魔法少女≠魔法少女   作:12club

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 興に乗って書いていたら1万字に迫る文章量になってしまいました。
 だいぶ読みにくい文になっていると思いますがご了承ください。


第20話 魔法少女たちの火花散る

 午後6時半を回って。

 神浜市は各所で一斉に、大混乱に陥った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ガ……ギギ……」

 

 両腕を吹き飛ばされたカラミティ・メアリが、尚も視線だけででも射殺さんと言わんばかりの形相でなぎさへと眼を向ける。

 

「なぎさちゃん、危ない!」

 

 まどかの放った光の矢がカラミティ・メアリの頭部に直撃し、さらに多方面から彼女を襲わんとする別個体を数体同時にその頭部を貫く。

 頭部を失ったカラミティ・メアリ達がその場にくずおれ、くたびれた服の女の死体となって倒れ伏した。

 

「まどかーッ!」

 

 さやかの声。

 別方向からまどかを狙撃しようとしていたカラミティ・メアリの前に立ちはだかって、今まさに引き金を引かんとしていたその個体の首を斬り飛ばした。

 

 しかし、さらにあちこちから姿を現すカラミティ・メアリの群体。

 手が足りない。

 

「させないわよ!」

 

 雑居ビルの屋上から俯瞰していたマミが無数にマスケット銃を生成し、それらの銃口を一体ずつ、照準を合わせて。

 一斉放火。

 その砲撃は一射違わず出現したカラミティ・メアリの頭部を粉砕した。

 

 どうやら敵は打ち止めのようだ。

 

「この辺、一帯の群れは片付いたようね」

「いやー、流石マミさん。私たちだけじゃあとてもじゃないけど対処しきれませんでしたよ」

「それは私も同じセリフよ。貴女たちがいたからこそ最小限の被害で防げたわ」

 

 新西区繁華街のど真ん中。

 それも帰宅ラッシュの真っ最中に、これらカラミティ・メアリの群体が突如として出現した。

 一瞬で狂乱の修羅場と化した町は、しかして魔法少女たちの活躍によって鎮圧された。

 だが、一般人の犠牲も少なからず出ている。

 

「ッ! 来るのですッ!」

「どうしたの、なぎさちゃ――」

 

 なぎさの声に応えようとして、まどかもハッとした。

 ソウルジェムの明滅が激しい。

 さやかもそれに気付き、舌打ちする。

 

「これは……!」

「魔女結界なのです! しかもこれだけ広範囲の……!」

「どういうこと!?」

「恐らく先ほどの群体がグリーフシードを隠し持っていたのです! それらが孵化寸前まで穢れを溜めて、融合して際限なく広がろうとしている……!」

「それって、ヤバいんじゃない!? ここにはまだ一般人がいるんだよ!?」

「なぎさとまどかで何とか避難誘導してくるのです! さやかとマミは結界の魔女を!」

「それしかない、かッ……!」

 

 集ったグリーフシードを中心に、空間が迷路のように歪んでいく。

 

「行くわよ、美樹さん!」

「合点です!」

 

 二人の魔法少女が異空間へと侵入していく。

 それを眼で追いながら、なぎさは見送る。

 

(ここまで派手に動きを見せたということは、やっぱりこれはマギウスの翼の仕業……、でもまどかは記憶を操作されて、自分の役割を思い出せていない。ならこれはねむりんの案じていた騒動と予想外の出来事……。いや、まだ彼女の手の平の上なのかも)

 

 ウー、とサイレンの音が遠くから聞こえてくる。

 警察か消防か、もしくはそれのどちらもが事件を嗅ぎつけてやってきたのが聞こえる。

 被害者の救出、避難。それと下手人の逮捕か。

 

「どうしたの? なぎさちゃん!」

「何でもないのです。ここは一旦、現地の警察に任せるのです。なぎさ達は姿をくらまして、マミ達を待つのです」

「他の場所でもこんなことが起こってたら、どうしよう……!」

「もしそれならなぎさ達以外の魔法少女に任せるしかないのです。少なくとも、この町の平穏を乱すことを嫌う魔法少女は、なぎさ達の他にもいるのですから」

 

 そう、願って待つしかない。

 なぎさは悲痛な面持ちを隠すことも出来ず、暗い顔のままビルの上へと姿を消した。

 

「……ほむらちゃん」

 

 まどかが口にする。

 今頃、ほむらとなのははどうしているだろう。

 こんな事態が他でも起きているのなら、まさかみすみす見過ごしているということはないだろうが。

 言いようのない不安を抱いたまま、まどかもまたなぎさを追って姿を消した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「たぁぁぁッ!」

 

 鶴乃の炎の扇が辺りの魔女の使い魔をまとめて焼き払う。

 結界から漏れ出た使い魔はこれで打ち止めか。

 

「うっし、使い魔は全部片付いたな! 後は魔女だけ、オレに行かせろ!」

 

 威勢よくフェリシアが発破をかける。

 やちよは即座に頷いた。

 

「鶴乃、フェリシア。この結界の魔女は任せたわ。二葉さん、貴女は二人の援護に回って」

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「正直、どうとも言えないわ。これだけの量のグリーフシードが融合して生み出した結界がどれほどの規模なのか、想像もつかない。だけど貴女たちのチームならそう簡単にやられはしない。そうでしょう?」

「……はい、頑張ります!」

「ええ、武運を祈ってるわ。行って」

 

 そう言って、やちよはさなを見送った。

 

「ところでいろは」

「はい」

 

 使い魔との連戦で疲弊したか、住宅街の石塀に背中を預けて荒く呼吸をしているいろは。

 やちよに呼ばれ、顔だけそちらに向ける。

 

「貴女の話だと、貴女の知っているマギウスの翼はエンブリオ・イブの覚醒のため、魔女をその巨大魔女に贄として捧げていたのよね?」

「そうです。あの魔女は、他の魔女を食べることで成長して、ゆくゆくはワルプルギスの夜も餌にしてドッペルシステムを完成させる予定でした」

「今の状況、どこがとは言えないけれど、なんだか似ていると思わない?」

「この状況が、ですか?」

 

 いろはの反復した問いに、やちよは頷く。

 

「突然、出現した量産型魔法少女の群れ。それらが身に付けていた孵化しかけのグリーフシード。一般人の犠牲も顧みず、この神浜をまるで火にくべていくかのような振る舞い……。こんな頭のネジが外れたマネをするような黒幕がいるのかも、ということよ」

「もしかして、小雪さんをさらった人たちが関係しているのでしょうか」

「当たらずとも遠からず、といったところかしら。どちらにせよ、これだけの混乱を引き起こしておいて、実は何も考えていませんでした、ということはないでしょう。敵は私たちに向かって王手をかけてきたのよ」

「放っておけば、神浜の町どころかそれよりもっと大きな犠牲が出る……」

「それだけで済めばいいのかもしれない」

「やちよさん……?」

 

 いろはの言葉に、やちよは俯き加減で首を横に振る。

 

「……いえ、今はそんなことを言っている場合ではないわね。こんなバカ騒ぎ、さっさと終わらせないと碌でもない結果になるのは眼に見えているわ」

「それでも、私はやちよさんの意見が聞きたいです」

「私もそうしたいのはやまやまなんだけど――ねッ!」

 

 槍を壁のように、盾にするように生成する。

 一瞬遅れてガアン、と銃撃音が鳴り響いた。

 槍に弾かれて弾丸はあらぬ方向へ飛んだようだが、その槍もまた一本、銃撃を受けてひしゃげている。

 

「コイツらを片付けるのが先かしら」

 

 屋根の上から一人、石垣から頭を出してまた一人、前後左右の道からさらに一人ずつ。

 

「囲まれてる……!」

「いろは、前衛を任せるわ。貴女が撃った敵の方へ走って逃げて。後ろから私が貴女を守る」

「わかりました!」

 

 いろはが前方のカラミティ・メアリに照準を合わせる。

 その方向のカラミティ・メアリが銃を早抜きするよりさらに速く、光の矢を撃って脳天を撃ち砕いた。

 躊躇なくそちらへと走り出す。

 しかし。

 

(マギウスの翼を名乗って、こんな酷いことをして……)

 

 いろはは表情を曇らせる。

 

(やっぱり、貴女がやっていることなの……? 灯花ちゃん……)

 

 背後から響き続ける銃撃音を背にしながら、住宅街から抜け出す道を探し続けた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 工業区跡地から離れ、住宅街にほど近い場所にある公園。

 ほむらとなのははカラミティ・メアリ達の襲撃を受けていた。

 

 ほむらはなのはの背にピタリと張り付いて。

 

「戦える? 傷は気にならない?」

「大丈夫です。怪我も問題ありません」

 

 どのカラミティ・メアリもサブマシンガンを手にしている。

 面制圧を得意とした群体か。

 あの時は確か、マミと杏子も一緒だったか。

 多少面倒はあるものの、すべきことは変わらない。

 

「なのは、私の手に掴まって」

 

 言って、ほむらはなのはに左手を伸ばす。

 それに応えて、なのはも彼女の手をしっかりと握った。

 

 カシャン。

 

 世界から、音と動きが失われる。

 ほむらは円形盾から取り出したデザートイーグルで、カラミティ・メアリ達の頭部に照準を合わせて次々に撃ち込む。

 なのはもまた、重砲と化したステッキをカラミティ・メアリの集団に向けて、光をチャージし始める。

 

「ディバイン、バスターッ!」

 

 光の帯がカラミティ・メアリの集団を飲み込み。

 

 カシャン。

 

 時間が動き出す。

 同時に、ほむらの銃撃が狙い違わずカラミティ・メアリ達の頭部を穿った。

 以前同様、肉体を持ったカラミティ・メアリ達はくたびれた女の姿の死体となって辺りに転がる。

 

「ふう……」

 

 辺りの安全を確認し、安堵の息を漏らすほむら。

 そこに。

 

「ッ! ほむらさん、避けて!」

「え……――ッ!」

 

 反射に任せて、ほむらは後方へと大きく後ずさった。

 そこに、一本の巨大な槍が突き立つ。

 

「何だよ、元気そうじゃん。結構、探したんだけどな」

「貴女、杏子……!?」

 

 赤い衣装の魔法少女――佐倉杏子だった。

 今まで一体どこに――?

 

「……探していたのはこちらの方よ。一切の連絡も寄越さないで、貴女は一体どこへ行っていたの」

「こーいうこと」

 

 バサッと白い布を羽織る。

 それは白いフードの付いたマントで、胸元には翼の生えた塔の印章。

 

「マギウスのマント……!? 貴女、一体……!?」

「悪いな、今はどうやらアンタ達の敵みたいだ」

「馬鹿言わないで! 何か条件でも出されたの? それとも、何かを盾にされているとか……!」

「そのどっちでもないな。まあ強いて言うなら」

 

 突き立った槍が多節棍へと変形し、杏子の手元に戻る。

 

「気分ってやつかな」

 

 飄々と言ってのける杏子に、ほむらは檄した。

 

「ふざけないで……! 連中が何をやろうとしているのか、今なにをしているのか、それがわからないほど愚かではないでしょう!」

「あたしはさぁ」

 

 明後日の方向を向いてぼやくように口を開く杏子。

 

「この町に来てさ、色んな魔法少女に会ったんだよね。で、どいつもこいつも何かのために命を懸けてる。あんたもわかるだろ? そっちのちんちくりんも何かのために戦ってる。あんたも同じだ、誰かのために命を懸けてる。マミもそうだ。それに、あたしがこの町で最初に会ったチビもな」

「何の話をしているの……?」

 

 目の前にいるのは、本当にあの佐倉杏子なのか……?

 そんな思いがほむらの胸中に去来する。

 いつも生意気で短気で、それでいて冷静でクレバーな、いざという時に頼ることが出来る魔法少女。

 だがこの少女からは、そんな熱が感じられない。

 命が、感じられない。

 

「あたしはそんな連中の誰にも勝てなかったよ。だからかな、もう何もかもどうでも良くなっちゃってさ。そんな折に声かけられたんだよ」

 

 虚ろな眼で語る杏子に、影が差した。

 口元がわずかに吊り上がって。

 

「魔法少女の救済。そんなお題目で、この世界を滅茶苦茶にしてやろうって馬鹿にさ。散るならやっぱより派手な方がいいじゃん?」

 

 ケラケラと、そんなことを口走った。

 正気じゃない――!

 

「馬鹿げている、狂っているわよ……貴女……!」

「さあて、馬鹿げているのはアンタ達の方かもしれないよ?」

 

 ほむらはデザートイーグルの銃口を杏子に向けた。

 杏子の頭部をガンサイトに捉える。

 

「殺る気? そんなに焦るなよ。まだあたしの仕事は済んじゃいないんだからさ」

「……何の話?」

 

 言うや否や、杏子がピンと何かを弾いた。

 黒く、どす黒い霧を纏った球状の――。

 

「――グリーフシード!? しかもこれは……!」

「そ。孵化し掛けのほやほやだよ」

 

 突然、辺りのカラミティ・メアリ達から黒い霧が巻き起こった。

 

「なに!?」

「グリーフシードの……あー、共振反応ってやつかな。馬鹿でかい結界が出来上がるよ」

「待ちなさい、杏子!」

「やだね。アンタ達なら逃げられるだろ? まあ魔女をここに残すことになるだろうけど」

 

 言って、ストンと地面に降り立つ杏子。

 

「ま、お互い頑張ろうや。もう会えないかもしれないけどな」

「杏子ぉッ!」

 

 ひらひらと手を振って、杏子は公園をひらりと後にしていった。

 

「くっ……! なのは、私の手を離さないで!」

「杏子さんはどうするんですか!?」

「……悔しいけど、今は追えない。この魔女を倒すことの方が先決よ」

 

 結界が広がり、どす黒い気配が公園に満ち満ちた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 屋根から屋根へ、住宅街の周辺を飛び回りながら。

 

「最大出力……放射(シュート)!」

 

 美遊が放つ魔力の帯がカラミティ・メアリの頭部を破壊した。

 心臓を抉っても効果の無かった攻撃だが、どうやら頭部を失えば動きを止めるようだ。

 彼女を見るのは初めてじゃない。

 灯花と対面した際、戦力の人形とやらを見せられた時にまるで量産型のモンスターのような彼女たちを見ている。

 

「だけど……!」

 

 キリがない――!

 

 数体打ちのめした段階で、人形たちは改めて美遊を敵性体と判断したようだ。

 ウエスタンガンマンの見た目通り、敵は射撃に秀でた戦闘員らしい。

 限定展開(インクルード)夢幻召喚(インストール)も、あれらは時間制限付きの代物だ。

 長期戦が想定される現状では使用が躊躇われる。

 とにかく、見える端から頭を潰していくしかない。

 

 そう考えるや否や、やはり眼が届かない個体があった。

 敵は既に照準を向けている。

 それに気付いた時にはもう遅い。

 

「しまっ――!」

 

 バスン、と、その個体の頭部に黒い棒が生えた。

 それが弓から放たれた黒塗りの矢だと気付いたのは、その個体が力を失って屋根から転げ落ちた時だった。

 

「思った以上に脆いわねコイツら。ま、今のミユやイリヤじゃちょっと手に余る数だと思ったけど」

「クロ!」

 

 住宅の屋根に立つクロの前に美遊が降り立つ。

 

「無事で良かった、クロ。怪我はない?」

「それはこっちのセリフよ。イリヤは一緒じゃないの? っていうか、その白いマントはどうしたのさ」

「これは、その……」

 

 言いにくそうにする美遊に、クロはカラカラと笑って続ける。

 

「言われなくてもわかってるわよ。大方、マギウスのとこに潜入して情報収集してる最中ってことでしょ? イリヤは? まだ敵中で独りぼっちなわけ?」

「うん、そう……」

「なるほどねぇ」

 

 ジロジロと美遊を眺め見るクロ。

 というか、そんなことをしている場合ではない。

 

「で? そっちの首尾はどうなのさ」

「ごめん、多分もう手遅れ」

「どういうこと?」

「敵の本拠地で、フェイトって人が言ってた。もし裏切ったとしても、もう手遅れだから何をしても無駄だって」

「その状況がコレってわけ?」

「詳しいことはわからないけど、多分そう」

「ふーん」

 

 どこかつまらなさげな表情で、クロは鼻を鳴らした。

 

「この状態じゃ、またイリヤが無茶しそうね」

「私も、そう思う」

「ミユ、あんたはイリヤの所に戻ってやりなさい。この状況じゃ私より、イリヤの方がよっぽど危険だわ。何しでかすかわかったもんじゃない」

「そう……だね。クロの言う通りにする」

「お姉ちゃんに任せときなさいって」

 

 美遊はクロに背中を向けて。

 

「ねえ、クロ」

「なに?」

「怒ってないの? その、私たちで勝手にマギウスの翼に取り入ってて」

「そりゃまあ最初は、何勝手やってんのこのヤローって感じだったけど、貴女のこと見てたらそういう気も失せちゃった」

「信用してくれているんだね」

「信頼はしてないけどね」

 

 「さ、早く」そうクロが言いかけて。

 

 周囲を黒い霧が立ち込めているのに、二人は初めて気が付いた。

 

「なに……コレ」

「まさか……!」

 

 困惑するクロに、驚愕する美遊。

 

「今すぐここから離れて、クロ!」

「いや、もう無理かも……辺り一面真っ黒だわ」

「クロ!」

 

 黒い霧がどす黒いあぎとを開き、不気味な空間へと二人を引きずり込んでいった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市の郊外にある公園。

 魔法少女ねむりんが寝床にしている、どこか暖かげなその場所に、スノーホワイトは降り立った。

 カラミティ・メアリが一人、寝こけているねむりんの横に侍っている。

 

「ねむりん、起きな。お客さんだよ」

「むにゃむにゃ……な~に~?」

 

 それには構わず、つかつかと近寄るスノーホワイト。

 

「ねむりん、カラミティ・メアリ。力を貸して欲しい」

「残念だけどお構いなく~。私はここから見てるだけ~」

「欲しいのは情報。手を貸して欲しいとまでは言わない」

「う~ん、まあ確かにスノーホワイト一人じゃそろそろ切羽詰まってきてるとは思ったけどさ~」

「私が欲しいのは、マギウスの翼についての情報とその本拠地」

「それはちょっと欲張り過ぎじゃないかな~。探偵役はスノーホワイトの十八番でしょ~?」

「応えて」

 

 凛とした態度を崩すことなく、ねむりんに詰め寄るスノーホワイト。

 実際、切羽詰まっているのは間違いない。

 そのために、最も事件の真相に近い場所にいる人物に、情報を乞うのを厭わないことも。

 

 むにゃむにゃと寝ぼけまなこをこすりながら、体を起こすねむりん。

 ふわぁ~っと大きく欠伸をする。

 

「マギウスの翼が何をしようとしているかを知るより、今なにが起こってどう沈静するかを考えた方がよっぽどみんなの為になると思うよ~?」

「そんなことはわかっている……! その上で私は貴女に助けを求めているの!」

「ねむりんは中立だからね~。あんまりその態度を崩すようなマネをすると」

 

 スノーホワイトが地面を蹴り、背後を見ることなくその場から横っ飛びに跳んだ。

 後ろ頭をこするような気配が、殺意と形を伴って通り過ぎる。

 

「こ~いう目に遭いそうだしね~」

「いえ、賢明な判断ですよ。魔法少女ねむりん」

 

 スノーホワイトがルーラを取り出し、その場に構える。

 森の音楽家クラムベリー。

 彼女がスノーホワイトを追ってきていたのは、ここに来る前からとうに知れていた。

 

「まあ一突きでスノーホワイトを殺れるとは思っていませんでしたが、彼女の言う通りよほど切羽詰まっているみたいですね」

「私の始末に来たの?」

「どうもそろそろうちの雇い主は、貴女が邪魔になって来たらしいので」

「私はただの弱い魔法少女の一人だよ。私がいなくても、この事態はみんなが収拾を付けてくれる」

「魔法少女狩りと無関係とは言えないでしょう。同じ容姿をしていて、同じ魔法が使える。それだけで彼女の心の在り方は容易に染まってしまう」

 

 言いながら、クラムベリーは無形の位に構える。

 トントンと靴の爪先で地面を叩いて。

 

「貴女の存在はそれだけで邪魔なんですよ」

「だから私を殺す。単純だね」

「わかっていただけますか」

「ええ、だけど一つ言っておくよ。森の音楽家クラムベリー」

「どうぞ」

 

 スノーホワイトはスッと息を吸った。

 呪詛を込める心地で、言葉と共に吐き出す。

 

「貴女はラ・ピュセルを殺した。ヴェス・ウィンタープリズンを殺しかけた。スイムスイムに苦杯を舐めさせた」

 

 その声に抑揚は無かった。

 ただ、声には彼らを呼んだ無念さと、それと同じくらいの虚無感が込められているように感じた。

 

「貴女はただ戦っただけだ。貴女は誰にも勝てていない。殺しただけだ」

「……何が言いたいのですか?」

 

 クラムベリーは笑顔を張り付かせたまま、しかし眼を細めてスノーホワイトを見ていた。

 獰猛な牙を隠した猛獣も怯ませそうな、底の知れない暗闇をたたえている。

 

「私を殺して初めて、貴女は全戦全敗からようやく一勝を勝ち取ることが出来る。良かったね」

 

 ポン、と花が開いたように。

 クラムベリーの殺気が膨れ上がった。

 

「それは私に対しての侮辱ですか。貴女がそういう物言いをするとは思いもよりませんでしたが」

「何度でも言うよ。貴女は戦う魔法少女を倒したことは一度もない。一勝だけでも得たければ、私を殺すしかない」

「いいでしょう」

 

 だらりと両手を地面に向けて垂らすクラムベリー。

 同じく無形の構えで立ちはだかるスノーホワイト。

 

「貴女はこのショーの幕間で退場する。私を挑発した報いを受けるといい――!」

 

 クラムベリーが地を蹴り、スノーホワイトはルーラを構えて待ち受けた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「早速、始まったね。手持ちのカラミティ・メアリをつぎ込んだ甲斐はあったかにゃ」

 

 ディスプレイを眺めながら、ご満悦な表情を隠すことなく灯花は言った。

 

「で、貴女は行かなくても良かったの? フェイト・テスタロッサ」

「行かない。行きたいわけがない」

「いつにも増して不機嫌だねぇ。それとも自分が手を汚すのはお門違いだって、そう思ってる?」

「そんなことは今更だよ。今、この現実から逃げ出したって、私だけ手が汚れていないなんて綺麗ごとを言うつもりはない」

「あっ、そう」

 

 それだけ言って、灯花はフェイトとの会話を打ち切った。

 お喋りするより目の前の花火を鑑賞することの方がよっぽど楽しいらしい。

 

「で、どこ行くの?」

「……姫河小雪の所」

「貴女に何が出来るの?」

「多分、貴女には出来ないこと」

「……うん?」

 

 フェイトもそれきり打ち切って、灯花の前から去っていった。

 

 

 

 階段をさらに降りて、地下のVIP専用の居室をノックする。

 声が返ってくることは無いので形式的なものだったが。

 

「お邪魔します」

 

 扉を開く。

 中にいたのは、天蓋付きのベッドで毛布にくるまっている姫河小雪と、その傍に侍る守護者――ラ・ピュセルとハードゴア・アリス。

 

「小雪さん、貴女に聞きたいことがあります」

 

 沈黙。

 

「魔法少女って何なんですか。私たちは、自分の望むものに命を懸けている。でもそれって、こんなに無辜の人たちを犠牲にして懸けられるほど、安い命なんですか」

 

 沈黙。

 

「貴女にとって、どんな魔法少女なら理想なんですか。私や、仲間のみんなや、他の魔法少女たちの命を火にくべて、そうして初めて自分の願いの重さを知る……。そんなことでしか、自分を測れないものなんですか」

 

 沈黙。

 

「応えてください! 小雪さん、貴女は私たちに、どんな姿を望んでいるんですか!」

 

 沈黙。

 しかし。

 

「フェイト・テスタロッサ」

 

 守護者――ハードゴア・アリスが唐突に口を開いた。

 弾かれるように、フェイトが彼女へと顔を向ける。

 

「魔法少女はいます。私にも、スノーホワイトにも」

「それが私やマギウスの翼だとしても、ですか!? こんな醜悪、許されるんですか!?」

「魔法少女はいます」

 

 繰り返す。

 そして、続ける。

 

「それは私にも、スノーホワイトにも、貴女や他の人々、みんなの心の中に」

「みんなの……心?」

「はい」

 

 さらに続ける。

 

「魔法少女はいます。誰の心にだって、純粋なものが心に溢れるときは必ず。それが魔法少女です」

「……っ」

 

 頬を一滴の涙が零れ落ちた。

 やがてそれはまなじりに溜まって、大粒の涙となってあふれ出てくる。

 フェイトは腰を落として、ベッドに縋りつくように顔を埋める。

 

「……ごめん、ごめんね、なのは……! 私、貴女を傷付けて……ばっかりで……!」

 

 だけど。

 

「でも……もう後戻りは出来ないんだ……! だからお願い……、私を止めて……。私を……倒してみせて……!」

 

 嗚咽交じりのその声は、子どもが母親に悪戯をしたことを責めて欲しい、そんな響きを含んでいて。

 それは同時に、悪戯を止めて欲しい、そう告解する罪人のそれでもあった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市に来て――。

 もう誰も私を救えなかったとしても――。

 このどうしようもない悲劇の魔女を、誰か止めてみせて――。




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