魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第27話 魔法少女と里見灯花

 空中に浮遊し、灯花を見下ろすイリヤ。

 それに対峙して、イリヤを見上げる灯花。

 日傘を開いて視線を交錯させる灯花がプッと吹き出す。

 

「こういうの、ボクシングでは『お見合いしてるんじゃないんだぞ』とかって言うんだよね? 仰々しく変身しておいて何もしないのはちょーっと張り合い無いんじゃない?」

「最後に聞くよ。トウカ、みんなにゴメンナサイする気は無いんだね?」

「ある訳ないじゃない。悔しいなら、許せないなら、遠慮する必要は無いんだよ? イリヤスフィール」

「だったら――!」

 

 イリヤの周囲に魔法陣が展開される。

 同時に竜巻が渦巻き、灯花の周囲を覆い尽くしていく。

 魔法陣が魔力を高めていき、その力を溜め込み始めて。

 

「行くよ! トウカ!」

 

 魔力壊砲。

 魔法陣から魔力の帯が放出された。

 

「この力で、一片残らず吹き飛ばす!」

 

 魔法陣が集約した魔力が無限の限り、砲撃となって解放される。

 その魔法は狙い違わず、灯花の元へと飛び走って。

 着弾。

 灯花の体を大きく吹き飛ばす――。

 はずだった。

 

「――面白い魔術体系だね。わたくし達、ソウルジェムの魔法少女とはスペックが違う訳だ」

 

 日傘を広げた姿勢のまま、無傷で立っている灯花がいた。

 

 魔法がキャンセルされた――!?

 慄くが、戦慄している場合じゃない。

 

「くっ……魔法陣、二門追加!」

 

 イリヤの周りに広がる魔法陣に、さらに二つが新しく展開する。

 

「魔力放射……、いっけぇぇぇッ!!」

 

 展開された魔法陣からさらに巨大な魔力の奔流が灯花に襲い掛かる。

 螺旋状に組み合わさった光が、巨大な光の帯となって。

 

 どれだけ防御力が高くても、単なる一人の魔法少女だ。

 出力を上げていけばいずれ限界は超えるはず――。

 

 組み合った光の帯が灯花へと届き、大地を引き裂き、天空を焼き尽くすほどの大爆発を引き起こす。

 

(これなら……!)

 

 しかし。

 やはり先ほど同様に日傘を構えた、無傷の灯花がそこにあった。

 

「ほらほら、どうしたのイリヤスフィール? そんなのじゃわたくしの日傘を壊すことも出来ないよ」

「日傘……?」

「そう、これがわたくしの魔法少女としての武器。攻撃にも防御にも対応できる万能の逸品なんだから」

「そうなんだ……。なら!」

 

 その日傘ごと、防御を撃ち砕く――!

 

「さらに五門、展開……!」

 

 魔法陣がさらに数を増やす。

 イリヤの姿が魔法陣に隠されるほどに、巨大な魔法陣が展開されていく。

 

「壊砲!!」

 

 爆発波。

 属性の違う魔法陣が放つ魔力が相互に反作用し、それらがさらなるエネルギーの分裂、分解、混合して先の砲撃を遥かに凌ぐ魔力砲となって、灯花を直撃した。

 

「今度こそは……!」

 

 濛々と土煙が舞い上がる。

 夜の闇は地上へと貫いた光に照らされ、一瞬の夜明けを生み出す。

 地割れを起こした大地が、荒れ果てた荒野のごとく地虫の一匹も残さない荒れ地と化す。

 

 そして。

 

「くふふっ」

 

 その真ん中に一人、灯花が開いた日傘をくるくると回しながら、無傷で立っていた。

 

「なんで……?」

 

 呆然と呟くイリヤ。

 確かに魔力砲は全て、灯花に直撃したはずだ。

 しかしそのどれもが灯花の前には無力で終わっている。

 魔法少女として、次元が違う――?

 狼狽するイリヤを見て、灯花はキョトンと表情を瞬かせた。

 

「もう終わりなのかにゃ? なら今度はこっちから行くね」

 

 言って、灯花が開いた日傘をイリヤへと向ける。

 

「折角だから、同じ魔法で返却してあげる」

 

 灯花の日傘を中心に、魔法陣が舞い上がった。

 一つや二つではない。

 最初に展開された数個の魔法陣に加え、新たに展開した二門、そして五門の魔法陣も。

 

「ッ! まさかッ!?」

 

 魔法陣に魔力が高まり出す。

 

「そういうこと。それじゃ、行くねー」

 

 魔法陣から一斉に、魔力光の帯が発射された。

 範囲は長大という言葉すら生易しく。

 攻撃力は先ほどまでイリヤが解放した以上。

 回避は、不可能。

 無数の光の帯が、イリヤに直撃した。

 

「呆気ないにゃー。……って、あら?」

 

 完璧に直撃を受けたはずのイリヤが、その場に浮遊していた。

 しかし無傷ではない。

 それどころか、身に付けた黒いローブとマントはボロボロで、イリヤ自身も魔力による傷痕を体中に張り付けている。

 

「防護障壁、何とか間に合いましたよイリヤさん!」

「……っ、ありがとう、ルビー」

 

 満身創痍。

 一見しただけでもわかる。

 もはやイリヤは戦闘不能だ。

 

「やっぱり呆気ない結果だったね」

「……そうでも、ないよ」

「ん?」

 

 灯花には、それがイリヤの強がりに見えただろう。

 しかしイリヤは灯花の攻撃の一端を見抜いていた。

 

「そっちの攻撃手段はわかった。理屈はわからないけど、貴女の攻撃方法は恐らく、相手の魔力を自分のモノにして攻撃手段に変えること。だからさっきのキャスターの砲撃も真似て撃ち返してきた」

「ご名答ー」

 

 パチパチと、嫌味たっぷりに灯花はわざとらしく拍手を送った。

 

「正解を言い当てたイリヤスフィールに、もう少し正確に説明してあげる。わたくしの固有魔法はエネルギーの変換。相手の魔法だろうとエネルギー波だろうと、自分の思い通りに変換して操作することが出来る。そのキャスターっていうクラスカードとは正直、相性最悪だよ?」

「……説明ありがとう。でもそれは灯花の悪い癖で、驕りだよ」

「ん?」

 

 バシュン、とイリヤが身に付けていた黒いローブとマントが消え去って、元の魔法少女衣装へと姿を戻す。

 

「ルビー」

「はいはい、あんまり泥臭い戦い方は好きじゃないんですけどねぇ。キラキラした攻撃が効かない相手じゃ仕方ないですね」

「ありがとう」

 

 ふわりと、イリヤが大地へ降り立つ。

 

「もう一度」

 

 イリヤがクラスカードを抜き、ルビーに当てた。

 

夢幻召喚(インストール)――バーサーカー!」

 

 カードから光が溢れる。

 光に包まれて、イリヤが放つ気配が柔らかなものから、固く険しいものへと変化していく。

 バーサーカー。

 巨大な岩石製の斧剣を片手に握る狂戦士。

 

 魔力が効かないのなら、物理で殴り倒せばいい。

 

「今度こそ行くよ! トウカ!」

 

 イリヤが灯花へと速攻を仕掛けた。

 バーサーカーへの夢幻召喚(インストール)は持って10分。

 その間にケリを着ける。

 

 灯花が日傘を畳み、イリヤを待ち受ける。

 イリヤが斧剣を振り上げ、灯花に肉薄した。

 対して灯花は日傘を構えてその一撃を、真正面から受け止める。

 

「魔法が効かないから、物理攻撃に変更したってわけ。単純だね、イリヤスフィール」

 

 くるりと、灯花が反転する。

 イリヤの真横へ。

 そして斧剣からするりと日傘を抜き取って、イリヤへ先端を向けた。

 さらに動き続ける。

 灯花は日傘の矛先をイリヤへ、槍のように突き出した。

 咄嗟にイリヤはその一撃を一歩引いて躱す。

 が、無理な姿勢がたたってか、完全には避け切れない。

 イリヤの胸元を、灯花の槍が掠めた。

 しかし、灯花の動きはさらに続く。

 斧剣を振るおうとするイリヤを牽制するように、日傘をイリヤへと突き出し続ける。

 日傘の連撃を受けて、イリヤは斧剣から手を離した。

 

「もう武器は諦めた、ってことかにゃ?」

「いいえ!」

 

 灯花の渾身の一刺し。

 イリヤの顔面を狙ったその攻撃を、両手で掴み取って。

 灯花の手から日傘を奪い取った。

 初めて、彼女の表情が驚愕に歪む。

 イリヤがぐっと拳を握りしめた。

 

「これが、御仕置の一撃だよ!!」

 

 握りしめた拳を、灯花の腹部に捻じ込んだ。

 灯花の体が浮き上がり、背後へと大きく吹き飛ぶ。

 二度、三度と跳ねて、灯花の動きが止まった。

 ゆるりと、灯花が起き上がる。

 

「流石、イリヤスフィール……。肉弾戦なんて優雅じゃないから敬遠してたけど、考えを更新しないといけないかにゃ」

「降参して謝るなら、今の内だよ。トウカ」

「でも、状況がわかっていないね、イリヤスフィール」

 

 灯花が手を掲げた。

 その手に何かが集まる。

 イリヤはそれを見て、ハッと目を見開いた。

 

「わかるかにゃ? わたくしの固有魔法はエネルギーの変換。運動エネルギーだってエネルギーの一つに過ぎないんだよ?」

「まさか……!」

「そういうこと」

 

 灯花がダメージを受けた腹部に、手を当てる。

 ダメージが、回復していく。

 

「さて、これで千日手――と言いたいけれど」

 

 そう言う灯花は余裕を崩さない。

 

「インストール、だっけ? しかもそのバーサーカーっていうの、あんまり長くは使えないんじゃないかにゃ?」

「……ッ」

「やっぱりね。時間制限付きな訳だ。まあそうじゃなかったとしてもわたくしの勝利は揺るぎ無いけどね」

 

 魔術が通用しない。

 かと言って、物理攻撃すら無効化される。

 伊達にマギウスの翼の首領をやっている訳じゃない。

 こんな化け物を相手に、どう戦えば……。

 

 イリヤの脳裏に焦りがこびり付いていく。

 

「もういいでしょ? イリヤスフィール。大人しくこの計画を一緒に見届けよう。魔法少女たちが救済される、その瞬間を」

 

 言われて、イリヤはバーサーカーから転身を解いた。

 それを見た灯花がやはり「くふふっ」と笑みを浮かべる。

 

「ダメだよ……」

「ん?」

「そんなんじゃ、私がいる意味がない。だって、こんな計画じゃコユキさんと、貴女が救われない!」

「訳のわからない事を言うね」

「だってそうじゃない! 貴女はコユキさんを助けようと思ってないでしょ! それに、貴女は貴女が助かることを勘定に入れていない!」

 

 イリヤの言葉を受けて、心外だとばかりに灯花はむすっと唇を尖らせた。

 

「姫河小雪はもうどん詰まりなんだよ? どうやったって彼女が助かる道は無い。でも彼女が犠牲になれば魔法少女救済の最後の計画が成立するの。その為なら命だって懸けられる。それはわたくしだって一緒だよ?」

「それじゃダメなんだよ! 何とかして、二人を助けられる道を私は見つけたい! その為に私はここにいる! 誰を救って誰を犠牲にするかじゃない! みんなで助け合って、そして帰ろう!? 本当は貴女だって、それを望んでいるはずでしょ!?」

「青臭い理論ばかり言って、全然現実を見ようとしないイリヤスフィールはこれだから……――」

 

 と。

 

「――灯花ぁーーッ!!」

 

 遥か彼方から、つんざくような鋭く、大きな声が響いた。

 何かが高速で突っ込んでくる。

 イリヤがそちらを見やる。

 だが、見えない。

 気付いた時には、灯花の傍にその魔法少女はいた。

 

「フェイト・テスタロッサ?」

 

 眼をパチクリさせて、灯花がその名を呼んだ。

 捲し立てるようにフェイトが叫ぶ。

 

「灯花、貴女の計画はまだ終わっていない! 終わらせちゃいけない!」

「フェイト、貴女、何を言っているのかわかっているの? だから今ここで、わたくしの計画を完遂しなければならないんだよ?」

「貴女はまだ嘘を付かれている! このまま計画を実行しても、貴女自身が救われない! たとえ、姫河小雪が救済されても、貴女だけが朽ち果てることになる!」

 

 フェイトの叫びに、灯花は心ここに非ずといった表情で聞いていた。

 そして、ニヤリと口の端を吊り上げる。

 

「知ってるよ」

「え……」

「円環の理は確かに、姫河小雪を救済する。だけどわたくしは救われない。そんな事は計画を練り始めてから、最初からわかってたことなんだよ」

「だったら、何故!?」

「わたくしはもう、終わっている魔法少女だから」

 

 乾いた笑みを張り付けながら、灯花は続けた。

 

「環いろは!」

「灯花ちゃん!?」

 

 イリヤとの戦いを見つめていたいろはが、灯花に名前を呼ばれて我に返ったように反応する。

 

「魔法少女救済計画はもう最終段階、だから止められない! でももし納得できないなら、わたくしの事は忘れなさい!」

「私は……魔法少女の救済なんてどうでもいい! ただ灯花ちゃんの事を止めて、助けたいだけなんだよ! 忘れることなんて、出来ないよ!」

「言ったでしょう!? わたくしはもう終わっている魔法少女なんだって! だからもう……、わたくしに構わないで!」

「灯花ちゃん!!」

 

 いろはの言葉を背に受けながら、灯花はフェイトへと顔を向けた。

 

「フェイト」

「……わかってる」

「うん、やっぱりフェイトはフェイトだね」

「貴女の我がままを聞くのは、これっきりだからね」

「それでもいいよ」

 

 言われて、フェイトは灯花の体を背負った。

 ふわりとその場から浮かび上がる。

 

「どこへ行くつもり!?」

 

 イリヤが声を上げた。

 フェイトが応える。

 

「もし貴女たちが高町なのはという魔法少女に出会ったなら伝えておいて。私たちは水名城の本丸で待つ。決着はそこで、と」

 

 それだけ言い残して、フェイトは高速でその場から飛び去っていった。

 一瞬で姿が見えなくなり、豆粒大の大きさになって暗黒の空へと消えていく。

 

「灯花ちゃん……」

 

 いろははそれだけ呟いて、灯花たちを最後まで見送った。

 

 

 

「小雪ッ!」

 

 スノーホワイトが小雪に近寄ろうとして。

 ハードゴア・アリスがその目の前に立ちはだかる。

 

「スノーホワイト」

「……貴女が、私の前に立つの?」

「ええ」

 

 ハードゴア・アリスは能面のまま、短く応えた。

 

「貴女は今、魔法少女ではない」

「え……」

 

 ハードゴア・アリスが小雪を抱きかかえて。

 

「里見灯花を止めるのが先か、この姫河小雪が魔女となるのが先か。その答えは水名城で見つけてください」

 

 それだけ述べて、その場から飛び上がった。

 近くの倒壊し掛けのビルへと飛び移り、彼女もまた姿を消す。

 

「小雪……、ハードゴア・アリス……」

 

 呆然と、スノーホワイトは呟いた。

 

「大丈夫? スノーホワイトさん」

 

 心配げな表情を浮かべながら、やちよがスノーホワイトに声をかける。

 

「平気です。ですが、やちよさん。後、他の魔法少女の方々も大丈夫ですか?」

「……えぇ。少し混乱していたけれど、もう大丈夫」

 

 やちよが背後へと眼を移す。

 なぎさは既に平静を取り戻していたようだが、まどかはまだ苦し気に俯いていた。

 しかし、沈黙を破ったのはそのまどかだった。

 

「そうだった……」

 

 ポツリと呟き、続ける。

 

「私……、こんな大事なことを忘れていたなんて……」

 

 そして、キッと表情を引き締めた。

 さらに続ける。

 

「みんな、水名城に行こう。あの子を助けなくちゃ」

「助ける?」

 

 イリヤの問いに、まどかは頷く。

 それに追従するように、なぎさが補足した。

 

「灯花の狙いがわかった今、彼女を放っておくわけにはいかないのです。これ以上、時間が長引けばこの魔女結界の崩壊になぎさ達が巻き込まれるだけ。円環の理の一員として、そんなことは許されないのです」

 

 言ったなぎさに、疑問符を上げたのはやちよだ。

 

「貴女やまどかさんが特別な存在だと言う事はわかったわ。だけど円環の理ということは、あの伝承の通りの存在だという事?」

「それってどういう意味なんですか?」

 

 イリヤの問いに、やちよが返す。

 

「私たち、魔法少女の間には紡がれ続けられている伝承があるの。絶望に沈んだ魔法少女がソウルジェムを濁り切らせるその直前、魔法少女を救うものがいる。それが円環の理という事」

「それがまどかさんであって、なぎさちゃん達だってことなんですか?」

「詳しくは知らないわ。その実情は謎に包まれているから。それでも、その正体が鹿目さんや百江さんだというのは眉唾ね」

「はぁ」

 

 やちよ達側ではない魔法少女であるイリヤにはあまり咀嚼し切れない部分があるのだろう。

 しかし、だからこそ彼女たち――円環の理は姫河小雪を放っておくわけにはいかない。

 そして。

 

「行こう、みんな。灯花ちゃん達をこれ以上放っておけないし、何より小雪さんと灯花ちゃん達だけが救われないなんて、私は納得できない」

 

 いろはの力強い言葉に、全員が頷く。

 

 決戦場は水名城の本丸。

 そこで灯花たちが何を企み、何を成そうとしているのか。

 それが知れた今、もう迷うことは何もない。

 

 決戦の時が、近付いてきていた。




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