テラスへ続く扉、そこを守護するティーパーティー所属の生徒に開けてもらい中に入る。
既にテーブルには2人の人物が座っており自分たちが最後だと分かる。
「ごめんなさい。遅れてしまったわね」
「いや、問題ない。ミカはともかくレナに関しては何か理由があるのだろう?」
そう言ってくれるのは”
トリニティ三大分派の一つ「サンクトゥス分派」の首長で当期の「ホスト」。
予知夢という特異な能力を持っているがそれの代償なのか病弱である。
「そうですね、何かあったのですか?」
彼女は”
「フィリウス分派」の首長でミカに続いて私のもう一人の幼馴染である。
気品のある口調で基本的に穏やかな性格である。
あと実家が大企業のご令嬢(私たちもだけど)ということもあってか世間知らずでよくミカにあらぬことを吹き込まれよく騙される。
「後輩に頼まれて大聖堂で起きてた暴動を鎮圧を手伝いに行っていたの」
「ああ、またかい相変わらず懲りないね」
机に乗ったシマエナガくんにエサをやりながら、彼女はため息を吐いた。
シスターフッドに対して不信を募らせた生徒達による大聖堂襲撃。
シスターフッドは秘密主義なところがありあまり全貌がはっきりしていない。
そのため一部の生徒からはあまり好ましく思われておらず今回のように不信を募らせた生徒達による暴動がたまに起きるのだ。
「それで、無事に鎮圧できたのですか?」
「ええ、被害も最小限にとどめたわ」
「ならよかったです」
ナギサが淹れてくれた紅茶に口をつける。
うん、相変わらず美味しい。
ティーカップを置いて言う。
「さて、お茶会を始めましょうか」
「はい」
「ああ」
「オッケー☆」
会議が始まる。
自身が所属する各派閥の近況報告に「シスターフッド」「正義実現委員会」「救護騎士団」といった、ティーパーティー以外の派閥の現状を話し合ったり、他にも私が独自で仕入れてきた学園の状況や予算関係の話も少し交えて話し合う。
トリニティは外から見た他校の生徒たちからすれば何の問題のないお嬢様校に見えるかもしれないがそんな事はない。
ゲヘナほどではないがそれなりに問題が多かったりする。
それこそ今回起きた暴動や陰湿ないじめなど。
大きなことから小さなことまで様々だ。
私はそういったことを含めた学園の状況の確認や予算管理が仕事。
話し合いの途中でミカが集中しきれず茶々を入れる一幕もあったが、レナの注意で何とか保たせ最後の議題に移る。
今回1番大きな議題……
「では次に、ゲヘナ学園との間で結ばれる不可侵条約、『エデン条約』について」
「エデン条約」とは。
キヴォトスでも大きな問題の一つとして挙げられている、トリニティ総合学園とゲヘナ学園との憎悪にも近い確執を取り除くべく"連邦生徒会長"が創り上げた、太古の経典に記された楽園の名を冠した不可侵条約。
「こちらに関してですが連邦生徒会長立会のもと各学園の代表者同士の会議を行いたいとのことです」
「案外早かったわね。もう少し時間がかかるかと思っていたのだけど」
「エデン条約って「ゲヘナと仲良くして」ってやつ?」
手元の書類を確認する。
「問題ないかな…私からは特にいうことはないよ」
「私も別にいいよ~」
2人は賛成の立場を示す。
「……ルーラーとして異論はないわ」
「では参加するということで」
「……それにしても”
「少し悪意のあるようにも感じるけどね」
わざわざ楽園なんて。
「では今日はここまでにしましょうか、お疲れ様でした。」
「あぁお疲れ様。悪いが先に帰らせてもらうよ。」
「お疲れ様ちゃんと休んでね」
「そういう君もちゃんと休むといい」
ナギサの一言で会議が終了しセイアは私と一言かわした後早々に自室へと戻っていく。
「はあ〜やっと終わったよ~レナちゃ〜ん、私もう限界〜」
「はいはい、お疲れ様」
終わったとたんミカが隣まで来て横から抱き着いてきたミカの頭をなでる。
気持ちよさそうにレナの撫でに身を任せるミカ。
ミカはレナに甘える癖があり、なにかとよく抱き着く。
レナもミカが抱き着いてくるたびにこうやってミカの頭を撫でる。
「…ミカさん、そうやって抱き着くのはいいんですがもう少し節度を持ってですね」
「え~~~?あっ、もしかしてナギちゃんも撫でてほしいの~?」
「なっ!そ、そんなわけないじゃないですか!」
「ホントに~~~?」
ニヤニヤしながら言うミカにナギサが反発する。
いつもの微笑ましい光景。
私はナギサが淹れなおしてくれた紅茶を飲みながらそう思う。
「まるで他人事のようにしてますけど、元はと言えばレナさんがすぐミカさんを甘やかすから、いつまで経ってもミカさんがトリニティの淑女らしさを身に着けないんですよ?」
こっちに飛び火してきた。
「オンとオフの区別くらいちゃんとしてるわよ。それにあんまり気を張り詰めすぎるのも良くないでしょ?」
「ほら、レナちゃんもこう言ってるんだし少しくらいいいじゃんね☆」
「はぁ、まったく」
ガックリと項垂れるナギサ。
「ナギサもこういう時くらい気を緩めてもいいと思うわよ」
「……はぁ、そうですね…」
「レナちゃんこれ美味しいよ!」
「ミカ食べカスがついてるわよ」
ミカの口周りに少しだけ粉がついているため。
動かないでね、と言いハンカチを取り出して口周りを拭いてあげる。
「はい、いいよ」
「ありがと☆」
「どういたしまして」
私もミカの食べていたクッキーを食べる。
「これ、もしかしてナギサの手作り?」
「はい、そうなんです。お口に合いましたか?」
「美味しいわね、今度私にも作り方を教えてくれる?」
「はい、レナさんであれば喜んで」
「あ、そういえばこの間行きつけのスイーツ店でね……」
「む〜〜〜」
私がナギサとの会話に花を咲かせていると。
頬を膨らませこちらを少し不機嫌そうにこちらを見てくるミカ。
「どうしたのミカ?」
「べっつに〜〜〜」
「……もしかして私がレナさんと話しているから嫉妬してるんですか?」
「そんなんじゃないも〜ん」
いかにもそうですと言わんばかりに顔を背けるミカ。
それに私たちは顔を合わせて苦笑する。
「ミカこっちを向いて」
「つーーん」
ミカはこちらに顔を向けてはくれない。
「ごめんね仲間外れにして、けどナギサも私の幼馴染で大切な人だから」
「……私よりも?」
「もちろんミカが1番よ、けどナギサも同じくらい大切なの、わかってくれる?」
「……うん」
再び抱きついてきたミカの頭を撫でる。
「ほら、このケーキ美味しそうよ」
「食べさせて」
「はい、あーん」
「あーん」
「……私、何を見せられているのでしょう…」
まるで不機嫌な彼女の機嫌をとる彼氏の様なやり取りを見せられて困惑するナギサ。
その後はティータイムを楽しみ、いい時間になったところで解散した。
あの後、自身の執務室に戻り今日の会議で新たに増えた書類と残っていた書類をあらかた終わらせると既に日は沈んでおり外は暗くなっていた。
少し夜風にでもあたろうかと思い外していたマントを着けて外へ出る。
外は心地よい風が吹いており、夜空には綺麗な星が輝いている。
トリニティの敷地内には誰もいなくて、ただ街灯だけが灯っている。
「そういえば……」
ふと、今日の会議でナギサが言っていたことを思い出した。
『最近このトリニティの敷地内で露出狂が出没するらしいです』
議題に挙がっていた露出狂。
誰かまではまだわかってはいないらしいが……
「……少し行ってみるか」
私は中央広場の大噴水の方へ向かう。
普段は人で賑わっているここの場所もこの時間には静かになり人はいない。
……ただ一人を除いて。
「あら?奇遇ですね、レナさん♡」
本来人のいない時間のこの場所に一人の生徒がいた。
彼女は"
どこの派閥にも所属していない無派閥の生徒。
そんな彼女は何故か学校指定の水着を着てこの広場にいる。
「……言いたいことはいろいろあるけれどとりあえず」
一言おいて。
「なんで水着なの?」
「ふふっ、外で着るべきではないものを外で着る……とっても楽しいことだと思いませんか?」
「そういうものなの?」
「そういうものなんです♡」
そういうものなのか……とりあえず納得しておく。
それにしても。
「…元気そうでよかったわ」
「………なにも聞かないんですか?」
「聞いてほしいの?」
「……いえ」
ハナコは少しうつむく。
才色兼備の優等生だった彼女が何故このようなことをしているのか恐らくだが私にはわかってしまう。
「……あなたがこのトリニティが嫌いなことは知っているわ。」
「…………」
私は知っている。
過度な期待も、権力争いも、気持ち悪い隠し事、それらすべてが嫌になり彼女はこのトリニティが嫌いなった。
きっと彼女はここから出ていきたいのだろう。
私にそれを止める権利はない。
「だからあなたの自由にしなさい、あなたの決めたことであれば私はそれを尊重する」
このままトリニティに残るもよし、退学になるもよし。
「…だけど私にもあるようにあなたにもいつかここで本当に大切なものができるかもしれない……それまで待ってみてもいいんじゃない?」
「…………私は……」
「今すぐ答えを出そうとしなくていいわ」
ただ、と、付け加えて言う。
「答えが出たのなら私に一言、言って欲しい。その時は力になるから」
「…………わかりました…」
「ほら、そんな恰好じゃ風邪を引いてしまうわ。早く戻りましょう」
着けていたマントをハナコの肩に掛け、うつむく彼女の手を引いて寮への道を歩き出した。