這い寄るダンジョン攻略は陰陽師の役目でしょ!~SAN値直葬の探索はヒロインが皆サブカル美少女なのだけが救いです~   作:山城京@カクヨム

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明日は810の日なので初投稿です。


第1話「今日もニコニコ這い寄る混沌」

「ねぇ土御門(つちみかど)くん、こんな『噂』があるんだけど知ってるぅ?」

 

 放課後。帰り支度をしていた僕に、前の席に座る西園寺心愛(さいおんじここあ)ちゃんがそう話しかけてきた。

 

「どんな噂だい?」

 

 そう問いかけるも、僕の視線はゴスロリ服から溢れる彼女の大きなメロンに釘付けだった。

 

「こらこら、君はあたしのおっぱいと話してるのかい? せめて目線くらい合わせてよぉ」

 

 僕が通う学園は私服での通学が認められている。

 

 そのため、学則上は彼女のような服装も認められているんだけど、彼女が着ているゴスロリは胸の上半分に布がない。つまり、おっぱい丸出しなのだ。

 

 ぺちゃパイだったならば視線に困ることもないんだけど、彼女の場合ボインが本当にボインしている。僕の視線が胸にいくのも仕方のない話だろう。

 

「ごめんごめん、乳に思考を奪われていた。なんの話だっけ?」

 

 流石に失礼が過ぎるので、彼女の桔梗のように青みを帯びた紫色の瞳に視線を移す。と同時に、彼女の美少女過ぎる顔が目に入った。

 

 いわゆる地雷系のメイクが施された顔は、彼女の幼顔の魅力を最大限に引き出していた。

 

 サラリと風に揺れる濡羽色のミディアムロングヘアもまた、彼女によく似合っている。改めて見ても、美少女だと思う。好みは別れそうだけど。

 

「噂の話だよぉ。きさらぎ駅って知ってるぅ?」

「きさらぎ駅といえば、あのネットミームで有名なやつ?」

 

「そそ。実在しないはずの無人駅でぇ、そこを走る電車に乗ったら異界に連れていかれちゃうってやつぅ」

「それがどうかしたのかい?」

 

「実はねぇ、最近そのきさらぎ駅へ行ったっていう人が書いたスレッドを見つけたんだぁ」

「創作じゃないの?」

 

 僕の記憶が確かなら、きさらぎ駅は鉄道に詳しい有志が検証した結果、創作だったというオチがついていたはずだ。

 

「あたしもそう思ってたんだけどぉ、読んでみたらけっこーリアルでさぁ。とりあえずこれ見てよ」

 

 可愛らしいうさぎのカバーが付けられたスマホを渡される。画面には件のスレッドが表示されていた。

 

 さらっと流し読みしてみると、なるほど確かに彼女の言うように本当に行ったのだと信じてしまうほどの特有のリアルさがあった。

 

「ぽいね。これが創作だったら相当な書き手だ」

「でしょぉ? 行き方も書いてて、試した人も行けたみたいなんだよねぇ」

 

「ほう、それはなかなか興味深い話だね」

「で、検証をしてみたいわけなんだよねぇ。せっかく明日から夏休みなんだからさ」

 

「しかし西園寺――」

「こーこーあ。いつも言ってるでしょぉ、あたしのことは名前で呼んでって」

「ああ、ごめん」

 

 どういうわけか心愛ちゃんは僕に自分のことを名前で呼ばせたがる。

 

 他の男子が名前で呼ぼうものなら、見ているこっちが寒気を覚えるほどの絶対零度の目線と共にドスの効いた声で「は?」とだけ返すのに。

 

 一度その理由を聞いたところ、「なーいしょ」と言われてしまって真相は闇の中なのだ。

 

「このスレッドによると、きさらぎ駅と書かれた定期が必要とあるじゃないか。その定期は持っているのかい?」

 

「持ってるわけもなくー。土御門くん、都合よく持ってたりしない?」

「そんな都合よく持っているわけが……あるんだよなあ、これが」

 

 ちょうど今朝、通学途中に件の定期を道端で拾っていた。だから実をいうと心愛ちゃんの話に運命めいたものを感じていた。

 

「マジぃ?」

「マジだったりする。だから僕もびっくりしてる」

「スレ主は道端で拾ったらしいけど、土御門くんもそのクチ?」

「そうだね」

 

 その日の放課後にこんな話が出るんだから、本当に作為的ともいえる運命を感じざるを得ない。

イタズラな神様がいるとしたら、僕にきさらぎ駅に行けと言っているのだろう。

 

「んー、行ってみたいけどぉ、スレ主によると定期を持ってる人じゃないと行けないみたいなんだよねぇ」

「じゃあ諦めるしかないね」

 

 うぼぁーとお世辞にも可愛らしいとは言えないうめき声をあげる友人をよそに、僕は密かに放課後に行ってみようと心に誓った。

 

「さて、こいつを改札に通せばいいわけだな」

 

 向かえた放課後、腹ごしらえを済ませた僕は改札の前に立っていた。

 

 手に「きさらぎ駅」~と書かれた定期が握られている。スレ主いわく、普通の定期と同じように改札を通るらしい。ダメ元で試してみると、

 

「エラーが出ない……」

 本物の定期と同じように通れてしまった。

 

 暫く待っていると電車が到着した。

 

 ホームで待っていた人達と一緒に電車に乗った瞬間、異変に気付いた。

 

「……人が消えた」

 

 正確には、乗客は僕以外に5人ほどいた。しかしあれだけいたにも関わらず、5人しかいないなんてはずはない。同じ入口から乗った人だけでも5人以上はいたはずだ。

 

「なんだか嫌な予感」

 

 スレに書いてある通り、乗客は皆居眠りしていた。

 

 席に座り、10分少々揺られていると長いトンネルに入った。それを抜けると、

 

「次はきさらぎ駅、きさらぎ駅。降り口は左側です」

 と車内アナウンスが聞こえた。

 

 しかし窓の外には真っ暗闇が広がっており、とても駅があるようには思えなかった。

 

「降りるしかないよな……」

 

 相変わらず開いた出口にも広がっているのは真っ暗闇だ。しかし、電車から一歩抜け出すと、唐突に無人駅が現れた。

 

 見慣れた人工物が目に入ったことで、それまでの不安感が少しだけ落ち着いた。

 

 周囲を散策すると、駅名を示す看板を見つけた。そこにはしっかりと「きさらぎ駅」と書かれていた。

 

「やったぜ。僕は今きさらぎ駅にいる」

 

 とはいったものの、田舎の無人駅という感じでいまいち異界感はなかった。

 

 噂に聞くよりも案外普通なんだなと思っていると、どこかからグチョリという腐った生肉を地面に叩きつけたような音が聞こえてきた。

 

「前言撤回。全然普通じゃないかも」

 

 耳を澄ますと音源は一つだけじゃなかった。四方八方からグチョリグチョリと聞こえてくる。ひょっとしなくても包囲されてないか?

 

「い、急いで車内に戻ろうかな」

 

 そう考えるも、無情にも電車は目の前で走り去っていってしまった。現実は残酷である。時刻表を見るに次の到着は10分も後だ。

 

 さてどうしたものか。先程から聞こえている水音はだんだんこちらに近づいている。

 

 すぐに逃げた方がいいのは明白だったが、良い逃げ場所が思いつかなかったので僕は考える人のポーズを取りながら棒立ちしていた。

 

 結果、水音は真後ろに迫っていた。事ここに至って振り向かない選択肢はなかった。

 

「うわぁ……」

 

 いた。いてしまった。なんか全身から粘度の高い緑色の液体を出す赤黒い肉塊が。確実に見てはいけない類の生命体? がそこにいた。

 

「おや、珍しいお客様だ」

 

 キエェエエエエエエエエエ喋ったぁああああああああ! 

 

「あの、言葉通じます?」

「通じますよ」

 

 やたらと渋くて良い声だった。どうやらこの肉塊はコミュニケーションが可能な類の肉塊らしい。

 

 目を閉じればシルクハットを被ったナイスダンディが喋っているように感じるのに、目を開けるとSAN値直葬が特技みたいな見た目をしている。これもう詐欺だろ。

 

「最近は異界からのお客様が多くてねえ。あなたもそれでしょう?」

 

 うにょうにょ触手っぽい(たぶん人間でいう手なんだろう)ものを無数に蠢かせながらなんか話し始めた肉塊の内容に、気になる部分があった。

 

「異界?」

「そうですよ。あなたからするとここは異界かもしれないが、私達からすればあなた達が住む世界こそ異界ですから」

 

 なるほど納得。アメリカ人が日本を外国と表するように、異界人から見た僕らの世界は異界ということなのだろう。

 

 言葉が通じるならこっちのものだ。見た目ほどの危険はなさそうだし、この機会に聞けるだけのことを聞いておこう。

 

「せっかくなので探検しようと思うんですけど、危険とかってあります?」

「ふむ。つかぬことを聞きますが、あなたは戦う力をお持ちですか?」

 

「ないですね。パンピーです」

「では今すぐ逃げた方がよろしい。私のような者は珍しいですから」

 

 正面にダンディな肉塊。左右にはこれまた別の肉塊達が沢山いた。つまり包囲されている。

 

「なるほど」

 

 絶対絶命。危機一髪。ジ・エンド。様々な危険、というか命の終わりを告げる単語が頭を巡る。終わったかもしれない。

 

「伏せてぇ!」

「はいよ!」

 

 聞き覚えのあるダウナーボイスに言われるままその場に伏せると、パンパンッという火薬が破裂するような音と共にグジュリグジュリとSAN値が削れる音が聞こえた。

 

 顔を上げると、そこには拳銃を構えた心愛ちゃんが立っていた。

 

「逃げるよぉ!」

 

 肉塊の脇を抜けて僕の側まで来た心愛ちゃんは、僕の手を取って線路に躍り出た。

 

稀人様(まれびとさま)、良き旅を」

 

 後ろからやたらと渋い声が聞こえた。

 その声に振り返ることなく、僕達は闇夜の線路を走り続けた。

 

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