魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第26話 魔法少女たちと崩壊の時

 一点を目指して飛び行く高速の光。

 軌跡に雷の如き黄金の帯を引きながら飛び続けて。

 フェイト・テスタロッサは心中で叫ぶ。

 自分に向けて、叫び続ける。

 

(私となのはの確執……、違う! それはこんな状況で着けていい決着じゃない!)

 

 フェイトにあるのは、ただ戸惑いだけだった。

 

(思い出せ……! 私の本来の任務は、時空管理局からの指示でこの神浜市の異常を調査することだった……。任務失敗を受けて、ベッドに伏せていた私を灯花が誘ってきて……、それをどうして信じ込んだ!?)

 

 フェイトにとって、高町なのはという少女に対するわだかまりが無かったとは言わない。

 自分の負けん気が強いのは十分知っているつもりだ。

 でも、だからと言って。

 

(灯花の甘言に乗って、なのはとの決着に拘って……、それが私のマギウスの翼に入った理由になっていた。ハードゴア・アリスも言っていたじゃないか!)

 

 ――魔法少女はいます。貴女や他の人々、みんなの心の中に。

 

(だったら、私は正しい魔法少女じゃない! だからせめて、例え間違った道であろうと魔法少女として、なのはに戦いを挑み続けた! 私を否定してくれるように!)

 

 だけど、それは。

 

(ただの自己満足だ……! 都合良く、今の私を間違っているって言ってくれる人が欲しかっただけだ!)

 

 記憶が錯乱している。

 自分でもわかる。

 ただ一点を除いては。

 

(私だって、正しい魔法少女としてありたい! そのために、私はあの子を止めなきゃ、いけないんだ!)

 

 頭の中で情報が渦巻いている。

 記憶を操る魔女結界。

 多分、それが今、バーストを起こしているのだろう。

 そして、そんなことをするのは。

 

(灯花、待ってて……! 貴女が逸る計画はまだここで、終わりを迎えるわけにはいかない!)

 

 高速、瞬速を超えてまさに光速の速さで、フェイトは里見灯花が待っているはずの場所を目指して飛んでいく。

 夜の世界の中、伸びては散っていく雷光の尾を引いて、空を駆けていく。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「うぅ~ん……、っしょ!」

 

 なのはは瓦礫の山と化した建物の岩石を取り除いていく。

 小学3年生のなのはにとって、この作業は苦痛以外の何物でもない。

 魔力砲で吹っ飛ばそうかと一時、頭に浮かんだが。

 

「マスターの魔力では小回りが利きません。中に埋もれてる魔法少女ごと消し炭にするつもりなら可能ですが」

 

 と、レイジングハートから冷ややかなアドバイスを頂いてしまった。

 結局、中にいる埋もれた仲間を助けるには額に汗して大岩を取り除いていくしかないのだ。

 しかし。

 

「魔法が使えないと、結局、私の非力な腕力しか頼るものがないなんて……、ホントに私、いいとこないなぁ……」

「マスターにはマスターの利点や長所はいくらでもあります。あまり卑下する必要はありません」

「でも今、役に立たないことに無力感を感じるというか……」

 

 そう言った時。

 瓦礫の隙間から何かが飛び出してきた。

 それがなのはの顎目掛けてきて、クリーンヒットする。

 

「あいたッ!?」

 

 なのはを打ち抜いたそれはヒラリと地面に落ちて。

 それがまた別の大岩を軽々と持ち上げ、遠くへと投擲する。

 

「な、なに?」

 

 思わずステッキを手に身構えるなのは。

 しかし、その伸びてきた黄色い帯を見て。

 

「あ、もしかしてマミさん!?」

「ええ、そうよ」

 

 応え、リボンが数本まとめて飛び出てきて、大岩を含数個、軽々と持ち上げて横へ横へとどかしていく。

 ようやく人が通れるほどの穴ぼこが出来上がって、そこからヒョイとマミが顔を出した。

 

「ごめんなさい、もしかしてぶつけちゃったかしら?」

「いえ、私は大丈夫です。無事で良かった……」

「礼なら美遊さんに言ってちょうだい。彼女の防護障壁が無かったら今頃、私たちはお陀仏だったわ」

 

 言いながら、マミは瓦礫をどかしながら建物跡から這い上がる。

 砂埃を払って立ち上がった。

 後を追うように、美遊とクロが這い出てくる。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

 なのはの言葉に、美遊とクロは頷いた。

 

「なんとか、この通りです……」

「もうこのパターンは懲り懲りよ。建物ごと爆砕とか、バゼットかっての」

 

 三人とも無事なようだ。

 しかし。

 

「高町さん、貴女、記憶に異常はある?」

「え?」

 

 マミの唐突な質問に、なのはは間の抜けた声で応えた。

 

「さっきまで瓦礫の中で、私の頭の中で記憶が無理矢理かき回されるような感覚に襲われたの。本当の私はこうじゃない、私が持っている記憶が頭の底から湧いてくるような、異常な感覚」

「私は別に何も。マミさん、具体的なことはわかりますか?」

「そうね……。まず私たち見滝原の魔法少女が戦っていたのは、魔女ではなく魔獣。その活動をしていたのは私と暁美さんと佐倉さんで……、後、これはあまり言いたくないのだけど……」

「それは何ですか?」

 

 言い淀むマミになのはは食い付いた。

 不躾なのは承知の上だったろうが、状況の確認を優先している。

 

「鹿目まどかさんと美樹さやかさん、それと百江なぎさちゃんは、きっともうこの世には存在しない。存在してはいけない、はずなのよ……」

「どういうことなんですか……?」

「鹿目さんとなぎさちゃんについては知らない。少なくとも、湧き出た私の記憶の中には存在しない。そして美樹さんは、魔獣との戦いで命を落とした……。そのはずなの」

「この神浜の結界には存在しないはずの魔法少女が、存在している……?」

 

 聞いたなのはに、マミはコクリと頷く。

 続いて、美遊も所見を述べる。

 

「私とクロと、多分イリヤも何かに記憶を改竄されていました。私たちはこの神浜という町に閉じ込められています。外への情報も遮断されていて、まるで導かれるように、魔法少女狩りの人を守らなければいけない、そんな刷り込みがあったみたいです」

 

 美遊がチラリとマミに視線を送った。

 

「道理で、貴女たちが私たちの活動を邪魔してくるわけね。こうなったらその事態の核心に直接、接触することが肝要ね」

「そうですね……、それに」

 

 美遊が呟くと同時、大地が揺れた。

 大きな音と共に地上が崩れ、地割れが起きる。

 なのは達は咄嗟にその場から飛び上がり、まだ安全そうな地面へと着地する。

 が、そこもすぐに危険地帯になりそうだ。

 

 不意に光が迸った。

 天には暗雲が満ち満ちている。

 ゴウン、という音と共に、ビル群が、建物の群れが、横倒しになったり、ぺシャンと潰れていく。

 どう見ても異常事態だ。

 

「もうこの神浜に安全な場所はなさそうね……。一刻も早く目的地に行きたいところだけど」

 

 しかし目的地がわからない。

 マミはその点にどん詰まりを感じているようだ。

 

「なら、私が先導します」

「高町さん?」

 

 なのはの言葉に、怪訝な声音でマミが疑問符を上げた。

 

「フェイトちゃんがどこかに行ったんですけど、その魔力の足跡を辿れば少なくともフェイトちゃんの目的地――つまり、マギウスにとっての真相に近い場所へは辿り着くはずです」

 

 ふむ、とマミは一つ頷く。

 

「あの子の魔力足跡はハッキリしているの?」

「フェイトちゃんの魔力はわかりやすいですから、私なら確実に正しい方向へ辿れます」

「なら、お願いしてもいいかしら」

「はい! 任せてください!」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 おぞましい肉と内臓に彩られた魔女の結界が消えていく。

 ほむらとさやか、そして杏子が地上へと姿を現した。

 ほむらと杏子はそれぞれに地面へ手を突いて、ぜえぜえと呼吸を荒くしている。

 

「杏子!」

 

 さやかが杏子の元に駆け寄る。

 先の杏子の異変は尋常ではなかった。

 魔女の攻撃を受けたという気配は無い。

 杏子に触れた何かが、彼女を打ちのめしたのだ。

 

「杏子、あんた無事なの!?」

 

 杏子が眼をさやかに向ける。

 どこか虚ろな瞳がさやかの姿を捉えた。

 

「……あ、えっと。あんたは……」

「さやか、美樹さやかだよ! 杏子、あんた平気!?」

「美樹……さやか」

 

 さやかの名を呼びながら、杏子が呻くように言葉を紡ぐ。

 

「……なんか、悪い夢見てた気がする。あたしはいつだって、暴力で目の前のものをぶちのめして来た。だから、それが通用しなくなって、世界なんて終わっちまえ、みたいな妄想してた」

「そんなことないんだよ、杏子。いつだって人は一人じゃいられないし、あたしだって人のこと言えないけど、勝手に突っ走って、置き去りにして、最後はあんたに看取られることが出来た。人は最後まで一人じゃないんだって、教えてくれたのはあんたじゃない」

 

 虚ろな瞳を浮かべたままの杏子を、さやかは抱きすくめる。

 

「いいんだよ、無理に一人にならなくたって。どれだけ人は絶望しても、共感してくれる人はいる。それを支えに立っていられる。だからあたしはここまであんたに会いに来れたんだよ」

「……そっか」

 

 杏子は応えて、抱きすくめているさやかの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。

 

「こんなあたしにも誰かがいたんだな。そしてあんたにとってはそれがあたしだった。確かにあたしなら言いそうだって、今なら言える。『独りぼっちは寂しいもんな』って」

「っ……杏子ぉ……」

 

 さやかは眼に涙を浮かべた。

 そんなさやかに代えて、杏子は彼女を抱きしめる。

 

「悪かったな。あたし、あんた達に世話かけちまった。許せなんて言わないよ。だけど、もし良かったら、あたしもあんた達と一緒に戦いたい。戦う理由、出来ちまったからな」

 

 抱きしめていた手をさやかの両肩に乗せ、体を離す。

 そうして、杏子はほむらの左腕をさやかに渡した。

 

「治してやってくれ。あんたの癒しの力ならそれくらい、容易いことだろ」

「……うん!」

 

 涙声交じりだったが、さやかはそれを受け取った。

 杏子に背を向けて、さやかはほむらの元へと走っていく。

 その後ろ姿に、杏子はポツリと呟いた。

 

「ありがとな、さやか……」

 

 

 

 ほむらの左腕を傷口に当て、さやかは癒しの力を施した。

 千切れていた左腕は何事も無かったかのように、ほむらの元に戻る。

 

「……問題ないわね」

 

 左肩を回して、左手を閉じて開いて、きちんと動くかどうか確かめて。

 改めてほむらは安堵した。

 

「大丈夫、ほむら?」

「ええ、貴女のおかげで、御覧の通りよ」

「いや、そうじゃなくってさ」

「え?」

 

 さやかが聞きたいことはそうじゃないらしく、対するほむらもまた「ああ」と気が付いた。

 

「さっきまでの頭痛はもう無くなったわ。それに、そのおかげでこの巨大な魔女結界のカラクリに気付くことが出来た」

 

 ほむらが真剣な表情になり、さやかに対面する。

 さやかもまた、表情を引き締めて一つ頷いた。

 

「この巨大な魔女結界は、恐らく一人の魔法少女が生み出した、巨大な結界。神浜市まるごと模倣したこれはその魔法少女の一つの目的のために存在している」

「その目的って?」

「私の予測でしかないけれど、彼女は恐らく、誰にも邪魔をされたくない平穏な夢を見続けるためにこの結界に引き篭もっているんじゃないかしら。そう考えれば百江なぎさが言っていた事態の真相とやらと一致する」

「やっぱり、この結界の魔女に直接当たるしかないみたいだね」

「ええ、急がないと」

 

 言って、ほむらは立ち上がった。

 続いてさやかも立ち上がり、そして。

 

「あたしも一緒に行くよ」

「杏子、貴女ももう大丈夫なの?」

「なんかもう何がどうなっててもスッキリしてる感じでさ。今更あんた達と敵対する気はないよ。ほむらはそう簡単に信じちゃくれないだろうけどさ」

「別に構わないわ。今の貴女になら十分背中を預けても大丈夫だと思えるもの」

「信用してくれてありがたい限りだよ」

「そうと決まれば早速――」

 

 「出発よ」そうほむらが言いかけたところで。

 

「君達も里見灯花に会いに行くのかい?」

 

 少年のような、中性的な高い声が聞こえた。

 聞き覚えがある。

 いや、忘れようがない。

 

「インキュベーター……!?」

 

 いつの間にか、ほむら達の傍にその白い妖精インキュベーター――キュゥべえが鎮座していた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 地が割れ、天が荒れる。

 神浜市を模した巨大な結界が今まさに真の姿を顕わそうとしていた。

 

「やめてッ! 小雪! 里見灯花の言い様にならないで!!」

 

 スノーホワイトの必死な叫びに、小雪は悲痛な声で。

 

「いやッ! ラ・ピュセルもクラムベリーも、カラミティ・メアリも、誰もいない……! 私の知っている人はみんな死んでいく……! もう私、頼れる人がいないものッ……!」

「私がいるッ! 私なら貴女を守ってあげられる! だから小雪、ヤケにならないでッ!」

「貴女だって、私のことを利用しようとしてる!」

「私は貴女を利用したりなんかしない!」

「嘘だよッ! だって貴女はみんなを手に掛けた……、みんなを殺した! いつかきっと、貴女も私を見捨てる!」

「私は貴女を見捨てない!」

「信じられない!!」

 

 スノーホワイトの必死の説得は、姫河小雪の絶望の前に搔き消されていく。

 小雪から放たれていく黒い霧は巨大な暗雲となって、天地を覆い、町へと広がり、破壊の限りを尽くしていく。

 黒い霧が地面に吸い込まれれば、それは大きな地割れとなり、天を覆い尽くせば夜の闇をさらに黒く塗り潰す。

 町を覆った霧は触れた傍から、ビルも住居も電波塔も等しく崩壊させる。

 魔女結界が真の姿を顕わそうとしている。

 魔法少女――そして成り損ないの魔女の手――姫河小雪の手によって。

 

「トウカ! この崩壊を止める手段は無いの!?」

「くふっ、イリヤスフィール。ある訳ないし、今更わたくしがそんなマネを許すと思う?」

 

 「それに」と灯花が日傘をイリヤの背後に向けた。

 

「あっちのお姉さん達は大丈夫なのかにゃ?」

 

 弾かれるように、イリヤは背後を見やった。

 やちよが、まどかが、なぎさが。

 皆一様に、苦し気に頭を抱えて膝を突いていた。

 

「やちよさん! みんな、大丈夫!?」

 

 バーサーカーからの転身を解いて、イリヤが皆の元へ駆けていく。

 苦し気にやちよが応える。

 

「私は……大丈夫。他のみんなは……?」

「まどかさん!」

 

 叫ぶ。

 しかし、イリヤの声は遠く、まるで響かないように反応しない。

 だが。

 

「……全てが、なぎさの中で繋がったのです……!」

「なぎさちゃん!?」

 

 イリヤはなぎさへと視線を向けた。

 なぎさはそれに追従するように顔を上げた。

 

「なぎさと、まどかと、さやかの役割が何なのか今、ようやくハッキリしたのです……! 灯花、貴女の狙いはまどかの神としての救済その事、それ自体だったのですね……!」

 

 灯花が日傘を開き、その場でくるくると回った。

 

「わたくしの目的は円環の理の目覚めによる全ての魔法少女の解放。もうカラクリはわかったよね? 最後のピースである鹿目まどかは神として覚醒し、再び永遠に魔法少女を救うために存在するだけの概念へと昇華してもらう。でもまぁ、その前に一仕事してもらいたくてわたくしは特別に招待したんだけどね」

「その狙いは何なのです……!?」

「それはわたくしのプライベートな内容だから応えられないかにゃぁ」

 

 イリヤはハッとした。

 灯花の抱く闇の一端が見えた。

 そんな気がしたのだ。

 

「この、聞かん坊!」

「ん?」

 

 イリヤがステッキを片手に、それを灯花に向けた。

 

「何が計画よ! そんな大げさな言葉を使えば何をやったって許されると思ってるの!?」

「犠牲の数なんて問題ないよ? ここは全て姫河小雪が支配する魔女結界。人も建物もその人の被造物。だから許されるとか許されないとか、ちっぽけな問題じゃない」

「コユキさんを虐めるのもその一つだけって言うつもり!?」

「どうせ姫河小雪は遅かれ早かれ退場する身なんだから、それをどう扱うかはわたくしの勝手でしょ? だからその結果の責任はわたくしが持つの」

「その驕りが私には許せない! トウカ、立ちなさい!」

 

 イリヤのその言葉に、灯花は「ほえ?」と間の抜けた声を上げる。

 

「貴女みたいな自分勝手な子、私は許せない! だから言って聞かせる!」

「つまりイリヤスフィールはわたくしと勝負したいんだね?」

「素直に謝ればそれで許すよ。でも貴女はそんな気持ち、さらさら無いんでしょ!?」

「くふふっ、いいねえイリヤスフィールは」

 

 言って、灯花は日傘を畳んだ。

 そしてその先端をイリヤへと向ける。

 

「いい余興になりそうだね。イリヤスフィール、準備はいい?」

 

 タン、とイリヤは空中へと飛んだ。

 ホルダーから一枚、カードを取り出す。

 クラスカード。

 

夢幻召喚(インストール)――キャスター!」

 

 カードから光が放たれ、イリヤの周囲に広がっていく。

 

 黒いローブに黒いマント。

 襟元には金のブローチが施されている。

 まさに魔術師と呼ばれるほどの、強大な魔力を内包した力が放たれる。

 

「聞かん坊には、御仕置だからね!」

「ちょっとの間だけなら相手をしてあげるわ、イリヤスフィール!」

 

 魔術師――キャスターのイリヤスフィール。

 魔法少女――里見灯花。

 

 二人の魔術師の魔力比べが始まった。




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