魔法少女≠魔法少女   作:12club

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第6話 魔法少女たちと高町なのは

 巴マミからのテレパスが途絶えた。

 いや、元々自分――ほむらに当てたテレパスではなかったから単純に横入りだったのだが。

 とにかく、マミと杏子が交わしていたテレパスを盗聴していて、その直後、マミの通信が途絶えていた。

 杏子から傍受した情報。

 

 『魔法少女狩り』

 

 何を意味するのかは分からなかったが、名前からして魔法少女に害成す存在だということは容易に知れる。

 ほむらは何度となくマミにテレパスを送っていたが、返事がない。

 何か、あったのだ。

 あの巴マミがテレパスを返信することが出来なくなるほどの大事が。

 

 ソウルジェムの反応を頼りに、マミの魔力を追う。

 危機の真っ最中なら何としても救わなければ。

 そうでなかったとしても、行かない理由にはならない。

 

 そうして辿り着いたのが、新西区の大きな公園だった。

 

 いた――!

 

 ベンチに横たわっている、黄色い衣装の魔法少女の姿が。

 急いでマミの傍へと駆け寄る。

 外傷は――ない。

 ほっとしながら、ほむらはマミの顔を覗いた。

 顔色は悪くない。

 呼吸も整っている。

 ただ、眠っているだけだ。

 しかし、それなら何があったのか。

 返信することすら忘れて、こんな所でひとり眠りこけていたというのか。

 まだ油断は出来ない。

 

「ほむらさん!」

 

 呼ばれて、顔を振り向ける。

 白い私服姿の少女が、息をつきながら公園の入り口に立っているのが見えた。

 

「高町……なのは……?」

 

 呟く。

 なのはは、呆然としたほむらを見て傍へと走ってきた。

 呼吸を荒げながら、なのはが話しかける。

 

「この前はごめんなさい、ほむらさん。私の方が一方的でした……よね?」

 

 ほむらは訝しむ。

 彼女は何のために、またほむらの前に現れたのか。

 

「タイミングが良すぎるわね。巴マミへの復讐にでも来たのかしら」

「いいえ」

 

 ふるふると首を横に振るなのはは。

 

「ほむらさんに、お話があって来ました」

「時空管理局の魔法少女が何の用なの?」

「違います」

 

 きっぱりと、強い口調で否定した。

 

「時空管理局とは関係ありません。管理局の魔導師としてじゃなく、ただの高町なのはとしてお話がしたいんです」

「そう、私の答えは変わらないわ」

「いいえ」

 

 なのはの決然とした気迫に、ほむらは表面上は表情を変えずにいた。

 しかし、どこか少したじろいでいたことを、胸中で感じてはいる。

 

「私はほむらさんを助けてみせます。だから、ほむらさんも私を助けてください」

「……どういうこと?」

「聞きました。ほむらさんが自分の望む願いを叶えるため、『過去を繰り返している』ことを」

 

 ――――!!

 

 反射的に、ほむらは変身した。

 円形盾から拳銃を取り出す。

 ガンサイトをなのはへと向けた。

 だが、なのははそれから眼を逸らすことは無く。

 

「ほむらさん、答えは過去にあるんじゃありません。探すものでもありません」

「貴女に何がわかるというの!」

 

 ほむらは自身の想いに土足で踏み込まれた感覚を覚えた。

 なのははほむらから視線を外すことは無い。

 

「答えは探すんじゃないんです。自分で、未来の中に見出す事なんです。それから眼を逸らしちゃ、いつまでもまどかさんが浮かばれない」

 

 なのはの言葉に、ほむらは怒りに震える。

 ガンサイトを、彼女の眉間に合わせた。

 

「それ以上、言ってみなさい。たとえ相手が子どもであろうと、躊躇はしないわ」

「我がままだということはわかっています。でもほむらさんは未来を見ていない……。過去に囚われたままじゃ、ほむらさん自身も報われないんです」

「知った風にぬけぬけと……!」

 

 引き金を引いた。

 破裂音と共に、チュンと弾丸が爆ぜる。

 その一射は、なのはの頬をかすめて地面を抉った。

 ほむらの手は、震えていた。

 

「私はほむらさんを助けてみせます! そんな私を、ほむらさんも助けてください!」

「いい加減にして!!」

 

 ほむらは叫んだ。

 なのはの視線がぶれることなく、ほむらのそれと交錯する。

 

「私はまどかを助ける! 誰の助けを借りるつもりもない! 誰にも頼れるわけがない! 貴女も、私の決意にずかずかと踏み込んでこないで!!」

 

 渾身の叫びだった。

 心が張り裂けそうなほどの叫び。

 それはほむらが内に秘めた、激情の発露だった。

 

「それがそもそもおかしいんじゃん」

 

 背後から、水を差すような声が聞こえた。

 ばっ、とその声へとほむらは振り向く。

 肌に密着した青いビスチェに青のミニスカート、青いブーツ。白い手袋に黄色の髪飾り。青を基調とした魔法少女衣装。

 ほむらはその魔法少女を知っている。

 

美樹(みき)さやか……?」

 

 呆然と、ほむらがその魔法少女――美樹さやかの名を呟いた。

 

「ほむら、ちゃん……」

「――!!」

 

 ほむらは口を抑え、さやかの隣に立つ魔法少女の姿を凝視した。

 フリルをあしらったピンクを基調とした色の、ファンシーな衣装。

 その姿を見て、ほむらは愕然とした表情を浮かべる。

 

「どうして……、どうして貴女はいつもそうなの……?」

 

 地面に膝を突く。

 熱い感情が顔に昇り、涙となってあふれ出てくる。

 

 まどかを助けるためなら、なんだってやるつもりだった。

 まどかを魔法少女にさせないため、繰り返していた。

 今度こそは、今度こそはと信じながら。

 でも、結局願いはそれを裏切る。

 

 わかっていたことじゃなかったのか。

 覚悟していたことじゃなかったのか。

 

 何度繰り返そうと、それは叶わないのだと。

 今まさにそれを突き付けられ、ほむらの心に絶望の色が去来していた。

 

「ほい」

 

 カチン。

 ほむらの左手のソウルジェムに、固い塊が触れた。

 今まさに濁り切ろうとしていたソウルジェムが、淡い輝きを放ち出す。

 

「美樹、さやか……」

 

 グリーフシードを手にして、ソウルジェムに当てたさやかの顔がほむらの近くに迫っていた。

 

「だーかーら、一人で何でも抱え込もうとするんじゃないっての」

 

 そう言って、彼女はほむらの頭に手をやった。 

 ほむらの細やかな髪を梳かすように、頭を撫でる。

 

「誰もあんたを否定しようとなんてしてないよ。あんたの過去にケチ付けるやつはどこにもいない。どれだけ繰り返そうと、あんたはあんたの道を進んできたんだ。誇りなよ、そんでもって誰かに頼りなよ。世の中、上手くいくことがなくたって、それでも前へ進めてるんだ。それはあんたも同じ」

 

 さやかの声が、静かに染み渡ってくる。

 ほむらは涙を流しながら、さやかの顔を見た。

 彼女の表情は、静かに笑んでいた。

 能天気そうで、だけど優しい笑み。

 小さな子どもを愛でるような、そんな笑顔。

 

「私が……絶望するのは、悪いこと……?」

「そんなことない。でも、ただ絶望するだけなんて、寂しいよ」

 

 ほむらの泣き顔に、魔法少女――鹿目(かなめ)まどかが優しく応えた。

 

「希望を持つのも、絶望に沈むのも、それは人間にとって当然のことだもん。ほむらちゃんだって苦しくて、何度も何度も傷付いて、そうして私を助けようとしてくれたこと、絶対に忘れなんかしない。私はきっと今も、ほむらちゃんを傷付けてる。だけどそれがほむらちゃんの絶望だなんて、私は嫌だよ……。きっと別の答えはあるんだよ。なのはちゃんが言った通り、過去だけじゃなくて、未来にだって、きっと」

 

 吟じるように謳うまどかの言葉を、ほむらは噛み締めるように受け入れていく。

 まどかは一拍置いて、先へと続ける。

 

「だから一緒に戦おう、ほむらちゃん。一人じゃ何も出来ないかもしれないけど、みんな一緒なら、怖くても支え合っていける。なのはちゃんの言いたいことは、きっとそんな単純なことだと思うから」

「うん、うん……!」

 

 ほむらはまどかの言葉に、ただ頷いた。

 

 本当の事なんて、過去にしかない。未来や希望なんて、誰かの我がまま。

 だけど、その我がままさえなければ、暗い未来しか存在しない。

 

「ありがとう、まどか……」

 

 ほむらはそう言って、まどかの胸にすがりついた。

 彼女の華奢な体を抱きしめて。

 

「ありがとう、さやか、マミ、杏子……なのは」

 

 ほむらは感謝の言葉を述べた。

 誰にともなく、ただ胸の中に去来したみんなの顔を浮かべて。

 

 

 

「んっ、んー、もういいですか?」

 

 わざとらしい咳払いをして、もう一人の少女がそんな声を上げた。

 毛皮のケープとかぼちゃパンツを身に付けた魔法少女――百江(ももえ)なぎさ。

 

「あ、ごめんね。なぎさちゃん」

「ホントです。みんななぎさのこと、適当に扱い過ぎなのです」

 

 慌てたわけではないが、ほむらがまどかから体を離して居ずまいを正した。

 プンスカと怒る仕草をして、それを見たさやかが申し訳なさそうな表情をしながら応える。

 

「悪かったって。んじゃ状況説明、してくれる?」

「はいなのです」

 

 言って、なぎさが語り始めた。

 

「まず私たち魔法少女は、何らかの意図でこの神浜市に集められています。みんなも多分、聞いたことがあるはずです。現実世界、夢の世界、問わずにです」

 

 それがこの。

 

 神浜市に来て。

 神浜市で全ての魔法少女は救われる。

 

 という言葉。

 

「なぎさ達はこの町に何かの改変が行われたのを察知して集まりました。けれど、集まっただけでその実態は掴めずに袋小路に当たった、それがみんなの見解のはずなのです」

 

 なぎさの説明に、涙を拭ったほむらが聞き返す。

 

「私もその声は聞いたわ。確かに夢か現かもわからない、あやふやな世界で。それでこの町に来て、実際やっていることは魔女退治。何の進展もないというのが本当のところ」

「そうなのです。これじゃただ、魔法少女を集めただけなのです。加えてまた厄介な要因があります。それが魔法少女狩り、という目的不明の連中なのです」

「巴マミは一体どういう状態なの?」

 

 ほむらはそう言って、今もまだベンチで横たわるマミの姿へ視線を投げかけた。

 それを受けてさやかが応える。

 

「傷はちゃんとあたしが癒したよ。例の魔法少女狩りにやられたのを、あたし達が確認している。そいつを倒したのもまた別の魔法少女だったけど」

 

 美樹さやかは治癒の祈りを願って契約した魔法少女。

 彼女の固有魔法は傷を癒すことに特化しているのを、ほむらは知っていた。

 

「そいつに心当たりは?」

「それがねー。事態の関係者だとは思う。でも目的がはっきりしない。マミさんも、ただその魔法少女狩りに狙われただけなんじゃないかな」

「つまり、行動原理も目的も不明な魔法少女狩りとやらが、私たちの敵だと、そう言いたいのね」

「そこがどうもハッキリしなくてねぇ」

「どういうこと?」

 

 ほむらとさやかの会話に割って入るように、んっんー、とまた咳払いをするなぎさ。

 二人は黙りこくって、彼女へ視線を向けた。

 

「魔法少女狩りはあくまで敵の手駒。その操り主がいるとなぎさ達となのはは睨んでいるのです。その事情に詳しそうな魔法少女のことも、なぎさ達は確認しているのですよ」

 

 魔法少女狩りに詳しい人物。

 少なくとも、マミや杏子、そしてほむらもそんな人物に心当たりはない。

 

「それはいったい誰?」

「わからないのです」

「……話が食い違っているじゃない。知っているのか知らないのか、どっちなの」

 

 半眼でなぎさを見やるほむら。

 

「あくまでその人物は、魔法少女狩りの狙いを掴みかけてるというだけなのです。これ以上はその人物に直接、聞いてみない限りは判断できないのです」

「その人物とやらに心当たりは?」

「あるのです。だけど触れることが出来ないのです」

「一体どういう意味なの」

「それをなぎさ達は調べていくつもりなのです。なので、なぎさ達はほむらにお願いがあるのです」

「お願い?」

「はいなのです」

 

 なぎさが頷く。

 

「魔法少女狩りはとても危険な存在なのです。だからほむらはなのはと一緒に、他の魔法少女を魔法少女狩りから守って欲しいのです」

「え、なぎさちゃん。私も?」

「そうなのです、なのは」

 

 聞いたさやかが、腕を組んでうんうんと首を縦に振る。

 

「マミさんをここまで追い詰めるヤツらだからね。ほむら達くらいでないと太刀打ちできないんじゃないかな」

 

 それを聞いて、なぎさはもう一つ頷く。

 

「なぎさ達は事態の真相を暴くために動くつもりなのです。ほむらとなのははそれまでの時間稼ぎをしてもらいたいのです。お願いできますか? ほむら」

 

 ほむらもそれを聞いてまた、頷く。

 

「それで問題ないわ。まどかのことは心配だけど」

「そこはなぎさ達を信じて欲しいのです」

「わかっいる」

 

 言って、ほむらはまどかを見やった。

 

「まどかを直接助けることが出来ないのは正直言って、私は悔しい。だけど、幸運を祈っているわ」

「ほむらちゃんこそ、無理はしないで。きっとまた無事に会えるよ」

「ええ、そうね」

 

 さて、と。

 なぎさはまどかとさやかを見て、告げた。

 

「これから忙しくなるのです。なぎさ達が頑張ってる間、ほむら達も頑張って、なのです」

「マミが起き次第、すぐ行動に移るわ」

「わかったのです。それじゃ、なぎさ達は行ってくるのです」

 

 そう結んだなぎさは、まどかとさやか、二人を伴って公園を後にする。

 去り際に大きく手を振るなぎさに、ほむらは応えるように小さく手を上げた。

 

 

 

「まどかさん達、きっと大丈夫ですよね」

 

 見送ったなのはが、そう口にした。

 

「大丈夫よ。何せまどかだもの」

 

 同じく見送るほむらは、去っていった親友たちへ全幅の信頼を寄せた言葉で返した。

 

「あの……、ほむらさん」

「なに?」

「さっきはすみませんでした……。生意気なことを言って、ほむらさんの覚悟と決意を貶すようなことを言ってしまって……」

「構わないわ」

 

 なのはの謝罪に、ほむらはそう言って長い髪をかき上げた。

 

「貴女のおかげで、私も吹っ切れたもの。今後は五分の付き合い、対等の関係でいましょう」

「……はい! よろしくお願いします!」

 

 なのはは力強く応え、ほむらに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 魔法少女たちは事態の解明に向けて動き出す。

 未だ見えない敵と、見える脅威に心を引き締めて。

 

 時間は正午を回ろうとしていた。




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