貞操逆転世界なんかに転生しなければ良かった 作:Dina
後日。
出禁になったカヴィラから話がしたいと面会の申し出があった。絶対に何もしない、と約束させてしぶしぶ承諾した。まあいきなりだったのは確かだし、説明をするくらいならいいか、と思って。
それを後悔することになるとは思っていなかったけどさ。
娼館の応接室で、机を挟み向かい合って座る。
「出禁、何故?」
そして来て一番にこれである。
無表情なのにひどく焦っていることが伝わってきた。いやでもさあ、何故もクソもある??理由は明確じゃねえ?
「……?貴方も楽しんでいた」
あれが楽しんでいたように見えるならお前の目は節穴だぞ。俺はな、確かに男娼だしプレイの範疇なら目を瞑るけどさ……商品化はないわー。
そう伝えた。しかしカヴィラは心底分からない、という風に困惑している。
「別に売り上げ自体は変わらない。私は相場より多く払っている」
金さえ払えばいいってもんじゃねえだろ!俺に無許可で商品化していたのが悪いって言ってんの!
「では許可が欲しい。それで良い?」
お?喧嘩売ってんのかコイツ。今更許可とかそういう問題じゃないんだが……もしかして、伝わっていないのか?感情的に抵抗があるって話なんだが。ちょっと考えれば分かるだろ、自分の性器の玩具が売られてるの普通に嫌だろ。
しばらく困惑していたカヴィラは、ふと何かを思い立ったように頷いた。
「ん。大丈夫。次の商品はもっと気持ちいい。クローヴィスも気にいるはず。試せば分かる」
「……」
「ん、嫌よ嫌よも好きのうち。知ってる。人間の感情は勉強した」
「…………」
「どうしたの?」
は?
この女、本当に分かっていないのか?
ゾッと背筋に悪寒が走る。
いや人間ではないことは知っている。取り出された心臓も見た。でも、それでも、この女には感情があると思っていたんだ。抜けてるけど、人形かもしれないけど、それでも感情はあるのだと。
なのに、「嫌も嫌よも好きのうち」?馬鹿にしてるのかそれとも大真面目なのか。いや、きっと真剣にそう思っているんだろう。
リネットやエリザは、俺が嫌だと思っていることを知った上で要求してくる性格が悪い奴らだが、カヴィラは違う。分かっていない、理解していない。俺が心底嫌だと言っていても、後から変えさせれば良いと思っている。
こてん、と傾げられた首。純粋に疑問を抱く瞳。綺麗な顔は本当に生きているとは、思えない。
「…………悪いですけど。俺、もうアンタに協力は出来ません」
「ん……困る」
「出禁は解除しませんよ。出ていってください」
もうこれ以上話し合っても無駄だ。そう告げる。
しばらく言い募っていたカヴィラだが、こちらが応じないのを見てがっくりと肩を落とす。
「そう……」
そう言ったのでようやく諦めたか、と少し息を吐いた瞬間。今までにないくらい、嫌な予感がした。
カヴィラが机に乗り出し、そっと片手を伸ばしてきた。ひどくゆっくりと時間が過ぎている気がした。
「ん、とても残念」
もう一方の手がついた机がみしっと歪む。まるで重い石が乗って耐えられなくなったように、ぴしりぴしりとひび割れていく。危険を察して逃げようとするも、身体は重しがつけられたようにピクリとも動かない。
手が、頰に触れそうに
「駄目ですよ」
幼さと老獪さを感じさせる声が聞こえて、白い髪がはらりと舞う。
魔法で作られた電撃がその間を走った。
あれ、今、何が……?俺、今カヴィラに何をされそうになっていた?
「『監視用魔法』が犯罪の気配を察知しました。現行犯で逮捕ですよ、逮捕」
そこにいたのは真っ白な少女。普段娼館に来る時とは違う、魔法使いの正装である白いローブを纏って現れたのは、アピアだった。転移魔法で来たのだろう、いつの間にかそこにいた。
「なんでここに魔法使いがっ……」
「だから『監視用魔法』です。貴方の殺意を感知しましたので」
咄嗟に逃げようとしたカヴィラを魔法が捕らえた。詠唱もなく、予備動作もなく。全力で抵抗しているものの、筆頭魔法使いには敵わない。転移魔法を使った直後に手足の拘束と魔法封じを施しても、アピアは全く呼吸を乱さない。力の差は歴然だった。
くるっとアピアが振り返る。冷たかったものがゆるゆると緩んだ。へにょん、と音が出そうな表情になる。
「ふう、無事で良かったぁ……クローヴィス、怪我はありませんか?」
「は、い……大丈夫です」
まだ呆然としている俺に、アピアは優しく事情を説明する。ちょっと困ったように眉が下がっていた。
「最近、闇市で違法な性的玩具の販売が行われていまして。それで監視を強化していたんです」
「カヴィラ、が?」
「はい、違法に作られた魔法人形ですね。はあ、こういうことがあるから魔法で生命を作るのは禁止されてるのに……」
そう言って呆れるアピア。へにょんとした表情はどこへやら、これが普段の姿なんだろう。テキパキとしていて無駄がない。これが筆頭魔法使い……伊達に八十年のキャリアを持っているわけじゃない。どこかに連絡を取るとカヴィラに向かって険しい顔をする。
「全く厄介な置き土産を……」
「…………」
「あ、それでは失礼します。……え、えっと、今度はプライベートで来ますねっ、クローヴィス」
「はは、ぜひ……」
あっという間にアピアはカヴィラを連れて消えていった。転移する寸前に、頬を赤く染めて謎の照れを残して。
えっと……それで。
何が起きたんだ?
「先輩っ!無事っすか?!」
扉が蹴破られ、現れたのはフラットだった。まだぼんやりと固まっている俺に怪我がないことを確認すると、ほっとしたように息をつく。
「出禁にした客と二人っきりになったって聞いてぇ……もう超ビビったっすよ、危ないっす!」
「そう、だな……」
うん、これめちゃくちゃ危なかったんじゃね??今更恐怖が込み上げてくるんだけど。え、俺殺されかけたんだよね?マジ?
カヴィラが違法に性玩具を売っていた──いや性玩具くらい合法でよくね?何でわざわざ違法で?とも思うが──ことも、『監視用魔法』めちゃくちゃ有能じゃんってことも、アピアのスペック高すぎるだろってことも、なんで出禁にしたからって殺されそうになってんだってことも、色々、色々あるが。
心底思う。生きてて良かったぁ……
ほっとして思わず涙が滲みそうになる。フラットの前だから耐えられたけど。苦手な奴の前で泣きたくないじゃん。
「あれ……先輩、客は?もう帰ったんすか?」
「帰ったというか……連行されたというか……」
今しがた起こったことを説明すると、フラットの顔がみるみる赤くなったり青くなったり、信号機みたいなことになっている。最終的には爆笑していた。その気持ち分かるわー。俺も当事者じゃなければ笑うしかないと思うもん。
「やべえっすね先輩。おれ、出禁のこと教えたの後悔してたんすけど、まさかここまでのことになるとは……」
「お前のせいじゃないぞ」
「そりゃそうっすけど……もし全員出禁にしてたら、何が起こるか……」
はあ?そんな危険人物カヴィラくらいだわ。あんなのがそうそういてたまるか。
何言ってんだこいつ、と呆れる俺を見て呆れるフラット。お前本当に後輩?生意気じゃね?
「先輩がそう思いたいならそれでいいっす。平和なのが一番っすから」
それはそう。もう二度と殺されかけたくはない。深く、深く頷く。
でも、こんなことはもう起こらないんだよなー。なんせ俺には出禁という最強カードがあるからな!
「……先輩って……」
「ん?何?」
「いや、平和な頭してるっすよねー。ある意味尊敬するっす」
「何だそれ、褒めてんのか?」
「褒めてます褒めてます、先輩の立場になりたくはないっすけど」
何故か生暖かい目で見られた。なんで??
その後、事件を知ったリネットに詰められたり、更にそのこと知ったシルクに詰められたり、出禁を知って顔を青くするエリザやらアピアがいたりしたのだが──それはまた、別の話。
これにて一旦完結とさせていただきます。
こんなにも多くの方に読んでもらえるとは思っていなかったので嬉しかったです。「貞操逆転もので完全女性上位が見たい」「理不尽にめちゃくちゃにされる主人公がいい」「ハーレム(物騒)(恋愛感情なし)が読みたい」といった作者の性癖に忠実な本作ですが、少しでもだれかの癖に刺さったら幸いです。
主人公に戸籍がない理由、他の厄介な客、リネットとシルクの関係などなど書き足りない部分もあるのですが、その辺は小話として書けたらなと思っています。
お読みくださりありがとうございました。
※8/15 活動報告に追記しました