聖剣の担い手   作:izuki

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第一節 補習授業部?

 『補習授業部?』

 単語の並び的にもあまりいい印象は浮かばなかった。

 成績不振者とはいえ、わざわざ部活にして括る必要があるのかと若干訝しんだが、私は、先生として学校の運営方針自体に口出しをするつもりは始めからない。

 生徒が決めたこと、やりたいこと、それを最大限手助けをしつつ、誤った道に進みそうになった場合にその道を正すために口を出しその道を正しい道へと戻す。

 それが、私の教育方針だった。

 「はい。つまり、落第の危機に迫っている生徒を救っていただきたいのです。そうですね……「部」という形ではありますが、顧問というよりは「担任の先生」と言ったほうが良いかもしれません」

 ナギサはティーカップに一口つけて一息ついて話し始める。

 「トリニティ総合学園は、昔からキヴォトス内の数ある学校の中でも「文武両道」を掲げる歴史と伝統が息づく学園です。だと言うのにあろうことかこの時期に成績が振るわない生徒がなんと“4人”もいらっしゃいまして」

 「私たちとしても結構困ったタイミングで……「エデン条約」が迫ってるから学内も結構バタバタしててね?あの子達の件もなんとかしなきゃいけないんだけど、人手も時間も全然足りなくて……」

 先程までの少し無邪気?な感じとは打って変わって、落ち着いた態度のミカに少し驚きながら私は聞く。

 「そこで見つけたの!新聞に載ってたシャーレの活躍ぶりを!ネコ探し、街の掃除、不良の制圧から宅配便の配達まで!まるで八面六臂の大活躍!このシャーレになら、きっと面倒ごとも任せられそうだなって!」

 『…………』

 ここまではっきりと面倒ということを言われると逆にすがすがしい。

 つまり、彼女たちは今その条約で忙しくこっちのことまで手が回らないから私に頼んでいるということか。

 「ミカ、そんな風に言ってはダメよ。それに貴方、私が手伝わなかったら仕事をサボろうとするじゃない」

 「ちょっと!レナちゃんそれは言っちゃダメでしょー!」

 ミカが言ったことをレナが窘める。

 「と、とにかく、“先生”なんでしょ?今はみんなBDで学習する時代だし、学校の職員とか、教授ならまだしも“先生”って概念自体がすごく珍しいんだよね」

 先生の瞳の奥をまっすぐに見つめるように真正面からミカは”先生”にとって最も大切な言葉を口にした。

 「先の道を生きると書いて“先生”……つまり、『導いてくれる役割』ってことだよね?尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く。「補習授業部」の顧問として、これはぴったりだなって思って!」

 「……噂では、「尊敬」という言葉が合うかどうかは、意見が割れているそうですが……」

 「…………そうね…」

 「あー、そうだったね。報告書によって全然違うっていうか……まあ、これは先生の名誉のために何も言わないでおくね?」

 思わず目が泳いだ。

 思い当たる節がポンポン出てくる。

 多すぎて困りものだが、ここであまり動揺したらいい印象は与えられないだろう。

 いったいどんな噂があるのか気になったが、聞かずに黙っておく。

 「えっと、とにかく!今はちょっと忙しいこともあって、ぜひ先生にこの子達を引き受けて欲しいの!」

 「もう少々説明いたしますと……この「補習授業部」は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて設立し、救済が必要な生徒達を加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎということもあり、シャーレの超法規的な権限をお借りしつつ、と言った形でですね」

 なるほど、確かに私のシャーレの権限ならそう言ったことも可能だろう。

 「色々とややこしいですが、本質はあくまで「成績の振るわない生徒を救済すること」にあります。だからこそ、こう言った特殊な形での創設が許されたわけですが……」

 『?』

 ナギサがチラッとレナの方を見る。

 レナは何も言わずに黙々とロールケーキを食べている。

 「如何でしょう、先生?助けが必要な生徒たちに手を差し伸べてはいただけませんか?」

 『私に出来ることであれば、喜んで』

 即答だった。

 もとより断るつもりなど毛頭なかったし、今受けた説明以上の意味が例えあったとしても、私のやることはこのキヴォトスに来た時から決まっている。

 「やった!ありがとー先生!」

 「……ふふ、きっと断らないだろうと思ってはいましたが……ありがとうございます。では、こちらを」

 ナギサから名簿を受けとって中をパラパラとみる。

 その中に少し気になる名前があった。

 「ん?何か気になる子せもいた、先生?」

 『……ううん、何でもない』

 とりあえず誤魔化す。

 もしかしたら、見間違えかもしれない。

 うん、きっとそうだろう。

 「詳しい内容についてはまた追ってご連絡いたします。他に気になる点はございませんか?」

 『じゃあ、「エデン条約」って、何?』

 なんとなく気になったので聞くと何とも言えない顔で黙ってしまう二人。

 もしかして、聞いちゃいけないことだっただろうか。

 それに答えてくれたのは今まで黙って話を聞いていたレナ。

 「……質問していただいたところ申し訳ないのですが、条約については内部機密ということもありまだお話しできることではなくて。…………まあ、けれど先生ならそのうち知ることが出来るかと思いますが、ここではお答えすることが出来ません。申し訳ありません」

 『だったら、大丈夫だよ。こっちこそごめんね』

 「いえ、こちらこそ申し訳ありません。それ以外でしたらご自由に」

 「じゃあ、ティーパーティーのもう一人の生徒会長は?」

 「…………」

 その質問に、今度は少し表情が暗くなった。

 あれ?私またなんかしちゃった?

 「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院中で……」

 「本来であれば、今のホストはセイアさんのはずだったのですが……そういった事態で不在のため、私がホストを務めているところです」

 入院……何かあったのだろうか。

 大丈夫だろうか。

 『そっか、早く良くなるといいね。……今聞きたいのはこれくらいかな』

 「承知しました、また何かあれば聞いてください。では、これからよろしくお願いいたしますね、先生。私もティーパーティーのホストとして、先生をエスコートいたしますので」

 『うん、よろしくね』

 

 

  私は、今回の「補習授業部」は正直言って乗り気ではなかった。

 「……本当に、良かったのねこれで」

 先生がテラスから退出したのを確認してから私はナギサに問う。

 「……はい、それにもう始めたことです。もう引き返すことはできません」

 ナギサが俯いてそう言った。

 あの、セイアの襲撃事件から数日、私達は一つの結論にたどり着いた。

 それは、このトリニティ内に裏切者がいるということ。

 でなければこの時期にこんな事件は起きていないと考えた。

 そこから、ナギサは寝る間も惜しんで名簿や資料、外出届なんかの書類を漁り、怪しいと思う人物をマークしていった。

 そして、その中からナギサは学内でもとりわけ成績の悪いもの……さらにその中からよくない噂を含む人たちを選抜した。

 彼女が選んだ生徒は4人。

 ”阿慈谷ヒフミ”

 ”浦和ハナコ”

 ”白洲アズサ”

 ”下江コハル”

 彼女が溺愛する後輩に、私の後輩とも言える2人。

 そして、よく分からない時期にやってきた転校生。

 彼女の面接は私が勤めたため顔は知っている。

 この4人が彼女が最終的に選定した裏切り者の候補であり、エデン条約を破却し得る可能性のある人物。

 そして、彼女が選んだ彼女の信用できない人物達。

 正直言って、本当にエデン条約をひっくり返せるほどの力を持つだろうか。と疑問に思った。

 約一名、本気を出して暗躍すればあり得るだろうが…………今の彼女はそんなことはしないだろう。

 だが、ナギサはそんなことは知らないし、それに今の彼女は誰も信用できずにいる。

 彼女は追い詰められた時、想定外の時、そして、このような状況の時、元来の思い込みの激しさがよく出る。

 そんな状態の彼女に何を言っても無駄だということは昔からよく知っている。

 そこからさらにナギサは「補習授業部」を提案してきた。

 その内容を聞いて、完璧に否定することはできないと判断した。

 元々、今回の件がなくともなくとも、成績が極端に悪く更生の兆しが見られない場合は“やむなく”その判断を下すしかない。

 過去にもそう言った人達はいた。

 そのため、今回の「補習授業部」を止むを得なく承認した。

 「……だけど、分かってるわよねナギサ。今回の件あなたが必要以上にやるようであれば、私はあなたの敵になることになる」

 「……はい、わかっています」

 「なら、いいのだけど」

 そう言っているが、今の彼女は何をやるかわからない。

 警戒しておくに越したことはない。

 ……落ち着いてお茶会が出来るのは、今日が最後かもしれないわね





 それはそれとして、ミカ。ちょっとお話ししましょうか。

 ヒッ……
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