魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第36話 魔法少女じゃなくてもいい

 夜闇に沈む、廃墟と見紛う世界。

 屹立する巨大な魔女を前に、戦い続ける魔法少女たち。

 無尽蔵に湧き出し続ける影法師たちを捌きながら。

 

「見えたのです!」

 

 なぎさが叫んだ。

 魔女ではなく、そのさらに上空。

 赤と黒に彩られた、世界の破滅を思わせる闇の先に、それはいた。

 

「インキュベーター……!」

 

 ほむらが歯軋りしながら、その名を呼ぶ。

 

「あれがインキュベーターの、遮断フィールドの封印……。だけど」

 

 美遊が戦慄するように独り言ちる。

 

「なんて、数……!」

 

 インキュベーターの、赤いビー玉のような瞳が無数に世界を見下ろしていた。

 その模様は観察行為。

 だけれどその様相はまるで、魔女と影法師、それらと戦う魔法少女たちを嘲笑っているかのよう。

 

「……残念だわ、キュゥべえ」

 

 マミが美遊に追従するように呟く。

 

「所詮、私たちは貴方にとって利用するだけの存在でしかなかったということなのね……。貴方の嘲りが心に響くわ」

 

 マミが立つ倒壊した建物の隣に、杏子がスタンと降り立った。

 言い聞かせるように、杏子がマミへと告げる。

 

「だけど今はアイツの相手をしている場合じゃない。あたし達が託されたのはこの場の時間稼ぎ。あの魔女をどうにか出来るのはあの中にいる、スノーホワイトとイリヤ達だけだ」

「そうね」

 

 マミは杏子へ向く事無く、しかし頭上に開く無数の赤いビー玉へ視線を注いで。

 

「キュゥべえは奇跡を叶えてくれた、大事な友達だった。だから私は魔法少女としての宿命に背を向けるつもりは無いわ。あの子がいなければ私はここにいなかったんだから」

「マミ?」

 

 スッと。

 マミはマスケット銃を下ろしてリボンへと、元の形に戻す。

 

「私たちの敵はキュゥべえじゃない。だけど、小雪さんの魔女でもない。そもそもみんな、私たちと敵対している訳じゃないんだもの」

「あんたの正義感は買うけどさ、あの魔女はそうも言ってはくれないみたいだ」

「だから私たちが止めるのよ、佐倉さん」

 

 なぎさが言っていた。

 今、自分たちが戦うべきなのは魔女でもインキュベーターでも無い。

 戦う相手は、インキュベーターの企みそのものだ。

 その目的を果たすために、いま自分たちはここに立っているのだ、と。

 

「今は機を窺うのよ。倒すんじゃない、皆が皆、ここで倒れないために戦うの」

「……あんたはいつでも難しい注文ばっかり提示してくれるよな」

「不可能で無理な注文かしら?」

「いいや」

 

 杏子は不敵な笑みを浮かべて。

 

「それでこそ巴マミだ」

 

 それだけ言って、杏子は再び影法師たちの前へと躍り出る。

 マミはそれを、微かな笑みを以て送り出す。

 

「行くわよ、美遊さん」

「え?」

「しっかり付いてきなさい、という事よ!」

 

 その言葉に応えるように、ゴウンと地面が揺れた。

 巨大なビルが割れて、その威容が姿を現す。

 

 列車砲。

 そう呼ぶに相応しい巨大な大砲が、姫河小雪の魔女へと狙いを定める。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 轟音。

 砲口から耳をつんざくばかりの熱と音を立てて、巨大な砲弾が撃ち出された。

 着弾した地点は魔女からは未だ遠く離れた位置だった。

 しかし爆発はそうはいかない。

 砲弾が地面に叩き付けられるや否や、巨大な爆発波が魔女の周辺へと撒き散らされる。

 影法師が、一掃された。

 

「巴さん……、凄い……!」

 

 感嘆するように美遊が呟いた。

 その隣に、クロが着地して。

 

「これが巴マミの切り札ってわけ。流石に私たちじゃこんなマネ出来ないわ」

 

 だが影法師の発生は止まらない。

 掃き出された傍から再び、無数の影法師たちが湧いて魔法少女たちへと殺到する。

 

「だけど、クロ!」

「わかってるって。小兵は小兵なりに少しは悪足掻きしようじゃないの!」

 

 言って、クロは美遊を伴って影法師たちへと立ち向かう。

 

 影法師を、美遊の砲撃が撃ち砕く。

 影法師を、クロの矢が撃ち貫く。

 

 彼女たちだけではない。

 空中で旋回するなのはとフェイトが影法師たちを次々と撃ち払い、斬り裂いていく。

 ほむらが手にした銃火器が影法師たちを薙ぎ払う。

 杏子とさやかが、疲れなど知ったことかと言わんばかりに影法師たちへと立ち向かっていく。

 

 そして、機を窺うのは。

 

「私たち、ここで頑張るよ……! スノーホワイトさん、小雪さんを助けてあげて……!」

 

 まどかが光の弦を引き絞り、無数の魔力光を矢と変えて撃ち放った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「第二魔法に不可能なことは無い。そう思っていた時期が私にもありました」

 

 ぼやくように言うのは、イリヤが手にしたステッキ、マジカルルビー。

 

「だけど実際、不可能なことは無いのですよ、イリヤさん」

「うん、大丈夫。こういう時のルビーは根拠も無く頼り甲斐があるからね」

「照れますねー」

 

 イリヤが、未だ眠り続ける姫河小雪の傍へ侍る。

 いろはは倒れ伏しているやちよと灯花に付いて、事の成り行きを眺めている。

 これ以上の奇跡を起こすには、条件が足りない。

 そしてそれは果てしなく小さな可能性を掴まねばならない。

 

「ねむりん」

 

 やおら、スノーホワイトがねむりんへと声を掛けた。

 視線は眠り続ける姫河小雪から背けることは無い。

 

「貴女ならこの子の――姫河小雪の深層意識に働きかけることが出来る。そうでしょう?」

「スノーホワイトも、私がいなくちゃ何も出来ない?」

「貴女にしか出来ないことを頼みたい。貴女は傍観者を気取っているけれど、いい加減この夢から覚めるにはいい頃合いでしょう」

「まあ、そうだけどね~」

 

 言いながら、ねむりんは大きな枕を抱きながら、ぴょこんと姫河小雪の傍に寄った。

 

「私が出来るのは姫河小雪の夢に交信するだけ。要は彼女の空っぽの意識に、糸を繋ぐように導線を導くくらい。そこからどうするのかは、スノーホワイト、貴女次第だよ~」

「それだけ出来れば充分だよ」

 

 そっと、スノーホワイトが小雪の右手を両の手で包み込む。

 次いでねむりんが、小雪の左手を握る。

 

「言っておくけど」

 

 ねむりんが口をついた。

 

「この子は植物状態にほとんど近い状態。意識が目覚める可能性が限りなく低い。スノーホワイトには公算があるのかな~?」

「大丈夫」

 

 スノーホワイトがそれだけ言って頷く。

 

「私の魔法……、そして小雪の魔法は『困った人の心の声が聞こえる魔法』。私とこの子は本質的には同一の存在。この子を覚醒させることが出来るのは、私たちの魔法でしかない」

 

 小雪の手を握るスノーホワイトが眼を閉じる。

 祈るような心地で、しかし確かな自信を信じて念じ続ける。

 

「声を……、聞かせて……!」

 

 ねむりんが繋いだ夢に己の魔法を込めて。

 スノーホワイトは姫河小雪の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 誰かが呼んでいる。

 眠りの底に落ちた姫河小雪の元に、一本の夢の糸を垂らす誰かがいる。

 しかしそれを小雪は感知できない。

 無意識が拒んでいる。

 感情が無意識の裏に隠れて、眠りから覚めないでいる。

 あるいは。

 もう眠りの底に沈み込んで、永遠の夢を見続けていたいと消えかかった自我が無意識の底へと押し込んでいて、目覚めることを強く拒んでいるのか。

 そしてそれは、小雪の望み。

 何もかも無くした小雪は、魔女と化した自身の呪いと絶望を撒き散らしながら永遠に眠るのだ。

 

 糸が――光り輝いている。

 声が――響いてくる。

 

 何故それを知覚出来たのかわからない。

 単なる事象の揺らぎなのか、しかしそれにしてはその声は確かに聞こえている。

 けれども、簡単な話だ。

 その糸は見えない。

 その声は聞こえない。

 そう思い続けていれば単なる気のせいで済んでしまう。

 だからこそ、引っ掛かった。

 その声と糸は、確かに姫河小雪の同じ声音と、同じ魔法で出来ていたのだから。

 

 『声を……、聞かせて……!』

 

 眠りの中で小雪がゆっくりと、本当にゆっくりと眼を開ける。

 果てまで続く永劫の闇の中。

 そこに垂らされた一本の光り輝く糸。

 間違いない。

 これは――魔法少女スノーホワイトの声と糸だ。

 

 だけど。

 そんなスノーホワイトだからこそ、小雪は拒絶する。

 小雪にとって大切なものを悉く追い立て、踏み躙ってきたのが彼女だったから。

 許せるはずが無かった。

 どうしてスノーホワイトが自分に執着するのか、理解出来ない。

 彼女のエゴに付き合う必要が無い。

 小雪は夢の奥底から手を伸ばして、光の糸に触れて。

 摘まみ取ったそれが、応えるかのように引き上げようとした。

 その糸を、小雪は。

 

 プチン。

 

 引き上げる糸の力に逆らって引き千切った。

 いい加減、諦めて欲しい。

 そう願った。

 

 再び、光の糸が目の前に垂れ下がってくる。

 鬱陶しい。

 引き千切ってやる。

 何度目の前にかざそうとしても。

 引き千切る。

 何度も、何度も何度も、何度でも。

 呪詛を込める心地のまま、光の糸に手を伸ばして。

 

(――本当に君はそれでいいのかい?)

 

 温かな、声が聞こえた。

 

 スノーホワイトのモノではない。

 彼女の洗練された冷たい水のような糸ではない。

 もっと、蠟燭のように儚いけれど、確かな温かさを持った声の糸。

 

(――ラ・ピュセル?)

 

 小雪が小さく、ささやかな声で呟いた。

 そのままの小さな声で語り掛ける。

 

(貴女はスノーホワイトに刺されたでしょう。彼女が憎くは無いの?)

 

(ああ、そうだね)

 

 いつしか光の糸はもう一本、垂れ下がっていた。

 これはスノーホワイトの糸じゃない。

 ラ・ピュセルの糸だ。

 彼女の声が小雪の心の底に響いてくる。

 

(もう、終わりにしよう)

 

(――何を?)

 

(いつまでも、疲れた君を見てはいられないから)

 

(――疲れ?)

 

 小雪の心にしこりが出来た。

 自分が、疲れている?

 こんなに深い眠りの底についているのに?

 

(そこはきっと、君にとっての安寧があるんだろうけど、そんな眠りは疲れるだけだよ)

 

(起きた先は――きっともっと辛いのに?)

 

(ああ、そうさ)

 

 ラ・ピュセルの声が小雪の心底に沁み込むように、浸透していく。

 

(だけど君は、独りじゃない――)

 

(周りの人たちは私をいじめてばかり――そんなの馬鹿らしいよ)

 

(閉じたままの世界に引き篭もるのは、もっと辛いさ)

 

 温かな糸が、仄かに熱を帯びた。

 光が明滅して、小雪の目の前に落ちてくる。

 

(今は、スノーホワイトが怖いんだろう?)

 

(――うん)

 

(じゃあ私が付いていてあげる――。もう一度きちんと、スノーホワイトと話をするといい)

 

(でも――やっぱり怖いよ)

 

(安心して。私はいつだって、小雪を――君を護る騎士なんだから)

 

(ん――)

 

 手を差し出す。

 小雪は心に小さく湧いた勇気を精一杯振り絞って。

 冷たく輝く光の糸を掴み取った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「――聞こえる? 小雪、私の心の声が聞こえる?」

 

 スノーホワイトが静かに、しかし力の限りを尽くして念じ続ける。

 

「私の困っている声が、聞こえる? 私は……いえ、私たちは貴女の声が聞きたいの」

 

 その様を見ていたねむりんが、ハッとしたように表情を瞬かせた。

 

「驚いた……」

「ねむりんさん?」

 

 イリヤが、ねむりんの独り言ちた声を聞いて彼女の名を呼んだ。

 

「眠りの糸に姫河小雪が引っ掛かった……。彼女が目覚めようとしているんだ……」

「それって、朗報なの?」

「貴女たちからしてみれば、きっとそうなんだよ」

「そっか」

 

 ほうっと、イリヤが大きく安堵の吐息を漏らす。

 

「スノーホワイトさんの献身が無駄にならずに済んだんだね」

 

 その声を聞き届けた、タイミングを見計らったかのように。

 

 黒い霧が噴き出し、人の形を形作った。

 

「なにッ!?」

 

 イリヤが立ち上がり、ステッキを黒い人影に向けて身構える。

 黒い霧が晴れて、そこに現れたのは。

 

「竜の騎士の魔法少女……。確か、ラ・ピュセルさん……」

「うん」

 

 竜騎士――ラ・ピュセルは顔をスノーホワイトに向けたまま、静かに頷いた。

 スノーホワイトが姫河小雪から視線を彼女に移す。

 

「ラ・ピュセル……、どうして貴女がここに……?」

「大事なことを伝え忘れていたからね」

 

 そう言うラ・ピュセルは、スノーホワイトの視線を受け止めながら、たおやかな笑みを浮かべていた。

 

「スノーホワイト、君は小雪にどうして欲しい?」

「……私はこれ以上、この子に辛い目に遭って欲しくないだけ。でもそれは間違っているって、ハードゴア・アリスに糾弾されたよ」

「そうじゃない」

「……え?」

 

 ラ・ピュセルに指摘されて、思わず呆然としてしまう。

 

「君がどうしたいか、じゃない。小雪が何を望んでいるのか、君は知ろうとしたことはあったのかい?」

「私は……」

 

 スノーホワイトは小雪の手を握ったまま、愕然として顔を俯かせた。

 

「私はこれ以上、小雪に魔法少女を続けなくてもいいんだって、そう言いたかった。貴女は魔法少女じゃなくてもいい……、ただそれが望みだった」

「そう、答えは出た。だったらそれを小雪に教えてあげてくれ。その上で、彼女が何をしたいのかを改めて思いやってあげて欲しい」

「ラ・ピュセル……」

 

 ピクリと、スノーホワイトが握る小雪の指先が動いた。

 スノーホワイトはハッとして、慌てて小雪へ視線を向き直る。

 そして。

 

 ゴウン、と。

 空間が波打った。

 

「そろそろ時間みたいだ」

 

 ラ・ピュセルの呟きに、イリヤが。

 

「時間?」

 

 反復する。

 ラ・ピュセルは頷いて。

 

「もうすぐ小雪が目覚めようとしている。だからこの夢ももう終わる。私も夢の世界の住人である以上、ここにはいられない」

「消えちゃう、ってこと……?」

「ああ」

 

 言って、ラ・ピュセルはスノーホワイトの前に立ち、屈んで彼女の背に手を差し出して。

 撫でるようにその背を優しく叩いた。

 

「スノーホワイト……いや、小雪。僕はもっと君と魔法少女をやっていたかったな」

「ラ・ピュセル……」

 

 スノーホワイトのまなじりに涙が浮かぶ。

 

「お別れだ、小雪」

「ラ・ピュセル……行かないで」

「ありがとう。僕の為に泣いてくれて」

「ラ・ピュセル……、いや、そうちゃん……!」

 

 ぐすんと、スノーホワイトが鼻をすすって。

 

「僕の事を思い出してくれたら、その時はいつだって僕は君の傍にいるさ。だから泣かないで、笑顔で見送ってくれ」

「うん……うん……!」

 

 しかし、スノーホワイトは堰を切って涙をこぼす。

 泣きじゃくった顔のまま、ただ何度も頷くだけだ。

 ラ・ピュセルは、笑顔を浮かべていた。

 

「イリヤスフィール」

 

 不意に、彼女がイリヤの名を呼ぶ。

 イリヤはラ・ピュセルの眼を見つめた。

 

「里見灯花と小雪の事、よろしく頼むよ。あれでも私にとってはスノーホワイトと再び出会わせてくれた恩人だ。残した未練を果たせたことを感謝している、そう伝えてくれ」

「ラ・ピュセルさん……」

 

 イリヤが応える。

 いろはもまたその声に重ねるように、深く頷いた。

 

「これで本当にさよならだ。少しの間だけだったけれど、君と魔法少女をやれて嬉しかったよ」

「私もだよ、そうちゃん……。ありがとう……!」

「ああ、ありがとう。小雪」

 

 その言葉を言うが速いか、ラ・ピュセルの体を黒い霧が覆い隠して。

 地面に溶け落ちるように霧散した。

 

「……う、うぅ……!」

 

 子供のように泣きじゃくりながら、スノーホワイトは声にならない声音で泣き続ける。

 

「スノーホワイトさん……」

 

 イリヤが心配するように、涙でくしゃくしゃになったスノーホワイトの顔を見つめた。

 

 ゴウン、と。

 空間が軋みを上げる。

 

「どうやらここまでのようだね~」

 

 ねむりんがまた、眠そうな声に戻って見上げるように視線を上に向ける。

 いつの間にかねむりんの傍にカラミティ・メアリが立っていた。

 

「ようやくこの夢も終わりだね~」

 

 ねむりんが立ち上がり、カラミティ・メアリの手を握って。

 カラミティ・メアリは頷いて応える。

 

「そろそろ行こうか、ねむりん」

「そうだね、また別の夢を見に行こうね~」

 

 ゆらりと、二人の姿が陽炎に化けたかのように揺らいだ。

 

「ねむりん、カラミティ・メアリ……、貴女たちも行くの?」

 

 スノーホワイトの言葉にねむりんが頷く。

 

「私たちは夢の中でしか存在出来ないからね~。姫河小雪の夢の次は、どんな夢に辿り着けるかな~?」

「ありがとう、ねむりん。力を貸してくれて」

「これでも夢の世界じゃ救世主で名前を売ってるからね~。機会があったらまた会おう~」

 

 結局、最後まで呑気な表情を崩すことも無く。

 二人の姿は陽炎の奥へと消えていった。

 

「行こう、イリヤさん、いろはさん」

 

 泣き顔から回復したスノーホワイトが二人に声を掛けた。

 しかし。

 

「スノーホワイトさん……、コユキさんとトウカはともかく、イロハさんとヤチヨさんは……」

「……それに答えを出すことは、私には出来ない」

 

 表情を暗くしたイリヤに、励ますような声を上げたのは。

 

「大丈夫だよイリヤちゃん。やちよさんと約束したもの、簡単には消えないって」

 

 当のいろはだった。

 

「帰ろう。みんなが待ってる、魔女の外側へ」

「……うん」

 

 ゴウン、ゴウン、と。

 何度となく空間が歪んでいく。

 役目を果たした魔女が消えようとしている。

 外ではまだみんな、魔女と戦っているのだろうか。

 しかし、もはや加勢は必要ないだろう。

 

 奇跡は成った。

 だが失われた犠牲は取り返せず、やがて消え去り、誇りと共に風化していくことだろう。

 思い出という形で、それは残る。

 命と誇りをかけて閃光と消えた犠牲は、決して忘れない。




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