【完結】大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~ 作:初雪空
感極まったシャルイーズ・ミューヴィクラエフが、俺に訴えかける。
「お願いします! その傅(フゥー)さんに会わせてください!!」
「……会って、どうする? そちらの事情を押しつけ、あいつの人生を滅茶苦茶にする気か?」
俺の指摘に、シャルイーズはビクッとしつつ、後ずさる。
「それは……」
見かねた中年男が、割り込む。
「兄ちゃん? こっちも遊びじゃねえんだ! それとも、お前がどうにかすると言う気か?」
雰囲気とブリッジで1人用のシートにいる時点で、艦長か何かだ。
聞き覚えのあるダミ声。
分かっている情報を整理しつつ、中年男に向き直った。
「そうだな? 聞いた限りでは、ネットワークを制御している生体ユニットをどうにかすれば、いいのだろう?」
思わぬ反論に、首の後ろをかいた中年男が答える。
「まあな……。けど、それができれば、苦労はねえよ! ダルディアス帝国の中央にある首都で、さらに要塞の奥深くだ」
「俺を助けてくれたMA(マニューバ・アーマー)、そちらの言い方では騎士(エクウェス)だったか? インフィニタの最高速度と航続距離は?」
キョトンとした中年男は、すぐに言い返してくる。
「1人で突貫するつもりか!? 尋常じゃない守りなんだぞ!」
「俺は、インフィニタが使えるか? と聞いている」
その時に、シャルイーズの声。
「インフィニタは、理論上で亜光速になれます……。航続距離も、首都まで行けるはず」
シャルイーズに向き直り、質問する。
「インフィニタを使い潰しても、構わないな?」
「……あなたが、終わらせてくれるのなら」
――エクウェスの整備デッキ
こちらのパイロットスーツを着た俺は、再び狭いコックピットへ。
見送りは、ファトミレ・シュヴェーベルとロヴィエの2人。
「無理だと思ったら、すぐに帰還してください」
「最後に、言い残しておくことは?」
「あの軍服、借り物なんだ! 帰るまでに、綺麗にしておいてくれ」
ポカンとした男女のうち、ロヴィエが笑い出す。
「ハハハ! 本当に面白い奴だな、貴様は!」
『エクウェスが発進する! 総員、退避せよ!!』
中に収納された俺は、モニター越しに、青いロボットを歩かせる。
高さ4mの視点で、首都がある方向へ射出された。
◇
そんなわけで、重遠さんは異世界で出撃しました。
私の名前は、
室矢家で唯一の非能力者にして、現在の最年少で、室矢重遠の妻の1人です。
思えば、色々ありました。
私が加入したのは彼らが苦労した後で、伝え聞くだけ。
異世界の帝国と戦うと知っても、室矢家の女子たちは誰も驚きません。
「どうして、重遠さんは全力を出さないのだろう? 日本を支配しないのだろう?」
現状でも、それは可能なはず。
だけど、重遠さんは室矢家の解散を決め、私たちは自分の子供の受け入れ先を作っている最中。
私には、重遠さんの考えが分かりません。
何よりも、そのメンタルは底知れず。
彼と同年代の誰よりも大人びていて、年配の政治家とすら並ぶ。
そして、邪神すら倒せるほどの力。
浮世離れした存在として、ぴったりの表現が1つあります。
神様……。
そう、神様です!
神様であれば、人間が作った法律や制度なぞ、守らなくて当たり前。
彼らが守るのは、己が課したルールと、その由縁だけ。
「どうかしましたか?」
レジデンスに遊びに来た傅 明芳(フゥー・ミンファン)さんが、微笑んだ。
「いえ! 重遠さんが心配で……」
「そうですか……。私は、彼が見つけたネックレスを受け取りに来たのですが……」
言いながらも、後ろめたい様子だ。
室矢家の正妻である
「若さまの配慮を無下にしないでください……。言っている意味は、分かりますね?」
超空間のネットワークで、一連の出来事は私たちも知っている。
フゥーさんが自分の素性を明かせば、室矢家も、何より重遠さんが渦中に巻き込まれてしまう。
息を吐いたフゥーさんは、詩央里さんを見つめた。
「承知しております……。ですが、重遠さんと会い、お礼を言うことは譲れません」
「このエントランスで良ければ、どうぞ」
一歩も引かないフゥーさんに、詩央里さんが折れた。
どこかの美術館のホールと言われても納得する、広くてお洒落な空間だ。
今は室矢家の貸し切りで、他の住人が行き来することはない。
従業員も、全て管理下。
これだけの女子に囲まれているのに、堂々としているフゥーさん。
(やはり、支配者の家にいる人だ……)
どうしてこうも、物騒な女子が集まるのか?
私が女で性的に見ないから、としても、男子でやっていける気がしない。
(自分だって、そこそこの美貌だと思うけど……。家柄と本人の力が尋常じゃない面子ばかり)
対等に付き合えないから、男子は常にビクビクするだろう。
その女子の機嫌を損ねただけで、命を取られかねない。
(ヤバい広域団体の上にいる幹部の娘と同じ……。私だって、普通じゃない)
大戦に従軍した近衛師団の血筋で、今は非能力者としての語り部だ。
正面玄関のほうで、開閉する音。
団らん用のソファーにいる女子たちが、一斉にそちらを見た。
久しぶりに思える男子の姿を見たことで、それぞれに声をかける。
室矢家の序列を気にしつつ、私も最後のほうになって話しかけた。
「お帰りなさい、重遠さん!」
~Fin~