才羽モモイのずぼら飯   作:イッセ

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親子丼

 

 

 

「モ~モ~イ~!!!(怒)!!」

 

「何よ!このゲーム部の経費わああああ!!!!」

 

「うわああああああん!妖怪ふとももが攻めてきたあああ!!」

 

「だぁれぇがぁ!妖怪かああああ!!」

 

 

ミレニアムの通路を2人の少女が、凄まじい速さで走っていく。

 

逃げているのはゲーム開発部の1年のモモイ

 

追いかけているのはセミナーの会計であるユウカである

 

 

 

「ゲーム開発になんで!スナックお菓子がいるのよ!!卵焼き用フライパンがいるのよ!!こんにゃく人形作成機ってなんだあああああああ!!!!」

 

「最後のはわたしもしらないぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

鬼の形相でモモイを追いかけるユウカ。

 

どうやら、ゲーム開発部の申請した部費の使い道で問題があったようだ。

 

 

 

「お!い!つ!め!た!わよ!!ノアに頼んで、通路の防火シャッターを閉じてもらったわ!!」

 

「ちょっ!ここまでするうぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

通路の隅に追い詰められたモモイ。

 

20分にも及ぶ追いかけっこは遂に終わり、モモイは上着の襟をむんずとつかまれて、連れていかれた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっっっと捕まえたわ!このおバカ!」

 

「ちょっ!伸びる!服が伸びる!!成長しなくちゃいけなくなるううう!!」

 

「女子の成長は15歳くらいで止まるわよ!!」

 

「絶望的なことまでいうなああああ!!」

 

 

猫のようにつかまれたまま、セミナーまで連れてこられたモモイ。

 

部屋の中央に“ぺいっ!”と投げられた。

 

 

「うううう、酷いあつかいだあああ、断固として抗議するうううう!」

 

「あんなやらかししといて何言ってんの!!!!」

 

 

いつになくぶちぎれているユウカ。

 

それもそのはず、今回のモモイはとあるやらかしをしてしまっていた。

 

 

「・・・あんた達が、ゲームに関わらないような変な申請してくるのはいつものことよ、それはそれで腹立つけど、申請を却下すればいい話。」

 

「ううう、じゃあ今回も見逃してよぉぉぉ・・・」

 

 

モモイは涙目で訴える。

 

問題児ではあるが、何かと目にかけている可愛い後輩。

 

普段であれば、そろそろ落としどころを考えるところだか・・・

 

 

「ヴェリタス買収して!セミナーPCハッキングして!申請済みに書き換えたのにキレてんのよ!!」

 

 

今回はやらかし度合いがひどすぎた。

 

 

「チヒロの告発が無かったら大問題になってたんだからね!!!」

 

「ううううチヒロめええええ。」

 

 

ここにはいない先輩に、恨めしい念を送る。

 

最も、先生に盗聴器を仕込む見返りに、このような依頼を持ち掛けてきたあたり、文句を言いたいのはチヒロの方だろう。

 

おそらくヴェリタスでも、部の後輩達へ雷が落とされているのだろうが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「次こんな事したら、ヴェリタスの問題児ともども反省室(コユキの部屋)に叩き込むからね!!」

 

独房(コユキの部屋)はいやだよおおおお!!」

 

 

数時間の説教の後、やっと解放されたモモイ。

 

追いかけっこと長時間の説教に、2人とも疲れ切っているようだ。

 

 

「今日中にちゃんとした申請書を作成して、わたしの“ぐぅぅぅぅぅ”・・・・・・・・・・・・・わたしのところに持って来なさい!」

 

 

説教を続けようとしたユウカだが、不意にお腹が鳴ってしまい顔を赤らめる。

 

 

「・・・・なかったことにしようとしてる、大きな音過ぎてできないけど(笑)」

 

「あんたのやらかしのせいで朝から何にも食べてないのよ!!笑うな問題児!!」

 

「・・・・・OH.」

 

 

現在の時刻は午後3時。

 

ゲーム開発部とヴェリタスのやらかしのせいで、昼食をとれなかったのだ。

 

これにはさすがのモモイも、申し訳ない気持ちになる。

 

 

「食堂はもう閉まってるし、コンビニにでもいくわよ!それよりも「ユウカ、お弁当ないの?」・・・・なによ。」

 

 

ユウカのセリフを遮って、モモイは出ていこうとしていたセミナーの部屋へ再び入っていく。

 

部屋を見回すと、奥のスペースにキッチンが併設されていた。

 

 

「セミナーにもキッチンスペースってあるんだ。うちの部のより広いし。」

 

「給湯室を兼用してるのよ、ちょっとした料理をする子もいるからね。それよりなにを・・・」

 

 

話しかけてくるユウカを無視して周りを見回す。

 

カップ麺やインスタントが常備されているが、目につくような食材は・・・・

 

 

(パックご飯に食パンもあるのか・・・・、冷蔵庫には卵にカットねぎにチーズ・・・・・ん?)

 

 

冷蔵庫をのぞき込むモモイに、あるものが目に入った。

 

 

「・・・よし!ユウカ!ちょっと待ってて!」

 

「はあ?一体なにするのよ?早く帰って、申請書出して欲しいんだけど。」

 

「いいから!私も走り回ってお腹空いたし、お詫びになんか作ったげる!」

 

そう言ってキッチンスペースから押し出そうとする。

 

 

「え?モモイが料理?爆発する印象しかないんだけど、やめときなさいよ。」

 

「なんでみんな似たようなこと言うのかな!?心配なら見といてよ、すぐ終わるから!!」

 

前回のアリスもだが、自分が料理しようとすると、毎回似たようなリアクションをされる。

 

何処か納得できない顔をしながらも、モモイは調理器具と食器類を取り出した。

 

 

「まずはフライパンを用意して、冷蔵庫にあった鶏もも肉を2,3センチ台に切っていく。・・・・なんでこれだけ入ってたの?」

 

「前に誰かが作ったサンドイッチの具ね、3つ入りが安かったそうなんだけど、流石に使いきれなかったみたい。」

 

「・・・ま、良くある話か。切っていった鶏肉はフライパンに皮が下になるように並べる」

 

 

手早く鶏肉を処理していくモモイに驚きつつ、ユウカはあることが気になった。

 

「火、つけないの?あと、サラダ油もあったと思うけど。」

 

「フライパンに並べ終わるまでは、火はつけないよ。」

 

「あと、鶏肉・・・今回は特にモモ肉だから、油も肉から出るので十分。」

 

 

話していると、鶏肉の処理が終わる。

 

 

「並べ終わったら火にかけるけど、火力は中火にする。この後も火力はいじらない。」

 

「結構弱い火力なのね、最初は強火で焦げ目をつけるのかと思ってたわ。」

 

「この火力でも焦げ目はつくよ!それよりも、鶏肉は牛や豚よりも火の通りが悪いから、じっくり焼いてあげるのが重要!」

 

 

解説しながらの調理だが、動きによどみがない。

 

料理自体に慣れているのだろう、モモイの意外な一面を見ている気がする。

 

 

「今のうちに、パックご飯をチンしておく。ほんとは炊いた奴の方が美味しいんだけどね。」

 

「炊飯器はあるけど、流石に炊いてないわよ。」

 

「炊飯器あるの!?」

 

 

キッチンの隅を見るユウカ。その視線をたどると、確かに5合は炊けそうな炊飯器がおいてあった。

 

 

「どっかの部活が作ったやつみたいだけどね。」

 

「えっ、まさかエンジニア部?」

 

「そんな危険なモノ、セミナーに置かないわよ。」

 

 

エンジニア部の扱いは相変わらずだが、それはいつものことである。

 

そんなことより、セミナーに炊飯器があるのは知らなかった。

 

 

(今度使うときは貸してもらおう。)

 

 

「パックご飯が先にできるけど、丼ぶりに移して少し冷ましておこう。鶏肉もいい感じかな?調味料を加えていくよ!」

 

「?片側しか焼かないの?」

 

「焦げ目が皮以外にもついちゃうからね!」

 

 

一旦火を止めて、冷蔵庫からあるものを出す。

 

 

「普段はみりん・お酒・醤油、気分で砂糖を混ぜるんだけど、めんつゆがあったんだよ!これ、本当に便利だよねえ。」

 

フライパンにめんつゆと水を同量くらい加えて、再び火をつける。

 

「つゆを入れてから、鶏肉を裏返す。あ、味見は絶対してね!ユウカどう?」

 

「・・・・・おいしい、えっと、今更だけど作ってるの親子丼でいいのよね?」

 

「玉ねぎの入ってないなんちゃってだけどね!鶏肉と卵だけでも美味しいし、最後にひと工夫加えるから。」

 

 

ユウカから小皿を受け取り、モモイ自身も味見をする。

 

 

「うん!ちょうどいい味!」

 

「けどここから卵を入れてご飯にかけるから、もっと水気をとばして煮つけていくよ!」

 

 

とはいっても、火の強さは最初と変わらず中火をキープする。

 

つゆの量が半分以下になるまで、煮込みを加える。

 

 

「もう一度味見をして、そこそこ濃い味付けになったら、卵を用意するよ!ちょっと多めで4個くらいかな?」

 

 

お椀を用意して、その中に4つの卵を入れる。そして、モモイは冷蔵庫からある意外なモノも取り出してきた。

 

 

「ここで、ひと工夫!冷蔵庫の中にあった『3種のチーズ』を加えるよ!ピザとかに使うとろけるやつだね!」

 

「ちょ、ちょっとまちなさい!親子丼にチーズをいれるの!?あうのそれ!?」

 

「まあまあ、騙されたと思って食べてみるといいよ!」

 

「このチーズも、鶏もも肉と同じサンドイッチに余ったやつ?」

 

「・・・ええ、食パンも余ってたでしょ?」

 

 

軽食の代表ともいえるサンドイッチだが、肉系の具材で作った場合、結構な食べ応えがある。

 

おそらく、想定以上の量を用意してしまい、食材を余らしたのだろう。

 

 

「ふーん、まあいいや!卵とチーズはしっかりとかき混ぜる!」

 

「親子丼の卵はあんまりかき混ぜるなって言う人もいるけど、白身と黄身の固まる温度が違うから、私はしっかりとかき混ぜる派!」

 

 

チーズの入った溶き卵を用意していると、つゆが煮詰まってきて食欲をそそる匂いがしてきた。

 

 

「いい感じに煮詰まって来たところで、溶き卵を加えていくよ!」

 

「ゆっくりと『の』の字を書くように、数回にわけて入れるのがポイントかな」

 

 

ぐつぐつとフライパン上で鳴く鶏肉とつゆの上から、チーズの入った溶き卵がとろ~りと流し込まれていく。

 

 

“ごくっ”

 

 

チーズという親子丼に使うとは思えない食材を見せられた時は不安を覚えたユウカだったが、フライパンの中で徐々に溶けていくチーズを見ると、つい喉を鳴らしてしまった。

 

 

「これくらいかなぁ、ユウカ!ご飯取ってもらっていい?」

 

「・・・え、えぇ!はい!」

 

「ありがと!」

 

 

パックから茶碗へ移し替えて、冷ましていたご飯を受け取ると、モモイはお玉を取り出してフライパンの中をゆっくりとかき回し、中の親子丼を掬い取った。

 

“とろぉぉぉぉぉ・・・・ぷるんっ!”

 

溶けだしたチーズと卵が、程良く冷まされたご飯の上で揺れる。

 

 

「最後に刻みネギをのっけて、モモイのずぼら飯『チーズ親子丼』の完成だよ!!」

 

「ごくり。・・・・お茶取ってくるわ!!!」

 

冷蔵庫へ走るユウカをしり目に、モモイは2つの親子丼を持ってテーブルに向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よし!早速食べようよ!調味棚に七味があったから、お好みでかけてね!!」

 

「え、ええ。いただきます。」

 

 

モモイに促されて、おそるおそる箸をつける。

 

 

卵とご飯を箸にのせて持ち上げると、“ふにゅー、プツン”と、チーズの粘り気を感じた。

 

 

(チーズの入った親子丼か・・・まずいことは無いでしょうけど、一体どんな味なのか。)

 

 

ゆっくりと箸を動かし、親子丼を口に運ぶと・・・・

 

 

(おっ、おいしっ!!)

 

 

卵のふんわりとした食感の中に感じる、チーズの粘り気。

 

めんつゆの濃い味が、卵のまろやかさに包まれて、最後にチーズの後味が口の中に広がる。

 

 

「鶏肉も、とっても美味しいわ。皮はパリッパリなのに、肉自体はすっごく柔らかい。」

 

「焼きを片側だけにしたのと、ゆっくりと火入れをしたからだね!あと、使ったお肉が安い鶏肉なのもよかった、高い地鶏とかは、味はいいけど肉が固いんだよね。」

 

 

(へえ、食材も高いほどいいってわけじゃないのね・・・。)

 

 

問題児である後輩の、それも成績がいいとは言えないモモイに対して、ここまで感心させられるとは、数刻前までは思いもしなかった。

 

 

「玉ねぎが無くても美味しいわね。最後にのせたカットねぎもいい感じだし。」

 

「ねぎのシャリシャリ感が好きだから、カットねぎは火を通さないことが多いんだよね。」

 

「・・・あと、丼ぶりのつゆって甘いでしょ?火を通した玉ねぎの甘さより、ねぎの辛さの方が合う気がするんだよ!好みの問題だけどね!」

 

 

おそらく、モモイ自身が好きな味を追求しているだけなのだろうが、一つ一つの調理に理屈が通っている。

 

 

(この子、ほんとにあのモモイ!?さっきから感心させられっぱなしなんだけど!?)

 

 

「同じ理屈で、味変に七味をかけるのもおいしいよ!」

 

「・・・・・もらうわ。」

 

 

すすめられるままに、卓上の七味を少し振りかける。

 

七味の辛みだけでなく、中に含まれる黒ゴマや麻の種による香ばしさやスッキリ感が箸をすすめさせた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・ごちそうさま。・・・・おいしかった。」

 

「へへん!そうでしょ!ざっくりできる料理は得意だからね!」

 

 

食器を片付けながらドヤ顔で答えるモモイに対して、想像以上においしかったことから何も言い返せないユウカ。

 

・・・・ただ、あえて1つ思うことは。

 

 

(・・・・・もっと、食べたかった。)

 

 

遅くなったお昼ご飯に対してパック1つのご飯の量は、少し物足りなさを感じた。

 

 

(まあ、夕飯も近いし、ちょうどいいのかもしれな「あと、これもあげる!」・・・?)

 

 

そう言って渡されたのはアルミホイルの塊。

 

なにこれ?と思いつつ少しめくってみると。

 

 

「・・・・パン?サンドイッチじゃない。」

 

「食パンあったからね!具はさっきの親子丼だよ!」

 

 

卵を4つも使っていたからなぜかと思ったが、これの為に多めに作ったらしい。

 

 

「あ、ありがと・・・ねえ、よかったらなんだけど「あっ!ユウカがもも肉食べたら共食いみたいだよねえ!!ん?なんか言った?」・・・・さっさと申請書用意しなさい!問題児!!!!」

 

 

余計なことを言ったモモイを怒鳴りつけ、部屋から追い出す。

 

少しだけ、本当に少しだけ手伝ってあげようと思ったのだが、気の迷いだったに違いない。

 

やはり、問題児は問題児だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ってことがあったのよ!全く、これだからゲーム部は!!」

 

「まあまあ、結局問題は起きなかったんですから。」

 

「ノアは優しすぎるのよ!!」

 

 

セミナーの部屋でユウカとノアの2人が話している。

 

 

「よし!じゃあノア、この申請書の入力お願い。」

 

「わかりました。」

 

 

どうやら、問題だった部費申請書の処理に残っているようである。

 

 

「それにしても、モモイちゃんが料理上手とは驚きですね。」

 

「・・・あんなの、怒られたくないから頑張っただけでしょ!」

 

 

不機嫌そうに答えるユウカ。

 

しかし、その頬は少し赤く、机の傍のごみ箱にはクシャクシャにしたアルミホイルが捨ててある。

 

 

「結果的に問題なかったとはいえ、ユズにも一言いいに行ってやるんだから!」

 

 

そう言いのこして部屋を出ていく。

 

おそらくゲーム開発部へと文句を言いに行ったのだろう。

 

 

「・・・さて、わたしもこれを入力したら部屋に、・・・・・・あれ?」

 

 

ユウカから受け取った申請書に視線を落とすと、ノアはあることに気づいた。

 

 

「・・・ふふふっ、本当にユウカちゃんはモモイちゃんに甘いですね♪」

 

 

その手に持つ申請書にはモモイが再提出して、ユウカが監査した書類が握られていた。

 

 

『卵焼き用フライパン  申請済。』

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