魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第16話 魔法少女の陰謀

 無数に響く銃撃音。

 その一射ずつが必殺の一撃。

 やちよは無数に槍を生み出して、銃撃を防ぐ盾にしながら旋回状に移動する。

 いろはもその後を追いながら、牽制するように魔法のクロスボウで銃撃を撃ち落としていく。

 しかし。

 

(このままじゃジリ貧……。私だけならともかく、いろはを守りながらというのは……!)

 

 咄嗟に、目の端に映った廃倉庫の中を見やった。

 少なくともそこに敵の姿は無い。

 眼で追う限りは、だが。

 いろはの襟元を引っ張り上げ、その廃倉庫へと体を滑り込ませた。

 しかし、予想通りというべきか、中にもガンマン魔法少女の姿が数人、確認できた。

 だが、それで十分だ。

 やちよは槍を手に壁沿いに駆ける。

 その後を追うかのように銃撃が二人を襲う。

 

「いろは、後ろは頼んだわ!」

「はい!」

 

 やちよが進路上に立つ魔法少女に対して槍を振るう。

 一撃必殺を狙い、その首筋をなぎ払った。

 量産型の怪人みたいな奴らだ。

 まともな存在じゃないはず。

 殺すことに躊躇いは無かった。

 首を払い、胴を離れた魔法少女がその場に倒れ伏す。

 

「やちよさん!」

「頭部よ! 頭を無くせば体も停止するわ!」

「――ッ、わかりました!」

 

 いろはの射撃が、魔法少女の頭を射抜く。

 頭に穴を空けたそれは、コントロールを失ったラジコンみたいに動きを止めてその場に倒れ伏した。

 

 倉庫内の掃討は完了。

 これでしばらくは時間を稼げるはず――。

 

 ガアンッ、と一際大きな銃声が聞こえた。

 その射撃が倉庫の壁を突き破り、大穴を空ける。

 

(なんて威力……! 逃げ回るだけじゃ勝ち目はない!)

 

 しかしチャンスは出来た。

 敵の攻撃はあくまで実銃の点線にしか射撃が出来ない。

 やちよの攻撃は、面制圧も可能だ。

 

 槍を無数に生成する。

 それらを指揮棒で指揮する指揮者のように、手を振り上げて、地面へと振り下ろした。

 槍が面となって、一斉に撃ち出される。

 さらに槍を無数に生成し、撃ち出す。

 それを十数回――いや、さらにそれ以上の回数、繰り返す。

 やちよといろはが立てこもる廃倉庫にこぞって集まってくる木偶の人形が、槍の連射に貫かれ、腕が吹き飛び、足を失い、最終的には頭も抉られ生命活動を停止していった。

 やがて、銃撃音が止んだ。

 ガクン、とやちよが片膝を落とし、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す。

 

「やちよさん、大丈夫ですか!?」

「平気よ……それより、まだ本命が残っている」

 

 カツン、と。

 倉庫に踏み込む足音が聞こえた。

 

「やってくれるじゃん」

 

 平然と応える佐倉杏子。

 いろはがやちよを庇うように前に立ち、クロスボウを杏子へと向けた。

 

「……その槍を下ろしてください、佐倉さん」

「ああ?」

「魔法少女同士でこんな不毛な争いを続ける必要はありません。貴女が武器を下ろしてくれれば、私だってそうします」

「何おちゃらけたこと言ってんの? 魔法少女同士が戦ったら、簡単に決着が着くわけないっしょ」

 

 杏子の姿が赤い影となってぶれる。

 

「――相手が死ぬまでなぁッ!」

 

 背後から、声が殺気となって襲い掛かる。

 いろはは戦慄した。

 避けられない――!

 

 杏子が振るった一撃は。

 しかし、ガキンと金属がぶつかり合う音だけを残して、いろはに命中することは無かった。

 

「貴女、いい加減、攻撃がワンパターンなのよ」

 

 ギシリと、やちよと杏子の槍が互いに噛み合う。

 

「幻覚魔法で姿を隠して背後から奇襲。何度も見せられたら馬鹿でも覚えられるわ。さっきからの振る舞い同様、卑怯で幼稚なマネが得意なようね」

「チッ……」

 

 ギン、と槍が弾き合い、杏子とやちよの間合いが広がる。

 

「私たちは、卑怯者には負けないわ」

「ならその一敗をせいぜい噛み締めな」

 

 杏子が赤い槍を手放した。

 多節棍となったそれが巨大に膨れ上がる。

 武器を巨大化する魔法――!?

 驚いたのも束の間、やちよの脇腹を多節棍が打ちのめした。

 やちよが成す術なく吹き飛ばされ、倉庫内の壁に叩きつけられる。

 

「かはッ……!」

「やちよさん!」

 

 いろはがクロスボウから光の矢を放ち、杏子の動きを牽制する。

 無数に放たれる光は、しかし杏子が縦横無尽に振り回す多節棍に阻まれて、全弾撃ち落とされる。

 

「軽いんだよぉッ! アンタの攻撃はさぁッ!」

 

 槍の矛先がいろはを襲った。

 それはいろはの右腕を薙いで。

 

「はッ……、あぁぁぁッ!!」

 

 しかしいろはは動きを止めず、杏子の懐へと肉薄した。

 左手のクロスボウを杏子の腹へと密着させる。

 零距離射撃。

 

「ッ、この野郎……!」

 

 光の矢がクロスボウから放たれる。

 その衝撃を受けて、杏子の体が遥か後方へと吹き飛んだ。

 同時、いろはの薙がれた右腕が、ぐちゃりと音を立てて地面に転がる。

 

「はぁッ! はぁッ……!」

 

 重傷だ。

 しかし腕一本と引き換えに、杏子の腹を貫き通した。

 彼女へ致命傷を与えた成果は大きい。

 

「なかなか根性あるじゃん……。効いたよ、今のは」

 

 腹に大穴を空けた杏子が、態度から見てもわかるほどに疲弊していた。

 

「こうなっちゃ泥沼試合は不利だね」

「逃げる気……、ですか」

「悪いけど、こんな重傷を受けたまま戦闘続行できるほど無敵じゃないんでね……。勝負は一旦、預けとくよ」

「また来るつもりなんですか……?」

「そういう命令があれば、ね。今回も、命令は果たした……」

「命令?」

「時間稼ぎは出来たってことだよ。意味は自分で考えな」

 

 一方的にそれだけ言い残して、杏子は跳び上がり。

 廃工場の屋根を伝って撤退していった。

 

「くッ……、いろは!」

「大丈夫……、です」

 

 ずりずりと、足を引きずりながらいろはは地面に転がっている自分の右腕を手にした。

 それを右腕の傷口に当てて、淡い光を放つ。

 右腕が、元の形に修復された。

 

「癒しの魔法です……。病気とは違うので、勝手はわかりませんが」

 

 傍目には、いろはの右腕は元通りになったように見えた、が。

 宙ぶらりんになったように、右腕だけがだらりとぶら下がる。

 

「心配いりません。後は魔法少女の回復力に頼れば、元に戻るから……」

「……ありがとう、いろは。今回は貴女の無茶に助けられたわ」

「はい、どういたしまして……」

 

 そう言って、いろははその場に倒れ伏した。

 

「いろは……?」

 

 やちよがいろはの体を抱き起こす。

 いろはのソウルジェムが濁りを増していた。

 

「いろは……、いろは! いろは!!」

 

 やちよは叫ぶように、いろはの名を呼び続けた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 クロは一人、みかづき荘に戻っていた。

 結局、イリヤ達を諦める形になってしまったが、それはそれで仕方ない。

 1対4で勝てると思ったわけではなかったが、完璧に言い訳のしようもないほど失敗したのでこれはこれで自業自得だ。

 それに。

 

(あの魔法少女たちは魔法少女狩りを狙っていた。だったら私に出来ることは彼女を守ること)

 

 スタン、スタンと住宅街の屋根を伝ってみかづき荘への家路を急ぐ。

 後を付けられていないか、今度は慎重に後方を気にしながら。

 

(スノーホワイトがいる限りはあの人も無事だろうけど、何が起こるかわかったもんじゃない)

 

 胸中で呟きながら、不安感を押し殺して跳び続ける。

 みかづき荘が見えてきた。

 玄関に降り立つ。

 ドアを開けて、玄関口で靴を脱いで上階に上がろうとして。

 

 違和感を覚えた。

 

 これは……何?

 何かがおかしい。

 それを直感して、クロは転身を解くこともなく階段を駆け上がった。

 スノーホワイトと姫河小雪がいるだろう部屋のドアを蹴り開ける。

 

「スノーホワイト! コユキ! あんた達、無事!?」

 

 部屋の中を改めるまでもなく、異変は知って取れた。

 そこにはキョトンとしたスノーホワイトと、相変わらず悲痛な表情で、不安を押し隠そうともしない小雪の姿。

 彼女らしかいなかった。

 

「クロエさん? イリヤさん達と行動してたはずじゃあ……」

「そんなことはどうでもいい! なんでいないの!?」

「あまり大きな声を出さないで。一体どうしたの?」

「この家の魔法少女よ! なんで全員いなくなってるわけ!?」

 

 スノーホワイトは「ああ、それなら」と。

 

「さっきやちよさんのテレパスが届いたらしいの。何でも彼女たちが魔法少女相手に苦戦しているから、応援を頼んだみたい」

「チッ! そういうこと……!」

 

 クロがつかつかとスノーホワイトに詰め寄る。

 

「ここはもう安全じゃない、急いで逃げるわよ!」

「一体どうしたの、クロエさん。冷静になって」

「そんな暇はない!」

 

 そう言うが速いか。

 

「そうですね。勘のいい子はそれなりに好きですよ」

 

 部屋に声が響いた。

 クロは双剣を両手に生成し、声の主を探す。

 いた。

 その人物は、先ほどクロが入ってきたドアの前に立って、腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 スノーホワイトがルーラを手に立ち上がる。

 

「貴女の姿……、森の音楽家クラムベリー……!」

「久しぶりですね、スノーホワイト。……いえ、直に会うのは初めてでしたか?」

 

 薔薇をあしらった衣装に、その上から白いフード付きのマントを被っている。

 胸元には、翼が生えた塔を模した印章がきらめいていた。

 

「どうして貴女がここに?」

「貴女ならわかっているんじゃないですか? スノーホワイト。お得意の心を読む魔法で」

「……少なくとも、私が聞く心の声の有効範囲内にはいなかったはず」

「上手く出来ていたでしょう? ここの魔法少女たちは私の疑音に騙されて、どことも知れない場所へ応援に向かっているはずです」

「貴女は心の声も操ることが出来るの?」

「ご想像にお任せしますよ」

 

 クロがスノーホワイトと小雪の前に立ち塞がる。

 

「アンタの能力自慢に付き合う義理は無いの。さっさとここから逃げるか、ボコボコにされてから逃げるか、どっちか選びなさい」

「能力自慢ではなくて」

 

 魔法少女――クラムベリーが動いた。

 クロが咄嗟に双剣を構えるが、彼女はその手にそっと触れて。

 双剣の構えをいなし、クロの腹に掌底突きを見舞った。

 クロの体が吹っ飛び、部屋の壁に叩き付けられる。

 

「実力自慢ですよ」

 

 クロが腰を落としたまま、ゲホゲホと乱れた呼吸を漏らす。

 

「スノーホワイト。貴女はどうやら私の心の声を聞いて対処できるとお思いのようですが」

 

 スノーホワイトが構える。

 が、クラムベリーの動きはそれをさらに上回る速度で。

 一息にスノーホワイトの目の前に体を滑らせ、彼女の下顎を打ち抜いた。

 

「能力に頼っている内ではまだまだ二流ですね」

 

 どさっと、音を立ててスノーホワイトの体がくずおれた。

 クラムベリーが怯え竦む小雪の傍へと近寄り、その髪を掴み上げて無理矢理に立ち上がらせた。

 

「い、いやッ……!」

「安心しなさい。殺しはしませんよ」

 

 言って、クラムベリーは小雪のみぞおちを打った。

 小雪は一瞬で意識を失い、だらりと体から力が失せる。

 

「そこの黒いお嬢さん、スノーホワイトが起きたら伝えておいてくれます? 魔法少女狩りは、マギウスの翼が預かった、と」

「……アンタが例の、マギウスの翼か!」

「名乗りはしました。では、後はよろしくお願いします」

 

 恭しく、わざとらしい礼をして。

 小雪の体を担いだクラムベリーは、部屋の窓から跳びすさり、住宅の屋根を伝って姿を消していった。

 

「あんの野郎……! スノーホワイト、起きなさい! スノーホワイト!」

 

 クロの叫び声も虚しく、意識を失ったスノーホワイトは眼を覚ますことは無かった。

 

 マギウスの翼の正体や目的は一切わからない。

 ただ、奴らは魔法少女狩り――姫河小雪の身柄を狙っていた。

 良くないことが起こる。

 ただそれだけは、クロにも確信できた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「順調、順調」

 

 灯花は満足そうにディスプレイを覗きながら独り言ちた。

 

「佐倉杏子も音楽家も、いい仕事してるわ。人形が何十体か壊されたけど、まあ安い投資だよね。貴女はどう思う?」

 

 灯花は背後に眼を向けて、フェイトの顔色を窺った。

 

「どう思う? って聞いてるんだけど」

「わざわざ人の意見を聞かないと気が済まないの?」

「他人の意見を聞くのは、自分を客観視するために必要な行為なの」

 

 フェイトは憮然とした表情のまま、自分に言い聞かせるように意見を述べる。

 自分の意見など聞き入れられないことを、ひしひしと感じながら。

 

「……例の魔法少女狩りを音楽家が捕らえたのでしょう。そうなれば、彼女を守護しようとする魔法人形が生まれるはず。それが味方になるか、敵になるか、そこまではわからない。だから私はここにいる」

「大正解。流石はフェイト、流石はわたくし」

 

 灯花は「くふふっ」と笑いを浮かべた。

 フェイトは続ける。

 

「もし彼女が貴女に敵対するようなら、魔法少女狩りは極めて危険な敵となる。それを何とかすれば、貴女の計画は三段階目に進むことになる」

「そういうこと。だから貴女には期待してるんだよ、フェイト・テスタロッサ」

 

 フェイトは口惜しそうに、唇を噛み締めて、さらに続ける。

 

「所詮、私は貴女の駒に過ぎない、ということでしょう」

「そういう約束だからね」

「だったら私も約束を守ってもらう。なのはの件は絶対に誰にも譲れない」

「わかってるって。わたくしはちゃんと約束を守るから、だから魔法少女狩りの件さえ済ませてくれれば、貴女は晴れて自由放免。そういうことでいいでしょう?」

「……それさえわかってくれているなら、私は貴女に従う。だけど」

「ん?」

 

 灯花の人を食ったような笑顔が、僅かに訝し気なものを宿らせる。

 

「本当に私を解放しても構わないの? 貴女の計画を知る私は、いずれ貴女の敵になる」

「ああ、そんなこと」

 

 フェイトの怒気を、そんなことかと軽い調子で受け流した。

 

「計画が進めばどっちみち、貴女にどうすることも出来ないから。わたくしの命を狙うならそれでもいいよ。無理だろうけどね」

 

 言って、灯花はフェイトから視線を外した。

 

「……ちょっと偵察に出てくる。魔法少女狩りの様子も気になるから」

「好きにしなさいな。それじゃ、行ってらっしゃい」

 

 視線を向けることなく、灯花はひらひらと手を振った。

 フェイトは無言のまま、上階へと飛び立つ。

 

 地下に一人残った灯花は、やはり「くふふっ」と笑う。

 

「わたくしの計画が上手くいけば、もう誰も怯えることなく魔法少女の宿命を乗り越えられる。だから、みんな邪魔しないでね」

 

 灯花は小さな手を開き、指を結んでいった。

 

「えーっと、暁美ほむら、高町なのは、スノーホワイト、後それから――」

 

 四本目の指を結んで。

 

「――環いろは」

 

 そう、彼女の名を口にした。




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