魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第24話 魔法少女たちとマギウスの真相

 ほむら達、魔法少女一行。

 彼女たちは美遊に導かれてマギウスの翼の本拠地を目指していた。

 神浜市の僻地の中の僻地。

 森に囲まれた場所。

 そこに廃屋のような建物がポツンと立っている。

 ドーム状の、そこそこ大きな建物。

 廃棄された倉庫のように見えるそここそが、美遊が言うマギウスの翼の基地だ。

 

 ほむらが問う。

 

「あれが、マギウスの翼の?」

「ええ」

 

 美遊が首肯して応えた。

 

「マギウスの首領、里見灯花がいるかと思います。相手の手駒はほとんど潰したはずですが、何があるかわかりません。十分な注意を」

「里見灯花、ね……」

「どうかしましたか?」

「いえ……」

 

 美遊の問うような声に、ほむらは口ごもる。

 聞き覚えの無い名前だ。

 ということは、ほむらが今までに経験した中に、登場した魔法少女ではないはず。

 それほどの人物が、こんな大事を引き起こして無茶をやらかすなんて想像だにもしていなかった。

 神浜市とはつくづく、異常な町だ。

 そう改めて思い、慎重であろうと心に決める。

 

 美遊が先頭を行き、ドームの入り口へと足を近付ける。

 取っ手を手に取って、それを引いた。

 ギギッと錆び付いた扉がゆっくりと開いていく。

 開かれたその先は、大きな広間になっていた。

 そして。

 

「よう」

 

 白いマントを羽織った、赤い少女がそこにいた。

 

「杏子……!」

 

 憎々し気な口調でほむらが呟く。

 広間の中央に魔法少女、佐倉杏子が槍を肩に引っ掛けて立っていた。

 

「アンタ達もご苦労さんだね。わざわざこんな僻地まで大勢で押しかけて」

「それはこっちが言いたいわね。こんな僻地にアジトを築いて、貴女たちは一体何がしたいの」

「そうさねぇ……」

 

 ほむらが威嚇するも、杏子は飄々とした口調で流すだけだ。

 

「ここであたしがアンタ達を叩きのめしたら、冥土の土産に教えてやってもいいかもね」

「馬鹿を言いなさい。貴女ひとりで私たち全員を相手に出来るとでも思っているの?」

「それくらいの準備はして来たつもりだよ」

 

 へらへらとした笑みを声音に混ぜながら、杏子が言った。

 さやかが怒り顔で前に出る。

 

「杏子……、本当にアンタは佐倉杏子なの……? アンタがやりたかった魔法少女って、こんなことなの?」

「……知らない顔だな。アンタにあたしの何がわかる?」

「アンタがあたしのことを知らなくても、あたしはアンタのことはよく知っている。少なくとも、今のアンタとは違うアンタをね」

「……くっだらねえ」

 

 さやかの睨みつける視線に応えるように、杏子がさやかと視線を交錯させた。

 杏子が槍を振りかぶって。

 

「御託は無しだよ。さっさと全員かかって来な」

「聞く耳も持たないってわけ?」

「そうだな」

 

 杏子が無造作に、コツンコツンと足をさやか達に向けて歩き、近付いてくる。

 6人の魔法少女たちが戦闘態勢に入った。

 

「一気に片を付けるわ。マミ、リボンを繋いで」

「わかったわ」

 

 ほむらの固有魔法であり、切り札でもある時間停止。

 間接的に触れさえすれば、静止した世界の中でもほむら同様に動くことが出来る。

 マミがリボンを放った。

 それを全員にまとわせて――。

 

「遅え」

 

 瞬間、光が辺りを覆い尽くした。

 黄金の光。

 ほむら達の背後から急速に気配が現れる。

 

「サンダー――レイィジッ!!」

 

 振り向く、が、杏子の言う通りやはり遅かった。

 ドーム全域に雷の嵐が吹き荒れる。

 

「フェイトちゃんの、魔法ッ!」

「なのは!」

「はい!」

 

 背後に現れた気配に向けて、重砲に変えたステッキを構えるなのは。

 

「ディバイン――バスターッ!」

 

 黄金の光をその身にまとって現れたフェイトに、なのはが魔法の砲撃を放った。

 しかしその一撃は、軽く地を蹴って空中へと逃れたフェイトを捉えることは出来ず、不発に終わる。

 

「ッ、もう一度!」

「遅いよ、なのはッ!」

 

 光の刃をまとった黒い斧を振りかぶり、フェイトがなのはへと肉薄する。

 黄金の光とステッキが打ち合い、なのはが密集陣形を築いていた魔法少女たちから離された。

 

「接近戦……! 流石だねフェイトちゃん、即座に自分に有利な土俵へ持ち込むなんて!」

「いつかの対決とは違うよ、なのは! 悪いけど、このまま押し切らせてもらう!」

「望むところだよ!」

 

 狭い半球状の建物の中、なのはとフェイトが引っ付き、剥がし合う。

 建物の中という状況に誘導され、なのはにとっては不利な状態に押し込まれた。

 だが、それを黙って見ている魔法少女たちではない。

 

「完全に奇襲されたわね……! 暁美さん!」

 

 マミがほむらに向けて合図を送った。

 乱戦のさなか、既にリボンは全員に装着済みだ。

 ほむらが左手の円形盾を構えて――。

 

「杏子!」

 

 さやかが一足速く、杏子へ向けて突進した。

 

「不味い……! 美樹さやか、無謀な攻撃は避けて!」

「悪いけど聞けないよ、ほむら!」

「くっ!」

 

 ほむらがさやかを引き留めようと、彼女の後ろへ走る。

 さやかは杏子に迫り、サーベルを彼女に向けて振り抜いた。

 しかし、杏子はそれを無防備なまま受けて――。

 赤い影を残して溶け消えた。

 

「遅えって言ってるだろ?」

 

 ほむらの背後から、ゾッとするような底冷えのする声が響いた。

 咄嗟にほむらが振り向く。

 そこに杏子の姿を見た時には、既に彼女が槍を振るうところだった。

 ――躱せない!

 そう判断するが速いか、杏子の槍がほむら目掛けて振るわれる。

 槍がほむらの左腕を薙いだ。

 ほむらの左腕の、肘から先が斬り飛ばされる。

 

「ぐぅ……ッ!」

 

 左腕の傷口から鮮血が噴き出す。

 

 落ち着け。

 左腕への代謝を遮断。

 痛覚も消して、改めて戦況を分析する。

 

 完璧に敵の奇襲を許した――!

 人数の差で油断していたことは確かだったが、相手が思った以上に戦略を練ってきて、それに嵌められたのも事実だ。

 事態は最悪だ。

 

「だから言ったろ? それなりに準備はして来たってさ」

 

 杏子は初めから、ほむらの左腕を狙っていた。

 ほむらの時間停止を司る円形盾も、命にも等しい魂の宝石ソウルジェムも左手だ。

 ほむらの戦闘能力、及び生殺与奪の権利が奪われた。

 武器も時間停止も、使えない。

 

 斬り飛ばされたほむらの左腕を、杏子がキャッチする。

 

「さやか、お願い! 私の左腕を奪い返して!」

 

 戦闘力を奪われた現状、頼りになるのはさやかしかいない。

 杏子に一番近い、彼女しか。

 

「そんなに焦るなよ。ほら」

 

 杏子が懐から手の平大の球体を取り出した。

 

「グリーフシード……!? それも、孵化し掛けの!」

「そういうこと。まずはあたしらだけで遠い所に行こうや」

 

 カツン、と。

 グリーフシードがその場に転がす。

 黒い霧が噴き出す。

 

「ッ! 逃がさない!」

「ほむら、無茶しないでよ!」

 

 霧が膨れ上がり、迷路が広がって。

 ほむらとさやかがその中に飲み込まれた。

 

「ほむらさん! さやかさん!」

 

 なのはの悲痛な声が響き渡る。

 

「よそ見をしている暇があるのかな! なのは!」

 

 なのはにフェイトが持つ光の刃が迫る。

 咄嗟にステッキで受け止め、押される勢いのまま後ろへとたたらを踏んだ。

 それを見届けたフェイトは、方向を急速に変化させる。

 

「くっ!」

 

 マミがリボンでマスケット銃を数本生成し、フェイトの進行方向へと向けた。

 敵の進行方向は、建物の入り口。

 待ち伏せして、入口方向へと狙いを定めて――。

 フェイトの動きがさらに変化した。

 

「サンダー――スマッシャーッ!」

 

 魔力の衝撃を伴った雷の砲撃を天井に向けて発射。

 直撃を受けた天井が崩落し、大きな穴が開く。

 その穴から建物の外へと離脱していった。

 ふわりと浮かび上がり、建物外の空中に浮遊し、動きを止める。

 

「フォトンランサー」

 

 フェイトの声に応えるように、黄金のスフィアが数十個召喚された。

 ハッとしたなのはが、フェイトが脱出した大穴に向かって飛び立っていく。

 美遊もまた、フェイトの意図に気付いて警告を発する。

 

「クロ! 巴さん! 気を付けて、敵の大規模魔術が来ます!」

 

 言うが速いか、美遊がクロとマミを結ぶ線上の中心に立つ。

 

「サファイア! 防護障壁全開!」

「承知しました、美遊様」

 

 半球状の障壁が広がった。

 その直後。

 

「――ファランクスシフト――、ファイア!!」

 

 フェイトの魔法が唸りを上げた。

 周囲に浮かぶスフィアから、黄金の弾丸が無数に撃ち出され、ドームを撃ち砕いていく。

 最終攻撃。

 スフィアを集合させ、一本の槍のごとく変形させて。

 フェイトは容赦なく、その一撃を建物に向けて撃ち放った。

 直撃を受けた建物が崩壊する。

 その場に残された美遊たちは建物の崩落に巻き込まれて、砕け落ちた瓦礫の下に埋もれた。

 

「……待たせたね、なのは」

 

 フェイトは瓦礫の山から眼を離し、浮遊するなのはへと視線を向けた。

 

「これで邪魔は入らない。決着をつけよう」

「……フェイトちゃんが望むなら。だけどね」

 

 重砲状のステッキの先端を、フェイトに向けて突き付けて。

 

「私が勝ったら、今度こそお話を聞いてもらうから」

「そういうなのはの真っ直ぐなところ、好きだよ」

「私も。フェイトちゃんの真面目で頑固なところ、嫌いじゃない」

 

 フェイトがマントを翻し、黒い斧から光の刃を生み出す。

 

「行くよ、なのは!」

「うん!」

 

 再び、二人の魔法少女がまとう閃光が交錯した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 二人の魔法少女が、姫河小雪の前に立ちはだかる。

 一人は竜の角と尾を模した騎士のごとき魔法少女ラ・ピュセル。

 一人はゴシックロリータの洋服を身に付けた人形のような魔法少女ハードゴア・アリス。

 

 ふわりと、イリヤがスノーホワイトの隣に降り立つ。

 目の前に立つは二人の魔法少女。

 だけど、いや、だから、しかし。

 そうとしか思わずにはいられない。

 思えずにいられない。

 どうして自分とスノーホワイトは、彼女たちの前に敵として立っているのか。

 ハードゴア・アリスが放つ殺意が、イリヤに突き刺さる。

 ラ・ピュセルの纏う迷いが、スノーホワイトに注がれる。

 それを外から見て眺めているのが、灯花とねむりん。

 こんなのは戦いじゃない。

 ただの見世物だ。

 こんな状況においてまた楽しげに眼を細めている灯花に苛立ちを覚える。

 何故、いま自分たちはここに立っているのか、そのこと自体が理解に苦しむ。

 イリヤはこんな息苦しさを覚えることに腹が立ち、灯花へ顔を向けた。

 

「トウカ……、貴女がしたいことって何なの?」

「今それを聞くかにゃ、イリヤスフィール? 今、姫河小雪は誰の救いも必要としていない。いえ、必要な救いを誰もくれないと嘆いている。だからこそ覚醒の時が迫っているんだよ?」

「コユキさんを怖がらせるって、そういうこと?」

「強制的に目を覚まさせるっていう手も考えたけど、ねむりんはそれには反対みたい。あくまで自主意識で目覚めて欲しいみたいだね。結果は変わらないのに」

「コユキさんって何なの? 貴女が怖がらせたいだけの、ただの普通の女の子だよ? 彼女が魔女だって言って、その覚醒がこの事態を動かすって、本当に貴女は何がしたいの?」

「だからさぁ、さっきから言ってるでしょ? これはわたくし達、魔法少女が解放されるための唯一の方法なんだよ? イリヤスフィールはその邪魔をしているんだって、何度言ったらわかるの?」

「私は貴女がどれだけの闇を抱いているのか、少ししかわからない。そういう意味じゃ、確かに私は邪魔者なんだろうけどね。でも貴女が何か間違った手段を取ろうとしていることは、鈍い私でもわかるよ」

 

 イリヤの言葉に、灯花は「あははっ」と笑った。

 

「にぶちんじゃないよ、イリヤスフィールは。むしろ直感は無駄に鋭い気がするし、運もいい。こんな場所に出会えるなんて、決してアンフェアなんじゃないってことがわかるもの。貴女がいるから、わたくしには良い手段があっても、間違った最短ルートを辿ることが出来る。そしてそれは必要な悪なんだよ」

「悪だとわかってそうしようだなんて、そんなことで出した結果なんかきっと間違ってる。だから私は何度も言うんだ。貴女はそんな理由や理屈で自分の理想を押し付けたがっているだけなんだ、って。何度でも言うよ、トウカ。貴女はきっと間違っているし、これからも間違い続ける」

 

 灯花が押し黙る。

 言葉に窮した、というよりイリヤの言葉に共感したからこそ、代わりの言葉が出なかったという感じか。

 

「……じゃあイリヤスフィールは今の現状に、どう間違わずに立ち向かっていけるのかにゃ?」

「決まってる」

 

 イリヤがステッキを灯花に向けた。

 

「私は私の我がままで、間違っていることは間違っているって言い続ける。だから正しい道を探そうって、何度でも言い張る。トウカの間違った我がままには、これ以上付き合ってあげないんだから!」

 

 灯花が眼をパチクリとさせる。

 そして、ニヤリと口の端を吊り上げて。

 

「……じゃあその証明をしてもらおうかな」

 

 灯花が手を掲げて振り下ろした。

 

「やっちゃえ、ハードゴア・アリス。そこの夢見る女の子に現実の厳しさを見せつけちゃえ」

 

 応えるように、ハードゴア・アリスが動いた。

 ドン、と地を蹴り、ダンプカーが突撃してくるような圧を伴って、イリヤへ向かって突進してくる。

 

 それをイリヤは待ち構えた。

 太腿のホルダーからカードを取り出し、地面に叩くように押し付けて。

 カードから光が溢れた。

 

夢幻召喚(インストール)――バーサーカー!」

 

 ハードゴア・アリスが光へと突っ込んでくる。

 その光が、ハードゴア・アリスを受け止めた。

 溢れる光から現れたのは、灰色の布切れを要所に纏い巨大な岩の塊のごとき大剣を持った戦士の姿。

 バーサーカーのクラスカード。

 

 ハードゴア・アリスの動きは俊敏で苛烈、そして強烈だ。

 持ち前のパワーを武器に、さらに小回りを利かせた隙の無い連撃で相手を追い詰める。

 さらに無限の再生能力を有し、防御すら念頭に置く必要が無い。

 インファイターとしては最強の部類に入るだろう。

 しかし。

 バーサーカーの力はそんな小手先の業に弄されることなく、膂力だけで相手を押し潰す。

 

「アリスさん! 私はそんな口先だけの子に従うような相手には負けないよ!」

 

 ガギン、ゴギン、と、岩石がぶつかり合うような鈍い衝撃が音となって響き渡る。

 ハードゴア・アリスの顔に焦りの表情が見えた。

 自身のパワーが通用しない。

 その膂力に捉えられれば一息で押し潰される。

 初めて、ハードゴア・アリスは自分が押されているという事実に戦慄を覚えたらしかった。

 しかし。

 

(バーサーカーの夢幻召喚(インストール)は持って10分……! それ以上の時間、行使すれば私がバーサーカーの狂気に呑まれる……!)

 

 千日手なのはハードゴア・アリスのみだ。

 イリヤには制限時間がある。

 その間の時間、スノーホワイトが事態を上手く持っていけるように囮となる。

 イリヤは、スノーホワイトを信じる――!

 

 

 

 イリヤの健闘をよそに、スノーホワイトはじっとりとうなじから汗を浮かび上がらせる。

 事態を好転させることが出来るのは自分だと、本気で信じてくれて、そのために時間を稼いでくれている。

 その気持ちが、何よりも重い。

 スノーホワイトとて万能ではないのだ。

 

「……そうちゃん」

 

 ぼそりと、スノーホワイトが呟く。

 それを聞いたラ・ピュセルが、傍目にもわかるようにピクリと肩を震わせた。

 

「……その声で、私をそんな風に呼ぶな」

 

 以前とは違う、されど激情を内に秘めた声音で、努めて冷静にラ・ピュセルが応えた。

 剣を抜き放ち、ルーラをぶら下げるスノーホワイトに向けて闘志を込めた瞳で見据える。

 

「ごめんね、そうちゃん……。私、そうちゃんが望むようなやり方で事を治める方法が思いつかない」

「その呼び方をやめろ……、スノーホワイト」

 

 スノーホワイトのまなじりに涙が浮かぶ。

 

「そうちゃん……、ごめんね、そうちゃん」

 

 ラ・ピュセルの表情がキッと殺気を帯びた。

 

「そんな声で、私を呼ぶなぁぁぁッ!!」

 

 剣が、柱のように巨大化する。

 ラ・ピュセルの固有魔法、剣の巨大化だ。

 しかし。

 スノーホワイトは身を少し屈めて、ラ・ピュセルの懐に潜り込んだ。

 トスン、と体重をラ・ピュセルに預ける。

 ルーラが、ラ・ピュセルの体を貫き通していた。

 

「ごめんね、そうちゃん……。本当に、ごめんね……!」

 

 スノーホワイトは泣いていた。

 ラ・ピュセルの手を離れた剣が、元の大きさに戻って地面に転がる。

 力を失ったラ・ピュセルの体が、スノーホワイトへ体重を預けた。

 

「……ごめんは私の方だ、スノーホワイト……」

「そうちゃん……?」

 

 ゴボッと、ラ・ピュセルが大きく吐血する。

 

「結局、私は小雪を助けることも……、君を倒すことも出来なかった……。どうしようもない、中途半端で、空っぽな存在……」

「……もう、喋らないで」

 

 せめて逝く時くらいは、穏やかにしていて。

 そう祈るように念じながら、スノーホワイトは彼女の末期の言葉を聞いていた。

 

「スノーホワイト……、小雪を頼んだよ……。せめて、彼女だけは安らかに逝かせてあげてくれ……」

「うん……。うん……!」

 

 涙交じりの声で、スノーホワイトが頷く。

 ラ・ピュセルはそれきりの言葉を最後に、その場にくずおれた。

 彼女はもう、二度と動くことは無かった。

 

「……里見、灯花……!」

 

 スノーホワイトの震える声が響いた。

 

「何かにゃ? スノーホワイト」

 

 灯花はその声に身じろぎする訳でもなく、問いかけた。

 

「貴女の目論見は知っている。ラ・ピュセルとハードゴア・アリスを傷付けて、その様子を小雪に見せ付けて、彼女の不安は夢の中でも続いているのだと、そう思い込ませることなんでしょう」

「さすがはスノーホワイト。よくわかっているね」

「正直言って私はこれ以上、小雪を安らげさせる自信が無い。少なくとも、貴女だけは打ち倒さなければ……!」

「くふふっ、言ったね? わたくしが貴女を起こしたのはそういう理由もあったけどね」

「……これ以上、貴女と問答を続ける気は無い。私に狩られるか、それが嫌なら小雪を置いてこの場から消えて」

「どちらも出来ないって言ったら?」

 

 灯花がスノーホワイトを逆撫でし続ける。

 スノーホワイトはルーラを灯花に向けた。

 

「貴女から無理矢理にでも小雪を救い出す。手段を選ぶつもりは無い」

「怖いね、スノーホワイト」

「そうさせたのは貴女だよ」

 

 じり、とスノーホワイトが足を灯花に向けた。

 戦闘距離、一足飛びの間合い。

 灯花の首を刎ねることなど、もはや容易い。

 スノーホワイトが駆ける。

 その時だった。

 

「待ってください! スノーホワイトさん!」

 

 やおら、背後から大声が張り上がった。

 スノーホワイトが我を取り戻し、後ろへ振り向く。

 

「いろはさん……!?」

 

 公園の敷地に四人の魔法少女が降り立つ。

 スノーホワイトにも見覚えがあった。

 勿論、内二人は自分が世話になっていたみかづき荘の魔法少女だったのだから。

 

「灯花ちゃん!」

 

 いろはが声を上げた。

 それに対して灯花がくすっと笑った。

 

「来たね、環いろは」

「灯花ちゃん、なんでこんな酷いことするの?」

「環いろはならわかってるはずだよ。これが魔法少女解放の一番の近道なんだって」

「魔法少女を使って町を荒らしたり、一般人に怪我させたりするのは悪いことなんだよ? そんなこと、灯花ちゃんはする子じゃなかったでしょ?」

 

 いろはがつかつかと、灯花に向かって歩いていく。

 その様相に、誰もが動きを止めて事の成り行きを見守っていた。

 さっきまでハードゴア・アリスと、彼女と戦っていたイリヤもまた同じく。

 

「灯花ちゃん、お姉ちゃんのことを向いて! どうしてこんなことをするの? 誰にでもわかるように、私に教えてよ!」

 

 がしっと、いろはが灯花の肩を掴んだ。

 灯花はくすっと微笑を浮かべたままの表情で応える。

 

「環いろはがここまで来たのは予定通りだけど、まさか貴女も一緒だったのは嬉しい誤算だわ。説明の手間が省けて何より何より」

「どういう……ことなの。灯花ちゃん」

 

 問い質すいろは。

 笑いを堪えられないように、灯花は「くふふっ」と声を上げた。

 日傘を持ち上げて、()()へと日傘の先端を指し示す。

 

「鹿目まどか、わたくしの計画の最後のピース。円環の理の中心である神たる存在。わたくしが嘱望していた人そのものがね」

 

 一斉に、その場にいた魔法少女たちがまどかへと振り向く。

 灯花の計画が、今まさに完遂されようとしていた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市に来て――。

 そこで私はようやく救われる――。




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