魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第2話 魔法少女たちが辿る道

 ロンドンの時計塔。

 世界中の魔術師が数多く在籍し、その養成機関でもある大規模な施設。

 魔術師、遠坂(とおさか)(りん)はそこから、神浜市の魔術現象を調査するために赴いた。

 

 以前の話になるが、こことはまた別の都市、冬木(ふゆき)()でも未知の魔術現象がその地の霊脈を乱していた事件があり、そこで遠坂凛、及び協力者である魔法少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと美遊(みゆ)・エーデルフェルト、そしてその副産物だというクロという少女が事態を解決に導いた。

 若干、虚言を交えてはいたが。

 その事件でキーとなったのはクラスカードと呼ばれる、魔術機関が言うところの魔術礼装だ。

 

 クラスカードには英霊が宿っている。

 それは純正の英霊とは異なり、英霊そのものではなく、英霊の皮を被った現象――すなわち、英霊と呼ぶに相応しい力を持った怪物のことだ。

 英霊にはそれぞれ対応したクラスが据えられており、それ即ち。

 剣士のカード、セイバー。

 弓兵のカード、アーチャー。

 槍兵のカード、ランサー。

 騎乗兵のカード、ライダー。

 魔術師のカード、キャスター。

 狂戦士のカード、バーサーカー。

 暗殺者のカード、アサシン。

 魔法少女となったイリヤスフィールと美遊はそれら全てを撃破して、かくしてクラスカードの回収は完了した。

 

 それからしばらくして、その任務を命じた時計塔から新たな任が下された。

 曰く、神浜市で起こっている魔術現象を調査せよ、とのこと。

 勿論、カードを回収し終えた凛にとっては寝耳に水の話であり「はあ?」と、疑問ですらない返事をする術しかなかったわけだが。

 結局、時計塔からの指令に逆らうことは出来ず、今に至る。

 

 

 

「と、いうことで。泣く泣く凛さんは任務終了も束の間、新たな超過労働を課せられる身となった、というわけ」

 

 ほろりと涙を流しながら事情を説明する凛の姿は確かに、ご愁傷様、と言わざるを得なかった。

 

「胸中、お察しします」

 

 みかづき荘のリビング。

 時刻は午前0時を過ぎる頃に、ようやく凛の身の上話は終わった。

 やちよはあまり気にしたふうもなく、一つ頷く。

 同じくリビングに同席しているイリヤスフィール、美遊、クロはテーブルに着きながら、むにゃむにゃと眠そうな顔をしていた。

 凛の話がくどくて長すぎるのが原因だろう。

 

「しかしそういう事情なら何故、私に接触を? 事実確認の調査なら、わざわざ私に繋がりを持たずとも自分たちだけですればいいのでは」

「それもそうなんだけど、やっぱり仁義ってものがあるじゃない?」

「仁義?」

「まあ、その土地に縁の深い地主に渡りを付けておいた方がやり易い、ってとこかしら。ここじゃ私たちは単なるよそ者だし、あんまり好き勝手にやるのもねぇ」

「私は神浜の地主という訳ではありません」

「それでも現地の魔法少女とは顔が利くんでしょう?」

「確かに否定はできませんね」

 

 つまるところ、凛が言うところの仁義を通すというのは、自分たちは好き勝手やるかもしれないけど見逃せ、という内容か。

 だいぶ迂遠に過ぎる印象を持ったけれど。

 凛が続ける。

 

「まあ調査と言ったって、実際のところ何をどうしろって具体的な命令を受けたわけじゃないしね。とりあえず今日は様子見ってわけ。また日が明ける前に冬木に帰るわ」

「夜中は危ないから気を付けて。特に、この神浜ではね」

「魔女、だっけ? 実際に見る機会は無かったけど、そんなに危ない存在(やつ)なの?」

「そちらの魔法少女がどれだけの力量があるかは分かりませんが、こちらで言う並の魔法少女では手が付けられない程度には」

 

 それを聞いて、パチッと褐色の少女が眼を開いた。

 顔をやちよへと向けて。

 

「だったらソイツ、私に狩らせてよ。ここまで来て収穫もお土産も無しじゃつまんないもの。私の敵になるならなおさらね」

「それは別に構わないけど……」

 

 それを聞いたイリヤスフィールが、口を尖らせて制する。

 

「ちょっとクロ……。やちよさんは私たちのこと心配してくれてるんだよ?」

「だって気になるじゃない。あんただってこのまま舐められっぱで構わないって言うの?」

「舐められ?」

「そっちのお姉さん、私たちだけじゃ力量不足だって言ってるようなモンじゃない。今、帰ったらすごすごと尻尾まいて逃げたって思われるだけよ」

「ま~たそんな天邪鬼みたいなこと」

 

 少女たちの会話を聞いて、やちよはふぅっと息をつく。

 

「その発想は悪くないわね。どれくらい危険かは身を以て知った方がいいわ。大怪我をする前に軽傷で済むなら」

「ほら! コイツやっぱり私たちのこと舐めてるっての!」

 

 バン! とテーブルを叩いて大声で返すクロ。夜中だし、あんまり大きな音を出さないで欲しい。

 やちよはそこまで悪し様に言っているつもりは無かったが、どうもこのクロという少女には逆撫でしているように聞こえているようだ。

 相性が悪い。

 

「いいわ」

 

 カタンと椅子からやちよが立ち上がった。

 

「あまり遅くならない方がいいでしょう。準備が出来ているなら案内するわ」

 

 対する凛はそんなやちよを見て、はあーっと溜め息をつく。

 

「……ま、確かにここまで出しゃばっておいて自分たちの札だけ隠しておくってのも何だしね。いいわ、案内してちょうだい」

「構いませんよ。いざという時はフォローしますから」

 

 やちよのそれを聞いて、またクロが頬を膨らませる。

 

「別にアンタの助けなんて要らないわよ」

「私も貴女の邪魔をする気はないわ。好きになさい」

 

 言って、やちよはソウルジェムを取り出して玄関へと向かった。

 

 気にならないと言えば噓になる。

 遠坂凛と、彼女が統率している魔法少女たちがどれだけの力を持っているのか。

 今回の回り道が情報の収集源になると思えば、クロの言うことも一理あると言える。

 人の話はよく聞くものだ。

 

 

 

 みかづき荘の出入り口に一人、遅れながら美遊がひっそりと声をかける。

 

「サファイア、感じる?」

 

 美遊の襟元に隠れていた魔法少女の魔術礼装――サファイアが返す。

 

「はい、美遊様。……上の階層ですね」

 

 その言葉に、美遊は頷いた。

 

「魔法少女はやちよさんだけじゃない。少なくとも何人か、この建物の中にもいる」

「この都市の魔法少女は徒党を組む、ということでしょうか」

 

 ふるふると首を横に振る美遊。

 

「わからない。ただ、やちよさんだけを信用するのは危険。他の魔法少女がどんな思惑でいるかわからない。それだけは覚えておかないと」

「畏まりました、美遊様」

 

 万が一にでも、やちよと敵対するような事態になれば、それはこの建物に住んでいる魔法少女全てを敵に回すということだ。

 あるいは、やちよと縁があるという魔法少女とも。

 

(そんなことになった時、イリヤだけは何としても助けないと……)

 

 悪い予感を頭の隅に置きながら、美遊は四人の後を追った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「フェイトちゃんが撃たれたって、本当!?」

 

 ほむらとの邂逅から帰還したなのはが受けた報せは、神浜の魔法少女にフェイトが敗れたという事態だった。

 

「あまり大きな声を出すな」

「クロノ君、フェイトちゃんは無事なの!?」

 

 病室内のベッドに横たわっているフェイトは、今は落ち着いているのか、眠っているようだった。

 むしろ落ち着いていないのはなのはの方だ。

 フェイトの片腕に添えられている点滴が痛々しい。

 

「傷自体はそれほど深くないが、出血がひどい。今は落ち着いているが、復帰はしばらくの間は無理だろう」

「そんな……!」

「それよりこれを見てくれ」

 

 シュンと空中に浮かんだコンソールを叩くクロノ。

 

 そこには魔女の結界と、それが崩壊する様子。

 そして、フェイトが対峙した魔法少女――巴マミとの戦闘の様相が記されている。

 フェイトのインテリジェントデバイス『バルディッシュ』が収集したデータだ。

 

「瞬殺だ。フェイトにも焦りや油断があっただろうが、一合も打ち合わない内にやられている」

 

 あのフェイトが近接戦で打ち合う間もなく、苦もなくあしらわれている。

 信じられなかったが、それが事実だということが報告に色濃く表れていた。

 

「これが……神浜の魔法少女の実力……」

「そういうことだ。以降の神浜の魔法少女との接触は、慎重にならざるを得ない……。いや」

 

 クロノが無念な様子を隠すことなく続ける。

 

「こちらが侮っていた。最初からもう少し慎重に事を進めるべきだった。神浜の魔法少女のことをもうしばらく調査してから、事を構えるべきだった」

「どういうこと?」

「君と暁美ほむらの接触だけでも相当、危険な綱渡りをしていたということだ。もしかしたら君だって、暁美ほむらを相手に無事で済んでいたか怪しいものだ」

「……ほむらさんはそんな人じゃないよ」

「君がそう言うなら、そうなんだろうがな」

 

 なのはが胸元に片手を当て、ぎゅっと拳を握る。

 

「クロノ君、私に行かせて」

「……君ってやつは」

「フェイトちゃんがこんな目に遭っているのに、私だけが黙っているわけにはいかないよ」

 

 ふぅっと息をつくクロノ。

 なのはの言葉に応えるように、彼女の目の前にウィンドウを表示させる。

 

「朗報、とは言えないが一応、朗報だ。今回の事案に対して当該世界への干渉は、消極的にならざるを得ない。調査の重要性は当局でも理解しているが、貴重な人員を割いてまで解明するほどではない、ということだ」

「それって、つまり?」

「具体的には、隠密性を重視しての単騎での出撃。AA(ダブルエー)ランクの魔導師の魔力抑制。広域魔法の制限。要するに『行くな』の一言に尽きる」

「でも、それをクロノ君が言うってことは……」

「ああ」

 

 クロノは、なのはの真っ直ぐな眼に視線を合わせ、続ける。

 

「一応、許可は下りた」

 

 その言葉に、なのはの表情が引き締まる。

 

「だけど、危険なのは変わりない。むしろ高まったとさえ言える。それでも行きたいというなら、止めはしない」

 

 なのはは頷いた。

 

「ありがとう、クロノ君」

 

 それだけ言い残して、なのはは病室から走り去った。

 

 

 

 ぱちりと、フェイトが目を覚ます。

 

「いいの、クロノ」

「起きていたか」

「丁度、なのはがここに来たところからね」

 

 ゆっくりと、フェイトはベッドから体を起こした。

 

「どうせ止めても聞きやしないだろう。だったら僕たちが十全にバックアップしてやる方が、幾分かマシだ」

「私も行く」

「単騎での出撃のみ、だと言っただろう。それに今の君では足手まといだ」

 

 クロノの言葉に、フェイトは歯ぎしりした。

 息をついて、呟く。

 

「辛いね……。待ってるだけっていうのも」

「あまり気を急くな。信じて待っていてやるのもそう悪くはない」

「……ありがとう、クロノ」

 

 そう言って、フェイトは病室から駆けていった親友の背中を思い浮かべる。

 

 私は足手まといだ。

 だから、頼りに出来るのはなのはしかいない。

 その事実が、どうしても胸を締め付けて。

 なのに何故、どうしてこんなに頼もしく思えるのか。

 

 そんなことを思いながら、フェイトは再びベッドへ体を沈めた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 夜空に、三分の一ほど欠けた月がピカピカと光っている。

 神浜市のとある雑居ビルの屋上から、スノーホワイトはそれを眺めていた。

 不意に、魔法少女の情報端末がポーンと音を鳴らす。

 着信音だ。

 神浜市内にいる魔法少女が、果たして自分以外にいたのだろうか。

 そう、市外ではない。

 市外から、市内に情報が伝達することなど()()()()()のだから。

 誰からだろう。

 訝しげに思いつつ、スノーホワイトは端末を開いた。

 差出人、件名は共に非通知。

 ただし内容はどこか引かれるものだった。

 いや、事態の核心を突いているものだと直感したからだろうか。

 

 『眠りの町で貴女を待つ。詳しくは新西区の公園で』

 

 内容はそれだけだ。

 読み上げて、端末の画面を消去する。

 

「行くよ、ファル」

「どこに行くつもりぽん?」

「新西区」

 

 それを聞いたファルが、やれやれと息をつく素振りを見せる。

 

「お人好しすぎるぽん。誰が何のために送ったのかわからないメールに従って、のこのこと出向く気ぽん? スノーホワイトを敵視している誰かが、誘き出そうとしてるようにしか見えないぽん」

「まだ敵だと決まったわけじゃないよ」

「既に敵の腹の中にいるってこと、忘れちゃいけないぽん。せめて相手の事情を予測して、それを基に行動する方がいいに決まってるぽん」

「だからって会いもせずにいたら何の進展もないし」

「自分から餌に食い付くつもりぽん?」

「少なくとも、それはそれでいい機会だと思う」

 

 はあーっと、ため息をつくファルの様子が見て取れた。

 表情の見えないのっぺりした顔だけど。

 

「スノーホワイトの好きにするといいぽん。でも敵だとわかった時点でもう手遅れだったとしてもファルは知らないぽん」

「わかってる」

 

 スノーホワイトは雑居ビルから、電柱へと飛び移って夜空に姿を搔き消した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ちょっと悪趣味が過ぎるんじゃない?」

「別に~、ただちょっと会ってみたいと思っただけだよ~」

 

 公園のベンチに横たわり、枕を抱きながらむにゃむにゃとした声でその少女は傍らから聞こえる声に応えた。

 

「ホントはそれだけじゃないんだろ? いい加減、夢を見るのにも飽きてきたところさ。あんたもでしょ?」

 

 しょぼつく眼をこすりながら、声を聞く。

 まだ眠り足りないのだが、無視するわけにもいかない。

 

「だからスノーホワイトを呼び出した。事情はそう簡単にはいかないから。状況を変えるには彼女に頼るしか……いや、彼女しか頼れる魔法少女しかいない。そうだろ?」

「もう~、いい加減うるさいなぁ」

 

 くぁーっと欠伸しながら、少女は応えた。

 

「人の夢も、自分の夢も、一炊の夢のごとし~。終わらない夢なんて夢じゃないんだよ~」

「あんたがそんなこと言うかね」

「いいんだよ~。誰が言ったっておんなじなんだから~」

 

 「だ・か・ら~」

 少女は続けた。

 

「期待してるよ、スノーホワイト。ねえ、メアリ~?」

「こっちこそ楽しみにしてるさ。いい夢、見てなさいよ。ねむりん」

 

 魔法少女――ねむりんの言葉に、同じく魔法少女――カラミティ・メアリはそれなりに満足そうな声で応えた。




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