魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第15話 魔法少女たちの戦慄

 ジジ……ザ……ザザ……。

 

 通信機の調子がおかしい。

 神浜市に入った直後は、時空管理局とこうも連絡が取れなくなるような事態は無かった。

 理由はわからない。

 ただ、言えるのは。

 この町全体が魔女の結界内だということ。

 そして魔女が何らかの作為を行っていること。

 時間が経つにつれ、その不安感が増している。

 まるで手の届かない誰かに操られているよう、そんな感覚。

 しかし。

 

『……のは、なのは……! 聞こえるか!?』

 

「クロノ君!」

 

『ようやく繋がった! 一大事だ!』

 

「フェイトちゃんの事、だよね」

 

『……すまない。こっちのごたごたに乗じて、何者かが管理局のデータベースにクラッキングを行っていることまでは確認していたが、直接フェイト自身の端末にハッキングしていることまでは見抜けなかった』

 

「ううん、クロノ君が謝ることじゃないよ」

 

『それで、フェイトは無事なのか?』

 

 なのははそのまま沈黙した。

 

 突然、目の前に現れたフェイト。

 明確な攻撃の意思を持って立ち塞がったフェイト。

 マギウスの翼という組織の、一員となっていたフェイト。

 

 それらをまとめて、なのはは時間をかけて頷く。

 

「今は、無事。でも……」

 

『何か不安要素があったか?』

 

「うん……私が、何とかしなきゃ」

 

『……正直に言う。現在こちらでも神浜市内で起こっている魔法現象を調査しているが、情報にノイズが多すぎて正確な事はわからない』

 

「……だよね」

 

『だから、だ』

 

 クロノが一拍置いて、なのはへと通信する。

 

『今から執務官権限で君にかけられている広域魔法制限、魔力抑制を解放する』

 

「クロノ君……?」

 

『君にしか出来ないことなんだろう? 僕もそう思う。そのためにも』

 

 そう言うクロノの声は、なのはを激励していた。

 なのはは口を引き締めて。

 

『遠慮はいらない、一発かましてこい。君の言うことを聞かないフェイトにも思い知らせてやれ。お前はそっち側じゃない、ってな』

 

「……うん!」

 

『……通信はここまでのようだ。武運を祈る』

 

 ジ……ジジ……ザザザ……。

 

 時空管理局との通信がノイズと共に途切れた。

 

「……フェイトちゃん」

 

 胸元に下げたレイジングハートを摘まみ、話しかける。

 

「フェイトちゃんに言うことを聞かせるのは初めてじゃない。だったら、今度もきっと上手くいく。だよね、レイジングハート」

「その通りです。マスター」

 

 抜群に信頼を置ける相棒のその言葉に、なのはは決意を新たにした。

 そうだ、腐ってなんかいられない。

 なんとしてでもフェイトともう一度会い、話し合う。

 納得できなければ、何度でも。

 それが高町なのはの、唯一の取り得なのだから。

 

「話は済んだかしら」

「ほむらさん……」

 

 表情の見えないほむらの、相変わらずの仏頂面だが、どこかそれが柔らかく見える。

 

「いい表情ね。吹っ切れた?」

「はい。私はフェイトちゃんを連れ戻します。一回目がダメなら二回でも三回でも、何度だって繰り返します」

「私が力になれるようなら相談しなさい。繰り返すことは私にとって何よりも得意なことだから」

「はい!」

 

 なのはは迷いを捨てたかのように、力強く返事をした。

 言葉を並べず、一言で。

 そうだ、この高町なのはという魔法少女に二言は必要ない。

 抱いた決意を曇らせることのないよう、それだけをただ信じればいい。

 

「……とは言ったものの、マギウスの翼について私たちが知っていることは少ない。ここから先どうすればいいか、見当も付かないというのが本音なのよね」

「それに関しては、私に考えが――いえ、考えなんて上等なものじゃないんですけど、一応あります」

「聞きましょう」

 

 ほむらが口元を締めて、なのはの返答を待つ。

 

「この町にいる魔法少女たちに頼るんです。まどかさん達だけじゃなく、もっと色々なことを知っている魔法少女から。だから、その人たちを探します」

 

 ふむ、とほむらは顎に手をやって。

 

「……そう、ね。別に私たちだけが何も頼りにせず、単独で当たる必要も無いんだものね。その線で行きましょう」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 なのはがペコリと頭を下げ、ほむらに向けて礼を述べた。

 

 なのはは本当に強い。

 ほむらよりも一回り年下の少女なのに、その心の在り方は尊敬に値する。

 そして、そんな彼女に何ともいえないほどの期待感を抱いてしまう。

 この子なら、きっと本当に何でも解決できてしまうのだろう、と。

 

 ほむらはその力強い相棒に、敬意に似た感情を抱いていた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……で」

 

 クロは自分の置かれている状況に困惑を覚えざるを得なかった。

 

「そっちの黄色い魔法少女さんに一方負けしたのは認めるけど、私だけなんでこんな扱いなのかしら?」

「だってそうでもしなきゃすぐ逃げるでしょう?」

 

 神浜市内の繁華街にあるとあるフルーツパーラー。

 店内にも座る場所はあるが、今は五人連れ。

 外にあるテーブルに椅子を寄せ合って、なんとかぎゅうぎゅう詰めで腰掛けている状態だ。

 クロもそのテーブルの一席に着いて、マミのリボンで拘束されていた。

 

「言っておくけど、私がアンタ達にあげられる情報なんて無いわよ。こっちだってこの町の事情については八方塞がりなんだから。むしろアンタ達から情報をもらいたいくらい」

「でも貴女、私たちが上から目線で与える情報なんて信じてくれないんじゃないかしら」

「まあ、そうだけどね」

 

 ああでもないこうでもない、そんな会話の応酬をしている間に、さやかがトレイに五人分のドリンクを載せてきた。

 

「おっ待たせー」

「ありがとう、美樹さん」

「いえいえ、マミさんにはお世話になってますからこの程度の事は」

「あら、そう? いえ、そうなのね……」

 

 魔女結界の副次的効果、記憶の食い違い。

 それがなければ何とない会話だったのだが、今もまだギクシャクしている。

 

「それじゃあ、情報交換というのはどうかしら」

 

 マミが手慣れた様子で提案する。

 まどか達は知っている。

 マミの頭の回転の速さ、その鋭さといざという時の遠慮の無さには舌を巻く。

 

「……どういうこと?」

「知っての通り、私たち見滝原の魔法少女はこの神浜の情報に明るくないの。だから、貴女が持つ情報を聞かせてもらう。その返答次第ではこちらからの情報を提供するのもやぶさかではないわ」

「私が嘘を付くことは考慮してないわけ?」

「そうとわかったらそれ相応の扱いをさせてもらうわ。意味はわかるでしょう?」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながらマミが応えた。

 クロは何とかして、相手が持つ情報だけを手に入れて自分からの情報は提供しない、あるいは嘘八百を並べ立てることも考えていた。

 しかし、マミの眼は本気だ。

 嘘を付いているとバレれば多分、マミの望み通りの結果になるだろう。

 ここは仕方ない、と観念しておく。

 

「確かに、私から与える情報は直接、私たちに害を成す事じゃないからね。アンタ達のくれる情報次第なら何でも応えてやるわよ」

「素直で助かるわ、クロエさん」

 

 ポン、と手を合わせて上機嫌な表情を見せるマミ。

 だがやはり、マミの眼は奥底では笑っていないのも察せられた。

 

「じゃあ、こっちからの情報だけど」

「待ってちょうだい。せっかくのドリンクタイムだもの、急くのは止めにしておきましょう」

「ちょっと、こっちは本気なのよ? 少し優位に立ってるからって、一方的に押し付けるのは止めてくんない?」

 

 クロが眉をしかめて苦言を呈するが、マミは聞いた風でもなく、ホットティーを口に運ぶ。

 

「私たちが探しているのは、魔法少女狩り。その大元になっている魔法少女の行方よ」

「……!」

「私が言っている意味、わかるわよね?」

「そういうこと……、ええそうよ。彼女は私たちが匿っている。正確には、私たちと違う魔法少女が、ね」

「やっぱりね」

 

 マミが紅茶を一口飲み、言葉を紡ぐ。

 

「私たちも気になってはいたのよ。あれだけの脅威を持った魔法少女たちが大手を振って町に現れるという事実に。でも貴女の証言で確信が持てたわ」

 

 言って、カップを置いた。

 さらにクロの口を挟む余地がないように続ける。

 

「私やなぎさちゃん達は別にその子を亡き者にしようなんて、乱暴なマネをするつもりは無いわ。ただその子がどんな素質を持った子で、どうして魔法少女狩りなんてものを生み出すのか、その条件が知れればそれでいいの」

「へぇー、お優しいことね」

「そうよ。私たちは優しいの。だからクロエさんも少しは心を開いてくれれば、私たちも嬉しいわ」

「よく言うわ。で、アンタ達が持っている情報というのも教えてくれるんでしょうね。ギブアンドテイクの約束だったでしょ」

「勿論よ」

 

 また紅茶を一口。

 乾いた喉を潤すように飲み込む。

 その所作の一つ一つがいちいち芝居じみていて、クロの気に障った。

 

「クロエさん、貴女は嘘を付かれている。正確には何かに騙されている。それはご存じかしら?」

「騙されている? 私が?」

「貴女だけじゃないわ。多分、貴女が連れ立っていた魔法少女の皆さんも同様に、ね」

「……詳しく話してもらおうじゃない。ただ、それこそその言葉が嘘だった場合、相応の覚悟をしてもらうけどね」

「口先だけは威勢がいいわね。でも私も、貴女の誠意を疑うようなマネはしないわ」

「それこそ口先だけなら何とでも言えるわ」

「私たちから話せるのは、この神浜市自体が魔女結界の内部だということと、それを支配する魔女がいる、ということ」

「魔女結界……、ヤチヨが言っていた奴ね」

「そう、そしてそれを利用しようとしている者たちがいる」

 

 マミが一拍置く。

 わかったら話せ、ということか。

 どこまでも食えない奴。

 

「魔女も魔女結界も、私やイリヤ達は詳しくは知らないわよ。それこそヤチヨに会って、貴女が直接聞けばいいわ」

「せっかく情報源が近くにいるのに、わざわざ無視していたの?」

「正直、私たちにとっては魔女も魔女結界も対岸の火事だもの。アンタ達、魔法少女が好きにやってれば、って感じ。私たちが知りたいのはこの町の異常性の解明だけ。それ以外の揉め事に首を突っ込む気は無いってわけ」

「そうなのね」

 

 マミの眼が光った。

 そう錯覚するかのように、彼女の眼光が鋭さを帯びたように見えた。

 その威圧感に当てられ、抗弁しようかと思わされたが、その前にマミが口を開く。

 

「やっぱり、貴女は騙されているわ」

「……どういう意味?」

「貴女たちが思った以上に呑気だったっていうこと。でもそれは魔女結界の副次的効果に過ぎない」

「何が言いたいのさ」

 

 すらすらと言い連ねるマミに、内心でクロは辟易していた。

 しかし聞き流すわけにもいかない。

 どこにどんな情報が隠されているのか、黙って聞き逃すつもりは毛頭ない。

 

「魔女に魔女結界。それが神浜で今起きている異常の正体。それの中心に近い人物として、貴女たちが守る魔法少女狩りが手元にいる。なのにどうしてか、貴女たちはそれに触れようとしていない」

「まだるっこしいわよ。何が言いたいのかはっきりすれば?」

 

 マミの表情が緩んだ。

 聞くべきことは聞いた、ということか。

 業腹だが、彼女が得たい情報は全て渡してしまったということになる。

 一人、納得したような表情で、マミが応えた。

 

「マギウスの翼。貴女がこの町の異常性を解明したかったら、彼女たちに接触しなさい」

「マギウスの翼? 何よそれ」

「これ以上は何も言えないわ。本当に、残念だけど」

「単にアンタ達も知らないからってわけ?」

「そういうことよ」

 

 言うや否や、マミは紅茶を最後に一口して、立ち上がる。

 ゆるりと、クロを縛っていた拘束が解かれた。

 

「ただ、彼女たちは危険よ。渡りを付けるなら相当の覚悟をすることね」

 

 そう言って、彼女はまどか達を見渡して。

 

「行きましょう、みんな。佐倉さんの事も心配だし、暁美さんもこの情報を待っているわ」

 

 従うように、四人の魔法少女たちはマミを中心としてフルーツパーラーから出ていった。

 後に残されたクロは。

 

「……何だってのよ。これじゃ私だけいいように転がされただけじゃない」

 

 呟いて、自分自身に悪態をつくと同時に、去っていった魔法少女たちにもアカンベエしてやる心地になっていた。

 

 

 

「マミさん、やっぱりカッコよかったです!」

 

 さやかが眼をキラキラさせながら、先の交渉を成功させたマミを絶賛した。

 

「ホントだよ。マミさん、凄かったよ!」

 

 まどかも追従してほめそやした。

 

「二人とも、買いかぶり過ぎよ。誠意を持って話せば、相手も胸襟を開いてくれるものだわ」

「それでもマミはやっぱり凄いのです」

「もう、なぎさちゃんまで」

 

 それはともかくとして。

 マミは今後の自分たちの動きに関して思案する。

 魔法少女狩りの本体がいて、それを守る魔法少女がいる。

 そこまで情報を手に入れたのなら、次にすることは。

 決まっている。

 その本体と、それを守る魔法少女を探すのだ。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市の外れにある工場跡。

 そこには古びた廃工場が建ち並んでいた。

 さながらゴーストタウンの有り様を思わせるような、そんな陰気な気配が各所から流れ込んでくる。

 

「七海やちよは、さ」

 

 杏子が箱一杯に詰められたポップコーンを一つ摘まみ上げて、多節棍に縛られたいろはに話しかける。

 パクリと口に放り込んで。

 

「一体何だってアンタみたいなちんちくりんを躍起になって守ろうとしてるわけ?」

「やちよさんだけじゃありません。みかづき荘のみんななら、誰が私と同じような目に遭っても助けようとします」

「それが罠だってわかっていても?」

「私たちは常に最悪の事態を想定して戦っています。それがここ、神浜でみんな揃って生きていく為の心構えですから。だから、やちよさん達は決して貴女には負けません」

「ふーん、そう」

 

 ポップコーンを摘まみ上げ、また一つそれを口に放り込んだ。

 つまらなさげな様子を隠すこともなく、杏子が続ける。

 

「アンタは知ってるんだろ? マギウスの翼って連中が今まで、何をしてきたのかも」

「マギウスの翼の目的は失敗しました。そのせいで傷ついた人も、戻らなかった人も大勢います」

「で?」

「私はこれ以上、そんなことのために命を犠牲にすることを許すつもりはありません。マギウスの目的は、果たして希望を求めることだったと思いますが、それ以上に大勢の魔法少女を傷付ける。だから計画は失敗したんです。そして私は戦います。希望を祈ったことそれ自体は、誰にとっても尊いことだと信じているから」

「ご立派なことで」

 

 杏子が箱に手を突っ込んで、掴み上げた幾つものポップコーンの塊を口に運んだ。

 その拍子に幾つか、零れ落ちていく。

 

「だったら、アンタが言う希望ってやつがあたしに何か与えてくれるのかい?」

「佐倉さんの希望?」

「あたしはね」

 

 そう言って、またポップコーンを掴み上げて、口に運び。

 同様に幾つかまた零れ落ちた。

 咀嚼し、飲み込んで続ける。

 

「あたしはあたしが生き続けるために、自分の暴力を解禁した。そうやって佐倉杏子は生きてきた。だけどあたしのアイデンティティを脅かす奴がいる」

「……何の話ですか」

「さてね。ただこれだけは言わせてもらう」

 

 言って、ポップコーンの箱を横にどかした。

 

「あたしは他人から奪って生きてきた。同時に他人に奪われながら生きてきた」

 

 いろはに背中を向けていた顔を、彼女に向けて視線を交わして。

 

「所詮世の中、弱肉強食だろ? そろそろあたしもいい夢、見させてもらってもいいんじゃないかい?」

 

 瞬間。

 ポップコーンが入った箱を、突然飛んできた棒が貫いた。

 箱が中身を撒き散らしてひしゃげ、廃工場の壁に突き刺さる。

 

「やちよさん!」

 

 いろはが声を上げた。

 魔法少女姿のやちよが槍を投げ付けた格好で、呼吸荒く、立ち尽くしている。

 

「いろは……、無事ね」

 

 途端、いろはを縛っていた多節棍がばらりと解けた。

 それらが複雑な形状を形どってやちよへと襲い掛かる。

 赤い槍の連撃。

 やちよが持つ槍が細やかな軌道を描いてその連撃を捌く。

 

「アンタだけかい? 約束は守ってもらえなかったみたいだが、こっちのコイツは返してやるよ。あと、何よりさぁ……」

 

 杏子の赤い影が目の前から消え失せる。

 やちよの背後。

 その一撃を槍で受け止め、いろはの近くへと後ずさる。

 

「食い物を粗末にするんじゃねえ……!」

 

 杏子の闘志が膨れ上がる。

 それが眼に見えてわかるように、まるで赤い闘気を纏っているかのように見えた。

 解放されたいろはが魔法少女姿に変身する。

 

「いろは、私の後ろに」

「私も戦います!」

「当たり前でしょう。私が前衛を務めるから、貴女は後ろから援護して、そう言っているの」

「……はい!」

 

 言って、二人は杏子に向かって油断なく構えた。

 

「他の魔法少女が来ても同じだったろうけどさぁ、アンタ達、どこまでも運がないわ」

 

 パチン、と。

 杏子が指を鳴らした。

 

 気配が膨らむ。

 そうとしか言いようが無いほど、無人の工場跡に人の気配が広がり、いろは達の周囲を取り囲む。

 

 あちこちの廃工場から姿を現したのは、ウエスタンガンマンのスタイルの魔法少女。

 その数、20から30ほど。

 それら全てが、尋常ではない殺意を放ちながら姿を現した。

 

「マギウスの翼に立ちはだかる意味、その身で味わいな」

 

 工場跡に、銃撃音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 灯花が地下に篭って幾ばくかの時間がかかって。

 ようやく獲物が網にかかったのを知って、ご満悦な表情を見せた。

 

「長かったにゃー。これで計画も第二段階に進められるわ」

 

 そんな灯花の背後に立つ金色の影。

 

「そう思わないかにゃ? フェイト・テスタロッサ?」

「……悪趣味すぎて、反吐が出る」

「そんなにカラミティ・メアリが好きじゃない?」

「好きじゃないのは、こんな手段しか取れない貴女の方だ」

「まあ、わたくしも好きでこんなことやってるわけじゃないし。たまたまこの方法が一番、効率的だったってだけ」

 

 灯花の言葉に、フェイトは眼を逸らした。

 唇を噛み、血が滲んで鉄の味がするのを自覚する。

 

「わかっていると思うけど、なのはに手出しは……」

「当然、わかってるよ? 約束は守るからねー」

 

 「でも」

 灯花は続ける。

 

「それはあくまで貴女が約束を果たしてくれるまでの間だけ。それさえ守ってくれれば後は好きにしてくれてもいいよ」

「わかっている……!」

 

 それだけ言い捨てて、フェイトは灯花に背を向けた。

 

「見ていかないの?」

「言ったでしょう。反吐が出るって」

「残念だにゃー」

 

 トン、と地を蹴って。

 フェイトはその場から上の階層へと飛んでいった。

 

「やれやれ、これだからお子ちゃまは」

 

 肩をすくめる灯花に、背後から影が差す。

 

「私との約束も守ってもらいたいものですね」

「ああ、音楽家」

 

 音楽家と呼ばれた、体の各所を薔薇であしらった格好の魔法少女が灯花に声をかけた。

 気品を漂わせながら、どこか年経た貫禄と手練れの威圧感を匂わせる魔法少女。

 

「貴女もカラミティ・メアリは嫌い?」

「ええ、品が無い」

「せっかく取り揃えたっていうのにみんな贅沢だねぇ。ちなみに音楽家は誰が好み?」

「今となっては私の好敵手と呼べる魔法少女はいないですが」

 

 「しかし」

 音楽家は続けた。

 

「スノーホワイトでしょうか。まさかとは思いましたが、実際に見てみれば久方振りに血が騒ぐ、というものです」

「その内、状況の場は用意するよ」

「期待してますよ、里見灯花」

 

 音楽家のその言葉に、灯花は「くふふっ」と薄笑いを浮かべた。

 

 余りに熱中し過ぎた彼女は、ついついおやつの時間を忘れてしまっていた。

 時間は午後4時を回ろうとしていた。




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