魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第14話 魔法少女たちとマギウスの翼

 けばけばしい赤と緑に彩られた空間。

 壁には黒インクで乱暴に『I HATE YOU』という英文がいくつも描かれている。

 空間内に現れる使い魔は、ハサミ状のモノ、金槌状のモノ、鎖分銅のようなモノ、それらいずれもが積極的に結界内への侵入者――ほむらとなのはに牙を向けてくる。

 ほむらの拳銃がそれらを正確に打ち抜き、なのはの放つ光弾もまた、使い魔を蹴散らしていく。

 結界の最奥。

 そこにはホットプレートを模したモノリスが屹立していた。

 これが、この結界の魔女か――!

 ほむらが判断するが速いか、ホットプレートの背後から幾つもの巨大な器具が姿を現した。

 トングを模したモノ。

 フォークを模したモノ。

 バターナイフを模したモノ。

 さらに、鉄板が熱を帯び始め、赤熱光を放ち始めた。

 ほむらが円形盾から機関銃を引き抜き、その魔女に向けて弾丸を無数に撃ち込む。

 が、弾丸が鉄板に触れる先から熱に晒され、赤熱して溶け落ちる。

 

(銃火器の実弾じゃ分が悪い。なら!)

 

 手投げ弾を取り出す。

 口でピンを引き抜き、それを魔女に向けて投げ放った。

 フラッシュバン。

 起爆と同時に、爆音と閃光を撒き散らす、非致死性兵器。

 それらをまともに受けた魔女が、動きを鈍らせた。

 

「なのは!」

「はい!」

 

 なのはが重砲型に変形したステッキを魔女に向ける。

 ほむらが稼いだ時間は十分。

 ステッキの先端に桃色の光が集まって――。

 

「――ディバイン、バスターッ!!」

 

 光の帯が鉄板の魔女を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた衝撃と共に魔女は吹き飛び、壁に激突して体に幾つものひび割れを起こす。

 赤熱光は止んでいる。

 すかさずほむらが別の武器を取り出す。

 ロケットランチャー。

 携行式の対戦車兵器、その弾丸を魔女へと向かって撃ち放つ。

 着弾し、魔女が爆発音と共にバラバラに粉砕されて鉄片を撒き散らした。

 

 魔女の結界が消え去る。

 そこには何事もなかったかのように、廃工場の空きスペースの景色が広がっている。

 コロンと転がり落ちた黒い玉。

 グリーフシードを、ほむらは拾い上げた。

 

「なんとかなったわね」

「お疲れさまです、ほむらさん」

「貴女のおかげでね」

 

 言って、ほむらは片手を小さく上げた。

 なのはがその手を打ち合わせる。

 

「これでグリーフシードも充分集まりましたね」

「ええ、しばらくは補充無しでも活動が続けられそうだわ」

 

 表情をほころばせて喜ぶなのはに、ほむらはどこか不安げな顔を向けていた。

 

「どうかしたんですか?」

「いえ……、さすがにちょっと疑っただけよ」

 

 ほむらは廃工場内を見回す。

 人の気配はまるでしない。

 

「別に自殺の名所だったわけでもあるまいし、こんな所に魔女が結界を張っているっていう事態に、少し違和感を覚えたの」

「そう……なんですか?」

「巴マミからも聞いたわ。至って普通の公園に魔女の結界が張られていたこともあった、って。やはりこの神浜市という場所は、どこかおかしい。正体不明の魔女のことを抜きにしても、ね」

 

 それだけ魔女が群生する土地だとでも言うのだろうか。

 もしかしたら、この神浜市の魔女結界の中に存在する魔女というものが、何者かの故意に依るということなのか。

 そうして思い出すのが、なぎさの言っていた『マギウスの翼』。

 事件の核心とは言っていたが、あまりにも情報が無さすぎる。

 

「とは言え、このまま魔女を狩っていればどちらにせよ、向こうから接触してくるでしょう」

「わかるんですか?」

「どうやらマギウスの翼の魔法少女は、貴女たちとは違ってグリーフシードを必要とする、私たち寄りの魔法少女らしいから。百江なぎさの言うことを信じる限りには、ね」

「だから、私たちが陽動に回るってことなんですね」

「しばらくは敵を引き付けるように動き回るしかないってこと……――ッ!」

 

 カシャン。

 

 ほむらが反射的に円形盾の時間停止魔法を発動した。

 咄嗟になのはの手を握って、その場から退く。

 

「ほ、ほむらさん!?」

「手を離さないで!」

 

 カシャン。

 

 時間が動き出すと同時、ほむら達が立っていた場所を金色の刃が抉り取った。

 着弾した床が、強い爆発と煙を巻き起こす。

 

(魔女!? ……いえ、違う。これは魔法少女の攻撃!?)

 

 例の魔法少女狩りの仕業か、と思ったが、その想像はすぐさま振り払った。

 カラミティ・メアリ――以前にレイジングハートが分析した、いわゆる魔法人形の類とは違う。

 ひたすら暴力的な銃撃を撒き散らすだけの輩ではない。

 もっと洗練されていて、そして明確な敵意を持った攻撃。

 

「うそ……」

 

 なのはが呆然と呟く。

 ほむらもまた、なのはの視線の先へと眼を移す。

 そこには一人の少女が立っていた。

 

「なのは、知り合い?」

「そんな訳ない、よね……?」

 

 ほむらが問いかけるが、しかしなのはにはその声が聞こえてすらいないようだった。

 ただひたすら、呆然としていた。

 

「なのは……」

 

 少女が呟く。

 黒いリボンで結んだツインテールの金髪。

 薄手の黒い魔法少女衣装に身を包んだ、無骨な斧のような黒い武器を握った少女の姿。

 その上から、白いフード付きの、同じく白いマントを羽織っていて、胸元には、翼を生やした塔のような意匠の、金色のアクセサリを付けている。

 

「どうして!? フェイトちゃん!!」

 

 なのはが叫んだ。

 その声はどこまでも悲痛なものだった。

 

「ごめん、なのは……、それでも」

 

 少女――フェイトは斧をこちらに向ける。

 その先端から金色の魔力光をみなぎらせながら。

 

「これ以上、マギウスの翼に踏み込まないで」

「なんで!? だからってどうして、フェイトちゃんが!」

 

 今にも走り出そうとするなのはを、ほむらが制する。

 

「貴女はマギウスの翼の関係者? なら話の余地はあるわよね? 少なくとも、なのはに対しては」

「貴女が、暁美ほむらさんですね」

「この神浜の魔法少女事情も知っているようね。詳しいことを教えてくれる?」

「……貴女が、マギウスの翼に協力してくれるのなら」

「それは貴女の話次第ね」

 

 円形盾から拳銃を取り出す。

 銃口をフェイトに向けた。

 

「待ってください、ほむらさん!」

「黙ってて、なのは。今の貴女ではまともに話なんて出来ないでしょう」

「それでも、フェイトちゃんは!」

「黙りなさい! 高町なのは!」

 

 張り裂けんばかりの声を張り上げる。

 なのははそれを受けて、たじろいだ。

 これで少しは頭が冷えてくれればいいが。

 

「返答は?」

 

 ほむらが改めてフェイトに問い返す。

 

「……残念ですが、今は話し合いっていう雰囲気じゃないみたいですね」

「逃がすと思うの?」

 

 カシャン。

 

 ほむらが時間停止の魔法を発動させた。

 

「ダメッ!」

 

 発動する直前、なのはがほむらの腕を強く握りしめた。

 ほむらと、なのは以外の時間が静止する。

 

「ッ! 離しなさい、なのは!」

「嫌です! フェイトちゃんに酷いことしないで!」

「少し話をするだけよ! 乱暴はしないわ!」

「でも!」

「手を離して!」

 

 ブン、と腕を振りほどき、なのはの拘束から逃れて一直線にフェイトへと迫るほむら。

 フェイトを羽交い絞めにして。

 

 カシャン。

 

「……ッ!? いつの間に!?」

「私の魔法は知らないようね。大人しく話を――」

 

 フェイトの体が一瞬、黄金色に輝いた。

 途端。

 バチン、と強い衝撃がほむらの体を走った。

 まるで漏れ出た電流に打たれたかのように。

 思わず、フェイトから体を離してしまう。

 

「貴女では私に触れることは許されない。今後はもう少し良い関係を築けることを祈っています」

 

 言って、フェイトはその場を蹴って。

 光のような速度で廃工場の窓から飛び去っていった。

 

「フェイトちゃぁぁぁんッ!!」

 

 なのはの叫び声がその後を追うが、恐らくもう彼女に届きはしないだろう。

 ほむらはようやく体から痺れが抜け落ちて、その場へと屈み込んだ。

 

「マギウスの翼……、思った以上に厄介な存在みたいね」

 

 フェイトの消え去った跡をいつまでも見つめていたなのはを残して、ほむらはそう独り言ちた。

 

 身内が敵に回ったという経験はいくらでも覚えはある。

 ただし、なのはは。

 果たして自分同様、戦えるのだろうか。

 かつての同胞に対して。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「魔法少女狩りを守る、ねぇ……」

 

 クロはイリヤ達を追うように住宅の屋根から屋根へと飛び移り、並走しながら独り言ちた。

 

「どうかしたの、クロ」

「いや、なんにも」

 

 イリヤの問いかけに、クロは曖昧にぼかして応えた。

 

「今、私たちがしなきゃいけないこと、わかってるよね?」

 

 美遊が二人に確認するように問いかける。

 

「うん。コユキさんが魔法少女狩りを生み出すのなら、それを止める方法を考えること。それから、この町に隠された謎を暴くこと。この二つだよね」

「その通りだけど、まず小雪さんはスノーホワイトさんが付いてくれている限りは大丈夫。なら私たちがやるべきことは、神浜市を支配する何かを調査する。これは多分、私たちが解決できる領分を越えている。だからここは現地の魔法少女に協力を仰ぐ必要があると思う」

 

 その美遊の言葉を聞いて、クロは不満そうに「はあ?」と口悪く疑問符を上げた。

 

「現地の魔法少女って、さっき戦った魔法少女だとか、昨日の佐倉(サクラ)杏子(キョウコ)って奴らのこと? あんな胡散臭い連中に頼るなんて、私はゴメンよ」

「でも現実的に、この事態を解決するには他の魔法少女の協力は必要。私たちはこの町で何が起きているのかすら、わかっていないんだもの」

「それこそ、ヤチヨに聞けばいいんじゃない? 大体あのスノーホワイトって魔法少女。私は結構あの人も胡散臭いと思ってるんですけどー」

「……クロ、もしかして小雪さんを助けることに関しては否定的なの?」

「そこまでは言わないけどさ。スノーホワイトって人、魔法少女狩りを助けることに執着し過ぎて、物事の本質を忘れてるんじゃないかしら。私たちが第一に考えるべきは、この町の異常性を調査して無事にリンに知らせてやることでしょ? ぶっちゃけ、魔法少女狩りの事については私たちと直接関係ないじゃない」

「それは……そうだけど」

「その辺はどうなの? イリヤ」

 

 「へ?」と自分で人差し指を顔に向けて。

 

「どうしてかって、そんなの決まってるじゃない」

「決まってるって?」

 

 イリヤは思いを馳せる。

 最初はこの町の謎を解き明かす、それだけのために動いていた。

 でも今は、やちよやいろはに出会って、そのための助けになりたいと思った。

 そしてスノーホワイトに出会って、魔法少女狩りの小雪と出会って。

 スノーホワイトがそんな彼女をも守りたい、そう言ってくれた。

 だから。

 

「私は助けられる人は、全部助けたい。誰か一人だとか、誰なら救うだとか、そんなケチなことは言わない。助けられるなら私は全部助けるし、その上でこの町の謎を解くことが必要ならそうする。私の答えはいつでも変わらないよ、クロ」

「そっか」

 

 イリヤの言葉に、クロは頷いて見せた。

 

 クロが不意に立ち止まる。

 それを見て、イリヤもまた宙に浮かびながら静止した。

 

「どうしたの?」

「ゴメン、急用が出来た。後で追い付くから、ちょっと先に行っててくんない?」

「急用って……、そんな簡単に出来るもんじゃないでしょ」

「いいから、行って」

 

 イリヤと美遊が顔を見合わせる。

 クロの真意はわからない。

 だけどイリヤはクロの事を信じている。

 

「わかった。ちゃんと追ってきてよ。私たちだけで事件を解決しちゃう前に」

「ばーか。にぶちんのあんたにそんなマネ出来る訳ないでしょうが」

「絶対だからね!」

 

 そう言って、イリヤは美遊と一緒に街の空を飛んでいった。

 

「……さて」

 

 クロは立ち止まって、明後日の方向へと視線を移した。

 両手に双剣を生成し、無形の位で身構える。

 

「さっき振りね、お姉さんたち。私たちの後を付けてきた、ってことかしら?」

 

 クロの目の前に、スタンスタンと、魔法少女たちが立ち止まる。

 四人の魔法少女。

 その中には、先ほど決着をつけ損ねた魔法少女もいた。

 

「河岸……、変えよっか?」

 

 クロは闘志を燃やし、魔法少女たちに相対した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ところ変わってみかづき荘。

 いろはとやちよはリビングで互いにくつろいでいたところ。

 ピンポーンと、呼び出しのチャイムが鳴る。

 やちよはそのドアホンを確認して、はあ、と大きく息をついた。

 

『よっ、見えてる?』

 

「……何の用かしら、佐倉杏子」

 

『別に魔法少女狩りに用があるわけじゃないんだ。七海やちよ、それとみかづき荘の魔法少女に用がある』

 

「だから、何の用かと聞いているの」

 

 やちよは不機嫌を隠すこともなく、パーカー姿の杏子に向かって問い直す。

 

『今回は魔法少女狩りに用はない。どっちかっていうと、それ以外の魔法少女に用があるってとこかな』

 

「今からみんなを呼んで貴女を叩き出すことも出来るのよ?」

 

『それなら話が早い。そうされる前提も見据えて来たし、実際そうしてくれても構わない』

 

「……問いを変えるわ。何が目的なの?」

 

『あたしは腹芸が苦手でね。最初に言っとくわ』

 

 杏子の表情が変わった。

 さっきまではどこか人を食った、余裕のある飄々とした笑みを浮かべていた。

 しかしその雰囲気はいつしか消え、獰猛な獣が餌を前にしたような、言ってしまえば下品な眼差しで、口の端を吊り上げている。

 

『あたしは魔法少女狩りを除く全ての魔法少女を叩き潰したい。このケンカ、買ってくれるかい?』

 

「……お話にならないわね。もう二度と来ないでちょうだい」

 

 言って、やちよはドアホンを切ろうとして。

 

『あたしとしては断られるのは困るんだよねぇ――』

 

 ――「だからさ」

 

 やちよの背後、リビングの中から杏子の声が響いた。

 ぞわりと、やちよの産毛が逆立った。

 

「強硬手段に訴えても悪く思うなよ」

 

 言って、リビングのソファに座っていたもう一人の居候。

 いろはへと顔へと向ける。

 ハッと気が付いた彼女の反応はすでに遅く、白いマントを被った魔法少女姿の杏子が、多節棍でいろはの体を縛り上げていた。

 その胸元には、翼を生やした塔の金色のアクセサリが輝いている。

 

「やちよさん!」

「いろは!」

 

 拘束した彼女の体を、杏子はひょいと軽々と持ち上げて。

 

「幻覚魔法……!」

 

 佐倉杏子のパーカー姿は、未だドアホンのカメラに映っている。

 

「神浜の工場跡に来な。さもないとコイツの無事は保証しないよ」

「見損なったわ。随分と汚いマネをするのね、貴女は」

「何とでも言いな。じゃあな」

 

 リビングの窓を開いて、ひらりと足を飛ばし、彼女の姿はあっという間に見えなくなった。

 

「佐倉杏子……!」

 

 わなわなと拳を握りしめる。

 失態だ。

 敵の狙いを掴めないまま、容易く人質を取られてしまった。

 どうする?

 彼女が要求した通り、みかづき荘の魔法少女総出で出ていくべきか。

 いや、それこそ彼女の罠に全員で踏み込むことになりかねない。

 手札が、見えない。

 そもそも杏子の狙いが、やちよ達であると決まったわけではない。

 総出で留守にした隙をついて、スノーホワイトや姫河小雪に危害を加える危険性がある。

 そこまで考えて。

 捕らぬ狸の皮算用だが、やちよは答えを出した。

 

 いろはを、助けなければ――!

 意を決して、やちよは単身、みかづき荘の外へと駆けて出た。




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