【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
真っ暗な海底で、ボゴッと音がした。
同時に、巨大な何かが身じろぎする。
周りにいた魚やイカが、慌てて逃げていく。
いっぽう、海底から浮かび上がった巨大サメは、深海で首を振った。
『ふむ……。最近の若者は、すぐキレる! 困ったものだ……』
私のように落ち着きを持ってくれ、と呟く。
言いながら、どこからかゴソゴソと、ロケットランチャーのような箱を取り出し、自分の左右に装着した。
『少し、気分転換をするか……』
力強く泳ぎ出した巨大サメは、海中とは思えない速度へ。
同時に、左右の巨大な水中用スピーカーが稼働した。
大音量のユーロビートを流すことで……。
電子的なリズムに合わせて、巨大サメも加速する。
泳ぎ去った後には、ぐったりした魚介類が海上へ浮かび上がっていく。
この海域の生態系は、もうメチャクチャだ!
最初の原潜は、こいつに前方の発射管でサルボーするべきだった……。
勢いよく海面に出た巨大サメは、さらに速度を上げた。
海を割るほどの勢いで、彼は思う。
(今ならば、あの岩場のスキマを華麗にドリフトできるに違いない!)
減速するべき難所で、体を横にしてドリフトする巨大サメ。
次の瞬間に横へ転がりつつ、海面を跳ねていく。
盛り上がる、ユーロビート。
狙ったわけではないだろうが、ちょうど山場のシーンで巨大サメが横にスピンしながら岸壁にぶつかった。
◇
深夜の港町プロスルイスから脱出したい女子2人は、沿岸部の海蝕洞窟にいた。
コソコソと動いていたら、魂消るような女の悲鳴が反響する。
気になって見に行けば――
いかにも邪教のような魚面の奴らが、平らな部分に寝かせた裸の女を切り刻んでいる。
思わず飛び出そうとした
(無理だ! 奴らは見えているだけで、40人ほど……。自分で動けない女を抱えて脱出するのは不可能! 魔力を残さなければ、私たちも助からない)
腕をつかまれたまま、震える千波。
(……分かったわ)
背中から追いかけてくる悲鳴や助けを求める声を振り切るように、女子2人は移動する。
やがて、海面がある部分にたどりつき、小さなボートに乗った。
連絡用らしく、通路のような洞窟を含めて、使い込んでいる雰囲気。
天然の洞窟だが、人の手が加わっている。
一定間隔でつけられた灯りが、先導してくれた。
ぼんやりと照らされるだけの洞窟を進んでいけば、月明かりの海へ。
けれど、洞窟と外の境界線を強烈なライトが横切った。
感嘆の声を上げかけた女子2人は、とっさに自分の口をふさぐ。
ブウウウンッというエンジン音に、そのシルエットから、プロスルイスの漁船か何かだと分かった。
どうやら、この辺りを巡回しているらしい。
希望が見えた瞬間に突き落とされ、エカチェリーナはじっとりと汗をかいた。
思わず膝をつきたくなるが、必死にこらえる。
(このボートで逃げ切るには、あと一手が必要だ……)
時間をかければ、ここも囲まれるだろう。
すると、海に通じている狭い洞窟が、大きく震えた。
外でも、男たちの怒鳴り声。
「今だ!」
「ええ、帰りましょう!」
夜の海に、何か巨大な物体がいる。
そいつは海に浮かび直し、スピーカーらしき部分から大音量のユーロビートを流し出す。
「は?」
「えっ、何?」
思わず動きを止めた女子2人のボートに、海中から飛び上がった人型がいくつも襲いかかる。
しかし、潜水艦のような物体の上にのっかったことで、エカチェリーナたちはかろうじて避けられた。
高速道路が似合いそうなユーロビートと共に海上を走り出す、小さなボート。
やがて、下にいる物体が横になったことで急ブレーキ。
上に置かれただけのボートは、勢いよく射出された。
「ああああっ!」
「きゃああああっ! 私たちは、空軍じゃないわよぉおおおおおっ!」
しがみついたボートと共に落下していく、女子2人。
けれど、空中で何かに抱き留められ、海面に叩きつけられての死亡を免れる。
ロボット状態になったボールユニットは、着水しながらボートを運び出す。
やがて、プロスルイスから別のエリアとなり、ボールユニットは離脱。
九死に一生を得た女子2人は、ぐしょぐしょの下着の換えすらなく、再びハンバーガーを潰して食べたのだった。
目についたモーテルに泊まり、途中でテイクアウトしたジャンクフードを食べる2人。
どちらも全裸だが、別にそういう関係ではない。
死んだ魚のような目で、ひたすらに食べる。
「美味いね、千波?」
「……塩味が効いているわ」
若いころの母親を救った空賀みづはも、ボールユニットを回収した潜水艦と共に未来へ!
帰る前に、対地ミサイルをありったけ射出して……。
プロスルイスが未来まで残ったのかどうかは、不明だ。
そもそも、魚雷の直撃に耐える巨大サメとは、いったい?
多くの謎を残しつつ、地元の新聞紙に掲載されるぐらいの事件はクローズした。