貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった   作:Dina

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コメディって、むつかしい……


さんにんめ

 魔法。なんて心踊る言葉だろうか。

 たとえ興味がなくても、学校や職場に隕石が落ちないかなだとか宝くじが当たらないかなだとか、そういった妄想をしたことがない人類こそ少数派だろう。

 火を簡単に起こしたい、危険な獣から身を守りたい、空を飛びたい。そういった空想や理想から技術が生まれてきた。それこそが人類の生活を豊かにしてきたのだから、馬鹿にしてはいけない。

 

 では、実際に魔法が使えたならば?人類の生活は退化するのだろうか。

 

 いいや、違う。実際に魔法が使えたとしても──人の欲望は止まらない。

 

 

 

「いやあ、最近治安良くなったよね」

「だよなぁ。やっぱあれかな、筆頭魔法使い殿が開発してたアレ……『監視用魔法』だっけ?あれのおかげで犯罪は減ってるだろ」

「凄いよな、アレ。ネーミングセンスは微妙だけど、実際犯罪が起こる前に治安維持隊が出てくるんだから便利だよ。悪意を事前に感じ取るんだったか?流石筆頭魔法使い殿は違うねぇ、使う魔法が異次元だ」

「筆頭になってからも長いしなぁ」

 

 休みの日、そんな話がどこからか聞こえた。

 

 この世界において、魔法とは誰もが使える力だ。手から火を出し、身体を強化し、空だって飛べる。いや空を飛ぶのはなかなか難しいが。

 ともかく、魔法は身近な存在であり現在の歴史に至るまでに様々な魔法が開発されてきた。古代では限られた人しか使えなかった魔法も、現代では解析された上で庶民に広まっている。

 

 だからこそ、自分たちに使えない魔法を操ったり開発したりする“魔法使い”という職業は憧れの的。順位付けされており、庶民の中では推し魔法使いを応援するのが流行するほどだ。

 

 何が言いたいのかって?

 

 筆頭魔法使いがこんな奴だとは誰も思っていないだろうってことだ。

 

 

 

「はぁぁぁぁ……」

「…………」

「はぁぁぁぁ……クローヴィス、心配してくれないんです?」

「あーはいはい、どうされたんですか筆頭魔法使い殿?」

「っ、聞いてくれるんですね!」

 

 そう目を輝かせたのはまだ十代にも見える美少女。丁寧に編み込まれた白い髪、透き通るような白い肌。白、という言葉を体現したような少女。

 

 アピア・ホウシュレン。

 この国における魔法使いの最高峰。史上最年少で学院を卒業し、現在に至るまで数々の論文を発表、国防から庶民の生活魔法まであらゆる魔法に通じる天才。その奇蹟の天才が何故こんな木っ端な娼館にいるのかと言えば……

 

『ああああの!』

『はい?』

『あ、貴方を指名しましゅっ!』

 

 圧倒的コミュ障ッ!性体験がないからといって男娼を選んだ素人処女ッ!こんなのが筆頭魔法使いだなんてこの国は大丈夫なんだろうか。

 

 いや、悪い人ではないんだ。アブノーマルなプレイもしないし金払いは良いし。

 

「それでね、あのね……!」

 

 わたわたと手を振りながら弾むように話すアピア。その姿は非常に愛らしく、前世の男心をくすぐる。

 

「あ、えっと、次はね、50年前の話なんですけど……」

 

 でもなぁ……この人、見た目詐欺なんだよなぁ。

 

 アピア・ホウシュレンが筆頭魔法使いに選ばれたのは──()()()()

 

 そう、この人は齢百十一歳のロリババアなのだ。

 

 

 引かないでくれ、俺だって必死なんだよ。 

 もしこれが千歳越えだったり、二百歳くらいまでなら、まあ分かる。ロリババアかよ!って素直に思えたし若干嬉しかったかもしれない。人間としての認識を当てはめずに済むからな。

 

 でもさ、百十一歳だぜ?微妙すぎるというか絶妙に祖母にいそうな年齢というか、普通の人でもこれくらいなら生きるのも可能というか。

 何なら先の戦争で大活躍された英雄だから……俺でも知ってるくらい凄い人だから……奴とかこの女呼ばわり出来なくて俺も困るっていうか……

 

「むう。クローヴィス、聞いてます?」

「聞いてます聞いてます、いやあアピア様は凄いなぁ」

「ふふん、そうでしょう!……周りがあんまり褒めてくれないのでやっぱり新鮮ですね」

 

 それって、尊敬する英雄殿が自分より歳下の少女に見えるから戸惑ってるだけなんじゃ……?部下の人たち可哀想だなおい。

 

「あの、それでですね、えと……」

「お話はよろしいんですか?」

「ひゃい!」

 

 目を細めて、少し上目遣いに。アピアが何か言いたそうにもじもじとしていたので助け舟をだすと、悲鳴じみた返事が返ってきた。百十一歳とは思えないほど可愛らしい、若々しい悲鳴である……はっ、余計なことを考えた。

 

 ともあれ、実際それくらい効果はある。俺の顔は良いからな、女は特に上目遣いを好む。これでも男娼なので、女を喜ばせる話し方だとか接客の方法は仕込まれているのだ。ちなみに常連相手に発揮するタイミングはほぼない。

 

 まだぽうっと顔を赤くしていたアピアが、ようやく決心ついたように話し出す。

 

「あのう、『監視用魔法』で見ちゃったんです。クローヴィスがその、し、縛られてるとこ……」

 

 ……え?

 

「ち、違うんですよ?!いつも見てるわけじゃないんですけど、たまたま、普段どんな仕事してるのかなって!そしたら、しっ、縛られ……!」

 

 ぷ、プライバシーは?!?!

 

 ガチの悲鳴をあげそうになった。いや、知ってるんだこの筆頭魔法使い殿が開発した『監視用魔法』のことは。普段から悪意を監視し治安を維持している魔法。前世の常識から考えるとディストピアみたいだなとか、でも感情観測だけなら良いのか?とか考えた覚えはある。

 

 だが、本当に監視カメラのように使えるだなんて予想もしていなかった。名前の通りすぎる。思いっっきり職権濫用じゃねえか。顔が引き攣るのを必死に抑える。

 

「それで、実際……どう、なんですか?縛られるの、好きなんですか?それなら私も頑張るので、えっと、自動操作の魔法を縄にかけたりとか、それくらいなら出来るので……」

「好きじゃないです」

「えっ?」

「全くもって好きではないです。他の方の要望に従っていただけです」

 

 色々言いたいことはある、あるが……緊縛趣味があると勘違いされるのだけは耐えられない。

 

 それにしても、見られたのは()()()だ……?

 エリザの時なら?リボンで手を縛られただけだ。ただ着させられた服がベビードールだったが……。

 リネットの時なら?なんかやたら複雑な結び方をされていたような、股間を強調するようないかにも変態的な縛られ方をされていたような。

 

 結論。

 どっちも良くねえな?!どっちにしろアブノーマルなやつ見られてるな?!最悪すぎる……太陽の下を歩けない……

 

「じゃ、じゃあ、合意でなかったってことですか……?」

「…………」

「無理矢理、だったんですか?」

 

 答え辛いことを言いやがって。

 男娼とは、金を貰う代わりに身体を売る。つまるところ仕事である。多少のプレイなら追加料金を払えばオプションとして付けられるし、合意の上で全ては行われる。たとえどんな嫌だったとしても。

 

「……合意の、上ではあります」

「……嫌、だったけど、合意はある?」

「まあ、はい。仕事なので」

 

 だからこそ、こんな風に歯にもの詰まったかのような言い方しかできない。というか、これを客に言ったことがバレたらオーナーのババアにまた飯抜きにされそう。男娼とは夢を見せる仕事だなんだほざいてるからなあのババア。

 

 あたふたしていたアピアの顔がみるみる険しくなっていく。

 

「……性風俗における当人の意思確認、ですか。金銭的問題を含めて……いやでもこれは国も……」

 

 ずん、と周りの空気が重くなった気がした。その雰囲気は確かに八十年以上生きた筆頭魔法使いの威圧感を放っていて……

 

 

 

 

 いや怖!!!なんか俺この人の地雷踏んだ?!

 

 普段異性に耐性のない情けない姿ばかりみているからか、非常に怖い。たぶんこっちが人前での通常営業なんだろうけどさ。

 

 ただ俺は出来る男なので、アピアへの対処法は心得ている。

 

「あの、アピア様」

「はい?」

「俺のこと、縛ってみたいんですか?」

「うひょへぇっ?!」

 

 人間の出す声の限界だろこれ。どうやって発音してんだ。そんなツッコミが思い浮かぶほどにアピアは狼狽えた。

 

「ちちちち違……!いえあの縛られてる姿にはとても性的興奮を抱きますが、ひぇ、そうじゃなくって!」

「良いですよ」

「無理矢理なんてそんなぁ……って、え?」

「別料金ですが」

 

 俺は金が稼げるなら何でもいい。

 

 倫理観と性的興奮が対立しているアピアにそう告げてやる。男娼なんて仕事してるんだ、そこらへんの葛藤はとうに済ませてある。

 

「ですがぁ……でも……」

「生で、見たくないですか?」

「見たいですっっ!……あ」

 

 にっこりと笑う。アピアはだいぶ転がしやすくて助かるぜ。俺も金が稼げる、アピアも性的興奮を満たせる。()()なら俺だって嫌がらずにやるのだ、分かるかリネット。

 

『わたくしは嫌がる姿が見たいのよ』

 

 幻聴が聞こえた気がしたが、無視だ無視。

 

 

「じゃあ、アピア様……この縄で、俺を縛って?」

 

 ベットの方へちょいっと引っ張り、上目遣いと首傾げのダブルコンボ。へへ、ちょろいもんだぜ。

 

 アピアは熱に浮かされた目で縄をそっと手に取った。

 

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

「あああ……」

「大丈夫ですってアピア様……」

 

 コトが終わった後「やっちまった……」とばかりに頭を抱えるアピアを慰める。ヤってる最中はノリノリだったから大丈夫だと思ったんだが辞めた方が良かったかこれ?

 

 普段なら「俺百十一歳とセックスしたんだ……」と黄昏れるのは俺の方なんだが、今日ばかりはそうもいかなかった。

 

「うう……こんな……こんな……」

「気にしないで下さい、本当に」

 

 段々面倒になってきたな、早く身体洗いたいんだが。体液でぐちょぐちょのシーツも気持ち悪いし。

 

「…………あっ、そうです!そうですよ!」

 

 何か思いついたようにアピアがバッと顔を挙げた。

 

「今度から嫌だったら強く願ってください!『監視用魔法』を強化しておきますっ!犯罪は事前撲滅!」

「やめてください」

「えっ、でも安全ですよ……?」

「絶対にやめてください」

「うう……分かりました。でも、気をつけてくださいね?」

 

 サイコパスか?人にはプライバシーってもんがあると言うのに。イカれてる……。

 

 

 

 アピア・ホウシュレン。

 筆頭魔法使いで、百十一歳で、ちょっとストーカー気質のある厄介な客()()()である。




属性もりもりロリババアって、良いよな。

誤字報告ありがとうございます。また良ければ評価のほどよろしくお願いします。
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