魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第10話 魔法少女たちの一つの決着

 銃撃を避けながら、ほむらは発射元を確認していく。

 銃線を見極め、敵の居所を炙り出す。

 気付く。

 敵はどうやら自分の攻撃範囲にあるモノに対してしか攻撃してこない。

 つまり、敵は見える範囲内にしか攻撃しないと見た。

 巴マミが不覚を取ったのは、敵を無辜の人々に晒さないよう逃げながら戦っていたから。

 そして詰めを誤ったからに過ぎない。

 今の彼女に油断は無い。

 そして、ここはほむら達以外はいないものの、いつ無関係な人間が通りかかるかもわからない公園。

 一矢必殺。

 それだけ、戦況を読めばやりようはいくらでもある。

 暁美ほむらの固有魔法であれば。

 

 カシャン。

 

 円形盾が音を立てると同時、世界から音が止んだ。

 そして今、動いていた者たち全ての動きも静止する。

 

「巴マミ!」

 

 ほむらが声を上げて、マミに駆け寄りその手を握る。

 マミの体が俄かに動きを取り戻し、キョトンとした表情でほむらの顔を見た。

 

「暁美さん? これは一体」

「手を離さないで。離れれば貴女の時間も止まってしまう」

「……そういうこと」

 

 マミはほむらの固有魔法に驚きを見せながらも、即座にその性質を察したようだ。

 

「リボンを出して。間接的に接触していても、私の魔法の中で動けるから」

「任せて!」

 

 そう言って、無数のリボンを生成して周囲へと投げ放った。

 杏子となのはに向けて放たれたリボンが、二人の腕へと巻き付き、制止した時間の世界から解放する。

 

「……なんだこれ!?」

「これって、マミさんのリボン?」

 

 二人は驚きながら、自分に起きた事態を把握しきれずに動揺する。

 ほむらが声を上げる。

 

「二人とも、今よ! 今の敵は私たちを認識できない! 一気に決着をつけるわ!」

 

 デザートイーグルを構え、現れたカラミティ・メアリたち数体に向けて撃ち放った。

 狙いはもちろん頭部。

 首が折られても動けるというのは、魔法少女としての性質だろう。

 しかし、頭部――とりわけ脳を粉砕すれば生命機能を停止するはず。

 

 マミもまた、マスケット銃を十本ほど生成して連射する。

 

「おらぁッ!」

 

 杏子が気迫と共に、多節棍となった槍を振り回して、数体のカラミティ・メアリの首めがけて槍の刃部分で撫で斬りにした。

 おそらく死んだことすら気付くことなく倒れ伏すだろう。

 

「ディバイン――バスター!」

 

 とどめはなのはの砲撃。

 桃色の巨大な光の帯が、残るカラミティ・メアリを全て巻き添えにして覆い尽くした。

 

 カシャン。

 

 ほむらの円形盾のギミックが音を立てて、世界が動き出す。

 

 デザートイーグルの弾丸がカラミティ・メアリ達の頭部を吹き飛ばす。

 マミの銃撃もまた、カラミティ・メアリ達の頭を撃ち貫く。

 杏子の振り回した多節棍が元の槍へと形を戻し、同時に首を刎ねられたカラミティ・メアリ達が倒れ伏す。

 最後に、なのはの放った砲撃が残りのカラミティ・メアリ達を消し飛ばす。

 

 その間、時間にして数秒ほど。

 カラミティ・メアリ達はその全員が再起不能に陥った。

 ほむらが髪をかき上げる。

 

「これが私の固有魔法、時間停止よ」

 

 脳を撃ち砕かれ、首を刎ねられ、そして桃色の砲撃で文字通り消し飛んだ、無数のカラミティ・メアリの亡骸が辺りに散らばった。

 

「恐ろしい魔法ね……。やろうと思えば、貴女ひとりで私たちを殺せることまで織り込み済みだった、ということね」

「それを考慮してから私を攻略することね。もしも私を信じられない、というのなら」

「貴女が私たちに切り札を見せたのは、私たちを信頼してのことでしょう? その気になれば貴女ひとりでこの窮地を抜け出せることも出来たでしょうに」

「私だけが手札を隠しておくのは恥だと思ったから。チームを組んでいるのだから、それ相応の情報くらいは提供するわ。……ところで」

 

 ほむらは目の前で呆然としている、なのはに声をかけた。

 

「貴女は何か不満が……いえ、不安に思うことでもあるの?」

「あ、いえ……。ほむらさんは知らないかもしれないけれど、私は非殺傷設定で攻撃したんです」

「……何故、敵がそれで消し飛んだか、そういうこと?」

「はい。もしかしたらと思うんですが」

 

 なのはが疑問に思ったことを確認するように、自分が持つステッキ――いや、砲撃仕様に変形した重砲に声をかけた。

 

「レイジングハート、これってやっぱり……」

「マスターが想像した通りです。敵はどうやら人間でも魔法少女でもなく、それを模した魔法現象――魔法で擬態化した存在かと思われます」

 

 重砲の先端で明滅する赤い宝石が、声を出した。

 

「非殺傷設定で破壊されるのは魔法による現象だけ。彼女たちは意思を持った――いえ、狂気だけを与えられた単なる現象。中身が空っぽの魔法人形と言った方がいいでしょう」

 

 それを聞いていた杏子がぶっきらぼうに応える。

 

「要するにさ。その赤い玉の言う通り、魔法少女狩りってやつがみんなそういう存在なら容赦する必要はない、ってことじゃない?」

「やり易いと言えばやり易いわね」

 

 杏子に応えたのは、どこかホッとした表情を見せたマミ。

 

「人間相手だったらどうしようかと思っていたけれど、これは朗報ね。こんな手駒を操る魔法少女狩りなら、決め付けるのは早計かもしれないけど、敵はそういう魔法を使うタイプということでしょう。ならやりようはいくらでもあるわ」

 

 マミの意見に、ほむらは納得したように応える。

 

「そういうこと。魔法少女狩りが狙うのが、私たち魔法少女だけなら、人気のない所でなら存分に対処が出来るということね。人目に付かない所ならやり易いという意見には賛成だわ」

「あ、あのー……」

 

 うろたえ気味に、なのはがおずおずと言葉をかける。

 

「なに?」

「皆さんは平気そうですけど、今はここから立ち去った方が良くないです?」

 

 なのはの視線を、ほむらは追った。

 公園中に散らばっているのは、くたびれた服を着て力を失い、人形のように倒れ伏す女の死体ばかり。

 辺りには血しぶきの跡も散乱し、スプラッタな景色が広がっている。

 

「マスターの意見に賛成です。現地の司法機関に認知される前に、この場から離れることを提案します」

 

 なのはの持つ、元のステッキに戻った先端に取り付けられた赤い玉――レイジングハートの言葉を聞いて。

 

「同感ね。警察のお世話になる前に、ここから離れましょう」

 

 マミが同意した。

 

 なのはとマミが跳び、公園の向こう側へと先立って姿を消した。

 ほむらもその後を追おうとして。

 

「待ちな」

「杏子?」

 

 杏子がそれを止める。

 

「あんた言ってたよね。あたし達を騙そうとしている奴らがいるって」

「……もしかして、まどか達を疑っているの?」

「当ったり前だろ」

 

 疑念に満ちた眼で、杏子はほむらを見つめていた。

 

「あんた達との協力関係を反故にする気はないけどさ。ここからはあたしは勝手にやらせてもらう。勿論、定期的に情報はそっちに送るし、表立って敵対するつもりはない。信用してないわけじゃないから、陽動役だと思ってくれ」

「……そうね、せいぜい私たちの背中を打たない程度には信用してちょうだい」

「りょーかい。あんた達も気を付けなよ。あたしにも、魔法少女狩りにもさ」

「そのクレバーさは頼りにしてるわ。貴女にも期待してるから、よろしくね」

「ああ、じゃあな」

 

 会話を打ち切って、杏子はマミ達とは反対方向に建つ家々へと跳んでいった。

 

「騙そうとしている、か。思わず余計なことを言ってしまったわね。とりあえず巴マミとの協力関係を維持できるのなら、そう無茶なことにはならないでしょう」

 

 だから。

 今はまどか達を信じる。

 彼女たちならきっと、この膠着状態を打破してくれる。

 

 カシャン。

 

 時間が静止する。

 足が付かないことを祈って、ほむらはマミ達を追って公園から跳び去った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 褐色の少女――クロがまどかへと迫る。

 振りかぶった双剣がまどかを襲った。

 木のロッドを横に向け、その双剣による攻撃を受け止める。

 ギシリ、とその一撃を押し込めて、クロがヒュっと口笛を吹く。

 

「ずいぶんお堅い木の枝ね……。だけど!」

 

 ひらりと身を翻し、クロが双剣を肩越しに振りかぶり。

 双剣をまどかに向けて投射する。

 手から放たれるたびにさらに双剣を形成して、それらをさらに投射。

 

「くっ……!」

 

 無数に投げ付けられるそれらに向けて、まどかは光る弦を引き絞った。

 桃色の魔力光が分散して撃ち出され、投射された双剣達を全て撃墜する。

 だが。

 

「獲ったよ」

 

 背後からクロの声。

 

「それじゃ、グッバイ」

 

 双剣を手にしたクロが、無防備なまどかの背中を両断しようと迫った。

 

「まどかーッ!」

 

 それを遮るように、さやかの声がまどかに届いた。

 クロの体が、さやかの体当たりで横っ飛びに押し出される。

 

「さやかちゃん!」

 

 振り返り、まどかが声を上げた。

 

「こんのぉ……!」

 

 空中に押し出された格好のまま、クロの姿が掻き消えた。

 

「お邪魔虫!」

 

 さやかの持つサーベルに、クロが双剣を叩き付ける。

 

「さやかちゃん! スノーホワイトさんは!?」

「大丈夫!」

 

 まどかが、廃鉄塔に立つスノーホワイトの姿を追う。

 彼女は健在で、立ち姿に隙は見当たらなかったが、どうやらさやかを追うつもりは無いようだった。

 戦意はあるが、無駄な戦いはしない。

 言外にそう主張しているようにも見えた。

 

「あっちの魔法少女は怖いけど、私は怖くないってか……! 舐めんじゃないわよ!」

「そんなことはどうでもいい!」

 

 クロの言葉に、さやかは心底からそう言ったように見えた。

 

「まどか、ここは逃げるよ! 流石に真っ向から2対4は分が悪い!」

「う、うん、さやかちゃん!」

 

 言って、二人の魔法少女は廃鉄塔の天辺へと退避した。

 クロが抗議するように声を上げる。

 

「こらーッ! 逃げるな卑怯者ーッ!」

 

 黒塗りの弓を生成し、矢をつがえて狙いを定めて。

 

「やめて、クロ!」

 

 美遊が、狙撃態勢を取るクロを制した。

 

「なんで止めるのよ、ミユ!」

「これ以上の戦闘は無意味よ! 向こうから退いてくれるなら戦う意義は無い!」

「また襲撃してくるかもしれないじゃない!」

「その時はまたその時に考えればいい! 今はやちよさん達の事の方が先決! ここは堪えて!」

「ぐぬぬ……」

 

 言うが早いか、二人の魔法少女は廃鉄塔から跳び立って、山林の深くへと姿を消した。

 

「あー、逃がした……」

 

 至極、残念そうなクロを、美遊がなだめる。

 

「今はこれで充分。助けに来てくれてありがとうクロ」

「面倒事ばっかり残してくれちゃって。あーあ、やる気なくした」

「決着をつける機会はきっとくる。まず相手の狙いと、作戦を練る必要がある」

 

 言って、美遊はイリヤへと向けた。

 イリヤはこくんと頷く。

 

「スノーホワイトさん! あの女の人……魔法少女狩りさんは無事なんですか?」

 

 イリヤが空中で漂いながら、臨戦態勢を解いたスノーホワイトへ話しかける。

 

「やちよさん達が付いてくれているから大丈夫。だけど私たちも後を追わないと。美遊さんの言う通り、作戦を練る必要があるから」

 

 そう言う彼女に、クロは心底不服そうな顔で横から口出しする。

 

「私そっちのけで話がどんどん先に進んでいるみたいだけどさ。戻ったらちゃんと説明しなさいよ」

「大丈夫だよクロ。もう事は私たちだけで解決できる範疇を超えてるから。全てはみかづき荘に戻ってから、だよ」

「……ならいいけど」

 

 ツンと口を尖らせて、クロは呟いた。

 スノーホワイトが声がけする。

 

「予想以上に後手に回っている。だけど貴女たちのおかげで、事態はそれほど悪くなってはいない。これからどう動くか決める必要があるのは本当だよ」

 

 だから。

 彼女は続けた。

 

「ありがとう、みんな」

 

 それを見て、イリヤが。

 

「あ、それ」

「え?」

「スノーホワイトさん、やっぱり笑うと優しい顔になってる。いつものカッコいいスノーホワイトさんもいいけど、やっぱり笑ってる方のがいいな。なんだか勇気が湧いてくるっていうか」

「そう?」

 

 あまり自覚は無かったが、スノーホワイトはそれを聞いて、少しはにかんだ自分を意識していた。

 

「急ぐよ。やちよさん達を早く追わないと」

「あ、待ってよー」

 

 スノーホワイトは廃鉄塔を跳び下り、イリヤ達もそれに従うように地上へと追っていった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ねむりんの話を聞いて、百江なぎさは頭を抱えた。

 

「この神浜全域で、そんなことが起こっているだなんて、俄かには信じられないのです」

 

 しかしねむりんは、知ったばかりかとふわぁ~っと大きな欠伸をした。

 眠そうな表情のまま、彼女は続ける。

 

「信じるも信じないも貴女の勝手。だけど身に覚えはあるんでしょ。元『魔女』の貴女なら」

「だからと言って、なぎさには信じられないのです。ほむら達はともかく、まどかやさやかも、そんな事態に巻き込まれてるなんて」

「だ~か~ら~。信じないならそれは勝手だってば~。話せることは全部、話したんだから、これから貴女たちがどう動くかなんて、こっちはどうでもいいことなんだし~」

 

 なぎさはねむりんと問答するように、やがて平行線になった会話を続けた。

 

「……なぎさは勿論、まどか達までもがそんな状態に陥っているだなんて、これは危急を要する話なのです。最悪、魔法少女狩りなんてモノにかかずらっている暇なんて無いくらい」

「それについては同感。だけど、だから? そんなことは関係ないからさ~」

「協力するつもりはないのですか?」

「協力? してるでしょ。だからこうして貴女とお話してるわけだしね~」

「もういいのです」

 

 くるりとねむりんに背を向けて、跳ぼうとして。

 背後から「あ~そうそう」と。

 

「スノーホワイトはさ、みんなを助けたいって言ってたらしいよ~。ホントに我がままだよね~」

「……何が言いたいのです?」

「貴女たちも大概、我がままなんだってこと。誰も頼んじゃいないんだから、今みたいに夢を見続けるのも一つの選択肢だと思わない?」

「思わないのです。そこから救い出すのが、なぎさ達の役割なのですから」

「みんな傲慢だね~。でも、それでこそ魔法少女だよ~。どんな世界でも、ね~」

 

 なぎさはそれ以上、何も聞かずに跳び立った。

 これ以上、個人の幸福の為だけに、こんなバカ騒ぎを続けさせるにはいかない。

 つまるところ、なぎさは怒っていた。

 

 

 

「やっぱりあんた、趣味悪いよ」

「メアリ、帰っていたの~?」

「本当は夢から覚めて欲しいんだろ? 終わらない夢は何とかって言ってたくらいじゃない」

「そうだね~。出来の悪い悪夢は終わらなければならない。終わらない悪夢なんて、ただ心をすり減らすだけの、とりわけ生きている人間に対する冒涜だと思うよ~」

「だからって傍観者の立場から降りるつもりはない。やっぱり悪趣味だよあんた」

「今の立場は楽しいからね~」

 

 ねむりんは枕を抱えながら身を起こした。

 くすりと、眠そうな表情のまま口の端を上げる。

 

「出来の悪い夢、だけどその舞台で頑張る姿はやっぱり何にも代えられないほど尊いと思うよ。だから、見届けるだけはするよ~」

「この神浜はあんたのおもちゃ箱かい? 神様気取りもいい加減にしときな」

「そんなつもりは無いってば~」

 

 口調とは裏腹に、やはりねむりんは今、見ているこの夢を――いや、バカ騒ぎを、まだまだ見ていたいと思ってしまうのだった。




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