這い寄るダンジョン攻略は陰陽師の役目でしょ!~SAN値直葬の探索はヒロインが皆サブカル美少女なのだけが救いです~   作:山城京@カクヨム

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第2話「現代にも陰陽師はいるらしい」

「ここまで来れば大丈夫かなぁ?」

 

 どうやら肉塊は見た目通りの速度しか出せないようで、追っては来ているようだが追いつかれそうな気配はなかった。

 

「危ないところを助けてくれてありがとう。しかしどうして心愛ちゃんがここに?」

「んー、何から説明したものかなぁ……とりあえずこれ見てちょ」

 

 心愛ちゃんは首にかけていたIDカードを見せてきた。

 

「陰陽庁?」

「そ。陰陽庁の霊界局、そこの異界課に務めてるんだぁ。役職は危機管理対策官ね。こう見えてもけっこー偉かったりするのです」

 

「えーと……ふざけてる、わけではなさそうだね」

「マジだよん。あたし、陰陽師なんです」

 

 とはいうものの、IDカードの顔写真がダブルピースなのでにわかには信じられない。

 

「まあ説明するとぉ、陰陽庁っていう政府直轄の組織があってぇ、そこではこういう怪異だったりの不思議を取り扱っているんだよねぇ」

 

「政府直轄ときたか」

 

「とはいっても、ちょーっと権力を持ってる民間企業と一緒だよぉ。まあ今は混乱してるだろうからぁ、ひとまず現世に帰還することを目指そうか」

 

「安全な帰り方を知っているのかい?」

「もち。あたしは何度もここに来てるしねぇ」

 

 それを聞いてとても安心した。そろそろ人のいる世界を恋しく感じていたところだ。

 

「それにしても話した直後に行くとは思わなかったよぉ」

「きさらぎ駅の話?」

 

「それしかないでしょぉ。おかげでろくな装備も持たないまま来ちゃったよぉ」

「それは、ごめんなさい?」

 

「まー仕方ないんだけどねぇ。あーあ、でもこの生活も終わりかぁ。せっかく土御門くんと仲良くなれたのにぃ」

 

 線路脇を歩いていたのだが、聞き逃がせない言葉を耳にして足を止めた。

 

「終わりってどういうこと?」

「歩くの止めない。まだあいつらは追ってきてるんだよぉ」

「あ、ごめん」

 

 歩き出し僕は先程の質問を再度ぶつけた。

 

「あたし実は土御門くんの監視だったんだよねぇ」

「衝撃の事実だ」

 

「ならもっと驚いた顔してよぉ」

「顔に出にくいんだ」

 

 とは言ったものの、正直なところ驚きよりも納得感の方が大きかった。

 

 心愛ちゃんは2年目の春という中途半端な時期に転学してきた。

 あり得ないほどの美人が転学してきたと学内が沸いていたのを今でも覚えている。

 

 そんな彼女は転学早々に「何故か」僕に接近してきて、あれよあれよと仲良くなった。

 その「何故か」の理由が僕の監視であったというのであれば、納得というものだ。

 

「あれ待てよ? なんで僕はそもそも監視されなきゃいけないんだい?」

 

「きさらぎ駅とか、今向かってるまどろみとか、そういう異界を全部ひっくるめて『異界ダンジョン』ってあたし達は呼んでるんだけどぉ、異界ダンジョンに行くには権利が必要なの」

 

「権利というのはひょっとして定期のこと?」

 

「そ。誰が、なんの目的であたし達の世界にそんなものをバラ撒いてるのかはわからないけどぉ、定期を渡される人には共通点があるんだよねぇ」

 

「共通点っていうのはイケメンってことかい?」

 

「自分で言わないの。まぁ否定はしないけど。共通点っていうのは先祖に陰陽師がいること」

 

「なるほど。そこへいくと土御門なんて陰陽師の名家だね」

 

「そゆこと。だから土御門くんは候補者リストのトップだったんだぁ。実は定期拾ったのも知ってたんだけど、やっぱりなぁって感じだった」

 

「ちょっと待って。定期拾ったの知ってたからあんな噂を僕に話したのかい?」

 

 心愛ちゃんはなんでもないことのように「そだよ」と言ってのけた。

 

 そのせいで僕は命の危機に陥ったというのに、それを救ってくれたのもまた心愛ちゃんだから何も言えない。酷いマッチポンプだった。

 

「土御門くんの選択次第だけどぉ、異界行きの定期を手に入れちゃったからとりあえずもう監視の必要はなくなるんだよねぇ。だから、今までの生活はおしまいかな~」

 

「そんな寂しいこと言うなよ。僕達の友情は嘘だったのかい?」

「あたしの場合は友情じゃなくて愛情だったりしてぇ」

 

「愛情?」

「好きってことぉ」

 

 なんてこった、こんなロマンもへったくれもない場所でまさかの告白だ。今すぐ僕も愛してると返事をしようと思ったら、

 

「返事はしないでねぇ。どっちに転んでもこんな仕事してるから付き合うのは難しいしぃ」

 

 そう言われてしまうと納得だ。日夜あんな肉塊の相手をしているのだとしたら一般人が心愛ちゃんと付き合うのは難しいだろう。

 

「待ってほしい。僕はもう一般人じゃなくなったぞ」

「まだ一般人だよぉ。まだ、ね」

 

 などと思わせぶりな発言をした心愛ちゃんに真意を確かめようとしたところ、僕の身体が「膜」を通ったのを感知した。

 

 表現として、「膜」以外に言葉が出てこなかった。空気感が変わっただとか、水中から出ただとか、色々な言葉が浮かぶがどれもしっくりこない。やはり、「膜」なのだ。

 

「今のは?」

「きさらぎ駅を抜けたんだよぉ。異界と異界を繋ぐ膜をくぐったのぉ」

 

 やはり「膜」という表現で合っていたらしい。

 

「異界はきさらぎ駅だけじゃないのかい?」

「残念なことにいっぱいあるんだなぁこれが」

 

 心愛ちゃんの言葉を証明するように、視線の先に暖色系のオレンジがかった明かりが見えてきた。あれが目的の場所なのだろう。

 

 それから更に暫く歩くと、「まどろみ」と書かれた駅に到着した。

 

「ずいぶん和風な駅だね。ここも異界なんだよね?」

「そだよぉ。ここは比較的安全だから気を緩めてもおっけ~」

 

 和を感じるのは電灯に蛍光灯ではなく提灯が使われているからだろう。強すぎない暖かな光を放つ提灯がズラッと並んでいる光景は、まるで祭りの風景だった。

 

「さ、ここの改札に普通の定期を通してぇ。間違っても異界行きの定期通しちゃダメだぞ~」

 

 言われなくてもさっさと現世に帰還したいと思っていた僕は、間違えることなく普通の定期を改札に通してホームに入った。

 

「え~と次の電車はぁ……」

 

 心愛ちゃんは僕を残して時刻表を見に行ってしまった。時刻表に興味をひかれなかった僕は線路の向かい側に見える景色に意識を移した。

 

 そこには遠目からでもわかるほどに「町」と呼べるものが広がっていた。

 

 一言で表すなら草津なんかの温泉街が一番近いだろうか。見渡す限り全てのものが純和風で統一されているようだった。

 

「面白そうなところだな」

 

 危なくないのであれば探検してみたいなと思っていると、

 

「あら? あらあら?」

 

 鈴を転がすような、という表現があるが、本当にそうとしか表現できないほどに耳にスッと入ってくる声だった。

 

 振り返ると、そこには大きな狐耳とモフモフの尻尾を持った艶やかな、という言葉がとてもよく似合う純和風美少女が立っていた。

 

「もしや稀人様では?」

「まれびとさま?」

 

 なんかさっき肉塊から逃げる時もダンディさんが言っていた気がするが……。

 

「ええ、ええ。ここではない異界の住人を指す言葉です」

「そういう意味ではそうだね」

 

 僕が答えると、彼女は僕の周囲を一周してジロジロと身体を上から下まで観察した。

 

「耳も尻尾もない……」

 再び正面に立った彼女はそう呟いた。

 

「ないね」

「やはり稀人様! このスズネ、この時をずっとお待ちしておりました!」

 

 そう言って彼女は嬉しそうに僕の手を取った。ケモナー歓喜の瞬間である。

 

 などと現実逃避している場合ではないので、僕は助けを呼ぶべく心愛ちゃんに声をかけた。そうしたら、

 

「まどろみの住人は大した危険はないから好きにさせな~」

 とのことだった。

 

「稀人様はこちらとあちらの世界を行き来できるというのは本当ですか?」

「そのようだね」

 

「羨ましいですわ。わたくしも稀人様がお住まいになる世界に行ってみたいですわ~」

 

 本当に少ししか話していないが、スズネという少女の性格は概ね把握できた。

 

 察するに、夢見る少女だ。ここではないどこか別の世界に強い憧れを抱いていて、日夜、稀人様に想いを馳せて駅を探索していた。

 

 そんな折、本当に夢見た稀人様が現れた。しかも僕のような超絶イケメン男子。きっと彼女の目には、僕が白馬に乗った王子様のように映っていることだろう。

 

「僕からすると君達が住んでいる世界の方が興味があるけどね」

「まあ! でしたら、わたくしにまどろみをご案内させていただけないでしょうか?」

 

「それはありがたい申し出だね」

「早速行きましょう」

 

 そう言って僕の手を引くスズネ。しかしてそんな僕の動きは心愛ちゃんに首根っこを掴まれて阻止される。

 

「ぐえ」

「こらこら、あたしと現世に帰るんでしょぉ」

「そうだった」

 

 美少女からのお願いは断れないという僕の生来の癖を反省していると、

 

「あら、あら、なんですこの乱暴者は」

 

 それまで一切心愛ちゃんに目線を向けなかったスズネが初めて心愛ちゃんと向き合った。

 

「陰陽庁の人間です。って言ったらあんたにはわかるでしょぉ」

「なんのことかわかりませんわぁ」

 

「とぼけんな女狐。最近コソコソ現世行きの定期探してるのあんたでしょぉ」

「はて? なんのことでしょう」

 

「まったくぅ……あんま派手にやるとあたし達が動かないといけなくなるからやめてよぉ」

「クスクス、なんのことかわかりませんが覚えておきましょう」

 

 すごい。映画みたいなやり取りでカッコいい! 僕もやってみたい!

 なんて思っていると、電車が到着した。

 

「ほら土御門くん、電車乗るよぉ」

「オッケー。それじゃまたね、スズネ」

「もう行ってしまわれるのですか……?」

 

「大丈夫、また会えるさ」

「きっとですよ……?」

「うん。きっと」

 

 電車に乗る。相変わらず乗客は5人しかいなかった。

 

「これほんとに帰れるの?」

「一駅分乗ったら現世に戻るよぉ」

 

 心愛ちゃんの言葉通り、一駅通り過ぎると現世に戻ったようで、乗降口からたくさんの乗客が乗ってきた。

 

「やあ見慣れた電車の光景だ」

「言ったでしょぉ?」

 

 自宅近くの駅に到着したので、心愛ちゃんに別れを告げて電車を降りた。

 

 外は夕焼けだった。異界の薄暗さを経験してから見ると、なんて心温まることでしょう。

 

 街を歩く人々は見慣れた姿形で、間違っても肉塊だったりケモミミがついていたりなんてことはない。話しかけても襲われなさそうだ。

 

 今日はたくさん冒険をしたのでゆっくり眠れそうだと思い、自宅マンションの扉を開けると、居間に黒服着たおっさんがいた。強盗かな?

 

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