貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった 作:Dina
俺は、性癖とは多様なものであるべきだと思う。男の娘もロリも何もかも、創作ならば認められるべきだと思う。
だが。
人には地雷というものが存在する。NTR、分からせ、無理矢理、その辺りは好き嫌いが発生すると思うんだ。俺?俺はいちゃらぶこそ至高だと思っている。男も女も楽しく幸せにセックスするべきだ。
それはともかく。
性癖は多様だ。だからこそ、それを他人に押し付けることだけはしてはいけない。あくまでも自分と同好の士内で楽しむからこそ良いのだ。
うん、だからね?女装する男を見て楽しむのはかなり特殊だと思うよ?
「クローヴィス!次、これ!これを着なさい!」
そう楽しげにドレスを押し付けて来たのはスラリとした美人。深い群青色の髪を一つに纏めた彼女はいかにも仕事の出来そうな聡明さを感じさせる。
そして俺は死んだ目をしながらふりふりのドレスを身につけていた。
この俺より身長の高い女はエリザ・ゴートン。貴族の中でも有名な仕立て屋である。何故本職がこのようにわざわざ男にドレスを着せているのか。それはこの女の厄介な性癖が関係している。
男娼になって仕事にも慣れてきた……というか諦めた頃。この女は店の前で客引きをしていた俺を一目見るなり言った。
『ねえ、アンタ。私の人形になりなさい』
だが、そう声をかけてきたエリザはある意味この業界の有名人だった。
男に似合わない女装をさせ、それを剥きながら行う性行為を要求する客。
初めてそれを聞いた時、おいおいどうやったらこんな拗らせた性癖が誕生するんだ??と思ったね。しかもここで“似合わない”というところがポイントだ。男娼には一見女にしか見えないような奴も多くいる中で、
「今日のはジューン地方から取り寄せた刺繍を使っているアンクル丈のパーティドレスなのだけど。あは、やっぱり似合わないわね」
でしょうね!!!男に膝上丈のドレスを押し付けといて似合うわけがないだろうが。
言っちゃあ何だが、俺は美形だが女に見えるようなタイプではない。あくまでも“男にしては”華奢程度だ。髭だってあるし足の筋肉はゴツゴツしている。
それに対して足の出たパーティドレス?目が腐ってるんだろうか?……いや、似合わないのは知ってんだもんな、腐ってるのは承知の上か。
「やっぱりクローヴィスに着せて良かったわ。ケインでも良かったんだけど、試作品のドレスならクローヴィスの方が微妙に似合ってなくて最高ね」
ケインとは別の娼館に所属する逞しい筋肉とがっしりした体格が人気の男娼である。そいつにドレスを着せるつもりだったのかエリザ……やっぱ正気とは思えねぇな。
ちなみに俺は、エリザに指名されている最中絶対に鏡を見ないことにしている。自分のやりたくもない似合ってもいない女装なんぞまっっったく見たくねぇ。吐くぞ。
「ん、ここを手で押さえて。このパーティドレスはね、背中の部分を美しく見せるためにリボンが簡素に編まれていて……だから、ほら。簡単に外れるの」
やめろやめろやめろ!俺に胸のあたりを押さえさせるな!そんな格好したって胸を隠そうと恥ずかしがる姿にはならんからな!クソがッ!
そんな心底嫌がる雰囲気が出ていたのだろうか、エリザの背中のリボンをほどく手が止まる。
「アンタってほんと嫌がるわねぇ。表情は変わらないくせに嫌がってるのが伝わってくるわ」
「……すみません」
「謝らなくて良いのよ。だって、嫌がる子に可愛らしい服を着てもらうのが好きなんだもの」
どうしようもねぇよコイツ。何でこんな奴が仕立て屋をやってるんだ。
「もう、引かないで!分かってるのよ自分でも。だからこうして男娼の子たちに着てもらってるんじゃない」
「まあ……それは……」
確かに恋人とかにやらせたらドン引きどころじゃ済まないよな。この世界は男の立場が弱いので着せること自体は可能なんだろうけど。
男娼相手にやるだけまだ理性が働いているのかもしれない。めちゃくちゃ特殊な性癖だが身体は傷つかないし、暴力的な客をとるよりはコスパが良い。そう思わないとやってられない。
ケイン、アンタが大人しくエリザの言うことを聞く理由が分かるぜ。会ったことないけど。
別のドレスを着させたエリザはまたうっとりと俺の姿を見た。今度は胸元が大胆に開いたドレスだ。
「はぁ。普通スクエアネックのドレスなら鎖骨を強調して華奢に見えるはずなのに似合わないとここまで悲惨になるのね……肩幅と背中の筋肉が隠せてなくて……うん、とっても素敵」
今の言葉のどこに素敵要素が……?ひたすら似合わない似合わない言われるこっちの身にもなって欲しい。いくらドレスを着ているとはいえ、俺だってこんな美人にひたすら貶されると傷つくんだが……
まあ、口には出さない。俺は仕事に忠実な男娼なので。客が金を払ってくれる限り、その要求に応えなければいけないのだ。どんな奴でも客は客、変なことを言ってまたババアに飯抜きにされたら堪らない。
「ふふん、次持ってくるならマーメイドドレスかしら。ふりふりのお洋服も可愛いけれど、身体のラインを活かしたドレスもきっと悲惨よね……」
「悲惨を褒め言葉みたいに言わないで欲しい……」
あっ、しまったつい本音が。
「…………」
「…………」
「……あはっ、クローヴィスったらそんな風に思ってたの!心の中で色々考えてるタイプなのね」
「……すみませ」
「いいわ、そっちの方が好きよ。率直に言って貰う方が嬉しいわ」
からからと笑って許される。これがもしリネットだったら許されなかっただろう。お仕置き確定である。ある意味、助かったのかもしれない。
「ね、ね、それならさっきのドレスはどうだったかしら?正直に言ってみて」
「正気を疑いますね。目が腐ってるんじゃないですか?」
はっ、また本音が。
「あっははは!それであの嫌そうな雰囲気!じゃあ次はこれを着てもらえるかしら?」
爆笑されながら差し出されたのは薄い布……というか紐?何なんだこれ。
「何です、これ……」
「何って、ベビードールよ?知らないの?」
「はい??」
使われている布は透けるほどに薄く、肝心な股間部分には切れ込みが入り、さらには何故か胸の先端を強調するような下着まで付いている。
えっちな女の子が着れば最高だろうなぁ、でも渡されてるの男なんだよなぁ?おかしいよな?え?
「ベビードールなんて男しか着ないじゃない。男娼だからとっくに着たことあると思ってたんだけど……意外ね。でもそれなら、クローヴィスのえっちなその姿を見たのは私が初めてかしら?」
忘れていた、ここは貞操逆転世界。欲望を唆るベビードールも男が着るものだったようだ。
頭沸いてるのか?
「ほら、着てみて。これは男用だからサイズは合うはずよ」
「…………」
無言。無言で着替えていく。
無心になるんだ。こんな布切れをつけたから何だ、なんてことない、大したことないはずだ。前世で「えっちな夜の衣装最高すぎる……」とソシャゲに課金した記憶を思い出して自分を殴りたくなったが、無心だ。
「あっははは!似合ってるわよクローヴィス!感想はいかがかしら?」
「薄すぎます……下着の意味がない……」
「そりゃあそうよ、貴族の夫婦が夜を楽しむためのものだもの」
「この、謎のリボンは……?」
エリザがにやりと笑う。嫌な予感がした。
「じゃあ実際に使ってみましようか」
そう言われてベッドに押し倒される。いやまあ知ってた。むしろ最初からこうなるとは分かっていた。
「このリボンを外すとね、こんな風に……手を縛れるの」
おいおい、また緊縛プレイかよ!そんなメジャーな性癖だっけ?!
「このベビードール、アンタのために作ったのよ?やっぱり着エロって最高よね」
物凄く機嫌良さそうに言われた。着エロが最高なのは分かる、分かるが女限定だと思う。
それにさあ、俺思うんだが。これ(スケスケのベビードール)は衣服に含まれなくない?もう既にほぼ脱いでない?
「はぁっ……本当に似合ってる……!」
何も聞いてねぇ。
理性を失った瞳で、エリザは俺に手を伸ばした。
♢ ♢ ♢
うーん、朝日が眩しい。
エリザは仕事が忙しいらしく、コトが終わるとさっさと金を払い出ていった。そこは優良客だよな、朝までの料金払ってくれてるし。
『あんっ……!ねえ、クローヴィス、アンタ身請けされなさいよ……っ、ひゃぁっ!』
『……ッ嫌、です!』
『……、そう。じゃあまたベビードール着て、ね?』
何やら良くない約束をした気もするが、きっと気のせいだ。部屋にぐちょぐちょになった薄い布が落ちてる気がするが、気のせいだ、うん。
…………もう一度寝ようかな。
エリザ・ゴートン。
厄介な性癖を持つ、厄介な客
⚠︎この小説でえっちな目に合うのは主人公です。
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