貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった 作:Dina
女騎士と聞いて何を思い浮かべる?
くっ殺?そいつは末期だ、俺と同類だな。前世のネットにいる半数以上のオタクは当てはまる気がするが。強い女が「くっ……!殺せ!」って言うのはある種の鉄板というか美学だと思う。
一般人ならあれかな、なんか凛々しいイメージとかなんかな。それとも案外フルプレートの騎士を思い浮かべたりするんだろうか。
さて、オタクにとっては様式美とも言える女騎士のくっ殺だが、この世界では起こり得ない。いや実際に起こったことはあるのかもしれないが、全くもって想像がつかない。
何故か?
それはこの世界の騎士ってのがバケモンばかりだからだ。女の方が力が強いこの世界において、戦うのは女の仕事。その中でも、魔物なんかも出るからか、前世とは比べ物にならないくらいバケモン揃いなのが騎士団だ。
身体強化魔法によって林檎に似た果実を片手で潰せるのが当たり前の女たち。そんな中で戦闘職についているのだからその強さも押して図るべし、だ。
そういえば前に市場で林檎に似た果実を潰してるのを見て思わず「ゴリラかな?」って言っちゃったんだよね。この世界にゴリラがいなくて助かったぜ。
ともかく。
そんなバケモンばかりの騎士団に所属する女騎士が「くっ……!殺せ!」なんて可愛らしく言うわけがないんだよなぁ。むしろ最後には狂化モードに入って自爆したりするんじゃなかろうか。
冗談じゃないぞ?これ、あながち間違いじゃないんだ。騎士団の都市伝説の一つに「騎士は敵に捕まった時のために自爆魔法を入団式の際かけられる」なんてのがあるからな。物騒すぎんだろ。
騎士団。
それは人々を魔物や敵国から守り抜く守護者。あらゆる武芸、あらゆる攻撃魔法を使いこなす戦闘のスペシャリスト。人々から大いに頼られると共に、ひどく畏怖されている存在である。
いつものように店の前で金払いの良さそうな客を狙っていた時。一人の騎士が俺の方を見て言った。
「お前がクローヴィス・モアか?」
その日、俺は思い出した。
「私の名はシルク・トワイライト。少し聞きたいことがあるんだが……時間はあるか?」
俺の好みは可愛らしい顔立ちをしているのに凛としている気が強そうな猫目美人であることを──
はあぁあぁぁっ!やっべえ、めちゃくちゃ好みなんだけど!やっべえ!どタイプ!!!身体中のあらゆる臓器がバクバクしてる気がする!
鎧で身体は見えないが身長は高くスラリとしている。さらさらした金髪ストレートに、どこか愛嬌のある顔立ちと、凛と立つ雰囲気は洗練されていて。何と言っても少し吊り上がった目じりとまん丸の瞳、お手本のような猫目だ。ちょっと所在なさげに視線を彷徨わせてるのもパーフェクト。
くっ、男娼をやってきて俺より綺麗な女なんて見たことなかったというのに……好みとは恐ろしい。ああくそ本当に顔が好みだな……シルクさん、連絡先交換しませんか?
「……?連絡先?」
「冗談です。でもせっかくですから俺を指名しません?後悔はさせませんよ?」
「ん、あぁ……確かに、ここは娼館か。良いだろう。とりあえず指名してやる」
俺が自分から誘いかけてるのを見てフラットが凄い顔をしているが目に入らない。
初めて男娼やってて良かったと思う。初めて転生して良かったと思う。前世だったら絶対に知り合えないし、男娼だからこそ男女共に気持ち良くなれる箇所を知っている。
俺こんな好みの女の子とセックスするんだ……!
ごめん神様、今まで何百回と呪ってたけど初めて尊敬するわ。ありがとう世界!ありがとう男娼!今ならババアにだってキスできる気がするぜ!
部屋に入り、扉の鍵もしっかり閉めた。
さあ俺の磨き上げた男娼としてのスキルでメロメロになるが良い……くっくっく……
「ふう……ここなら鎧を脱いでも良いな?」
「ええ構いませんよ」
厚い鎧がガシャン!と音をたてて外された。すると何故か魔法の気配がして、
「っ?!?!」
「よしっと……うん?どうした?」
しゅうしゅうと煙がシルクの周りに立ち上ったかと思えば、そこにいたのは別人だった。
なんせ、顔が全く違う。いや面影はあるが全然違う。
先ほどとは打って変わって異なる印象を抱かせる顔は“可愛らしい”としか表現できないようなもので、凛とした雰囲気は消えてどこか緩い……簡単に言えば猫目ではなくなっていた。
「えっ……と」
「ああ、私の顔か?騎士としてこの顔だと舐められるからな、鎧に付与した魔法で少し変えているんだ」
確かに、その“可愛らしい”に全振りした顔でゴツい鎧を着るのには違和感があるし、舐められそうなのも分かる。
だが、そうなるともしかして、俺の見たあの超絶好みの顔は魔法で作られた虚像だと……?
「う、うん?確かにあの顔は私の顔を元に舐められない程度に整形したものだが……」
では、本当は……存在しない?
「あぁ。少なくとも私の家系はあんな顔ではないな」
──神は、いないらしい。
ふ、分かってたよ。俺に都合の良い出来事なんて起こるはずもないんだ。あんなさあ好みドンピシャの女なんて存在するはずもないんだ。……良いんだ、良いんだよ……俺はあの女を理想のままで留めておけるんだ……
「な、なんかさっきより元気が無くなってないか?どうした?」
いえいえ何でもありませんとも。ただこの世の残酷さと己の愚かさを再確認しただけです。
「それより、何か聞きたいことがあったのでは?」
「え、あ、うん。そうなんだ」
シルクはゴホンと咳払いをして、改まって話し始めた。何やら空気が重々しい。
「お前の常連客の中に……リネット・オドーズはいるか?」
「いますね」
俺の初客、嗜虐趣味の厄介な女だ。
え?守秘義務?何のことだ?別に口止めされてる訳じゃないし俺のとこに通ってることくらい言ったって良いだろ。
「そうか……やはり……」
「お知り合いで?」
知り合いだったらリネットのこと止めてくんねーかな。ほらやっぱ国の若手文官が男娼に貢いでるとか外聞悪いじゃん?な?
シルクは知り合い、という言葉にピクリと反応した。可愛らしい顔が苛立ちで歪み始める。
「あぁ……そうだ。あの女と私は知り合いだ。学生時代の同期でな、いつも競い合っていたものさ」
深く頷かれた。学生時代の友人というにはなかなか重苦しい感情を抱いていそうである。それにしても文官と騎士が同期か、なんかそこは仲が悪いイメージがあったから意外だな。
するとシルクはかろうじて浮かべていた笑みを消して、声を荒立てた。
「あの女……ッ!いつも私を馬鹿にして!あの女が初仕事でやったことを知っているか?!騎士団の予算の削減だぞ?!」
わあ、えげつない。でもリネットはその辺を私情でやるタイプではないと思うんだが……
「ああそうだ、前から騎士団と文官共は対立していた。均衡状態だったんだ。だがあの女が来てからこちらが負けてばかり……!こっちは国防を背負っているんだぞ、そんな低予算でやってられるか!卒業試験で私が三点負けたからってずーっと、ずーっと煽りやがって……!」
わあ、可哀想。
でもいつも俺ばかりが被害を受けていたからかリネットの被害者が他にもいると安心するな。シルクもリネットに気に入られてるんだろう。可哀想に。
フーッフーッと唸り声をあげるシルク。しばらくリネットへの罵詈雑言を発していたが、段々と落ち着いてきたらしい。
「……すまない、取り乱した。それで、お前に頼みがあるんだが」
「……何でしょう」
「リネットの弱点を教えて欲しい」
無茶ぶりきたなこれ。無理だよ、俺ただの男娼だよ、あのドS女の弱点なんて分からないよ。
「無理を言っているのは分かっている。だが、それでも、私は奴に一矢報いたい……!」
悲痛な声で懇願される。可哀想だし、俺もリネットには色々ヤられてるからな、協力してやりたいんだが。そもそも知らないんだ、力不足で申し訳ない。
「どうにかして奴の弱みが欲しいんだ……せめて私がお化けが怖いことを揶揄ってくるのを黙らせるくらいの……」
「む、難しいですね……」
頭を抱えてしまう。あの女、隙が無いんだよなぁ……
すると、嫌な予感がした。
「………………はっ!そうだここは娼館、そしてあの女はお前の客!お前、いつもどんなことをされてる?!」
は?!何?!
「あの女が性行為の時にしていることを知れば、奴が羞恥に歪む姿を見れるかもしれん……!それを再現して貰えれば、奴の弱みを握れる!」
なんでそうなる?!シルクにされたことをそっくりそのまま再現しろと?!
「あぁそうだ。初めてあの女を抱いた時、お前はなんて言われた?」
俺に、あの日のリネットの言葉を言わせようと?
思い出す屈辱の記憶。口にするのも恥ずかしい淫語の数々。ゆっくりと焦らされるような手の感触。それを……完全に再現しろ、と?
「あの女はどこが弱い?どんな風にお前を責めた?」
首筋をそっと撫でられる。ちょっと強化すればこの手が岩をも砕くことを知っている。瞳の中にあるのは性欲ではなく、煮えたぎるような支配欲とリネットへの優越感。
流石騎士、相手へ自白させるプレッシャーを出すのが上手い。まともだと思っていたが気のせいだったらしい。
命を握られている感覚。心臓が嫌な音を立てる。
「お前は、あの女に何を言われた?」
あの、時は。
「……おねだり、しろって」
俺の童貞を喰ったリネット。初々しいのが好きらしく、ババアから教わったこととは全く違うことをやらされた。恥ずかしがって初々しい、そんな言い方を教わった。
「どんな?」
『ほら、言って』
『……めて、ください……』
『聞こえないわ、もっとはっきり』
『……お、れの。えっちなとこ、なめてください』
裸に剥かれ、散々
「なるほどな……では、最後まで教えて貰おうか?」
可愛らしい顔を歪めて、シルクは俺の言葉の続きを待った。
♢ ♢ ♢
「うむ!素晴らしい、これで奴の弱みを握れた!」
俺を散々苦しめておいて、シルクはどこか清々しく笑った。クソ、同じ被害者だと思っていたのに。どうして俺ばっかりこんな目に。
「あの女は随分とお前に入れ込んでいるようだな」
「そっ、すね……」
もう元気ないよ。完全羞恥プレイだったよ。精神的にひどく疲れた。シルクの言葉にも生返事しかできない。
だから。
「もしこれで……私がお前を身請けすれば。あの女はひどく悔しがるだろうなぁ?」
最後の言葉は、よく聞こえなかった。
シルク・トワイライト。
まともかと思っていたのにまともではない、リネットに執着する俺の厄介な客
コメディの看板を燃やしてしまえば良いのでは……?!
短編→連載 コメディ→ノンジャンルに変更します。
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