貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった   作:Dina

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きゃわいい女の子が出てこない回。
ババアは出てくる。

Q.誰得?A.作者
読み飛ばしても(たぶん)大丈夫です。


幕間

 人類には休暇が欠かせない。

 ひたすらダラダラしても良いし、精力的に動いても良い。前世の俺は一日中動画やらインターネットを見ていたクチだが、たまに出かけると新鮮で割と楽しかったような面倒だったような。

 

 この世界でもそれは変わらない。人には休む時間が必要で、それを自分の好きなことに当てるのは正しい時間の使い方だ。それは魔法使いや軍人、男娼であっても変わらない。……例外はいるものの。

 

 なので俺は休暇を全力で楽しむと決めている!

 

 

「さて何をしようか……」

 

 久々の休み。日程を調整し、客に交渉し、どうにか丸一日休みを取れた日。いやあ頑張った頑張った。休みのためなら何でも出来るぜ。

 

 一日中部屋でゴロゴロしても良いんだが、なあ。この世界は発展してはいるものの娯楽は少ない。皆勤勉……というか陽キャタイプで、休みの日は家の用事を片付けたり友人と遊びに行くのが鉄板で一人用の娯楽がほとんど無い。本はあるが俺は難しい字は読めないので選択肢から外れる。

 前世オタクだった身としては漫画もアニメもゲームもないのが信じられん。それなしでどうやって過ごせばいいの?かといって外に出るのも……友人なんて数えるほどしか居ないし、皆同業者である。

 

「もしかして俺……無趣味?」

 

 やっべえ、大変なことに気づいてしまった。何もしたいことがなく仕事一筋だと?それは仕事のために生きてるのと変わらないんじゃ……いや待て待て認めたくない。あんな客共に良いようにされる為に生きてるわけじゃないんだ……そのはずなんだ……

 

「あれ、先輩?どうしたんすか?」

 

 “真理”に辿り着きかけていた俺を引き戻したのは、まだ幼さが残った男の声。

 

「今日は先輩休みっすよね?こんなとこで何してんです?」

 

 こいつはフラット・ベルガー。来月で十五になり、男娼デビューする──いわば男娼見習いである。

 

 見た目は完全にチャラいというか齢十四の癖に女慣れしてそうな雰囲気を醸し出すイケメン。俺には及ばないがこいつもなかなか顔が整っている。

 前世だったらおそらく、いや絶対に関わろうとしなかったであろう人種。楽しいことが好きで周りと一緒に盛り上がるタイプだ。いかにも陽キャなフラットに最初は苦手意識を持っていた。しかし、

 

『……ぁ、せんぱい?』

『……どうした?』

『……はは、いやー分かってたつもりなんすけどねぇ。さっきチラ見せって店の前出されて、ちょっとキツくなったっつーか……』

 

 半年前。男娼見習いとして店に出た結果、女共に性欲で濁った瞳で見られて、だいぶやられてしまったらしい。震える身体を抱きしめて店の裏で蹲る姿を見てしまえば、放っておくことなどできなかった。

 

『……まあ、そういうこともあるよな』

『先輩も、ありました?』

『あったあった、むしろ俺の方が酷かった』

 

 生の性欲をぶつけられるってのは、なかなか精神にくる。男娼あるあるだよなーと笑ってやれば、へらりといつもの調子を取り戻して作り笑いをしていた。

 

 あの時はなぁ、ちょっとは可愛く見えたんだがなぁ。

 

「ちょ、先輩聞いてますー?」

「あ、あぁ。悪い」

「もー。暇なんだったら俺と外行きません?買いたいものあるんすよー」

 

 弱っている後輩を見捨てられなかった。その結果、懐かれた。ただまあ苦手なタイプであることは変わらず、こうして誘われてもなんだかんだ断っているのだが……

 

「えー行きましょうよー!滅多に外出ないじゃないっすか!」

 

 しつこい!鬱陶しい!やっぱ無理だこいつ!

 俺はインドア派なの、外に出ても体力が削れるだけなの、お前とは違うんだっつーの!

 

 転生してもコミュ障は治らず、むしろ悪化している気がする俺に対してフラットは激物すぎる。客に比べたら全然マシなんだけど、それにしたって休日は休ませて欲しい。

 

 するとそこに、 

 

「あー、フラット。クローヴィスは疲れてるんじゃないかな?」

 

 甘いマスクに柔らかい茶髪、女受け抜群の容姿をした男が穏やかに宥めてくれた。

 

 セルマ・ジグラド。

 この店の売り上げナンバーワンの男娼である。

 

「フラットも緊張してるのは分かるけど、クローヴィスを休ませてあげなよ。ほら昨夜は遅くまでアピア様がいらっしゃってたでしょ」

「あ……!そっすね、すみません先輩」

 

 眉を下げ、困ったような顔をしたセルマを見ていると意味もなく罪悪感が襲ってくる。何だか助けたくなってしまう……俺、男でも良いかも……はっ、正気に戻れ俺!

 

 これこそがナンバーワンの実力。自分の容姿と雰囲気を最大限に活かし、他人を自在に操る恐ろしい男娼……でもめっちゃ助かりました、ありがとうございます。

 

 確か、俺が今売り上げ三位なんだよな。でも一位と二位との間には倍以上の差がある。リネットなんかはめちゃくちゃ金を落とすのに、それでも敵わないとはどれだけ稼いでるんだろう。絶対に声には出さないが、追いつける気がしなかった。

 

「そんなことないよ?クローヴィスもそのうち稼げるようになるさ」

 

 なぁんでナチュラルに心読んでくるんだろうこの人……セルマの前では『監視用魔法』が必要ないともっぱらの評判である。

 

 くすくすと笑う姿は同じ男とは思えない。うーん女に人気な理由も分かる気がするぜ。

 

「セルマさんは今日も仕事なんですか?」

「うん。そろそろ行かないとね」

「そうっすよ!遅れるとまたババアに怒られますよ!」

 

 俺とフラットがそう言った時、

 

「誰がババアだって?」

 

 うわ、出たなババア!

 でっぷりと太った腹。貫禄の白髪。性格の悪そうな眉間に寄った皺。ここの娼館のオーナーであるババアがそこにいた。若い頃はブイブイ言わせていたらしいが、もう見る影もない。時間ってのは残酷だね。

 

「セルマは良いんだよ、ちゃんと稼いでるからね。ただしフラットとクローヴィス、アンタらは仕事しな」

「はいっす……」

「俺今日休みなんですが」

「ふん、それならさっさと出ておいき。邪魔だよ」

 

 しっしっと手で追い払われる。いちいち仕草がムカつくんだよなこのババア……

 

 

 ただ、俺はこのババアに逆らえない。日々の食事を握られていることもある、雇われていることもある。

 

 そして、それに加えて。

 

 俺の前世も含めた初体験はリネットだが、初めて女性器を舐めたのはこのババア相手だったのだ。性技を教えるとの名目であんなことやこんなことをされたのだ。憐れんで欲しい、盛大に泣いてくれて構わない。俺はその日丸一日使い物にならなかった。ショックすぎて。

 

 その時を思い出して思わずババアを睨む。

 

「なに甘いこと言ってんだい。アンタみたいな顔だけのやつはね、客は付きやすいけど直ぐに飽きられるんだよ。ここで生きていくにはちゃんとテクを身につけておかないと」

 

 んなこと言って若い男に舐められたいだけだろクソババア、知ってんだぞ。

 

「まあそれもあるさね。でもアンタは商品だから拒否権はないよ」

 

 あっさりと開き直りやがった……!

 

 ……にしても商品ね、知ってるっつーの。だからこうして文句も言わずに大人しく従ってるんだから。

 

「態度があからさまなんだよねぇ……まあそこが良いって言う変な客もいるがね。従いたくなかったらさっさと自分を買うんだね、まだまだ程遠いけど」 

 

 まじで、ほんと、ババア、うざい。余計な一言を付け加えなきゃ生きてらんねぇのかクソが。

 

「え、ちょ、先輩……オーナー……」

 

 険悪な雰囲気になる俺とババアにフラットは戸惑っている。ごめんな、でも全てはこのクソババアが悪いと思う。

 

「はいはい、喧嘩はやめてくださいねオーナー。クローヴィスも乗らないの、オーナーは元々こういう人でしょ」

「そうですけど……」

「アンタも大概失礼だね……」

 

 セルマの一言に毒気を抜かれ、思わずババアと目を見合わせてしまった。こっちを見るんじゃねぇ。

 

「もう一周回って仲良いんじゃないっすかね……」

 

 本気で言ってるのか?やっぱ俺フラットとは気が合わないわ……

 

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 おれ、フラット・ベルガーの先輩──クローヴィス先輩は凄い人っす。

 

 この娼館における売れっ子。男娼になってからわずか二年にもかかわらず、着々と店での売上を伸ばし三番目の地位に着いた人。

 

 でもさらに凄いのは常連客っすね。

 文官でも出世頭であるリネット様。圧倒的センスとコネクションで貴族の間で流行を創り上げているエリザ様。更に長年の間国を守護する英雄、筆頭魔法使いのアピア様。名だたる常連客はみな先輩に夢中らしい。どんなインチキ魔法使ったんだって思ってたんすけど……

 

 分かっちゃうんすよねー。

 クローヴィス先輩は顔立ちもさることながらどこか人を惹きつける魅力を放っていて。本人は無口っすけど、それ以上に目が語っているというか。なんつーか、反骨精神の塊?

 男娼ってのは割と良い仕事っす。酷い貴族の愛人になるならこっちを選んだ方が良いくらい。更にこの娼館は男娼の意見もよく聞いてくれるし、飯抜きにされることもほとんどない優良娼館……まあ先輩はよくされてるっすけど。

 

 そんな場所にいて、先輩みたいに反抗し続けるのは珍しい……というか殆どいない。そこが良いんすかね、たぶん。

 

 セルマさんのような人を惑わす色香とは違う、ある意味等身大の魅力。

 

 そういうもんが女を惹きつけてるんでしょうね。おれだって最初は無愛想な先輩なんて越えるべき壁くらいにしか思ってなかった。なのにあんな風に励まされちゃ、絆されるってもんでしょ。

 

 

「先輩、いつまでここにいるっすかね……」

 

 先輩を身請けしたい客は多い。先輩が頷けばすぐにでも男娼をやめられる。でも、いくら積まれても身請けだけはされないんだから不思議っす。あんな美人達の愛人になれるなら、さっさと頷けば良いのに。

 

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()があるみたいに身請けを断り続ける先輩。まあ、ずっとここにいてくれていいっすけどね。ほら、厄介な客は先輩につくから。

 

 あ、でもアレか。先輩が誰かに身請けされるってなったら他の常連客が揉めそう。女ってのは嫉妬深いっすからねー、この娼館が焼け野原にならないことだけを祈るっす。……これ、結構真面目に言ってるっすよ。

 




コメディ……コメディって、何だろう……


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