲良(さくら)マルグリットの母方の祖母は、息を吐いた。

 

 当時を思い出しているようだ。

 

 同じテーブルを囲んでいる、マルグリットの未来の娘である咲良一舞(いぶ)は、母親の顔色をうかがった。

 

 ずっとそれで、借りてきた猫のロールプレイ。

 先住ネコはいないため、喧嘩にならず。

 

 一舞は、女子中学生。

 

 対するマルグリットは、女子大生。

 

 年の離れた姉妹にしか見えない。

 

 老婆は、話を続ける。

 

「その一報を聞いて、すぐに現地へ飛んだわ! でも、変わり果てたキャロル……キャロラインと、その旦那の死体があっただけ! キャロルの娘もいたはずなのに、死体はなく、誰も知らないとばかり」

 

 諦めきれず、現地で同情的だった警官を通じて警察署長にお金を払い、知っていることを教えてもらったそうだ。

 

「彼は、言っていたわ! 現地にいた日本の陸軍が先に連れて行ったようだって!! ここで金髪碧眼の幼女が売り飛ばされれば、目立ったに違いない。それはなかったと思うと!」

 

 その様子だけで、現地の陸上防衛軍や、日本の大使館に掛け合ったことが分かる。

 

 苛立たしげに紅茶を飲み干した老婆は、ティーカップを置いた。

 

「まったく相手にされなかった……。だから、この話はお仕舞い! 日本へ行けば、あるいは……。今の私が申請してもブラックリストで、ビザは出ないでしょう」

 

 その後で、探偵を雇って調べさせた。

 

 成果は出なかったようだが……。

 

 自分のティーカップを置いたマルグリットは、老婆を見ながら告げる。

 

「今の私は、幸せよ? 日本に住んでいるの……」

 

「そう……」

 

 老婆は、相槌を打つだけ。

 

 マルグリットは、自分でお代わりを注ぐ。

 

「色々あった……。今は、女を囲っている男といるけど……。それでも、幸せと言える!」

 

 口を挟みかけた老婆は、黙った。

 

 いっぽう、マルグリットが喋る。

 

「私はもう、普通の人生を歩めないの……。その男といるのは、紛れもなく私の意思」

 

「分かったわ……。もう日が暮れるけど、2人は泊まっていくかしら?」

 

 立ち上がったマルグリットは、首を横に振った。

 

「お気持ちだけで! 車を待たせているの……。ここに立ち寄ったのは、たまたま。ご馳走様でした」

 

 母親にならって、一舞も立ち上がり、お礼を述べる。

 

「ご、ご馳走さま!」

 

「ええ……。また、2人でいらっしゃい……」

 

 家の外で車に乗りこめば、老婆は視界から消えるまで見送っていた。

 

 

 後部座席で並んでいる、母娘。

 

 一舞が、たまりかねたように聞く。

 

「ねえ、ママ? どうして、本当のことを言わなかったの?」

 

「中東で両親を殺された幼児は急いで駆け付けた祖母に保護され、ユニオンで学校へ通い、友達やボーイフレンドを作りながら平凡な人生を歩みました……。そうはならなかったのよ、一舞! だから、この話は終わり」

 

 長く息を吐いたマルグリットは、両手で顔を覆った。

 

「今なら分かるわ! あの時に同意しなければ、私は殺されていた! その死体はいずことも知れずに処分されたでしょう」

 

 息を呑んだ、一舞。

 

 その気配を感じたマルグリットは、笑顔を作り、未来の娘を見た。

 

「ごめんなさい! でも、重遠(しげとお)は私を助けに来てくれた……。だから、一緒にいるの! ちょっと、愛が多いけどね?」

 

 ようやく笑顔になった一舞が、応じる。

 

「そっか……。パパが……」

 

 マルグリットは、小さな声で歌い出した。

 

 英語の、しっとりした内容。

 

 それを聞いていた一舞は、眠りにつく。

 

 

 ◇

 

 

 咲良マルグリットの祖母は、ユニオンの教会にある墓地を訪れた。

 

 1つの前で立ち止まり、持っていた花束を添える。

 

 刻まれている名前は、キャロラインだ。

 

「キャロル……。先日にね? 来客があったのよ……。誰だと思う? あなたの若いころによく似た娘よ」

 

 墓石から返事はない。

 

 だが、老婆は寂しそうに笑った。

 

「大戦へ行った叔父と似た雰囲気があったわ! きっと軍属になっていたのね。それも、人を殺して……。あの子は『今は幸せだ』と言った。嘘とは、思いたくないわ」

 

 老婆は、真実を知った。

 

 娘の忘れ形見が戦場へ行き、人を殺していたのだ。

 幼児を攫ったのだから、非合法に違いない。

 

 今更ながら、怒りが湧いてくる。

 

 それでも……。

 

 かつての娘のように成長した彼女は、過去を言わず、今が幸せと告げた。

 

 呼吸を整えた老婆は、小さな声で歌い出す。

 奇しくも、マルグリットが一舞に聞かせた歌と同じだ。

 

 老婆が握りしめている手紙には、英語でこう書かれていた。

 

“娘が生まれたら、マルグリットと名付けようと思うの”

 

 生前に彼女が送ったであろう、国際郵便。

 あるいは、現地警察が遺品として老婆に渡したのか……。

 

 いずれにせよ、それは長い時を経て、孫娘との再会に繋がった。

 

「もう、会うことはないでしょうね?」

 

 最初で最後だったとしても。

 

 この老婆は、安らかに眠れるだろう。

 

 

 室矢(むろや)重遠たちと合流したマルグリットたちは、日本へ向かった。

 

 プライベートジェットで若いころの両親と過ごした一舞は、未来へ帰る。

 

 マルグリットも、自分の日常へ戻った。

 遠からず、一舞と再会するだろう。

 

 けれど、それは新しい物語であって、過去を振り返る旅ではない。

 

 だから、この母娘の里帰りはもう終わりだ。




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