貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった 作:Dina
出禁という画期的な制度を知った後。もちろん俺はオーナーのクソババアのところに殴り込みに行っていた。流石にカヴィラの相手をした後にそれをする体力はなかったので翌日だ。
勝手に契約されていた玩具の件も含め、それはそれは怒り心頭でババアに詰め寄る俺は過去一声を荒げていたと思う。
そんな俺に対して。
「なんだ、ようやく思い出したのかい?男娼になる前に説明したはずだが。玩具の方もあれだけ毎回試作品を持ってこられて記録取られておいて気づいてなかったのかい。流石のアタシも心配になるね」
……そんな風に言い放った。馬鹿にしきった言葉よりも何よりも、ババアに心配されたこと。それが俺の心を抉った。
俺自身、そういった制度というか契約には疎い自覚はある。男娼に成り立ての頃は特に将来を悲観していて、周りの言っていることなんて耳に入っていなかったしな。
でも、だからといってそれはねぇよ。アンタにオーナーとしての責任ってもんはないのか?やっぱ所詮クソババアはクソババアか……
「それじゃ、誰を出禁にするさね」
面倒くさそうにババアが言った言葉に脳がフリーズする。出禁……誰を?
「アタシはね、何も知らない奴は大いに利用するけど契約は守るんだよ。出禁ってのは男娼の権利さ、好きにするといい」
はあ、と心底馬鹿にしたように首を振るババア。
勢い余ってババアの部屋に来たが……そうか。このババアにも約束を守るという最低限の人の心は実装されていたんだな……なんだか、感動ものの映画を一本見た気分だ。いかんせん仕草は癪に触るけど。
「うるさいね。決めてないんだったら出ていきな、邪魔だよ!」
用心棒の女にガシッと捕まれ、部屋の外に放り出された。チッ、もっと丁寧に扱え商品だぞ。
それにしても……出禁。
ああ、なんて素晴らしい響きなんだ。これからの俺は厄介な女に悩まされることなく、ごく普通の男娼ライフを送って、さっさと借金を返し自分を買い取ることが出来る。万能感とはきっとこのこと。
でも、やっぱり自分の収入を左右するからな……しっかり検討して決めないと。
ある程度我慢できるならばそれはそれで良い。厄介な女は金払いが良いからな、出禁にしなくて済むならそれが一番。
稼いだ手段を思い出したくなくて普段はあんまり自分の口座を見ないんだが、今日ばかりはしっかり確認する必要がある。……ふむふむ、なるほど……意外と稼いでるな俺。凄え。
よし、では検討を始めよう。
まず、リネットは?
嗜虐趣味、人の嫌がる顔が好きな真正。泣かされた夜は数知れず、一番身請けに積極的なのもリネットだ。言葉責め、縄などのオプションを多く使うアブノーマルな性癖を持つ女。かなり厄介だ。
しかしそれ以外となると、途端に良客となる。オプション料金は惜しまないし、終わった後には回復魔法によるアフターケアもばっちり。リネットの後にすぐ別の客を取れるのもありがたいんだよな。逆に前に客取ってても気にしないし。ここで拗ねられると面倒なんだ……。緊縛プレイはするがキツい束縛はしない、リネットはそういう割り切ったところがある。あと金払いが一番良い。そこがなぁ……迷うところなんだよなぁ……うーん、出禁にまでしなくても……
じゃあ、エリザはどうか?
嫌がる男に女装をさせるという超特殊な性癖。やっぱこれ訳わかんねぇ、どうなったらこんな趣味になるんだ。この前のベビードールとか酷かったし。でも男娼なら着たことあるのが普通ってマジかよ。正気じゃないのはこの世界の方だったか。
一方、金払いの方はというと。別に特段良い訳じゃない、ごく普通に料金を支払っているタイプ。が、一晩服を着替えるだけの時もきっちり払ってくのはありがたいんだよな。ひたすら着せ替え人形になるのは苦痛だが、まあ、許容範囲というか。身請けされて常にされるならともかく、仕事で忙しいらしいエリザが連続して訪れることはほぼ無いしな……この女は、別に出禁にしなくても良いんじゃ?
次、アピアは?
取り繕ってはいるがエロいことに興味深々の素人処女。今までロクに経験がないからこその扱いやすさと面倒さ。百十一歳という年齢さえ考えなければ性行為自体も、まあ普通。ただ『監視用魔法』によるストーカー行為が露呈したんだよなぁ。ナチュラルサイコパス疑惑がある。
本人は偶然だと言い張ってはいるが、どうなんだろうな。責任ある立場だし致命的な行動はとらないような気も……でも性欲に目が眩んだらやっちまいそうな気もする。百十一歳のロリババアの思考を読むのは俺にはまだ八十年くらい早いぜ。あと、やめろと言ったらやめてくれそうな気がする。基本良い人なんだ。だからさ、出禁にしなくても良いよな。……筆頭魔法使いとか、怖いし。
あとは常連ではないが常連になりそうな気がするシルクはどうか?
来たのはまだ一回。でも精神をごりごり削られる夜だった。初夜再現セックスは高度すぎるって。まだ性格はよく分からんが、真面目そうでリネットへの感情を拗らせている……これ、シルクは悪くなくない?悪いのはどう考えてもリネットじゃないか?初夜に言葉責めとかしてきやがったのはリネットだし……?
そう考えてみると、別にシルクに対して何かをする必要が見当たらない。性癖自体は普通そうだ、リネットに関するとバグるだけで。これ以上拗らせることもないだろうし、うん、出禁にはしなくて良いな!
最後に、カヴィラはどうだろう?
玩具の多用、昨日は淫紋まで開発しやがった。さらに許されないのは勝手に俺が協力した大人の玩具を売り捌いていたことだ。自分のブツが勝手に商品化されていること以上の恐怖があるだろうか?いやない。
一方で金払いの方はというと…………なるほど。戸籍があと少しで買えるというだけあってかなり稼いでいるらしい。普通のオプションを付けるより遥かに高い追加料金を払っている。実際のところ、身体は傷つかないし玩具は気持ち良いのも多いんだよな。別に先に言ってくれさえすれば良いんじゃ……いやでもやっぱ玩具にされてるのは嫌だわ!薄い本みたいになるのはもう嫌!出禁だ出禁!
出禁という最強カードがあると安心感が段違いだぜ。これからは平穏な日々になる……が。あれ、結局出禁にしたのはカヴィラだけだな。おかしい、もっと減ると思ったのに?
違和感に首を捻っていると、
「何を悩んでるの?僕でよければ力になろうか?」
そう声をかけてきたのは売り上げ一位のセルマだった。相変わらず笑顔が爽やかでモテそうな奴である。かくかくしかじか事情を説明すると、
「……なるほど。どのお客さんを出禁にするのか悩んでるのか」
「そうなんです。ちなみにセルマさんはどうしてるんです?」
この人も絶対厄介な客ついてそうなんだよな。この前だってガチ恋しちゃった客の刀傷沙汰があったし。案外参考になるかもしれない。
「僕?僕は誰も出禁にしていないけど。わざわざ金のなる木を切る必要ある?」
怖っ!
“覚悟”がガン決まっている声でセルマは不思議そうに言った。客を完全に金としか思っていないようである。
「でも、男娼なんてみんなこんなものだよ。クローヴィスだって既にそうだとは思わない?」
俺は流石にそこまでは割り切れ……いや、実はそうなのか?先ほどまでの思考を思い出す。金と実害を比べて出禁にするか決めていた、な。
「ほらね?僕はクローヴィスの事情を知らないけど、ここにいる男娼は大体訳アリだし。金が必要なら何でもするべきだよ」
いやぁ……流石の俺でもそこまで人間を捨てたくないというか……
でも、そうだな。ここまでキマッてるからこそセルマは売り上げ一位なのかもしれない。尊敬は出来ないが、見習うところは多い……本当に、同じにはなりたくねぇが。
相談に乗ってくれたセルマに頭を下げ、ババアのところに向かう。検討した結果を伝えると、何やら少し驚いていた。
「おや、本当に出禁にするとはね」
「いや流石にカヴィラはしますよ」
「甘っちょろいアンタのことだから『別に出禁までしなくても……』で全員くだぐだ先延ばしにすると思ったさね。まあ、いいよ。向こうさんにも伝えておこう」
すっげえ馬鹿にされている気がするが、その通りなので何も言えない。ぐぅ。
「それにしてもカヴィラね……あの娘、戸籍を買おうとしてるんだって?」
「らしいっすね」
「同情して許すんじゃないかって心配してたさね。アンタも
…………確かに、戸籍を買うために手段を選んでいられないのは分かっている。
「アタシが拾って戸籍を買ってやったんだ。さっさと稼いで恩を返すんだね」
分かってるっつーの。でも恩着せがましいってよく言われないか?流石にウザさが天元突破してるぞ。
「うるっさいね!口は動いてないのに何でそんな饒舌なんだい!」
しっしっ、と追い払われた。変わらずクソババアはクソババアである。