魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第11話 魔法少女たちと佐倉杏子

 午後3時過ぎ。

 正午を過ぎてだいぶ経ったように感じていたいろはだが、実時間はこんなものだ。

 よっぽど濃密な数時間を過ごしていたんだな、と戦々恐々する自分がいる。

 そう思った。

 

「やちよさん、イリヤちゃん達、無事でしょうか」

「少しくらい信じてあげなさい。少なくとも、彼女たちのスペックは私たちとは段違いよ。時計塔の魔術師とやらがどのくらい凄いのか、私には及びもつかないけれど」

 

 いろははリビングの窓から、ちらちらと何度も外を眺め見ていた。

 対するやちよはさして気にした風でもなく、昼にたまった洗い物の片づけをしている。

 かたんと大皿を乾燥機に立て掛ける。

 

「魔法少女狩りの――小雪さんの様子はどうかしら」

「大丈夫そうですよ。今は鶴乃ちゃん達がなだめてくれていて、調子もだいぶ落ち着いてきているみたいです」

 

 いろは達が魔法少女狩り――姫河小雪を伴って帰宅して。

 しばらく彼女はパニック発作を起こしたように泣きじゃくりながら落ち着きなくしていたが、みかづき荘の住人、鶴乃たちが相手をしてくれている間になんとか平静を――とは言ってもまだまだ予断は許さないが、一応は取り戻していた。

 今は彼女にあてがった部屋に皆で集まってなだめすかしてくれている。

 その甲斐あってか、少しは心を許してくれたようで、警戒心もゆっくりとだが解いてくれていた。

 

「たっだいまー!」

 

 噂をすれば何とやら。

 イリヤの大きな声が玄関先から聞こえた。

 

「戻って来たわね」

「私、迎えに行ってきます!」

 

 いろははそう言って、玄関へとパタパタ走っていく。

 

 玄関には魔法少女衣装を解いて私服姿のイリヤ達と、魔法少女姿のスノーホワイトの姿があった。

 

「お帰り、イリヤちゃん! 怪我は無かった?」

「大丈夫、クロが来てくれたおかげだよ」

「ありがとう、クロエちゃん」

 

 お礼を述べるいろはに、クロはどこか不機嫌な様子でふんと鼻を鳴らした。

 

「こいつらにちょっと文句言ってやってよ。もう少しでアイツら始末出来たっていうのに、ミユが止めるから……」

「まあまあ」

 

 イリヤがクロをなだめすかすように口先を彼女に向けた。

 

「お邪魔します」

 

 イリヤの後ろから、スノーホワイトが玄関口で靴を脱いで上がった。

 

「スノーホワイトさんも、お疲れさまです。……あの」

「どうかしましたか?」

「もう戦いは終わったんですよね。なら別に魔法少女姿でなくてもいいのでは」

「今は姫河小雪も一緒でしょう。簡単に区別するためにも私はこっちの姿の方が都合がいい」

「そんなものでしょうか」

「もしかしたら、けじめを付けたいだけなのかもしれませんね。私が」

「はあ」

 

 どこか納得できないけれど、一回りして無理矢理当てはめたような応えが返ってきた。

 

「姫河小雪はどこに?」

「上の階の個室よ。今は鶴乃たちが面倒を見てくれているわ」

 

 いつの間にかやちよが玄関まで来てくれていた。

 エプロンで手を拭いながら、たおやかな笑みを浮かべている。

 

「お帰りなさい、スノーホワイトさん」

「ご迷惑をおかけします。ご面倒を聞いていただいて、ありがとうございます」

 

 言って、ペコリとスノーホワイトは頭を下げた。

 

「そう思うなら、小雪さんを少しは安心させてあげなさい」

「そのつもりです」

 

 と。

 彼女は腰に身に付けた袋から、それよりもさらに大きなビニール袋に包まれた物を取り出した。

 ガサリと音を立てて置かれたその中には、ホールサイズのケーキと2リットルのペットボトル入りジュースが何本か入っている。

 

「貴女、どこからそんな大きな荷物を……。いえ、それよりもそれは何?」

「姫河小雪や他の魔法少女さんに振る舞おうと思って、帰りに買ってきました。人数分のお皿やカップはありますか?」

「ええ、用意するわ」

「イリヤちゃんたちも良かったら、同席する?」

 

 それを覗いたイリヤが「うわぁ」と表情を輝かせてゴクリと喉を鳴らした。

 

「いいんですか? じゃあ早速持っていこうよ! ミユ、クロ、二人はお皿とナイフとフォークとコップと紙ナプキンの運搬係お願いね!」

「ちょっ、ずるいわよ! 面倒なことばっかり押し付けないでよ!」

 

 クロは抗議したが、美遊がそれを押しのけて。

 

「イリヤがそう言うなら」

「ミユもミユでイリヤに顎でこき使われてるんじゃないの!」

「いいじゃない別に、これくらいのこと」

「ルヴィアの家でハウスメイドやってる癖が抜けてないんじゃないの!?」

「いいからいいから」

「ちょっと、イリヤ、覚えてなさいよーッ!」

 

 ずるずるとクロを引きずりながら、美遊はキッチンへと向かった。

 イリヤはそれを見送って、「たはは」と乾いた笑いを浮かべた。

 

 

 

 姫河小雪の個室。

 そこには小雪の姿だけでなく、みかづき荘の魔法少女も勢揃いしていた。

 人数分のお皿にカットしたケーキとフォークを並べ、ジュースもカップに注ぎ済み。

 それでは――。

 

「いただきまーす!」

 

 ふわふわとしたスポンジケーキに芳醇なクリーム。上にはイチゴも載っている。どこにでもありふれたショートケーキだったが、時刻はちょうどおやつ時。

 少女たちのティータイムとしてはなかなか豪勢な品揃えだ。

 

「うん、まーい!」

 

 フェリシアがフォークも使わず、手掴みで食べているのを見て、さなが。

 

「フェリシアさん、お行儀悪いですよ」

「いいじゃねえか。腹に入ればみんな一緒だろ!」

 

 ティータイム時でもフェリシアは相変わらずだ。

 

「あ、鶴乃ちゃん。口元にクリームついてる」

「あれ? いろはちゃん、取って取ってー」

 

 言われて、いろはが鶴乃の口元に紙ナプキンを当てる。

 

「ちょっとイリヤ! あんた私のより大きいじゃない! ケチ! 大食漢!」

「そこまで言うの酷くない!? 欲しいなら欲しいって言えば、私だってちゃんと譲るわよ!」

 

 イリヤとクロも……。

 何と言うか今まで通りと言えば今まで通りだ。

 

 イリヤの襟元からふよふよとルビーが羽にしわを寄せながら顔を出す。

 同時に、スノーホワイトの傍に置いてあった情報端末からポンとマスコットが飛び出した。

 

「うぅ……ルビーちゃん、おやつを楽しむ機能が無いんです。こんな姿に作った大師父には恨み骨髄です。ぶち転がしてやりたいです……」

「そんなもんかぽん? ファルの第一存在意義はマスターのサポートだぽん。食を楽しむ機能は無くても、取り立てて目くじら立てるほどでもないと思うぽん」

「ストイックですねぇ。自分の創造主に反抗期抱いてもいいと思いますよー」

 

 「ねえサファイアちゃん?」

 我関せずという態度を貫いていたサファイアだったが、話を振られて仕方なく、ふよふよと美遊の襟元から顔を覗かせた。

 

「姉さんは少し我がまま勝手が過ぎると思います。これを機会に、食ではなく他の皆さんと交流して少しは真っ当なステッキになってください」

「ぐっさーっ! 刺さりましたよサファイアちゃん! ファルさん、こういういい子ぶりっこなマスコットキャラは撲滅すべきだとルビーちゃんは思うんです! 少し捻って、可愛い子ぶりっこなマスコットが実は邪悪な思想を持った悪の組織の一員だったとか! そういう設定のマスコットがいてもいいと思いますよ私は!」

「ファルの同型機種にも似たようなのはいたから言うけれど、大抵ロクな結果になった試しがないぽん。スノーホワイトに狙われて破壊されるのがオチだぽん」

 

 喧々囂々。

 魔法少女だけでなく、魔法のマスコットも交えて部屋は賑やかに加える賑やかさを増していった。

 それらの様子を眺めて、美遊はジュースを一口飲む。

 

「スノーホワイトさん」

「美遊さん? どうしたの?」

 

 スノーホワイトの膝の上で、小雪は安らぎの笑顔を浮かべながら寝入っている。

 ケーキやジュースを口にして、何よりスノーホワイトの傍にいられたことで緊張の糸が切れたのだろう。

 

「いえ……今はこうしてゆっくりしていられるからいいのかもしれませんが、事件自体は何も進展は無いんですよね」

「そうだね。でも私の最終目標は決まっている」

「最終目標?」

「そう」

 

 そう言うスノーホワイトは毅然とした表情を崩さない。

 美遊が再度聞き直す。

 

「何か、展望があるということでしょうか」

「うん。みんなからしたら多分、馬鹿にされると思うだろうけど」

「教えてください」

 

 スノーホワイトの口元が揺れた。

 少しして、彼女は唇を噛んで、続ける。

 

「……今回の事件に関わった人たち全ての救済。でも悔しいけれど、その全ては叶わない。だから、選ぶ前に後悔するより先に、選んだものだけはせめて掴み取りたい」

 

 少し、彼女たちの間に静寂が落ちた。

 スノーホワイトがくすりと苦笑を浮かべて。

 

「変、かな?」

「いえ、立派だと思います」

 

 美遊がイリヤへと視線を向けた。

 いつの間にか彼女はクロと取っ組み合いの喧嘩にまで発展していた。

 

「イリヤもきっと、それを望むだろうから」

「……ありがとう、美遊さん」

 

 スノーホワイトは自身の膝の上で眠る小雪の頭を優しく撫でた。

 

 

 

 ピンポーン。

 

 やちよは一人リビングの掃除をしていた時、玄関のチャイムが鳴るのを聞いた。

 ドアホンを確認して。

 その顔を見て、固まった。

 

『見えてっか? ちょーっと顔貸してくんない?』

 

「貴女は確か……佐倉杏子?」

 

『覚えてるんなら話は早いよな? 別に喧嘩売りに来たわけじゃねえ。話がしたいだけだ』

 

「……中の魔法少女の子たちに危害を加えないと約束するなら」

 

『だから喧嘩しに来たわけじゃねえって。何度も言わすなよ』

 

「……すぐ行くわ。待っててちょうだい」

 

 掃除機をその場に置いて、やちよは玄関へと向かった。

 玄関口でサンダルを履き、ドアを開く。

 

「よっ、昨日ぶり。あんたは確か、七海やちよ、だったっけか」

 

 そう言ったのは、パーカーにデニムのショートパンツの出で立ちをした、昨日の夜見た魔法少女――佐倉杏子その人だった。

 

「何の用かしら」

「そう剣呑としなくてもいいじゃねえかよ。ちょっと聞きたいことがあって来ただけなんだ」

「聞きたいこと?」

「あんた、魔法少女狩りを匿ってるって話……マジか?」

 

 咄嗟に答えが出なかった。

 相手が何を考えているかわからない。

 にも拘らず、彼女の声からは鋭いナイフを突きつけるような、そんな気配がにじみ出ている。

 是とも非とも言えないまま、やちよの首筋を冷や汗が伝うのを感じた。

 

「……本当も何も、貴女には関係のない話よ」

「そうかい。ならアンタ達は黒ってことでいいんだな?」

 

 ニヤリと杏子が人の悪い微笑を浮かべて、やちよに迫る。

 

「カマかけただけなんだけどな。生憎、あたしは魔力の探知には自信があるし、固有魔法は精神感応系。だから大抵のウソは見分けられるんだよ」

「……彼女を、魔法少女狩りの子をどうするつもり?」

「知れたことだろ。放っとけばソイツは魔法少女の敵になる。どういう決着を望んでいるのかくらいは、わかるだろ?」

「生憎だけど彼女は今、安定している。私たちがいる限り、あの子に手は出させないし、あの子も魔法少女狩りを生み出すこともない」

 

 やちよの言葉に、杏子は「ん?」と疑問符を上げた。

 

「どういう意味だ?」

「あの子は今、周りのみんなが自分を追いかけていることに不安を感じているだけなの。魔法少女狩りが出現しているのもそのせい。貴女がどんな目に遭ったかは知らないけれど、私たちが責任を持って彼女を……言い方は悪いけど、きちんと管理するわ」

「魔法少女狩りの大元がいて、そいつの不安が他の魔法少女狩りを生み出している、か。まあ話の筋は通っているな」

「話はそれで終わり? ならお引き取り願えるかしら」

 

 ゴロゴロと、いつの間にか空が暗雲で包まれつつあった。

 一雨来るかもしれない。

 

「そうかそうか、まあ魔法少女が大勢いる中、喧嘩を売るほど馬鹿じゃない。今日はこれで納得して帰るとするよ」

「仲間がいるならその人たちにも伝えて。これ以上、この町に魔法少女狩りは増えることは無いって」

「それに関して、はいそうですかと応えるわけにはいかねえな。いざっていう時は実力行使を辞するつもりはねえ。あんたのお仲間にはそう伝えとくんだね」

 

 そう言って、杏子は後ろを向いた。

 しかし、そこに。

 いつかやちよが見た少女がいた。

 

 黒い長髪に真っ白な肌。ゴシックロリータ風の洋服に身を包んだ、魔法少女。

 確か名前は。

 

「いけない! ハードゴア・アリス! その子は敵じゃない!」

 

 やちよが叫んだ。

 しかし時すでに遅く、杏子が赤い魔法少女衣装に変身する。

 

「喧嘩を売るつもりは無かったんだが――」

 

 ブオンと、長大な槍を大きく振りかぶって。

 

「そっちから売ってきた分には買うしかないよねぇ――ッ!」

 

 気迫がみなぎる。

 場の空気が、一触即発の気配へと転じた。

 

「やめなさい! 佐倉杏子、ハードゴア・アリス! これは無意味な戦いよ!」

「うるっせぇッ! 外野は黙って見てなッ!」

 

 突進。

 杏子の槍が、ハードゴア・アリスの心臓を狙い違わず、串刺しにした。

 引き抜き、そして連撃。

 ハードゴア・アリスが地に墜ちる暇も与えず連続で槍を突き出す。

 腕を千切り、腹を貫き、大股を砕き、とりわけ頭部に攻撃を集中させた。

 ハードゴア・アリスがボロ雑巾のように地面にぐちゃりと音を立てて倒れ伏す。

 

「こんなもんか? 呆気ねえ……――ッ!?」

 

 刹那、千切れたハードゴア・アリスの腕が跳ねて杏子の喉を握りしめる。

 

(なんだこりゃ……!? 生きてる……いや、死んでない……!?)

 

 喉輪締めを極められて、カハッと息を漏らした。

 呼吸すらままならなくなる。

 

(こんにゃろ……!)

 

 槍の刃元を短く手持ちにして、無理矢理にその腕を引き千切る。

 今度こそ地面に落ちたそれは、這いずるかのように後退して、ハードゴア・アリスの腕に納まり、まるで怪我など無かったかのように付着した。

 

自動回復(オートリジェネレーション)……。なるほど、能力も超うぜぇ奴なわけね」

 

 タン、と杏子は地面を蹴った。

 みかづき荘の屋根に飛び移り、ハードゴア・アリスと間合いを広げる。

 

「様子見だけのつもりだったけど、そっちがやり合いたいってなら容赦はしない」

「佐倉杏子!」

 

 やちよがみかづき荘の屋根に立つ杏子に声を荒らげた。

 

「……って言ってもなぁ、勝ちの目が見えねえ。ここは適当にあしらって、あたしは帰らせてもらうよ。だから安心しな」

 

 言って立ち上がり、槍を構え直す。

 

「どれだけ厄介なのか、見せてもらおうじゃん? 魔法少女狩りさんよぉッ!」

 

 ダン、と地面を蹴ったハードゴア・アリスが、杏子と間合いを詰めた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 時は少し遡って、神浜市郊外の山林の中。

 

「さやかちゃん、確かこの辺りで合ってたよね?」

「うん、あと少しで合流の時間だ。なぎさが時間食ってなきゃね」

 

 まどかに対するさやかの応えに。

 ちょうど聞き入れたようなタイミングで、なぎさが二人の前に降り立った。

 

「遅くなったのです」

「いや、大丈夫。あたし達もさっき来たばっかり」

 

 軽口を叩くさやかに、しかしなぎさは表情に焦燥を滲ませていた。

 

「なぎさちゃん……、何かあったの?」

「……なぎさ達が探していた魔法少女に出会って、きちんと話をしてきたのです」

「本当!? じゃあその子も協力してくれそうなの?」

「それはきっぱりと断られたのです。でも最悪の情報を得たのです」

「最悪……?」

 

 なぎさはしばらく下を向いていたが、意を決したように顔を上げ、口を結んだまま、まどかとさやかを交互に見渡した。

 

「応えてください、まどか、さやか」

「へ?」

 

 さやかが間の抜けた返事を返すも、なぎさは止まらない。

 

「なぎさ達は一体、何の役割を持ってここに来たのですか?」

「役割……?」

 

 まどかもまた、反復するように問い返す。

 

「全て忘れ去られていたのです。なぎさ達は、その元凶に。だからここにいるみんな、それぞれに記憶違いがあるはずなのです」

「記憶違い……?」

「思い出してください。さやかはマミと杏子の事を覚えていますか?」

「え、まあ、そりゃ。なんだってそんなことを?」

「まどかも思い出してください。何のために、神浜市に来たのかを」

「それは確か……、神浜市に来れば魔法少女は救われる、って聞いたから……」

「それらは全部偽物なのです。全ての元凶が用意した、罠に集めるための記憶操作だったのです」

「どういうこと?」

 

 なぎさが語気を強めて、応える。

 

「この神浜は全てが魔女の結界。町一つを模倣するほどの巨大な結界、なのです」

 

 その言葉に、まどかとさやかは互いを見つめ合い、それでもやはりピンとくるものがなかった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市に来て――。

 そこで、私は本当に救われますか――。




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