魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第29話 魔法少女と魔法少女でないもの

 スノーホワイトが持つルーラが真横に振るわれる。

 ハードゴア・アリスは避ける素振りを見せない。

 自滅覚悟の特攻か――?

 そう考えた直後、スノーホワイトの足がスコンと払われ、体が宙に浮いた。

 足払いを受けてたたらを踏むスノーホワイトをよそに、ハードゴア・アリスが密集陣形を組む魔法少女たちの中央へと突撃する。

 その能面からは何が狙いか読み取れない。

 

「みんな、散って!」

 

 スノーホワイトの声に応えるように、全員がその場を飛びすさる。

 ドガン、とハードゴア・アリスの一撃が地面を叩いた。

 床が大きくへこみ、めくれ上がる。

 

「コイツ!」

 

 クロが弓に矢をつがえる。

 数本まとめて放たれたそれらを、ハードゴア・アリスは真正面から受けて、顔面、胴体に突き刺さった。

 それを意に介さずハードゴア・アリスがクロに迫る。

 その襟首を掴み取って。

 

「ぐッ!?」

 

 気道を塞がれ、苦し気な呼吸を漏らしたクロの体が浮かんだ。

 クロを盾に、ハードゴア・アリスはマミへと向かった。

 銃撃できない。

 まずは一手、マミの攻撃を塞いだ。

 襟首から手を離し、クロの背中を思いきり蹴り付ける。

 ダンプカーの衝突を思わせるかの衝撃に、クロの背骨がゴキリと嫌な音を立てながら、その体を吹き飛ばされた。

 揉みくちゃにされるがまま、クロがマミの体に覆いかぶさる。

 

「サンダー――スマッシャーッ!」

 

 雷光一閃。

 黄金の光の帯がフェイトから放たれ、二人に直撃する。

 稲妻を伴う衝撃が二人を襲った。

 

「きゃあッ!」

「うわッ!?」

 

 爆発。

 クロとマミを巻き込んだその爆煙に阻まれ、姿が見えなくなる。

 

「この野郎……!」

 

 杏子が走る。

 それに追随して、さやかもまた並行して駆けていく。

 ハードゴア・アリスに迫る。

 それに対してハードゴア・アリスはステップを踏むように重心移動し、杏子たちと距離を取り合って。

 先んじてその距離を詰めたのは杏子たちだった。

 杏子とさやかがハードゴア・アリスに迫り、同時にその武器を振るう。

 杏子が胴、さやかが首を狙って振るわれたその攻撃を受けるがまま、ハードゴア・アリスの首と胴が薙がれ、体から離れた。

 

「やった!?」

「まだだ! 油断するなさやか!」

 

 ハードゴア・アリスの頭から、パキンという小さく軽い音が響いた。

 口中で何かを嚙み切ったような音。

 そんな音が聞こえたのは、錯覚のようでもあったが。

 ハードゴア・アリスが口から何かを投射する。

 

「あぐッ!」

「杏子ッ!?」

 

 ハードゴア・アリスの口から放たれた何かが、杏子の心臓を抉った。

 胸と口から血を吐き出す杏子。

 すかさずハードゴア・アリスがもう一発、さやかに向けて口から何かを発射。

 その脳天を撃ち貫いた。

 キン、と音を立ててその弾丸が床に落ちる。

 それはハードゴア・アリスの奥歯だった。

 さやかが倒れ伏す。

 魔法少女にとってそれは致命傷には至らないが、人間の感覚を持つ杏子やさやかにとっては、致命傷を受けたという事実に晒され、気を失うに至った。

 

「佐倉さん! 美樹さん!」

 

 美遊が叫ぶも、二人の意識は戻らない。

 思わずハードゴア・アリスから距離を取り、空中へと逃れる。

 そこに。

 

「はぁーーッ!」

「ッ!?」

 

 空中に浮遊した美遊に、フェイトが肉薄する。

 その強襲を受けて、美遊がステッキを構えた。

 フェイトの光の刃が、美遊のステッキと交錯する。

 しかし、その一撃はすぐに離れた。

 フェイトは、鍔迫り合いに持ち込もうという気はさらさらないらしい。

 連撃。

 ガキン、ガキンとステッキと打ち合い、美遊を追い込んでいく。

 美遊が大きく距離を取り、ステッキを振りかぶった。

 魔力砲による攻撃。

 

拘束(ロック)!」

 

 しかしそれを読んでいたフェイトがすかさず拘束魔法を解放する。

 バチン、と美遊の両腕を黄金色のキューブが固定した。

 

「しまっ……!」

「もう遅いッ!」

 

 隙だらけの美遊に、フェイトが容赦なく光の刃を振るう。

 上段から袈裟懸けに薙がれた一撃に、美遊が雷光で焼かれた傷を開いてそのまま地上へと叩き伏せられた。

 

 地上では、ハードゴア・アリスがやちよと競り合いを始めていた。

 しかし、やちよは防戦一方。

 無数に形成する槍を盾にしながら攻撃の隙を窺うも、ハードゴア・アリスの苛烈な攻撃を前に攻めあぐねているのが現状だ。

 斬り裂いてもダメ、刺してもダメ、穿ってもダメ。

 ダメ尽くしの現状を切り抜けるだけの地力がやちよにはない。

 

「鹿目さん!」

 

 やちよが声を上げた。

 後方で戦いの様相を窺っていたまどかに。

 

「はい!」

 

 まどかが光の矢をつがえ、それを上空に向けた。

 光が無数の光跡を描き、天井付近で収束して。

 ばらけた光の矢が雨のごとく降り注ぐ。

 

「――防護魔法(ディフェンサー)!」

 

 フェイトの発動した防御魔法は光の矢を幾筋か逸らしたものの、一部がバリアを貫通してフェイトを焦がしていく。

 元々フェイトの防御は最低限しか振られていない。

 この防護魔法もフェイトのインテリジェントデバイス『バルディッシュ』の補助があって初めて機能するものだ。

 

 しかし、地面を走るハードゴア・アリスはその攻撃にも一切頓着しない。

 例え矢が体を貫き、傷付き、焼き焦がされようとも動きに鈍りが一切見られない。

 

 だが、まどか達の狙いはそれだけではない。

 

「今です、マミさん!」

 

 合図と共に、ハードゴア・アリスを包み込むように無数のリボンが床から伸び出した。

 展開したリボンがマスケット銃をかたどって、ハードゴア・アリス及びフェイトへと銃口を向ける。

 

「甘いッ!」

 

 マスケット銃が一斉に火を噴いた。

 フェイトに向かった弾丸は一直線に貫こうと無数に連射された。

 しかし、その軌道を予測していたフェイトは、それらの一発一発を高速かつ丁寧な動作で全て回避し切る。

 

「前と同じ手は食わない! これで――!?」

「――同じ手じゃないわよ!」

 

 濛々とした爆煙から姿を現したマミの手から無数のリボンが伸びて、規格外に巨大なマスケット銃が形作られる。

 

「ティロ――」

 

 マスケット銃の銃口が光る。

 

「――フィナーレ!!」

 

 巨大な弾丸がフェイト目掛けて発射された。

 先のマスケット銃の連射で回避に専念させられたフェイトに、この一撃は回避不可能。

 

 やられる――!

 

 フェイトが観念したその一瞬の後。

 その前に一人の人影が影を差した。

 

「ッ! ハードゴア・アリス!」

 

 マミが叫ぶ。

 

 ハードゴア・アリスが巨大な弾丸を真正面から受け止める。

 ミシミシと音を立てながら、弾丸の衝撃がハードゴア・アリスの体を削り取っていく。

 手指が吹き飛び、胴が焼かれ、頭から足先まで焦がされていき。

 しかしついに、ハードゴア・アリスは弾丸の軌道を大きく逸らした。

 あらぬ方向へと飛んでいった巨大な弾丸はホールの壁を撃ち抜き、大きく建物を揺るがす。

 

「……ありがとう、ハードゴア・アリス」

「まだ、貴女の中の魔法少女は負けてはいませんから」

「え……」

 

 負った怪我を修復させながら言うハードゴア・アリスの言葉の真意は読み取れなかったが、フェイトはそれを彼女なりの激励なのだろうかと、咀嚼し切れずにはいたもののそう受け取った。

 そして。

 

(行ける……!)

 

 同時に、フェイトは我知らず高揚していた。

 

(いかに多勢でも、相手は即席のチーム。私とハードゴア・アリスのコンビネーションで十分に対抗できる!)

 

 バルディッシュをマミに向けた。

 呪文を唱える。

 

「――フォトンランサー――ファランクスシフト――」

 

 フェイトの周囲に数十個のスフィアが浮かび上がった。

 黄金のスフィアが電撃を帯び始める。

 

「――ファイア!!」

 

 スフィアから無数の電光弾が発射される。

 マミ目掛けて放たれたそれらが着弾し、爆発を起こし、濛々と土煙を上げながらなお連射を続ける。

 

「スパーク――」

 

 フェイトの手にスフィアが収束した。

 槍状に形成し直された黄金の光が、その手に納まる。

 収束し切った光の槍を、フェイトはマミに向けて投擲した。

 

「――エンド!」

 

 着弾。

 槍が突き刺さった瞬間、黄金の光が爆発を引き起こす。

 フェイト渾身の魔法が完全に決まった。

 恐らく、マミはこれで戦闘不能だろう。

 

 今ここで無傷なのは。

 鹿目まどか、百江なぎさ、そして。

 

「ハードゴア・アリス……」

 

 スノーホワイトの、三人だけだ。

 ハードゴア・アリスが動きを止める。

 そしてその顔をスノーホワイトへと向けた。

 

「油断しないで、ハードゴア・アリス!」

 

 フェイトが叫んだ。

 動きを止めたハードゴア・アリス目掛けて、やちよが突撃する。

 ずぶりと、その槍の一撃を無造作に受け止めて、ハードゴア・アリスがやちよの胸ぐらを掴み取って、襟巻き投げをかました。

 どしんと地面に叩き付けられたやちよの頭部を、床にめり込むほどの勢いで踏み付ける。

 杞憂で済んだ、そうフェイトは思った。

 

「スノーホワイト」

 

 ハードゴア・アリスが口を開く。

 

「貴女の中には今、魔法少女はいません。いるのはただ、姫河小雪を守ろうとする強い意志を持ったエゴだけです」

「……それの何がいけないの?」

「貴女は姫河小雪を守るためなら何でもするのでしょう。ですが、その勘定の中には里見灯花がいない。フェイト・テスタロッサもいない。そして、あるいはここに集まったどの魔法少女も」

「私は、私が守りたいと思ったものは何であろうと掴みに行く。零れ落ちる前に、私がその手を掴み取る。そう決心して戦ってきたんだよ」

「だから貴女の中には魔法少女がいないのです」

 

 ザッと、ハードゴア・アリスがスノーホワイトに向けて一歩踏み出した。

 スノーホワイトは慄くように、片足を一歩退かせる。

 

「私はいつでも清廉な貴女に憧れていました。助けられました。純粋で、献身的で、心優しい貴女に惹かれた」

「……何が、言いたいの」

「わからないのならそれで構いません。ですが、そんな貴女に私は負けません」

 

 言って、ハードゴア・アリスが一歩ずつ距離を詰めてくる。

 

「私の答えはこうです。心の中に魔法少女を持つ人なら、きっと皆を助けられる。私はそんな魔法少女に憧れる」

 

 ハードゴア・アリスの威圧感が膨れ上がった。

 その小さな体躯から放たれるそれは、いかなる巨大で恐ろしい猛獣ですら怯ませるような、余りにも強大な気配。

 

「選んで、戦って、拾えないものを捨てる。そんな魔法少女に真の魔法少女は存在しない」

 

 相変わらず表情の読めないのっぺりとしたハードゴア・アリスの顔からは、しかし大きな怒りを放っているのを、三人の魔法少女たちは感じ取る。

 

「スノーホワイト、私は貴女に憧れていた。しかし、正直に言います。私は貴女に失望しました」

「ハードゴア・アリス……、貴女は一体、何を……」

「戦うだけの魔法少女に、私は何も期待しない。さようなら、私がかつて憧れたスノーホワイト」

 

 ハードゴア・アリスが駆け出した。

 その衝撃だけで、彼女の足が踏み出した床がめくれ上がる。

 弾丸のような速度で、そしてダンプカーのような馬力で迫るハードゴア・アリスの貫き手を。

 スノーホワイトはそれを腹に埋め込まれた。

 

「スノーホワイトさん!」

 

 まどかが叫ぶ。

 しかし無情にも、ハードゴア・アリスの手はスノーホワイトの腹を突き貫き、血塗れの腕を覗かせていた。

 ずるりと、その手が引き抜かれる。

 スノーホワイトはその場に倒れ伏した。

 

「鹿目まどか」

 

 ゆるり、とハードゴア・アリスがまどかへ顔を向ける。

 

「貴女は全ての魔法少女たちの希望そのもの。そう聞いています」

「……だったら、何?」

「貴女の中に魔法少女はいますか? 貴女はただ魔法少女たちを絶望に陥れないための祈りで願いを叶えたと、そう灯花から聞きました」

 

 やはり表情の読めない仮面のような彼女の顔。

 その声からも、感情は感じ取れない。

 

「ただ魔法少女だけを絶望から助け出すためのシステム。それはきっと貴女の中に幾千幾万の魔法少女がいるのでしょう。しかし貴女の中に、貴女自身はいるのですか?」

「私はただ、みんなの希望を守りたい。希望を抱くことが間違いだと言われたら、それこそ間違いなんだって何度でも言い返す。私のその祈りは絶対に、誰にも否定させない」

「そう、ですか」

 

 ハードゴア・アリスの顔がふと、温かみを抱いた。

 笑顔を浮かべたのだろうか。

 

「貴女もまた、魔法少女なのですね」

「スノーホワイトさんも一緒だよ。スノーホワイトさんの祈りも決意も、誰にも否定することは出来ないよ」

「しかし私は否定しました。もうあの人に捧げる祈りは無いでしょう」

 

 と。

 ずぶり、とハードゴア・アリスの胸から刃が生えた。

 

「さっきから聞いてれば、魔法少女がどうだってねえ……!」

「さやかちゃん!」

 

 額を穿たれたさやかが、背後からハードゴア・アリスをサーベルで貫いていた。

 

「魔法少女だって人間なんだよ! それなのにアンタは、魔法少女の中に魔法少女がいるかどうかなんて、それだけ聞き出しながら勝手に希望を持って、勝手に絶望して……! 何様のつもりだって言うのよ!」

「美樹……さやか……」

「だったらアンタの中には魔法少女はいるって言うの? アンタも魔法少女なんでしょ? 人の中にそんなことばかり求めておいて、自分勝手なんだよ、アンタはさあ!」

 

 サーベルを引き抜く。

 そのままさやかはハードゴア・アリスから離れて、スノーホワイトの元へと駆けた。

 

「大丈夫? スノーホワイト!」

 

 さやかが癒しの力を施す。

 スノーホワイトの傷が見る間に癒えていった。

 が、気を失っているのか、目覚める気配は無い。

 

「美樹さやか、貴女の中にも魔法少女はいるのですね」

「いい加減、その手の問答は飽き飽きしてきてるのよ」

 

 くすり、と。

 その時、確かにハードゴア・アリスはその口から笑みをこぼした。

 

「フェイト・テスタロッサ」

 

 短く、ハードゴア・アリスはその名を呼んだ。

 応えるように彼女の隣にフェイトが降り立つ。

 

「私はまだ魔法少女を見つけることをやめるつもりはありません。貴女はどうしますか?」

「……もう十分だよ。私はね」

「そうですか」

 

 言って、ハードゴア・アリスはくるりと魔法少女たちに背を向けた。

 その体から黒い霧が立ち昇り出す。

 

「さようなら、フェイト・テスタロッサ」

「ええ、さようなら。ハードゴア・アリス」

 

 二人はそう交わし、ハードゴア・アリスはその場から消え去った。

 フェイトはその場に、バルディッシュを手放す。

 軽く両手を掲げた。

 

「投降します。今までの所業が許されると思ってはいませんし、どんな処罰でも受けるつもりです。だから」

 

 降参の意を示して、しかしその表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。

 

「どうか、灯花を止めてください。私にはその資格がない。だから、皆さんに託します」

 

 そう結んで、周囲に沈黙が広がった。

 

「……ったく、これだけ大立回りしといて、最後は降参だって? 笑わせるぜ」

「……佐倉杏子」

 

 傷口を抑えつつ立ち上がった杏子が、ふらりと体を揺らしながらぼやくように呟く。

 フェイトもまた、そんな杏子に対して面持ちを崩さずにいた。

 

「ま、なんだ。あたしだってみんなにあたしのアイデンティティを預けっぱなしだしな。アンタの言いたいことがわからないわけじゃない」

 

 そう言って、屈託のない笑顔ではにかむ。

 

「アンタも来なよ。それで、こんな馬鹿げた騒ぎはもうおしまいだ。アンタにはそれに協力する義務もありゃ、権利だってあるさ」

「……ありがとう」

「で、まあその話とは別にさ」

 

 杏子が目線を辺りに配らせる。

 フェイトもそれに倣って、周囲を見回した。

 見渡す限りにホール内は瓦礫の山で、魔法少女たちが倒れ伏している。

 

「ここもこんなだし、みんなも怪我してる。アンタ、恨まれて後ろから刺されても文句は言うなよ」

「平気だよ。それだけのことをしてきた自覚はあるから」

「まったく、魔法少女ってのはどうしてこうも面倒くさい奴らばっかりなんだろうね」

 

 それは自分もだろうと、フェイトは思ったがそれは黙っていることにした。

 ただ、言えるとしたら。

 

「……本当に、ありがとう。佐倉杏子」

 

 万感の思いを込めて、フェイトはそう独り言ちた。

 

 

 

 残るは灯花ひとり。

 そしてその先には今まさに絶望に沈もうとしている姫河小雪がいる。

 波乱に満ちた今回の事態。

 今もまだ、その解決の兆しは見えない。




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