魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第9話 魔法少女たちの邂逅

 ほむらは言葉を紡いだ。

 鹿目まどか、美樹さやか、百江なぎさの語った真実を、ありのままに。

 

 マミはそれらを聞き届け、手を顎に当てて思案する。

 

「魔法少女狩りに、それらに縁を持つ魔法少女を探す……ね。未だ現状について解決が見えないのが実情、ということね」

「でもそれなら、そのまどかっていう魔法少女の連中に任せるしかないんだろ? あたし達にどうこう出来そうな問題じゃなさそうだし」

 

 杏子もマミと同じく、自分たちでは解決が見込めないと悟ったようだ。

 ほむらはその答えに概ね満足して、応える。

 

「信じてくれるなら話は早いわ。問題は、彼女たちがそれらを知る魔法少女を探る間、私たちが時間稼ぎをしなければならないということ。つまり、魔法少女狩りを食い止めないといけない」

「鹿目まどかさん達を狙う魔法少女狩りがいる、ということね。彼女たちを狙うハンターを逆に狩るのが私たちの役割」

「そういうことよ」

 

 マミの言葉に、ほむらは頷いた。

 

「勿論、私たちもまた魔法少女狩りに狙われる。ミイラ取りがミイラになる、なんてことは絶対に避けなければいけない」

「鹿目さん達が、その魔法少女に渡りを付けられるという保証は?」

「ないわ。ただ彼女たちは信頼できる。彼女たちが出来る、と言うならそれを疑う理由はない」

 

 力強く、ほむらは断言した。

 

「根拠は無くても信用は出来るってことか。待ちぼうけってのは苦手な分野なんだけどな」

「私たちがチームを組むなら、この件に関しては絶対に従ってもらう」

「隠し事しかないあんたにか? ちょいと虫が良すぎる話なんじゃない?」

「不満があるならこのまま解散するしかないわね」

「わーってるよ。あたし達も元々、お互いの利益を優先した上での協力関係なんだからね。情報さえもらえるなら、あんた達に背中を預けるかどうかは、自身の判断でってことだろ」

「そのくらい割り切ってくれるならそれで充分よ。各個撃破される恐れよりも、味方に後ろから撃たれる可能性を考慮するくらいの警戒心は必要だわ」

「やれやれ、だ」

 

 ほむらはドライな感想を交えて、杏子との会話を打ち切った。

 と。

 

「あの、皆さん」

 

 おずおずと、会話を横で聞いていたなのはが小さく手を上げた。

 

「魔法少女狩りの皆さんと、なんとか穏便に済ませることは出来ないんでしょうか。流れに従って敵対するよりも、抗って交渉してみるのも一つの手段かと思うのですが」

 

 なのはの言葉に、ほむらはため息をついた。

 マミが彼女に代わって応える。

 

「魔法少女狩りはそこまで甘い連中じゃないわ。私を襲撃した魔法少女、どう見ても正気には見えなかった。いえ、狂気しか見い出せない、と言った方が正しいかもしれなかったもの」

 

 マミの言葉に繋げるように、ほむらが。

 

「そうね」

 

 短くそう言って。

 

「コイツらを見れば、相手が易々と同じ卓に着くと思えない気がするけど」

 

 ほむらは円形盾から拳銃を抜き取った。

 デザートイーグル。

 そのガンサイトを公園の高い位置、噴水の流水塔へ向ける。

 

 マミと杏子も、それに従うように各々、マスケット銃と槍を構える。

 

「カラミティ・メアリに逆らうな」

 

 遅れて、なのはがバリアジャケットを装着し、その声の方へと向く。

 

「カラミティ・メアリを煩わせるな」

 

 後方、公園の入り口から、さらに声。

 

「カラミティ・メアリをムカつかせるな」

 

 両横、公園内の茂みを踏みしだくように、新たに二つの声。

 

「……オーケイ?」

 

 ほむら達はベンチを中心に、円陣を組む。

 互いに背を預ける。

 皮肉なことに、現実は計算通りにはいかないということだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()がほむら達を取り囲んでいた。

 

「……オーケイかって――」

 

 ほむら達は散開して、その場から跳び出す。

 

『――聞いてるんだよぉッ!!』

 

 カラミティ・メアリの群れが一斉に、手にした銃火器から火を噴き出した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 スノーホワイトは姫河小雪を抱えながら、屋根から屋根、鉄塔から鉄塔へと跳び、移動を続けた。

 涙を流す小雪の心の声が聞こえてくる。

 

『怖い……。助けて……。誰でもいいから……、この悪夢から救い出して……』

 

「大丈夫だよ、姫河小雪」

 

 スノーホワイトは、腕の中で縮こまっている少女を安心させるように、凛とした表情を崩すことなく優しい声をかけた。

 

「誰が敵だったとしても、私だけは貴女の味方だから」

「……信じてもいいの?」

「それは貴女自身がわかっているはず。だから、私のことを信じて。そうでなければ何も始まらないから」

「……うぅ……」

「それに、ね」

 

 山林に立つ使われなくなった廃鉄塔に降り立つ。

 

「貴女が思う以上に、貴女を守ろうとしてくれる人たちはいるもの」

 

 言って、スノーホワイトは立ち止まって、見計らったように背後を向いた。

 その方から「おーい」という少女の声が聞こえた。

 

「待っていたよ、魔法少女の皆さん」

 

 イリヤと美遊が空中に漂うようにスノーホワイトの前に浮遊する。

 その後を追ってきた、いろはとやちよが鉄塔の上へと着地した。

 

「待っててくれたんだね、スノーホワイトさん」

「私の魔法はそれに特化しているから」

「私たちが味方になるって、信じてくれたんだ」

「うん、力強い限りだよ」

「えへへ」

 

 イリヤがくすぐったそうな心地で、微笑んだ。

 美遊がそれを次いで、口を開く。

 

「私たちが貴女たちを助けることはもうわかっていると思ってる。だけど、スノーホワイトさんはこれからどうするつもりだったの? まさかこのまま休むことなく逃げ続けるつもり?」

 

 そう言う美遊に対して、スノーホワイトはふるふると首を横に振る。

 

「貴女たちが味方をしてくれるとわかった時点で、私からお願いしたいことがある。本来ならホテルに無断宿泊するとか多少、無法なマネをしなければならないと思っていたんだけど」

 

 言って、スノーホワイトはちらりとやちよの方へ向いた。

 

「お願いがあります」

「言いたいことは大体わかっているわ。ただし、貴女は既に気付いていると思うけど、あまり推奨されたことじゃないわね」

「そこを曲げてでもお願いします」

「……わかったわ」

 

 はあ、と、やちよは心底まいったように続ける。

 

「その子は私といろはの二人で、みかづき荘に匿ってあげる。勿論、他の魔法少女たちにも協力してもらうわ。みんなきっと、いろはの言うことなら例えどれだけ困難なことだろうと、協力してくれると思う」

「ありがとうございます」

 

 スノーホワイトは言葉少なに、しかし真摯な態度を見せて腰を曲げて礼を述べた。

 イリヤがやった! と言わんばかりに笑顔を見せる。

 

「そうと決まれば、善は急げだね! みかづき荘にはクロもいるし、もう安心だよ!」

 

 「そうね」

 やちよは言いかけて。

 ばっと廃鉄塔の背後へと振り向いた。

 それを見たイリヤが。

 

「どうしたんですか、やちよさん?」

「ソウルジェムが反応している……。私たちの後を付けてきた……?」

「え?」

 

 パチクリと眼を白黒させるイリヤ。

 

「退いて!」

 

 イリヤと美遊がそれを聞いてか、背後に何者かの気配を察した。

 跳ねるようにその場を退き、やちよの後背へ。

 やちよが右手を大きく振るい、槍を無数に展開して壁を築く。

 それが速いか否か。

 槍の壁に無数の金属音が響いて、槍が数本叩き折られる。

 イリヤと美遊、いろはが警戒しながら戦闘態勢を取った。

 

「あっちゃー。仕留め損なった」

「さやかちゃん、乱暴はダメだよ」

 

 廃鉄塔に繋がる電線に、二人の人影が立っている。

 

 青い衣装の剣士と、ファンシーなピンクに彩られた衣装の――こちらは武器を持っていない。

 

「急に攻撃してごめんなさい。出来れば、少しお話がしたいなって」

「先に手を出したのはそっちよ。ごめんなさいの一言で済ませるには都合が良すぎるわね」

 

 頭を下げるピンクの魔法少女に、もちろん警戒心を隠すことなく、やちよが返した。

 

「やっぱり怒らせちゃったよ、さやかちゃん。どうして手を出しちゃうかな」

「ごめんって、まどか。……えーっと、ちょっとこれには事情がありまして」

 

 軽口を叩く青い魔法少女――さやかに、油断なくやちよが槍を構える。

 いろはがスノーホワイトに向かって。

 

「スノーホワイトさん、彼女たちは一体……?」

「敵だよ」

 

 対してそう、彼女は断言した。

 

「敵だなんて……。ただ私とさやかちゃんは、みんなでお話がしたいだけで」

 

 そう言うピンクの魔法少女――まどかには構わず、スノーホワイトはゆっくりとやちよへと近付いた。

 

「やちよさん、いろはさんと一緒に、私たちには構わずみかづき荘へ」

「大丈夫なの?」

「やちよさん達にしか頼めません。ただし、この子も一緒に連れていってあげてください」

「……わかったわ」

 

 言ってやちよは、スノーホワイトが抱えている姫河小雪の華奢な体を受け取った。

 

「必ず戻ります。行ってください」

 

 スノーホワイトが槍をヒュンヒュンとバトンを回すように手に取り、隙を見せることなく構えた。

 

「いろは、行くわよ」

「は、はい!」

 

 やちよといろはが廃鉄塔から飛び降りた。

 まどかとさやかはそれを見送ることなく、武器を構える。

 片刃のサーベルを構えるさやかと、しなりの良い木の枝のようなロッドを取り出すまどか。

 さやかが、ニヤリと口の端を吊り上げて微笑する。

 

「やっぱなぎさだけ行かせて正解だったね。準備はいい、まどか?」

「うん。……でも、戦うしか選択肢がないなんて、私は嫌だよ」

「ごちゃごちゃ言わないの。せっかく手に入れた魔法少女狩りの手掛かり、無駄になんてするもんか」

「……わかった。さやかちゃんの言う通りにする」

「――オッケー!」

 

 さやかがその言葉を皮切りに、風を切るような速度で突進した。

 しかし、それを予測していたスノーホワイトが前に出て、さやかのサーベルと自分の槍とをぶつけ合う。

 さやかの鋭い一撃を押し止め、足を踏ん張る。

 

「結構いい槍じゃない。あたしのスピードとパワーを食い止めるなんてね」

ルーラ(この槍)は魔法の国の特別製。いかな魔法少女の攻撃だろうと簡単に壊せるとは思わないで」

 

 スノーホワイトがさやかと斬り結び始めた。

 素早く鋭い、スノーホワイトの各部を狙うさやかの連撃を、彼女は最小限の動きで捌いていく。

 

 背後から、木の枝の先から花のような光を漂わせ、まどかが弓を引くような動作で魔力光を放つ。

 その一射は廃鉄塔に突き刺さり、桃色に光る爆発を生んだ。

 イリヤと美遊がその爆煙の中から、間一髪、空中へと跳んで逃れる。

 

「散弾、連続発射(フォイア)!」

 

 イリヤがステッキから無数の光弾を放った。

 まどかは弓を構え、魔力光を発射して。

 散らばった光の弾を全弾、撃墜する。

 

「ミユ!」

「高速射撃……放射(シュート)!」

 

 鋭く、そして高速の光の帯が、まどかへと吸い込まれるように直撃し、爆発する。

 今の攻撃は反応できない。

 命中した――。

 そう判断した瞬間。

 美遊とイリヤを狙う無数の魔力光が飛び出してくる。

 

「わわッ!」

「イリヤッ!」

 

 美遊がイリヤの前に立ち塞がり、防護壁を展開した。

 魔力光がそれに阻まれ、着弾した先から爆発する。

 その一撃一撃は大したことは無かった、が。

 先の爆発跡から、まどかの姿が消えている。

 

「――イリヤ、上!」

 

 電線から跳び上がって体を捻ったまどかがいた。

 その姿勢のまま、背後からイリヤと美遊目掛けて魔力光を発射しようとしたところを。

 

拘束(ロック)!」

 

 イリヤがステッキをそちらへ向けて、まどかの腕を星形の拘束具で動きを止めた。

 美遊がそれに合わせる。

 

「最大出力、放射(シュート)!」

 

 砲撃が無抵抗のまどかへと発射された。

 爆発。

 もうもうと煙を上げる。

 今度こそ、直撃したはず。

 が。

 

 まどかはまるっきり無傷のまま、鉄塔へと着地した。

 

「なんてでたらめな魔力耐性……、攻撃が何の意味も成さない」

「魔法少女の攻撃では分が悪いです、美遊様」

「かと言って、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)のような宝具だと、加減が利かないし……」

「躊躇できる相手、ということでしょうか」

「あまりにも殺意が感じられない……。そもそも宝具は両方とも、しばらくは使えない状態」

「千日手ですね」

「今は膠着状態に持ち込むしかない。私たちの勝利条件は、彼女たちの撃退。退いてさえくれればそれでいい」

「しかし、簡単に退いてくれる相手ではなさそうです」

「もう一手、何かあれば……」

 

 美遊とサファイアが会話する間にも、まどかが弓を引く動作を確認した。

 

「サファイア、防護障壁を。イリヤは私の後ろに!」

 

 まどかが光の矢を放とうとして。

 その刹那。

 彼女がハッと何かに気付いた。

 背後へと直感的に眼を向け、見開く。

 彼女はその場から跳躍し、廃鉄塔から逃れて。

 その場に幾本もの黒塗りの矢が突き立ち、爆発した。

 ギシリ、と音を立てて廃鉄塔が揺らぎ、わずかに角度を傾かせる。

 

「帰ってこないと思ったら、私抜きでなかなかはっちゃけたマネしてるじゃない」

 

 スタン、と。

 廃鉄塔の天辺に、褐色の少女が降り立った。

 イリヤがその姿を見て、笑顔で声を上げた。

 

「クロ!」

「真打ちはクライマックスに現れるもんだからね」

 

 クロが弓を捨て、両手にそれぞれ短剣を生成する。

 その一方をまどかに向けて。

 

「ファンシーピンクなお姉さん、この世からサヨナラする準備と覚悟はオッケー?」

 

 言い放つ。

 まどかはクロの視線を受け止め、ムッと口を強く結び神妙な面持ちで闖入者を出迎えた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 百江なぎさは、雑居ビルの屋上からさらに別のビルの屋上へ、スタンスタンと跳びながら駆けていく。

 そこから見える景色は郊外と思しき山林の、緑の景観。

 最後のビルを跳び、両手両足を広げて重力に任せるがまま、そこへと飛び込んだ。

 緑色に彩られた山に、ポツンと一点、開けた地面が見える。

 

「――いたのです!」

 

 そこにぽっかりと空いていたのは、一つの公園のようだった。

 中央には噴水広場があり、大きなベンチが傍に備え付けられている。

 異質な一点。

 なぎさはその公園の地面に、ストンと着地した。

 くりっとした眼を吊り上げて口元を結び、そのベンチに横たわる人影に向かって話しかける。

 

「ようやく見つけたのですよ、魔法少女ねむりん」

 

 枕を抱えたパジャマ姿の魔法少女――ねむりんが、眠たそうに目元をしょぼつかせながら体を起こす。

 強く視線を向けるなぎさに、ねむりんも視線を合わせた。

 

「おはよ~。貴女はだ~れ?」

「聞きたいことがあって、貴女に会いに来たのです」

「ん~、聞きたいことなら応えてあげる。でも知らないことは無理だからね~」

「そんなことはわかっているのです」

 

 なぎさはねむりんに近付き、抱く疑問を彼女に投げかける。

 

「教えてください。魔法少女狩りの正体と、それに関わる『魔女』との関係を」

「ん~」

 

 まなじりをこすりながら、ねむりんはふわぁ~と欠伸をした。

 

「そろそろ夢も終わりにする頃かもね~。でも本当にいいの~?」

「何がです?」

「本当にこの夢を壊していいのか。それで魔法少女たちは救われるのか」

「私たちはそれを確かめるために、この神浜市に来たのです」

「そっか~。貴女たちの役目はそれだったんだね~」

「応えるのです、ねむりん!」

 

 パチクリと眼をまたたかせて、ねむりんはなぎさを見つめる。

 

「教えてあげる。だけど、その責任を負うのは貴女たち。みんなを助けたいと思っている魔法少女たちの希望を、貴女たちの勝手で消し去る覚悟はあるのか。そういうことだね~」

 

 語気を少し強めたねむりんに、なぎさはたじろいで一歩足を引いた。

 

「何が、言いたいのです?」

「神浜市の出来事の全ては夢の中。その傍観者は私だけ。後は貴女たちの問題だからね~」

 

 そうして、ねむりんは語り始めた。

 神浜市に潜む謎の正体を。

 

 なぎさのムッとした表情が、驚きの色に染まった。




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