【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
第68話 サメとAIとお父さん大嫌い娘
USFAの近くにある深海に、でっかいミサイルのような物体がいた。
原子力潜水艦だ。
その雰囲気から、攻撃型……。
やってやるぜ! 感があって、大変よろしい。
USの原潜は40隻ぐらいあり、石を投げれば当たるほど。
どれだけ作るんだか……。
水の抵抗が少ないシルエットの真後ろにスクリューがあり、洗濯機を回すようにグルグルと動く。
窓のないブリッジには、壁一面に様々なモニターが並び、それぞれに専門的なデータをリアルタイム表示。
壁際に固定された椅子に座っているクルーが、その画面を凝視しつつも、張り付けた手書きのメモと見比べる。
清潔な空気があり、湿度管理もされているが、隣との距離は近い。
原子力によって電気と水を使い放題で、住環境はバツグン!
出航と帰港の予定は軍事機密ゆえ、いきなり自宅から消えて、いきなり戻ってくるうえ、1回出たら3ヶ月は鉄の箱の中。
離婚、待ったなし!
適性も重視される空間で、立っている艦長が渋い顔。
「先ほどのシエラ1は?」
「パッシブに反応なし……。やっこさん、気づきましたね?」
シエラ1は、ソーナーの探知による識別だ。
技術が発達した現代ですら、お互いの駆け引きはある。
「音紋、どれとも一致せず!」
腕を組んだ艦長は、いよいよ命じる。
「魚雷は?」
「1番、ワイヤー付き。2番――」
ふーっと息を吐いた艦長は、腕を下ろした。
「魚雷、1番発射用意!」
「1番発射用意!」
「艦、良し!」
「1番、注水とハッチ開放!」
副長が繰り返したことで、前方にある魚雷管が開いた。
「アクティブ、打て!」
「打ちます」
ポ――ンッ!
発した音波が広がっていき、反射による把握。
ピンッピンッピンッ
モニターに、具体的な形が浮かび上がる。
「移動物体を確認!」
「……待ってください! スクリュー音ではありません!?」
誰もが、ソーナー担当を見た。
彼は、両耳にあるヘッドフォンに集中する。
「クジラ……。いえ、巨大な海洋生物です」
駆け寄った艦長が、自身のヘッドフォンで聞く。
巨大なヒレによる上下?
「ハアッ……。戦闘態勢を――」
『私は、サメだ……。初めまして、硬そうな同胞よ』
くぐもった男の声が、原潜の装甲を揺らした。
…………
…………
「1番発射!」
シュボッ
何かが射出される音が響き、ビイイッとスクリュー音が遠ざかっていく。
『ちょっ! 待て!!』
慌てて泳ぐ物体も、バババと遠ざかっていく。
『……待てと言っている!』
ドォンッ!
やがて、艦体を震わす衝撃波。
「どっちだ?」
「……自称サメは、動いていません」
魚雷は、機密保持や安全のために一定距離で自爆する。
相手にヒットしたとは限らない。
閉じた1番管に次弾を装填しつつ、原潜は進路を変えた。
◇
「助かった……」
せまい空間でペタンと座っている少女は、エメラルドグリーンの瞳で上を見た。
長い銀髪が、それに併せて動く。
「あの原潜に気づかれないよう、目的地へ微速前進」
大人の女性のような合成音声が、答える。
『時間がかかりますよ?』
「いいから!」
暗いブリッジにいる少女の小さな叫びで、艦体が小さく振動する。
周りの海流を計算しつつ、海底を這うように進み出した。
「お母さんは、私が守る!」
立ち上がった少女が、片手を上げた。
「お父さんは、他の女だけじゃなく、私と同じぐらいの女子に腰を振るだけだし! 頼りにならない!! 最低! 大嫌い!」
ついに登場した、パパ嫌い勢である。
祝え!
夏用のセーラー服を着た少女は、スマホを取り出し、明るい画面をさわる。
スッと動かせば、大学生から1周りは経過したと思しき、室矢重遠の姿。
「ほら、私は危険な海底にいるんだよ? さっきも魚雷を撃たれたし! こーんな思春期の娘がピンチになっているの! あいつらに捕まったら、孕まされちゃうだろうなあ?」
念のために言うと、通話状態でも、メッセージでもない。
満面の笑みでえんえんと独り言をいうのは、控え目に言っても怖い。
ひとしきり文句を言った少女は、両手で持っていたスマホを下ろして、ふうっと息を吐いた。
ここで、女性のAIが尋ねる。
『食事は?』
「いる! さっきみたいに捕捉されたら、すぐに教えて」
暗いブリッジから歩いた少女は、ブツブツと文句を言いながら、食堂で保存が効く弁当を食べていく。
「お母さんに会うわけにはいかないし……。腹違いの兄弟姉妹が10人以上って……」
『パーティーゲームが楽しそうですね?』
「うるさい! そもそも、仲がいいわけじゃないし……。面倒なだけ!」
『みづは? 目的地の周辺には、沿岸警備隊が巡回しています。どれだけ偽装しても――』
「海上艦だと、すぐにアクティブだからねえ……。安全マージンをとって海底に張りついたまま、ボールユニットを出して! どうせ、水中と海上戦闘になる」
『了解……。やりすぎないでくださいね?』
「それは、あいつらに言って! お母さんを止めるわけにもいかないし……。ハアッ! 魚雷を撃たれて、もー嫌になる!」
『それは、私たちの代わりに撃たれたサメが言うべきでは?』
「う・る・さ・い!」
どう見ても潜水艦に適性がなさそうな少女は、ひたすらに待つ。