魔法少女≠魔法少女   作:12club

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幕間 魔法少女と夢の話

「なるほどね」

 

 神浜市の外側――内側への侵入は遮断されている。

 何故だかわからなかったが、それは些細なことだ。

 ともかく、外側から内側へと語りかけるようにそれは謳う。

 

「要するに君は無限の眠りを願いに契約を結んだ魔法少女だったのか。自らの出自、正体、人格、それ以上の存在さえも投げ打って。だから僕達にも君の存在は感知出来なかった」

 

 それが鉄塔の上に鎮座し、そこから彼女の姿を眺め見る。

 

「唯一誤算だったのは、君が魔獣討伐の使命を捨てて完全な眠りについていたことだ。それは願いに対する対価の拒絶となるし、現に君のソウルジェムは濁り続けている。そしてゆくゆくは濁り切ったソウルジェムは円環の理に回収される」

 

 とことこと、鉄塔を歩いて神浜市を模した結界にその手をかざす。

 バチン、と電気に弾かれるような衝撃と共に、手先が焦げた。

 

「円環の理が何なのか、それは僕達にも未だ判別がつかない。だから君の存在は極めて貴重だ。君の行く先が定められているとすれば、希望が絶望に代わる相転移のエネルギーがどこに行くのか、それを見定めることが出来る。行き着く先が円環の理であれば、正体を知る端緒となるだろうし、認識出来れば自ずと干渉も出来る。僕達は最終的に、円環の理なる現象を解明、干渉し、支配することも可能になるだろう」

 

 白く長い尻尾を振りながら、続ける。

 

「君にとって計算外だったのは、君と同じく夢に干渉できる魔法少女が存在したことだ。そして彼女の存在が、君の作り上げた結界に数多くの魔法少女を集める結果に繋がった。とりわけその中でも厄介な存在だったのが、里見灯花。彼女は君の性質を利用し、本来なら繋がるはずの無かった魔法少女たちを招き寄せてしまった。だから君は魔法少女狩りなる、魔法少女に対して害にしかならない者たちを生み出してその始末に追われることになり、また君自身も追われる身となった」

 

 続ける。

 

「それは君にとっての災難であり、事故のようなものだ。こればっかりは僕達にもどうしようもない。君自身の問題だ。しかし僕達は君という存在を観察、計測することでようやく円環の理なる現象の一端を掴むことが出来た。君にとっての不幸は、君自身を観測できる存在が、招き寄せられた魔法少女の中にいたことだ」

 

 続ける。

 

「お手柄だよ、暁美ほむら。君が示した可能性が、この眠りの魔法少女から解答を得られるヒントになった。君達、魔法少女は希望から絶望を経て魔女になり、そこから得られる膨大な相転移エネルギーをこの宇宙に差し出すべきだ」

 

 そして、結ぶ。

 

「さあ、自身の名前も人格も存在さえも投げ打った魔法少女よ。円環の理を司る神たる存在、鹿目まどかに助けを求めるといい。そうすれば君は救われる。真の意味で安息を得る機会に巡り合える。そうして僕達は円環の理の機能を観測することが出来る。これは君達、魔法少女や僕達インキュベーターにとって、お互いに有意義な結末になるんだろう?」

 

 白い妖精――インキュベーターは言い捨てて、闇の中へふっと姿を消した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 キュゥべえが、ほむらが投げ込んだグリーフキューブをキャッチしながら言う。

 

「君の言う理論は確かに興味深いね。魔法少女が絶望に倒れる前にソウルジェムがどこへ行くのか、その答えは僕達でも掴んでいない。しかし君の理論が真実だとしたら、それは確かに半永久的な熱的エネルギーの獲得手段としては革新的だ」

 

 ほむらは鉄塔に座って、キュゥべえの言葉に耳を傾ける。

 

「魔法少女が絶望に沈む際の感情エネルギーが円環の理に回収されることなく、そのまま動的エネルギーとして運用することが出来れば僕達の活動はどれだけ活発なものになるか、想像もつかないね」

「そうよね。貴方たちってそういう奴らだったものね」

「しかしそれはあくまで、君の頭の中にしかない理論だ。ソウルジェムが濁り切る前に消滅する、その現象は確かに僕達にとって謎ではあるけれど、証明する手段がない」

「噓じゃないわ。あの子は、そのために自分の存在を投げ打った。鹿目まどかをそうしたのはインキュベーター、貴方たちよ」

「僕達のせいにされても困るよ」

 

 ほむらはバラバラに手にしていたグリーフキューブをパッと投げ放った。

 キュゥべえがキュキュっと跳ねながら、その全てを回収する。

 

 不意に、ほむらのソウルジェムが気配を察した。

 魔獣の反応だ。

 

「今日は特に魔獣の瘴気が濃いね」

「仕方ないわ。そういう日もあるもの」

 

 立ち上がる。キュゥべえもまた、ほむらの肩に乗った。

 魔獣の巨大な姿が、魔法少女の眼にしか映らない虚像として視認できた。

 

 ほむらは鉄塔から飛び降り、町のビル群を背景に魔獣たちを待ち受けた。

 

(魔女がいなくなっても、人々の呪いや妬みは魔獣という姿となって現れる)

 

 長大な黒塗りの木の枝をかざし、光が溢れ出る。

 その光は木の枝を弓の形にしならせ、光の弦となってかたどった。

 

(嘆きや悲しみを生み出し続ける、救いようもない世界だけど、ここは貴女が守ろうとした世界なのだから)

 

 弦を引き、光の矢をつがえて。

 

(まどか。私は貴女のために、戦い続ける。いつまでも――)

 

 魔獣の群れに向けて、矢を撃ち放った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 魔法少女育成計画とは!?

 

 魔法の国から選ばれた、魔法を操るパワフルでストロングな正義の魔法少女を操る、真正魔法少女RPG!

 ゲーム初心者から熟練者まで飽きさせない奥深さ!

 キャラクターパターンは500以上、装着できるアイテムは2000以上!

 貴女の想像で無限大の魔法少女が誕生する!

 魔法少女たちのアクションはまるで本物の映画のよう!

 貴女も魔法のアイテム、マジカルキャンディーを集めて、正義の魔法少女を目指そう!

 

 

 

 表向きはそんなゲームであり、姫河小雪ことスノーホワイトも、最初に魔法少女世界に入り込んだゲームだった。

 もちろん、ただのゲームではない。

 ただのゲームが魔法少女世界なんて非日常な世界への入り口になっているなんて、誰も夢にも思わない。

 しかし魔法少女スノーホワイトは魔法少女育成計画を経て、本当の魔法少女世界という非日常にその身を投げ込んだ魔法少女だった。

 

 そして彼女は知った。

 魔法少女世界というのはそんな華々しいだけの世界ではなく、もっとドロドロとした、ちょっとした悪戯好きの魔法少女もいればテロリスト紛いの犯罪魔法少女もいる、あくまでも非日常を標榜した現実なのだと。

 

 そして彼女は選んだ。

 彼女は多くを失い過ぎた。

 だからこそ、今度は失う前に手に入れられるものを選び取ろうと。

 

 そのための研鑽も積んだ。

 そうして付いた二つ名も物騒なものだ。

 清廉な白い魔法少女スノーホワイトは、犯罪魔法少女が十人聞けば十人が震え上がる第一級の猛者として知られるようになった。

 

 そして彼女は生まれ変わった。

 ただ清廉であるだけではなく、救うべきを救い、罰すべきを罰する魔法少女に。

 

 それが、この宇宙に存在するスノーホワイト――姫河小雪の真実の姿だ。

 

 

 

 そして別の宇宙には、別の姫河小雪があった。

 

 彼女は戦うことを選ばなかった。

 献身を喜び、清廉であることを是とし、華やかであることが魔法少女なのだと真摯に思い続けていた。

 それは自身や、周囲の親しい人たちが理不尽な暴力で力尽きても変わらない思いだった。

 

 彼女は壊れた。

 壊れることを望んだ。

 もう怖いものも、恐れるべきものも、己を害するものも無い、無限の平安を望む、ただ一人の無力な魔法少女として自身を完結させようとしていた。

 

 そして、彼女の前にそれは現れた。

 

「姫河小雪。君に叶えたい願いはあるかい?」

 

 白い猫のような、しかし耳から延びる手のような羽根とリングが、それがただの動物ではないことをしっかりとアピールしていた。

 

「僕はキュゥべえ、どんな願いでも叶えてあげる。ただし、その対価として魔獣と戦うことを使命付けられるんだ」

 

 魔獣?

 

「魔獣とは人々の呪いや負の感情が実体化したもの。人に害意しか及ぼさない、魔法少女によってでしか倒せない怪物の事さ」

 

 呪い。

 負の感情。

 害意。

 

 そんなものは飽きるほど聞き、浴びせられてきた。

 なのに、まだ戦えと、そう言うのか。

 

「さあ、姫河小雪。君はどんな願いでその魂を輝かせるんだい?」

「私の……私の願いは……」

 

 決まっている。

 もうこんな世界なんてどうでもいい。

 不幸も後悔も悲しささえも連鎖する、こんな世界から逃げ出してしまいたい。

 

「私を……この世界から消して欲しい。願うなら、永遠に楽しい夢を見ていたい」

「姫河小雪。その願いは……」

「どんな願いでも叶えてくれるんでしょう? なら、私の体も、名前も、人格も、存在さえ要らない。私は永久の安らかな夢を見ていたい」

 

 キュゥべえが少し戸惑ったように声をひそませる。

 

「それが君の願いなら叶えてあげる。君の存在はこの宇宙から知覚されることのない、永遠の平安の中に沈むといい」

 

 しかし、あくまでひそませるような態度を見せただけで、すぐに手の平を返した。

 

 小雪の胸から光が浮かび上がった。

 魂の宝石、ソウルジェム。

 その色はスノーホワイトのイメージ通り、真珠のような乳白色に輝いていた。

 

「ありがとう、キュゥべえ――」

 

 その言葉を最後に、姫河小雪は永遠の眠りについた。

 泥のようで、作り物の乳液のような安らかな香りを纏った眠りに。

 

 

 

「もう僕は君を知覚できなくなる。ただそうなる前に、一言だけ」

 

 キュゥべえは姫河小雪に背を向けて、呟く。

 

「君の存在は貴重だ。また会おうね、姫河小雪」

 

 ベッドに沈んだ小雪をよそに、カーテン裏の闇へと姿を消した。

 

 

 

 そうして、別宇宙の姫河小雪はその存在をまどろみの底に沈めた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 非常に極めて珍しく、魔法少女ねむりんは眼を覚まして枕を抱きながら起き上がっていた。

 明日は嵐でも来るんじゃないかと、カラミティ・メアリは正直、不安に思ったくらいだ。

 

「珍しいね。あんたが自主的に起きているなんて」

「夢ってのはね~」

 

 しかし、ねむりんはカラミティ・メアリの言う事をいちいち聞いている様子は無かったようだ。

 

「レム睡眠とノンレム睡眠があるって訳知り顔で言う人がいるんだけどさ~。夢っていうのは人間にとって最も近しい別世界の総称なんだよ~。簡単に言えば、自分がいる宇宙やその他の宇宙が混ざり合う、平行した隣り合わせの世界、ってこと」

「何を言い出すかと思えば、急にスケールの大きな話になったね」

 

 カラミティ・メアリの呆れ声にも構わず、ねむりんが続ける。

 

「ねむりんが見てきた夢はみんな、別世界の夢であって、そこに現実は無いってことなんだよ~。現実では決して触れ得ない、だけど夢の中でなら混ざり合う、そんな現実には無い世界が夢の中。そういうことなんだよね~」

 

 ねむりんの言う事には一家言あるんだろうけど、何分言っている魔法少女が魔法少女なのでどこまでが真でどこからが偽なのか区別がつかない。

 カラミティ・メアリが「で?」と先を促す。

 

「ねむりんは夢の中でなら何でもできる。それこそ人助けどころか世界を救ったり、宇宙全部を救ったり、マジカルキャンディを一兆単位で集めることだってできる。まあ夢の中での出来事だから、ゲームには反映されないんだけどね~」

「だからあんたは真っ先に脱落したんでしょ。魔法少女育成計画ってゲームから」

「さすがにあの時はちょ~っと焦ったけどね~」

 

 ぽやーっとした表情で、しかし長話を終わらせる気配は見せない。

 

「今、見ているのは多分、スノーホワイトの夢」

「スノーホワイトの?」

「でも、ねむりんがいたあの宇宙のスノーホワイトとは違う夢。別の宇宙の、別の世界線のスノーホワイトの夢なんだと思う」

「それがどうかしたの?」

 

 ねむりんの言う事だから、まあそういうこともあるのだろうと納得はしたが、しかしカラミティ・メアリはその文脈から少し不穏な気配を感じ取っていた。

 

「そのスノーホワイトの夢を恣意的に弄ろうとしてる人がいるんだよね~。ねむりんにとっては夢の世界はねむりんの世界。だからそういうことされると、面白いとは思うけど逆にムカッとすることもあるんだよね~」

 

 はあ、とカラミティ・メアリが息をつく。

 

「あんたの話は横道に逸れてばっかりだね。で? 結局何をどうしたいの?」

「スノーホワイトの夢を叶えてあげたい。その為にあの子は自分の魂も投げ打ったんだよ~。ちょこ~っとくらい好きに見させてあげてもいいんじゃないかな~って」

「問題があるでしょ」

「ん? なに~?」

「あんた、現実では死んでるんだよ? そのスノーホワイトの夢をどうこうしようっていう連中の中には、現実の魔法少女だっているんでしょ。どうやって手を付けるつもりなの?」

「簡単だよ~」

 

 カラミティ・メアリの危惧を伴った意見に、ねむりんはあっけらかんとした声音で応えた。

 

「今、スノーホワイトが見ている夢は夢の世界。現実の魔法少女が入り込んでも条件は同じ。むしろ夢の世界で好き勝手動くことが出来る分、ねむりんの方が有利じゃないかな~って」

 

 なるほど、と思いながらカラミティ・メアリは思案する。

 本当にこの子は夢の事が大好きだ。

 たまに度を超えることもあるけれど。

 そして、現在の状況を考えるに。

 今回のねむりんは、場を引っ掻き回すトリックスターになりかねない、という不安も抱かせた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市に来て――。

 私がみんなを助けるから――。

 だから、みんなも私を救い出して――。




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