【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
日が暮れた。
潮風によって運ばれる生臭さは、止むことがない。
内側にエネルギーシールドを張っていた女子2人は、むくりと起き上がる。
真っ暗な部屋には、閉めているカーテンを通しての月光。
港町のプロスルイスはそれなりの都市であるのに、外から聞こえてくる声や物音は少ない。
開けたままのアタッシュケースの中をいじると、赤いデジタル表示が動き出す。
小声で、自分のパートナーに催促する。
「急いでね?」
「……分かっているわよ!」
暗闇でも慣れた様子で、同じような靴を履いた。
いっぽう、エカチェリーナは呟く。
「5人以上……。窓からにしよう」
「次から、チェーン店がない場所には行かないわ!」
涙目の千波も、両足で立って、トントンと軽くジャンプ。
下から押し寄せてきた足音は、どんどん近づいてくる。
魔法で身体強化をした2人のうち、エカチェリーナは閉めている窓のほうを見た。
ドン! ドンドンドンドン!!
すぐに蹴破るつもりだったのか、戸惑ったあとに連打。
薄いドア越しに、訛りの強い英語による罵倒が続く。
エカチェリーナは魔法による空気の壁を形成して、ただ加速させた。
いつ倒壊してもおかしくないホテルの外壁ごと、吹っ飛んだ。
凄まじい音と土煙、さらに瓦礫の散弾が、向かいを襲った。
「Go!」
「……あー、もう!」
走り幅跳びのように走り出した2人は、一瞬でトップスピードに達して、床を蹴る。
放物線を描いた末に、向かいの屋上へ着地して、そのまま走り続ける。
◇
ようやくドアを蹴り破った連中は、一斉になだれ込む。
けれど、さっきのホテルを揺るがす振動や音で、外へ逃げたことは把握済み。
街に住んでいる魚面の奴らは、なくなった外壁から外を見たまま、ギリリと悔しがる。
『知っていた?』
『どうせ、街から逃げられん! すでに配置済みだ!』
『あのバス運転手……。余計なことを喋ったな?』
『今は、どうでもいい!』
『裏切るつもりなら、昼に逃がしていたさ! 放っておけ』
一通り言ったことで、ようやく落ち着いた魚人間たち。
『ともかく……。あいつらの荷物を調べるぞ?』
『スーツケースは、どちらも置き去りか』
『さすがに、持っていく余裕はないだろう?』
魚人間の1匹が、動いている赤いデジタルに気づいた。
『おい! これは――』
次の瞬間に、ホテルにできたばかりの穴を埋め尽くすほどの炎が噴き出した。
海鮮バーベキューだ。
お好きなだけ、どうぞ!
アタッシュケースに仕込まれた爆弾だ。
みづはがバス運転手に運ばせたアタッシュケースが、さっそく役に立ったのだ。
若いときの実の母親に、どれだけ物騒な代物を持たせたんだ?
◇
空賀エカチェリーナと支鞍千波は、待ち構えていた奴らを避けながら、脱出しようとするも――
車のライトが横に並んで、ずっと照らしている。
そのスキマを縫おうにも、小銃を持った奴らが立っていた。
「ダメだ! 鉄道の廃線のほうは、テクニカルまでいる!」
「あいつら、紛争でもする気?」
テクニカルとは、オープンの荷台に重機関銃を設置した車だ。
民間用を改造することが多く、なぜか日本車が多い印象。
即席とはいえ、その有効性は正規軍を足止めしつつ、被害を出せるほど……。
いくら異能者でも、ズラリと並んだテクニカルや小銃には勝てない。
「どうするの? 私たちが乗ったバスの道路を行く?」
「……そちらは、もっと危険だろう」
エカチェリーナは、アタッシュケースに入っていたタブレットにより、1つの個所を指さした。
「私たちは、海の
考えつつ、もう使われていない採掘場の跡地を示した。
「ここを突破して、人がいない沿岸からボートか何かで脱出しよう! 上手くいけば、歩いてプロスルイスの外だ」
その作戦に穴がないか? を思案していた千波は、腕を組んだまま。
「いいと思うわ……。天然の洞窟があるのね? 海蝕か」
「人が入れるかは不明だが、強引に突破するしかないだろう? 魔力が尽きるのが先か、それとも、無事に朝日を拝めるか」
エカチェリーナは、反対がないことから動き出した。
千波が続く。
日が昇った時点で脱出できなければ、詰み。
チャンスは、今晩だけ!
その海蝕洞窟こそ、ディゴン秘密教団の本拠地だが……。
女子2人には、知る由もない。
包囲している奴らも、そちらは手薄。
あくまで、外へ逃げられるルートを潰しているだけ。
最初に魚雷を撃たれた巨大サメ、未来の娘が乗っている潜水艦、置物になっている巨大ボール、そして魚面の邪神教団……。
分かっているのは、失った荷物の買い直しで出費があることだけ。
現代の魔法は、果たして魔術に対抗できるのか!?