才羽モモイのずぼら飯   作:イッセ

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豚の角煮

 

 

「センセー!きたよー!!」

 

 

シャーレのオフィスにて、モモイの元気な声が聞こえる

 

先生が所属する連邦捜査部シャーレには、日夜キヴォトス各地から生徒たちの悩みや相談が持ち込まれており、その業務は膨大な量となっていた。

 

その為、シャーレは有志の生徒達による当番制度により、先生の業務を生徒が手伝うことがあるのだ。

 

そして、本日の当番はミレニアムのゲーム開発部に所属する、我らがモモイなのだが・・・

 

 

「・・・・・うん?・・・ああ、モモイ。今日の当番はモモイか。」

 

「えっ!先生、顔色悪!!クマもあるし、また寝てないでしょ!!」

 

「ははは。」

 

 

いかに当番という制度があっても、シャーレの業務は膨大である。

 

それに重ねて、捜査部という名の通り、何かしらの問題があれば先生自らが現場に赴き問題の解決にあたる。

 

当然その間の業務は滞るので・・・・

 

 

「・・・3徹くらいかな?書類が全く終わらなくてね。でも、なんかテンションは上がってて、全然眠くな・・・・あれ?使った弾薬類の請求書を書いてたはずなのに、出張の報告書を持ってる?チェリノ会長、ツケヒゲ紛失により300発分申請?なにこれ?」

 

「寝なよ!!いや寝ろ!!多分、書いてる書類ほとんどわけわかんない内容になってるから!!」

 

 

出張帰りの先生は、寝不足なことが多い。

 

 

シャーレの権限は強大であり、キヴォトス内であればどこであっても戦闘行為や戦力の確保が可能なほどだが、事後の報告書は必ず必要となってくる。

 

なので、こうした連日の徹夜作業もよくあることなのだが・・・

 

 

「最低3時間は寝てきなさい!!できる書類はやっとくから!!」

 

 

ボケっとしている先生を強引に仮眠室へと放り込む。

 

本人的には起きているつもりなのだろうが、徹夜のし過ぎで頭は熟睡状態、これではまともな報告書も書けていないことだろう。

 

その証拠に・・・

 

 

「何この書類?『チェリノ会長の銅像100発分発射のため、レッドウィンターで手榴弾のクーデター。スナイパーライフルの白髭により鎮圧後、9㎜ぱら200発による尻たたきの刑』????地獄かな?」

 

 

おそらく、キヴォトスにある学園の1つ、レッドウィンター連邦学園にでも出張していたのだろう。

 

チェリノ会長とは、たしかそこの生徒会長だったはずだ。

 

そこで起きたクーデターの鎮圧に参加したのだろうが、備品の計算と一緒くたになっていて、内容が滅茶苦茶である。

 

 

「と、とにかく!出張内容の書類は私じゃわかんないから、予定表に書いてる項目から始めて、通常業務を!書類系統は分類別にだけまとめて・・・んっ?ナニコレ?・・・いや!それどころじゃない!申請に必要なレシートはまとめてetc」

 

 

・・・・数時間後。

 

 

「ごめんモモイ!!完全に寝ちゃってた!!」

 

「はあ、先生無理しすぎだよ?書き終わってた書類の幾つかが、わけわかんない内容になってたよ?」

 

 

先生を仮眠室に押し込んでから4時間ほどたっただろうか?

 

飛び起きてきた先生は、顔色も回復し意識もはっきりとしている様子だ。

 

その間モモイも、通常業務を終らした後、できる範囲で書類をこなしていたのだが・・・。

 

 

「『交通費の申請。電車代2400円バス代510円ユウカの太もも代100㎏』・・・ユウカにしばかれるよこれ。『消費した各種備品。コピー用紙、ボールペン、リンちゃんのめがね、柴関ラーメン、超合金メカペロロジラverアバンギャルド君仕様。』これに関しちゃ、どこから突っ込めばいいのかすらわかんないよ?」

 

「・・・面目ない。」

 

 

シュンとしている先生は可愛いが、それはそれとして十枚近い書類が面白い内容となっている。

 

とはいえ、そこは超人と呼ばれた連邦生徒会長直々にスカウトされた先生。

 

 

「うおおおおおおお!!“シュパシュパ書き書きケシケシ”」

 

 

モモイが整理・分類していたこともあり、束になっていた書類は修正が必要なものを含めてみるみる減っていき・・・。

 

 

「「おわった~!!」」

 

 

日が沈む前には、すべての書類を終らすことができていた。

 

 

「全く、いくら出張で仕事が溜まってても、ちゃんと寝ないとダメだよ?」

 

「いや、分かってはいるんだけどね?書類には期限があるから・・・。」

 

「・・・いや、明らかに仕事の効率悪かったから。」

 

「・・・・返す言葉もない。」

 

 

普段はユウカ達におこられることが多いモモイだけあって、こうして説教する側に回るのは珍しい。

 

そんな珍しい説教相手のトップ2が、アリスと先生だったりする。

 

アリスは持ち前の素直さが暴走して・・・そして、

 

 

「先生に無茶のしすぎで説教するのも、結構な回数になったよ(#^ω^)」

 

「面目ない。」

 

 

先生相手の場合は、今回のような過労によるお小言がほとんどだ。

 

 

「・・・まあ~?先生も先生で、しっかりストレス解消の方法は用意してるみたいだけどね~?」

 

「・・・・???」

 

 

そう言ってモモイは、先生の机の隅に視線を向ける。

 

 

「・・・・・!!!!」

 

 

モモイの視線をたどると、生徒にはあまり見せたくないものがあることに気付いた。

 

それは、モモイが手伝いを始める時、たまたま見つけた・・・

 

 

「『月桂冠 月』・・・先生ってお酒飲むんだね~(笑)」

 

 

2リットルのパック酒が置かれていた。

 

 

「いや、モモイ。これはちがってね?」

 

「何焦ってるのさ?先生は大人なんだから、お酒飲むくらい普通でしょ?」

 

「・・・いや、そうなんだけど。」

 

 

キヴォトスがいくら学園都市といっても、そこで働く大人も多い。

 

故にコンビニには普通に酒やタバコが置いてあるし、飲食店にはアルコールを出している店も普通にある。

 

 

「・・・たしかに問題はないんだけど、先生として生徒の前であまりそういう姿は見せたくないというかなんというか。」

 

「業務中じゃないんなら、気にする必要ないと思うけどね~。」

 

 

普段の先生からはイメージできなかったので、ついからかってしまったが、正直気にしすぎだと思う。

 

確かに、先生という体面を考えれば、わからなくもないが・・・。

 

 

(そういった普段と違う姿を見たい生徒が、キヴォトスに何人いるやら。)

 

「モモイ?」

 

「先生もクソボケなとこあるからな~。」

 

「ひどいΣ(゚Д゚)」

 

 

この鈍感男は、自覚することもないのだろう。

 

 

 

「・・・・・へえ、週末の楽しみに買ってたんだ。」

 

「うん、土曜日にお休みをとれたから、金曜の夜に飲もうと思って。」

 

 

普段から忙しい先生にとって、1日まるまる休みというのは珍しいことだ。

 

コンビニでも売っているような日本酒を、水曜日の今日から用意しているあたり、よほど楽しみにしていたのだろう。

 

 

(・・・・週末ね、・・・ちょっと、作ってみるか。)

 

 

仕事終わりの雑談を楽しみながら、モモイはとある計画をたてていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

金曜日の夕暮れどき。

 

シャーレビルの前には、スーパーのビニール袋とかばんを背負ったモモイの姿があった。

 

 

「そろそろ仕事も終わってるかな~?」

 

 

ビルの中へと入り、シャーレのオフィスへと向かっていく。

 

オフィスの明かりはついており、先生がまだ残っていることが確認できた。

 

 

「先生、いる~?モモイちゃんが遊びにきた・・・ふぇ!?」

 

 

オフィスに入ると先生の姿はなく、代わりに目つきの鋭い、白黒の髪をしたとんでもない美人がたたずんでいた。

 

 

「あれ?こんな時間にお客さん?」

 

「ぽーーーー、はっ!はははい!!先生に会いにきたんですけど!!」

 

 

色白な肌に澄んだ声、そのたたずまいに思わず見とれてしまうモモイ。

 

てっきり先生1人だと思っていたこともあり、返答もしどろもどろになっていた。

 

 

「・・・・そっか、少し席を外しているだけだから、ちょっとだけ待ったら「カヨコ?誰かきてるの?」・・・きたみたいだね。」

 

 

部屋の奥から先生が顔をだした・・・・・・心なしか美人さんの表情が曇ったように感じたが気のせいだろうか?

 

 

「あれ?モモイじゃないか、一体どうし「ちょちょちょ!先生?!この美人さんはいったい!?彼女?恋人??大人の女性がなんでシャーレに?!?!?!」ちょっと落ち着こうか?」

 

 

動揺が収まらず、思わず詰め寄ってしまう。

 

先生に恋人がいることもそうだが、大人の女性がいること自体珍し「カヨコはゲヘナの生徒だよ?」「はあ!?」

 

 

与えられた情報に、再度冷静さを失う。

 

 

「生徒のだせる色気じゃないよ!!お姉さんとか先輩とかレベルじゃなくて、大人の色気がムンムンなんだけど!!」

 

「//////////////」

 

「うん、めっちゃわかる。」

 

「!?!?!?!?!」

 

 

先生とモモイがはじめた掛け合いに、只々顔を赤らめることしかできないカヨコの姿がそこにはあった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

(怖がられたわけじゃ、なかったんだ。)

 

 

便利屋68の課長である鬼方カヨコは、生まれ持った鋭い顔つきから、数々の誤解を受けている生徒である。

 

自身の顔つきが原因で、難癖をつけられた回数は数知れず。

 

初対面の相手には、大体が怯えられる。

 

 

(こっちを見て固まるものだから、あの子も怯えてたのかと思った。)

 

 

カヨコがシャーレに居るのは、ただ単に今日の当番だからである。

 

仕事も終わり、片付けをしていたところ、ちょうどモモイが訪ねてきたのだ。

 

こちらを見るや否や、目を見開いて動きを止めたモモイに、いつものことかとあきらめつつ声をかけたのだが・・・・

 

 

「そうなんだよ、カヨコってすっごい美人さんなんだけど、全然自覚がなくて。」

 

「いや、改めて見たらリオ会長とかの方が年上っぽいんだけど、なんか身にまとってる雰囲気がザ・いい女!みたいなんだよ!スパイ映画とかにでてきそうで!!」

 

「わかる!話してると、大人の女性とやり取りしてるみたいに感じる時がある!」

 

「////あの・・、そろそろやめてもらえると。/////」

 

(ふたりともずっと褒めてくれるんだけど/////こんなの聞いてたら身が持たないよ////)

 

 

カヨコの持つ色気について、大盛り上がりしている2人を止めに入る。

 

言われ慣れていない言葉を矢継ぎ早に浴びせられ、もう限界寸前である。

 

 

「でもそっか~、こんな美人さんと飲むんなら、流石にお邪魔だったかな?おつまみになりそうな料理持ってきたんだけど。」

 

「!!モモイの料理!!それもおつまみって・・・食べたい!!!」

 

 

(・・・・飲む?)

 

 

照れている間に話は進み、あれよあれよと流されていくカヨコなのであった。

 

 

 

 

「・・・私も一緒してよかったの?」

 

「ぜんぜんオッケーだよ!せっかく知り合えたことだしね!!」

 

 

シャーレの給湯室で、モモイとカヨコは話していた。

 

「くる時にスーパーへよったから、食材には余裕があるし、皆で食べた方が美味しいしね!」

 

 

持ってきたレジ袋を見せて得意げに語るモモイ。

 

 

それならせめてとカヨコも手伝いを申し出る。

 

 

「うん!ありがと!でも、主菜は作ってきてるんだけどね!」

 

 

そう言ってかばんから取り出したのは、ジップロックに入った肉の塊と煮卵だった。

 

 

「これって、チャーシュー?」

 

「うん!豚バラ肉のブロックを用意したよ!水曜日にいい感じの奴が安売りしてたんだ!」

 

 

どうやら、このモモイという生徒。

 

前日からこの料理を仕込んでいたらしい。

 

 

「でも、いい感じのお肉って?」

 

「うん、豚バラって言う部位は脂身が多いんだけど、あんまり油分が多いと食べてるうちに気持ち悪くなる場合があるの。私は、豚バラの中でも脂肪の白い部分が少ないやつを選んでる。」

 

 

便利屋の食事はカップ麺やおにぎりが多く、お金があるときは外食になる。

 

カヨコ自身も全くできないわけではないが、料理が得意というわけではない。

 

 

「あとは下処理をしっかりすることかな?フライパンで周りにしっかりと焼き目をつけた後、1回下茹でしてる。焼いた後そのまま煮つける人も多いんだけどね。」

 

 

なので、モモイの話は興味深いものばかりだ。

 

簡単な料理を覚えてアル達にふるまえれば、きっと喜んでくれることだろう。

 

 

「一緒に入れてるのは煮卵?」

 

「そうだよ!キッチリ6分半計ったゆで卵を氷水の中でカラ剥きした!普段は茹で時間とか適当に作るけど、半熟卵だけはちゃんと時間管理しないといけないからね!」

 

 

そう、今日のモモイ料理はずぼら飯ではない。

 

今週お疲れ気味の先生のために、珍しく手の込んだ料理を持ってきたのだ。

 

 

「もっとも、今から作るのはお手軽おつまみなんだけど。」

 

「チャーシュー以外にも作るんだ?」

 

「これだけじゃ味気ないしね!」

 

 

そういうとスーパーの袋から豆腐とキムチを取り出した。

 

 

「作るのはキムチヤッコだよ!火も包丁も使わない簡単おつまみ!」

 

「冷ヤッコか、醤油をかけたらできるから家でもたまにたべるよ。」

 

「ノンノン、普通の冷ヤッコも好きだけど、今回のは豆腐にキムチをのせてめんつゆとごま油をかけるよ!」

 

 

そういうとモモイは、豆腐を取り出してよく水をきる。

 

その後キムチをのせれるだけのせたら、めんつゆ、ごま油の順番にたらす。

 

こうして、先生を労うためのおつまみたちが完成するのだった。

 

 

 

 

「おつまみはこれで完成!・・・・後は私とカヨコさんの分だね!にしし!」

 

「え?ちょっとモモイこれって!?!?!?!」

 

 

まだ他にも、モモイのたくらみがあるようだが・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「せんせー!できたよー!」

 

「おお!まってたよ!」

 

 

テーブルには、先に座る先生の姿があった。

 

その手元には、日本酒『月桂冠 月』とガラスコップがある。

 

 

「先生、ついであげるね?」

 

「えっ、あ、ありがとうカヨコ。」

 

 

手にしようとした日本酒は、いつの間にかカヨコの手の中にあった。

 

コップを持ち、少しカヨコの方に寄せると、両手で抱えるように持っていた酒パックを傾け、ゆっくりと注いでくれる。

 

 

“トクトクトクトク”

 

 

流れるような白い髪に、伏せがちの目、お酌をしてくれるカヨコは・・・

 

 

「うわっ、カヨコさん、お酌する姿似合いすぎじゃない?ちょっと色っぽすぎ!」

 

「・・・ハッ!・・・そ、そうだね!!」

 

「////ふたりとも恥ずかしい////」

 

 

モモイの言葉で我に返る。

 

先生自身、あまりの色っぽさについ見とれてしまっていた。

 

 

「と、とにかく食べようか!これは冷ヤッコかな?」

 

「そうだよ!絹豆腐を水きりして、キムチにめんつゆとごま油で味付けした!水きりを丁寧にするのがポイントかな!」

 

 

モモイの説明を聞きながら、箸で豆腐を切り分けていく。

 

一口だいになった豆腐と少量のキムチを一緒に口へと運んだ。

 

“もぐ”“パリパリ”

 

「!」

 

 

キムチの歯ごたえが心地よく口に広がり、豆腐のまろやかさとめんつゆの味が見事にマッチしている。

 

 

“ごく”

 

 

後味に広がる香ばしさは、おそらくゴマ油のものだろう。

 

キムチの辛みも感じるが、豆腐と一緒に食べたことで、辛味以上に旨味が口いっぱいに広がった。

 

 

“キュー”“ごく”

 

 

料理の旨みが残るうちに、すかさず日本酒を煽る。

 

甘くはないが、辛口というほどの刺激でもないキレのある爽快さが、口いっぱいに広がった。

 

 

「・・・・うまい。」

 

 

簡単な料理にも拘わらず、ここまでよいおつまみになるとは思わなかった。

 

これであれば、晩酌時にでも自分で作ることができそうだ。

 

 

“ごく”「・・・・さて。」

 

 

もう一口日本酒を飲み、いよいよ本日の主菜へと箸を進める。

 

 

(チャーシュー、角煮かな?)

 

 

赤身と脂身が層をなす、一般に三枚肉と呼ばれる部位を煮込んである料理だ。

 

箸で持ち上げると、脂身がとろりとしたたっていた。

 

 

(美味しそうなんだけど、最近脂身がつらい時があるんだよね。)

 

 

以前に胸やけをおこしたこともあり、おそるおそる口に運ぶ。

 

半分かじると、脂身から濃厚なあぶらが口内に入っていき

 

 

「・・・へ?う、うま!!」

 

 

強烈な油の旨みに、思わず声が出る。

 

以前食べた時はくどく感じ、途中から胸やけすらおこしたのだが、そんな嫌な味が全くしない。

 

 

(口の中でお肉がホロホロとほどける。たくさん脂身があるはずなのに、嫌な感じが全くしない。)

 

 

“キュー”“ゴク”

 

「!!!」

 

 

そして、口内を蹂躙していた旨みの油分は、日本酒を流し込むことでキリっとした味わいと共に流されていく。

 

 

「・・・・・・うま!」

 

 

最高、最っっ高のおつまみである。

 

コップを差し出すと、カヨコがお酒をついでくれ、冷ヤッコと角煮を交互に食べて、日本酒でながす。

 

ハードだった今週の疲れが、みるみる解消されていくのがわかった。

 

 

「・・・・・うん、喜んで貰えてよかったよ!それじゃあ今度は、私たちの分。お楽しみを始めようか!!」

 

 

そう言ってモモイがあるものをテーブルにおいた。

 

 

「・・・それって・・・土鍋?」

 

「うん!私とカヨコさんは飲めないからね!料理で楽しませてもらうよ!!」

 

 

そういって土鍋の蓋を持ち上げると、中からはつやつやの白米が湯気と共に現れた。

 

 

「おおお!土鍋で炊いたごはんかあ!!」

 

「土鍋で炊けるの?」

 

「あれ?カヨコさん食べたことない?普通にお米を洗って30分ほど水を吸わせたら、中火で沸騰させて、沸騰したら弱火で15分、水がなくなったら火を止めて10分蒸らして完成するよ!計30分もあればできるから、炊飯器より早いかもね!!」

 

モモイが持ってきたカバンの中身は、ほとんどがこの土鍋で占められていた。

 

それもそのはず、先生が勤めるシャーレの給湯室には、炊飯器がない。

 

せっかく久々に手の込んだ料理を作ったのだ。

 

どうせなら美味しいごはんでおかずを食べたい。

 

 

「そこで登場するのが土鍋だよ!これでもおこげがつくし、上手に蒸してあげれば、とっても美味しい白米になるの!」

 

 

土鍋の中をしゃもじで混ぜながら解説するモモイ。

 

手元を見ると、土鍋の右側に接しているお米が、香ばしい香りを放つおこげ状になっている。

 

 

「カヨコさん!どんぶりかして!」

 

 

カヨコからどんぶりを受け取ると、混ぜていた白米をよそっていく。

 

当然、おこげの部分もどんぶりに入れて、その上から豚の角煮と半熟煮卵をのせる。

 

 

「それから、おつまみで余ったキムチも、丼ぶりの隅にのっけて、最後にツケダレを回しかけると・・・。モモイ特性!『豚の角煮丼』の完成だよ!」

 

 

盛りつけられたどんぶりを受け取り、改めて完成したそれを見る。

 

つやつやと照り輝く白米、香ばしい香りはおこげの部分から漂ってくる。

 

そんな白米の上を、とろとろにとろけた角煮の脂身がかけられたツユと共に滴っていく。

 

 

“ごくっ”

 

 

口の中に溜まった唾をのみ込む。

 

ゆっくりと箸を持ち、1個丸々のせられた煮卵を半分に割ると

 

 

“つぷ・・とろぉぉ!”

 

 

「っ!」

 

 

押し込んだ箸を伝って、半熟状態の黄身がツユを吸った白米の上にこぼれた。

 

 

「・・・い、いただきます!!」

 

“ハム!・・・モグモグ。”

 

 

「!!!!」(おいっっっしぃ!)

 

 

最初の一口は小さく切った煮卵と白米、ツケダレと角煮の油分がしみ込んだ部分を口に入れる。

 

味がしみ込んだ煮卵の味がしたと思えば、次の瞬間には黄身の濃厚な旨味が口いっぱいに広がった。

 

 

“もぐ、もぐ、”(噛むたびに旨みが染み出す・・・半熟の黄身がご飯をコーティングされて、すっごく美味しい!)

 

 

一噛みごとに美味しさを噛みしめるが、箸は次の一口を掴んでいた。

 

本日の主菜、どんぶりの上でとろける豚の角煮を、口に運ぶ。

 

 

「“ハグ”・・・・・・っっっっっっっっっ!!」

 

(とろっっっとろ!!甘辛いたれと、豚の脂身が絡んで、最高の味!)

 

 

“ハグ、ハグッ!”“もぐもぐもぐ”

 

角煮を食べると、その味の濃さからご飯が欲しくなり、ご飯をほうばると、又角煮の油分が欲しくなる。

 

 

「“パリっ”!!!!??」

 

 

そんな味の連鎖の中、確かな主張を放つのは、付け合わせとしてのせた白菜キムチである。

 

パリパリとした歯ごたえは、角煮やご飯に合い、なにより・・・

 

 

「甘辛いタレに・・・キムチの辛みが最高にあう!!」

 

「でしょ!豚の角煮・半熟煮卵・炊き立てのご飯・白菜キムチ!この組み合わせは本当に最高だと思うんだよ!!」

 

 

自分のどんぶりを搔きこみながらも、嬉しそうにモモイは答える。

 

 

「角煮も煮卵も、同じタレにつけてるからね!いくらおいしくても飽きがくる。そこで、キムチの辛さでリセットさせるの!・・・あ、先生は持ってきたからしをつけてもおいしいから「モモイ。」んぃえ?!ど、どうしたの?先生?」

 

 

どんぶりをよそってから全く反応がなかった先生に、いきなり声をかけられて驚くモモイ。

 

そちらを振り向くと、先ほどまで楽しんでいた日本酒をテーブルの端によけていた。

 

 

「モモイ・・・・私にもご飯ちょうだい!!」

 

「ふえ?!う、うん、まあいいけど、お酒はいいの?先生が飲むって言ってたから冷ヤッコ用意したんだけ「無理!!土鍋?!角煮と煮卵とキムチのどんぶり?!そんなの、がまんできないよ!!!」・・・おおう、そこまでか(;^^)」

 

 

どうやら、モモイとカヨコが食べている姿をみて、食欲が限界を迎えたらしい。

 

残った白米を使って、もう一つ角煮丼を作ってあげる。

 

 

「おいしい!おいしいい!!」

 

「本当、すっごくおいしい。」

 

 

まるで子供のようにはしゃぐ2人を見つめ、モモイはつい顔をほころばせた。

 

 

(最初は大人っぽい人だと思ったけど、カヨコさんもこんな表情するんだ。)

 

 

身にまとった雰囲気から、どこか大人っぽく、絡みにくい印象があったカヨコ。

 

それでも、先生とはしゃぐ姿からは、学生らしさを感じられた。

 

 

(料理に興味あるみたいだし、いくつかレシピ教えてあげようかな♪)

 

 

モモイにとって、数少ないミレニアム生以外の友人が、1人増えた瞬間である。

 




作者は下戸なのですが、カヨコにお酌はして欲しい。

ということで、ミレニアム生以外の初めての登場キャラは、鬼方カヨコでした。

便利屋68は大好きなので、この後も登場回を作ろうと思ってます!
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