魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第25話 魔法少女たちの異変

「さて、と」

 

 魔女結界の中。

 何かの生物の腹の中の、グロテスクな肉塊や内臓を迷路にしたような迷宮。

 周囲の肉壁がドクンドクンと波打っている。

 

 杏子がほむらの千切れた左腕をぶらつかせながら、ほむら、さやかと対峙する。

 

「御覧の通り、アンタの腕はこっちのモンだ。アンタ、左腕に要素ぶん回し過ぎだな。時間停止の盾も、命に等しいソウルジェムも、全部こっちの方だ」

「……貴女の事だから、今度は私のソウルジェムを質に私たちを脅そうって腹かしら?」

 

 左腕の傷から血を滴らせながら、ほむらが呻く。

 痛覚及び代謝能力の遮断に専念しているが、やれることはそれくらいだ。

 杏子が言う通り、ほむらの魔法少女としての要素は左腕に集約されている。

 時間停止のギミック、武器を収納しているのが円形盾。

 命にも等しいソウルジェムは左手の甲。

 

「アンタらの悪足掻きを考えりゃ、アンタのソウルジェムはさっさと砕いた方がこっちの為になるんだろうけどな。でもあたしにはまだやらなきゃいけないことがある」

「やらなきゃいけないこと?」

「そう、アンタのことだ」

 

 言って、杏子は槍の穂先をさやかへと向けた。

 

「アンタ、あたしのことをよく知っているって言ったよな。でもあたしはアンタのことを全く知らない。ちょっとそれって不公平なんじゃない?」

 

 杏子は肉まんを――どこから取り出したのか――齧りながらさやかへ矛先を変えた。

 

「……その辺のカラクリ、聞きたかったら、あたしが知っている分だけいくらでも教えるよ。その代わり、ほむらの左腕を返して」

「ヤだね」

 

 にべもなく跳ね除ける杏子。

 

「アンタはともかく、ほむらがどういう魔法少女かくらいはあたしは知ってる。返したら即座に時間停止して、あたしを再起不能にする気くらいはあるんだろ? みすみす自分の首を獲らせるような愚を犯すつもりは無いね」

「……もしも、私たちがまだ貴女と対話を望んでいると言ったら?」

「そんな口約束を信じられると思ってんの?」

「でしょうね」

 

 ほむらが残った左腕を庇うように右手で抱えて、さやかへと視線を送る。

 

「聞いての通りよ、美樹さやか。杏子と対話するという選択肢は無いわ」

 

 しかし、さやかはふるふると首を横に振る。

 

「悪いけど、それは聞けない。あたしはまだあの杏子のことを諦めることなんて出来ない」

「正気……なのよね。貴女ならそう言うと思っていたけど」

「ごめん、ほむら」

 

 ザッと、さやかがほむらを庇って前に出た。

 ほむらもそれに従うように、さやかの後方へと下がる。

 

「初めまして、っていうのもおかしいのかな、杏子。あたしは美樹さやか。アンタと同じ魔法少女仲間だよ」

 

 ひくり、と杏子が眉を少し吊り上げる。

 

「初めましてで間違いないよ。アンタと会うのは初めてだ。でもあたしが自己紹介する必要はないんだよな?」

 

 槍を地面に向けて下ろして、むすっと口先を尖らせる杏子。

 

「大体、いちいち癇に障るんだよねぇ。ちょっとあたしのことを知ってるからって、それだけで上から目線かい?」

「そういうつもりは無いんだけどね。でも気に障ったら謝るよ。これからまだ何度も逆撫でするかもしれないけど」

「やっぱムカつくわ、アンタ」

 

 言って、杏子がほむらの左腕を背後に向けて放り投げた。

 ぐちゃ、と音を立てて肉の地面に転がる。

 

「アンタも魔法少女ならさあ、わかってんだろ? 魔法少女同士が敵対するなら、その結末がどうなるのか」

「杏子! あたしは……!」

 

 さやかが叫ぶや否や、杏子が駆け出す。

 杏子の槍が大きく振りかぶり、その大振りの一撃をさやかが二刀のサーベルを手にして受け止める。

 

「言われても聞かねえ、構えても戦わねえ、だったらさぁ――」

 

 杏子の槍が多節棍となり、幾つにも分離した。

 チェーン状のそれらがさやかの二刀に絡み付き、動きを制限する。

 

「――一方的に殺しちゃうしかないよねぇ!」

 

 さやかが二刀を手放し、杏子の槍の射程範囲から逃れる。

 さらにサーベルを生成し、両手に構えて杏子を待ち受ける。

 杏子が絡めた二刀を砕き、連結させて槍を振り回した。

 ギン、ギンと鋭い金属音を響かせながら、さやかを追い詰めていく。

 

「チャラチャラ踊ってんじゃねえよ、うすのろぉッ!」

 

 大きく振りかぶる一撃一撃を何とか捌き続けるさやか。

 その間隙を縫ってさやかもまた杏子に鋭く袈裟懸け、横胴、胸突きを繰り出すも、杏子の最小限の動きに翻弄されるだけで、いずれも決定打に至らない。

 遂に、杏子の大振りの一撃がさやかを捉えた。

 さやかの左肩から袈裟懸けに斬り裂き、衝撃のままに押し出して吹き飛ばされる。

 

「あうッ!!」

「さやかッ!」

 

 肉壁にべしゃりと叩き付けられ、ずるりと腰から下に体が落ちる。

 

「さあって、これで実力差はわかっただろ。瀕死のままで悪いけどさ、あたしの話を聞いてもらえない?」

 

 そう言った杏子は一瞬、怪訝な表情を浮かべた。

 明らかに致命傷を受けたさやかが、サーベルを支えに起き上がる。

 

「……確かに加減はしたけどさ。ちょいとタフが過ぎるんじゃない?」

「あたしの願いは癒しの祈り。アンタがどれだけあたしを攻撃しても、急所を一撃でもしない限りは、怪我をしてもいくらでも起き上がれるよ」

「あーそうかい。世の中にはうぜえ能力持ちが多くて困るな」

 

 チッと口先悪く舌打ちして槍を下ろす杏子。

 やれやれと肩をすくめて、仕方ないかと言わんばかりに無造作に構えた。

 

「確かに千日手だね。あたしはアンタをいつでもボロ雑巾に出来る。でもアンタはいくらでも回復し続ける。いいね、話だけは聞こうじゃない」

 

 「だけど」と杏子は続けた。

 

「質問するのはこっち。アンタはそれに応えるだけ。そういう条件でなら話し合いに付き合うのもやぶさかじゃないけど、どうだい?」

「杏子……」

 

 杏子の口調は相変わらず悪かったが、とりあえず戦意を収める意思はあるようだ。

 さやかは少し安心したように彼女の名を呼んだ。

 

「まず第一。アンタはあたしの事をなんで知ってる?」

「簡単だよ。アンタはあたしを気に掛けて、助けようとしてくれた。その恩だけで私はアンタに十分救われた」

「それはどういうことか、聞いてもいいか?」

「あたしは勝手に願って、勝手に突っ走って、勝手に自滅して絶望した。そんな時、あたしを助けようとしたのが佐倉杏子、アンタなんだよ」

「根拠は?」

「『独りぼっちは寂しいもんな』って言ってくれて、そして一緒に逝ってくれた。その恩をあたしはまだ返し切れてない。だからあたしはアンタのことを諦める気は無い。そういうことだよ」

「……全然、質問の答えになってないよ。なんでアンタがあたしを知っているのか、それを聞きたいんだけど」

「そのカラクリが何か、あたしは知っている」

「……第二の質問だ。そのカラクリってのは何だ?」

 

 苛立ちを口調から隠しもせず、杏子が尋ね返す。

 

「百江なぎさっていう、あたし達の仲間の魔法少女が真相に近付いて教えてくれた。アンタもマギウスの翼に加わってたなら、多少は事情を知っていると思う。あたしやアンタを含めて、あたし達はみんな誰かに騙されている」

「……それが例の、魔法少女狩りって奴のことか?」

 

 その言葉に、さやかは強く頷いた。

 さやかが応える。

 

「あたし達はみんな、この神浜市を模した結界にいることで記憶がごちゃ混ぜになってる。だからあたし達はアンタを知っているけど、アンタはあたし達を知らない。あたし達はそれを解決する役目を持って、まどか達と一緒にここへやってきたんだよ」

 

 杏子の表情は変わらない。

 信用出来ない――。

 そうその表情は物語っていた。

 

「……第三。アンタは一体何者だ?」

 

 杏子のストレートな質問に、さやかは。

 

「決まってるじゃん。あたしはアンタの親友だし、アンタはあたしの恩人だよ」

 

 同じく、この上なくストレートな応えで返した。

 

「……ダメだな、話にならねえ」

「杏子……」

「だけど嘘は付いてねえ。それくらいはアンタの眼を見て判断出来る」

「信用してくれるの?」

「さて、ね……」

 

 くるりと、杏子はさやか達に背を向けて歩き出した。

 地面に落ちているほむらの左腕を拾い上げて、そのまま歩いていく。

 

「どこ行くの?」

「魔女んとこ。ソイツぶちのめさないと、この結界から出られないだろ」

 

 右手で槍を担いで、立ち止まる。

 顔だけさやか達に向けて、続けた。

 

「悪いけど、この左腕は質代わりに預かっとく。あたしはアンタらと敵対関係のつもりでいるからな」

「杏子……」

「別にアンタの話を信じたわけじゃないからな」

「それでも聞いてくれないよりは、よっぽどいいよ」

 

 さやかが杏子にそう応えて、ほむらへと向いて。

 

「ごめん、ほむら。あんたの腕、取り返すこと出来なかった」

「仕方ないわ、杏子も意固地だもの。話だけでも聞いてくれてホッとしたわ」

「あたし、勝手やってばっかりだね」

 

 さやかの言葉に、ほむらはふうっと溜め息混じりに応える。

 

「そこが貴女の短所だけど、長所でもあるわ。そう理解したのは最近だけど」

「ひっどい言い草だな、ほむらぁ」

「それよりほら、のんびりしていると私たち置いていかれるわよ」

 

 刹那――。

 ゴロゴロと、雷雲が渦を巻くような音が聞こえた。

 

「なに……?」

 

 訝し気な表情で、結界の天井を見やるほむら。

 しかし、その上で。

 

「何だ……、何だコレ……」

 

 杏子が唸るような声で、カタカタと体を震わせる。

 

「杏子!」

 

 さやかが杏子へと駆け出した。

 

「近付くな!」

 

 ブン、と大きく腕を振り、さやかを遠ざける杏子。

 たたらを踏むようにさやかが退いて。

 杏子が頭を抱えて、息をつくように言葉を吐き出していく。

 

「美樹……さやか……? 人魚の、魔女……? 魔獣との戦い……? 誰の記憶だ、あたしの……中に……何が……!」

 

 ぜえぜえと呼吸を荒げて、杏子がその場に膝を突いた。

 

「あたしの中に……入ってくんなぁッ!!」

「杏子ッ!」

 

 その場にうずくまった杏子に、さやかが走り寄る。

 しかし、ほむらは。

 

「これは……感情の渦巻き? いえ、違う。記憶の奔流……?」

 

 冷静な表情を崩すことなく、現在の異常事態を分析する。

 

「私たちの戦いは、魔獣との戦い……。なら、魔女って一体……? いえ、魔女はもういない……? 鹿目まどか……、あの子が願った、魔法少女の祈り……?」

「ほむら!?」

「……くッ……! ダメ……、これ以上の情報は……!」

 

 言って、ほむらはその場にべしゃりと倒れ伏した。

 

「ほむら? ほむらぁッ!」

 

 さやかの叫びが聞こえ、それを後にほむらは意識を失った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 空中を閃光が飛び交う。

 片や光の帯。

 片や黄金の火花。

 

「くッ!」

 

 高町なのはは苦戦を強いられていた。

 フェイトは常になのはの下部を維持して舞い踊る。

 地面に向けてなのはに大魔法を撃たせまいとする策だと、なのはは悟る。

 地上へ向かって、フェイトを打倒するほどの魔力砲を撃てば大惨事に成りかねない。

 なのはの十八番である、高出力の魔法が撃てない。

 それだけでなのはの有利は簡単に覆ってしまう。

 そしてフェイトもそれを有利だと判断している。

 地上付近にいる限り、なのはの高出力魔法は使えない。

 威力を減衰させた魔力砲なら、フェイトの防護魔法でも耐えられる。

 しかし、その減衰した魔法でさえ、今のフェイトには脅威でもある。

 だからその隙を狙う。

 なのはの能力ならこの状況であろうと、高出力の魔法に頼らざるを得ない。

 そもそも彼女は接近戦に特化した能力を持ってはいない。

 近接戦を維持している限り、フェイトの有利は揺るがない。

 そして――。

 

「――ッ! 今ッ!」

 

 なのはが重砲となったステッキをフェイトに向けた。

 しかし傍目にもわかる。

 無理な体勢、修正不可能な姿勢、命中を考えない最終補正。

 完全な隙であり、完璧な好機。

 重砲の先端が光に輝く。

 だが、もはや遅い。

 フェイトの持つ斧が放つ光の刃が、なのはを完全に捉えた。

 光を集める重砲を斬り上げ、なのはは無防備な体を晒す。

 決まった――!

 

拘束(ロック)!」

 

 なのはが叫んだ。

 

 バチンという音と共に、フェイトの体がガクンと揺らいだ。

 両腕を拘束された。

 そう判断した時には既に、なのはの姿が目の前から消えている。

 設置型のトラップだ。

 なのはは重砲を構えれば、フェイトがそれを斬り上げるだろうことを予想して斬道を予測し、その地点にトラップを仕掛けたのだ。

 

(まずい――!)

 

 トン、とフェイトの腹に何かが触れる。

 ステッキの先端だ。

 

「ディバイン――!」

 

 ステッキの先端に、今度こそ高出力の魔力が集まる。

 防護障壁は間に合わない。

 回避行動すら取れない。

 完全に詰みだ。

 

「――バスターッ!!」

 

 ゴウッ、と、フェイトの体が魔力光に包まれる。

 衝撃がフェイトを襲った。

 

 衝撃に押されるように、なのはの体が地上へと迫った。

 会心の一撃だ。

 今の攻撃で倒せなければ、同じ手は二度と通用すまい。

 なら、次の手を考えるまでだ。

 爆煙が晴れていく。

 そこにフェイトの姿は無かった。

 

「――どこッ!?」

 

 思わず周囲を見回す。

 前後左右上下をくまなく。

 いた。

 なのはの下方だ。

 フェイトはそこに、無傷のまま浮遊している。

 いや。

 

「……拘束を無理矢理に抜け出すなんて、少し優美さに欠けるね。フェイトちゃん」

 

 フェイトの両手が血塗れになっている。

 恐らく、拘束を両手両指が犠牲になるのを覚悟して、無理矢理に拘束を引き千切ったのだろう。

 

「私もなのはも、この泥臭さで生き抜いてきたのは承知の上だよね」

「うん。だから私も、フェイトちゃんには負けたくない、そう思ってる」

「やっぱり考え方は違っても、向かっている方向は同じな訳だ。私たちって」

「……負けないよ、フェイトちゃん!」

「こっちこそ!」

 

 二つの閃光がぶつかり合う。

 まさにそう思われた、その時。

 

 ゴウン、と。

 

 大地が揺れた。

 

「なにっ!?」

 

 鳴り響く、地上の鳴動。

 森林がバサバサと、鳥が翼をはばたかせるように葉を揺らす。

 

「この気配は……!」

「魔女結界……! それも、とてつもなく大きな……。フェイトちゃん!」

「……勝負は持ち越しだよ、なのは!」

 

 言って、フェイトは高速でなのはの前から飛び去っていった。

 

「あ……」

 

 なのはが制止しようとするも時既に遅く。

 フェイトの姿は跡形もなく消えていた。

 

「……今はみんなを助けないと!」

 

 瓦礫と化した建物に向かって、なのはは地上へと降りていった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 神浜市郊外の公園。

 ねむりん達、夢の魔法少女の住処。

 

 スノーホワイトはルーラを手に、灯花を睨み付けている。

 それを阻止したいろはは、灯花に迫っている。

 灯花は彼女たちの後ろに侍っている、まどかに視線を送っている。

 

「スノーホワイト」

 

 灯花が飄々とした笑顔でスノーホワイトを呼ばわった。

 

「……なに?」

 

 灯花は「くふふっ」と笑う。

 

「いいのかにゃ? そんな雑にラ・ピュセルを殺しちゃって。もう姫河小雪は貴女を信じようとしないでしょ?」

「……それでもいい。これ以上、彼女を怖がらせなくていいなら、貴女を狩ることに何の躊躇もない」

「怖いにゃぁ」

「何度でも言う。そうさせたのは貴女だよ」

「くふふっ」

 

 笑顔をたたえたまま、邪悪なものを宿した瞳の灯花に、いろはが。

 

「お願い! お姉ちゃんの話を聞いて! 灯花ちゃん、もうこれ以上悪いことしちゃダメだよ!」

 

 必死の形相で灯花に食い付いていく。

 

「これがわたくしが考えた、魔法少女の救済。鹿目まどかが役割を思い出せばわたくしの計画は完遂するの。姫河小雪はそのための犠牲に過ぎないし、結局、最後の最後まで救われない存在なんだよ」

「わかんないよ! 小雪さんを怖がらせて、それで何がどうなるっていうの!? 灯花ちゃんがやってるのは悪いことだよ!」

「環いろはならわかってくれるはずだよ。最終的に鹿目まどかが魔法少女を救済するという役目を果たしてくれれば、魔法少女救済の完璧なシステムが完成する。これは全ての魔法少女にとって必要なことなんだよ」

「灯花ちゃん!」

「それに、ほら」

 

 言って、灯花は日傘を小雪へと向けた。

 小雪は、呆然とスノーホワイトを見つめていた。

 

「ラ・ピュセル……、ラ・ピュセル……!!」

 

 うわ言のように呟き続ける小雪。

 灯花がそれを見て、やはり「くふふっ」と笑みをこぼすだけだ。

 

「姫河小雪の恐怖も限界地点を超えたようだね。もうこの計画は誰にも止められない。さあ、見て!」

 

 灯花が天を仰いだ。

 空を、暗雲が覆っていた。

 

「なに……?」

 

 イリヤがポツリと呟く。

 その隙を縫って、ハードゴア・アリスが飛び退り、小雪の傍に侍る。

 ゴロゴロと、雲が大きな唸り声を上げ始める。

 

「気を付けて! 魔女結界が広がり始めている! みんなこの場から動かないで!」

 

 やちよがこの場にいる皆に警告を発した。

 

「魔女結界、って……。まさか、姫河小雪の!?」

 

 なぎさが驚きの声を上げる。

 大地が震え、地響きが轟き、地上が割れ始める。

 その様を見て、灯花は歓喜の声を上げた。

 

「遂に始まるよ! 魔法少女解放の時が! 今こそ姫河小雪の存在が、その花を広げるの!」

 

 天空の暗雲を見つめながら、灯花は狂喜の表情でそれを迎えた。

 スノーホワイトはそれを見て、憎々し気に言う。

 

「里見、灯花……! 貴女は……!」

「あははは! 残念だったね、スノーホワイト! 結局、貴女がしたことは無駄だったの! 極力、無駄で無意味で無価値なものは徹底的に省かなくちゃ!」

「灯花ぁッ!!」

 

 暗雲が天を覆い尽くし、大地が割れ、小雪から黒い霧が噴き出して。

 姫河小雪のソウルジェムのくすんだ乳白色が気色を失い、黒く濁っていく。

 

 神浜市が、巨大で長大な魔女結界に包まれて――いや。

 神浜市が元の魔女結界へと、姿を変えようとしていた。




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