麗し月の影法師   作:オードコロン

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※痴漢描写があります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。


第2話 出会ったのは

 

 

 

 

 

 

彼に一目惚れしてから早3ヶ月。

 

 

 

あれ以来彼を見かけることはなかった。

 

 

まぁ、この3ヶ月色々な事があったしなぁ…

 

 

あの後直ぐに、年度の締めのせいで、厳しかったノルマ達成が絶望的なものになったり、繁忙期で皆ピリピリしてて、ちょっとしたミスで怒られることが増えたり。

 

 

そのストレスを発散するかの様にクソ上司のセクハラ発言が酷くなったり。

 

 

かと思えば、可哀想な新入社員が目を輝かせて入社して来たり。

 

 

彼らの教育係を先輩から押し付けられたり。その中の3割が、入社から1ヶ月も経たずに辞めていったりと

 

 

色々あったねぇ…ここ最近は徹夜の友をドリンクから錠剤に切り替えたしなぁ… 

 

 

今日でストック切れちゃったから買い足さないと…てか、最近効かなくなってきたんだよな…なんかいい方法ないかな…

 

 

これに加えて、業務量は増えてるのに給与は一向に増えないとかいうふざけた事が起きている。

 

 

私はこの会社にもう2年も勤めているんだぞ…少しくらい給与増やしてくれよ。

 

 

しかも、酷いことに残業代すらまともに出てないとは…もうこれ労基に訴えてもいいかな。

 

 

なんて考えながら今日も今日とて、ふらつく足をなんとか動かしながら帰路に着いていた。

 

 

3ヶ月も経てば季節が一つ移り変わるのは当たり前で、あの寒さから一転、春らしい暖かな日和になってきた。

 

 

だが、まだまだ夜は冷えるもので、もうしばらくはカイロに頑張ってもらわないといけないくらいだ。

 

 

桜が咲くのはもう少し先になるのかな…

 

 

それまで元気で居られるだろうか…

 

 

あの横断歩道に差し掛かると、少し立ち止まって、いつもの様に歓楽街の方へと目を向ける。

 

 

もはや、習慣になりつつあった。

 

 

「やっぱり居ないよねぇ…あの1回切りだったのかな…」

 

 

と呟きながら、左右確認をしっかりして横断歩道を渡る。

 

 

メンタルが限界突破しそうな時に見る美人ほど、心が洗われるものはない、彼、本当に美人だったなぁ………何処にいらっしゃるんだろうか…

 

 

この地獄の3ヶ月、彼の幻影に縋って生きてきたと言っても過言ではないだろう。

 

 

時間とにらめっこしつつ、駅へ向かう足取りを早める、今日も残業したせいで終電なのだ。逃すわけにはいかない。

 

 

急ぎ足で改札をくぐると、目の前にはもう電車が到着していた。

 

 

「あっ…やばい、急がなきゃ…」

 

 

改札からすぐ前の号車に乗り込んだと、ほぼ同時にドアが閉まった。危なかった…

 

 

薄暗い号車内には私の他には誰も居ない。

 

 

終電だから当たり前ではあるが、人が居ないとこうも不安になるものなのか。

 

 

適当な座席に座ってすぐ、電車がゆっくりと動き始めた。

 

 

背もたれに深く寄りかかると、強い眠気が、私を呑み込もうとしてくる。

 

 

人が居ないから少しくらい寝てもいいだろうか………

 

 

なんて思っていたのも束の間、後ろの号車からガタイのいいおじさんがこっちの号車に移動してきた。

 

 

寝れないじゃん…

 

 

眠気に負けないようにスマホをいじり始める、暗いニュースばっかりだな…

 

 

汚職にタレントの不祥事、人身事故に強盗、物価の高騰に増税etc.

 

 

興味の無いニュースを飛ばしていた時、とある記事が目に止まった。

 

 

「うっわ…これ近所じゃん…こわ…」

 

 

思わず声が出てしまった。

 

 

なんせ、家の近所で通り魔殺人があったのだから、しかも今月で3件目……被害者は、揃いも揃って若い女性……………

 

 

もうこの記事読むの辞めよう。気分が悪くなってきた。

 

 

本当に最近治安悪いよな…気をつけなきゃ……

 

 

嫌な気分を誤魔化すためにスマホから少し目を離すことにした。

 

 

ここで、私はスマホを見ていたのを死ぬほど後悔した。

 

 

終電で空いてる席なんて山ほどあるのに、あのおじさんがわざわざ私の隣に座っている事に気がついてしまったからだ。

 

 

しかも、気色悪いことにハァハァと荒い息遣いまで聞こえてくる。頼む、死んでくれ。

 

 

最寄り駅まであと5駅……30分はこのままだ………もう本当にやだ。無理。

 

 

頭が軽くパニックになって、もうどうすればいいかわからなくなってきた。

 

 

とにかく別の車両に行こうと席から立ち上がる。

 

 

なるべく相手の顔を見ないようにして、車両変更ドアの前まで移動した。

 

 

相当パニックになっているのか、ドアを開ける手が震えている。

 

 

早くにげなきゃ

 

 

〚ねぇ…そこのお嬢ちゃん………何処に行くの…席なんて幾らでも空いてるじゃない………〛

 

 

もう、動くことができなかった。

 

 

 

どうしていいのかわからない。

 

 

 

 

恐る恐る、振り返ると、私の背後にあのおじさんがいた。

 

 

 

 

 

追い詰められてしまった。

 

 

 

 

逃げられない。

 

 

 

あまりの恐怖に声も出なくなり、ただ口をパクパクと動かす事しかできなかった。

 

 

 

にんまりと、気味の悪い笑みを浮かべた顔が私のすぐそばまで、迫りくる。

 

 

〚君……以外と可愛い顔してるねぇ………〛

 

 

ゆっくりと腕毛まみれの手を私に伸ばしてくる。

 

 

 

こないで、やめて

 

 

 

 

こえがだせない

 

 

 

だれか、だれかたすけて

 

 

 

『おい、お前、そこのレディに何しようとしてンだよ』

 

 

 

怒りを孕んだ声が響いたと同時に、バンッと目の前の手が振り払われた。

 

 

 

 

 

―――夜麗影Side―――

 

 

 

『今日は3人か……まぁどの娘も普通だったかな。』

 

 

終電に乗り込んで、今日遊んだ娘の事を振り返る。

 

 

とびきり楽しい娘が居たわけでもなく、ただただ快楽を貪っただけだ。

 

 

壁に寄りかかって、莫迦みたいな量の通知が溜まったスマホを覗く。

 

 

適当な返信を送りつつ、次遊ぶ娘を選んでいた時、ちょうど3ヶ月前に遊んだ娘からメンヘラメッセージが大量に送信されている事に気が付いた。

 

 

『チッ……たかだか1回抱いただけで彼女面してんじゃねぇよ………遊びだって気付けないのかよ。』

 

 

メンヘラ女からの怒涛のメッセージに嫌気が差して、スマホの電源を落とし、ぼんやりと車外の景色を眺めることにした。

 

 

まだ明かりの灯っているビル群がパッとしない夜景を生み出していた。

 

 

電車が出発して暫くたった頃、ガシャンとドアの開いた音がして、音がした方を横目で見る。

 

 

そこでは、そこそこガタイのいいおっさんが曇ったガラスドアを閉めて前方車両へ向かっているのが見えた。

 

 

ほとんど人が居ない終電で、わざわざ車両移動する意味なんてあるのか?

 

 

なんて疑問に思いつつ窓の外を眺める。

 

 

電車の揺れに身を預けて、夜景を見ながら、明日の予定を確認していた時だった。

 

 

 

なんだか凄く嫌な予感がした。

 

 

 

そういえばさっきのおっさんが移動した時、なんでドア曇ってたんだ?

 

 

最悪の想像が頭を駆け巡り、急いで前方の車両へ移動した。

 

 

そこには、あのおっさんに追い詰められて、青褪めているレディがいた。

 

 

考えるよりも早く、体が動いていた。

 

 

『おい、お前、そこのレディに何しようとしてンだよ』

 

 

手を出される一歩手前でなんとかおっさんの手を振りはらい、レディを背に変態野郎に向かって立ちはだかる。

 

 

〚はぁ?!お前こそ何してんだよ。俺は、そのお嬢ちゃんがここに座り込んでて大丈夫かどうか声をかけただけだぞ!?!?〛

 

 

変態は被害者ぶって、唾を飛ばしながら興奮気味に気色悪い言い訳を言い放った。

 

 

『ンな訳ねぇだろうが、見苦しい言い訳してんじゃねぇよ変態野郎が。』

 

 

レディに手を出そうとした挙げ句、俺は悪くない、勘違いしたお前が悪いだぁ?

 

 

マジで巫山戯んなよお前

 

 

〚だっ、誰が変態だこの若造!ふざけるのも大概にしろ!!!!〛

 

 

顔を真っ赤にしながら変態野郎がブチ切れている。

 

 

レディの前でデケェ声出すなよ莫迦が

 

 

『うっせぇな、こちとらお前が息でドア曇らせながらレディを見てたのを知ってんだよ。巫山戯てんのはそっちだろうが。』

 

 

 

〚なんだとこの野郎!!ぶっ飛ばしてやる!!〛

 

 

逆上した変態が俺に向かって突っ込んでくる。

 

 

それとほぼ同時に無人駅に電車が止まった。

 

 

大体停車時間は20秒ってとこか…いけるな

 

 

『ンな雑魚い体当たりなんて当たるかよ』

 

 

レディを庇う様にして変態野郎を突き飛ばし、ドアの方へと向かい挑発する。

 

 

『こんな若造に突き負けるなんておっさんも弱いねぇ〜 あ!もしかして…力だけじゃなくて、社会的にも弱者だった?可哀想〜。』

 

 

〚っつ、お前舐めた口きいてんじゃねえぞ!〛

 

 

変態が2度目の突撃をしてくる。

 

 

俺の思う壺だ、ちょろすぎて笑えてくる。

 

 

さっと身を翻し、変態の突進を避け一発蹴りを喰らわせる。

 

 

変態はドアから薄暗いホームへと飛び出す様な形ですっ転んだ。

 

 

〚ぐっ、痛っっっった!!!お前!俺にこんな事して許されると思うなよ!!駅員呼ぶかんな!!覚えておけよ!!!〛

 

 

『呼べるもんなら呼んでみろよ、無人駅に駅員居るわけねぇだろうがバ〜カ。』

 

 

そう俺が言い終わると同時に、無慈悲にも電車のドアが閉まり、発車アナウンスが流れる。

 

 

あの変態は大声で何かを訴えてるが、ここから見るとただひたすらに滑稽で面白い。

 

 

さて、変態は片付いたことだし肝心のレディは……………

 

 

やっぱりあいつ本格的に処すか。

 

 

 

 

―――主人公Side―――

 

 

 

 

何が起こったのかよくわからない。

 

 

 

ただ、とにかく誰かが私を助けてくれた事だけは確かだった。

 

 

 

涙でぼやけた視界を恩人の方へと向ける。

 

 

『ねぇ、大丈夫?…………立てそう?』

 

 

そう言って、私を助けてくれた彼は手を伸ばして来る。

 

 

どうやら私は、恐怖のあまり座り込んでしまっていたらしい。

 

 

「大丈夫…です、助けていただいてありがとうございます。」

 

 

震える声をなんとか振り絞って返事をし、彼の手を取ってゆっくりと立ち上がる。

 

 

『本当にああいう奴許せないんだよね、僕。他にあいつに何か変な事されてない?助けるの遅れちゃってごめんね…』

 

 

「あっ、はい。ギリギリ触られてないので、多分、大丈夫です………すごい、こわかった……」 

 

 

さっきの事をきっかけにして、今まで栓をして封じ込めていたトラウマや、怖かった事がズルズルと蘇ってくる。

 

 

あぁ、何でこんな時に限って、嫌な事思い出しちゃうんだろう。

 

 

最悪だ。

 

 

溢れ出した涙は留まることを知らず。

 

 

ぽろぽろと私の頬を伝っていった。

 

 

「ごめ…んなさい、また…泣いてしまって。」

 

 

早く泣き止まなきゃ、迷惑かかっちゃう。

 

 

『仕方ないよ……怖かったんだね、もう大丈夫だよ。もうあいつは居ないから、安心していいよ。』

 

 

そう言って、彼は温かな大きな手で私の背中をゆっくりと擦ってくれた。

 

 

『深呼吸して、ゆっくり息を吸って…吐いて…そう、ゆっくり。』

 

 

言われた通りにゆっくりと、噛み締めるように深呼吸する。

 

 

そうすると、不思議と落ち着く事ができた。

 

 

『落ち着いた?大丈夫そう?』

 

 

「あ…はい、背中擦ってくれたのもあって、大分落ち着きました…すみません…本当に…」

 

 

『いいんだよ、あれだけ怖い目にあったんだ。泣いてしまって当然だよ。』

 

 

本当に彼には感謝してもしきれないくらいだ。

 

 

涙を拭って、彼の顔を見ようと視線を上げた時だった。

 

 

「本当にありがとうございま……ふぇっ!?あの時の美人さん!?!何で?!?!」

 

 

私を助けてくれた彼が、まさかあの時の美人さんだなんて思ってもみなかった。

 

 

恐怖なんて何処かにすっ飛んでしまった。

 

 

『?!えっ、何?僕の事知ってるの?』

 

 

彼が戸惑うのも当然だ、面識も何も無い人間に「あの時の〇〇さん!?」と言われたら私だって戸惑う。

 

 

「あっ、えっとすみません…以前駅前で見かけて以来ずっと、綺麗な方だなぁって…思ってて、ほんと、それだけで…」

 

 

『あ〜、もしかして…終電間に合わない!!って大声で言ってた?』

 

 

「えっ!そんなに声大きかったですか……気をつけなきゃ………」

 

 

『それにさ、君、そのまま走って行ったでしょう。遠目から見ただけなんだけど、すごくフラフラしててさ、声を掛けるかどうか迷ってたんだよね…』

 

 

「あ〜、あの時は残業続きで寝不足で…」

 

 

楽しい会話の流れを断ち切るかのように、最寄り駅の到着アナウンスが鳴った。

 

 

もう少しお話したかったなぁ……

 

 

「あ、もう降りなきゃな…えっと、あの、助けていただいて本当にありがとうございました!お礼は…」

 

 

『お礼なんていいよ、レディが困っていたら助けるのが当たり前だろう。』

 

 

やんわりと断られてしまった……………

 

 

「でも……じゃぁ、せめてお名前だけでも教えて頂けませんか」

 

 

無理なお願いだと分かってはいるが、ダメ元でお願いしてみる。

 

 

『……わかったよ、僕の名前は夜麗影。君は?』

 

 

まさか教えて貰えるとは思っておらず、びっくりして声が突っかかってしまう。

 

 

「わっ、私は諸星灯里(もろぼし あかり)です。』

 

 

恥ずかしさを誤魔化す様にして、電車を降り麗影さんの方を向いてお辞儀をする。

 

 

「では、失礼します。今日は助けていただいて本当にありがとうございました。」

 

 

目をしっかりと見て麗影さんにお礼をする。

 

 

麗影さんに助けて貰えなかったら今頃非道い目にあっていただろう。

 

 

本当に感謝してもしきれない……

 

 

『うん、夜道には気をつけてね。ばいばい、灯里ちゃん。』

 

 

麗影さんはにっこりと微笑み、手をひらひらと振ってそう言った。

 

 

そのすぐ後にドアが閉まり、車両がゆっくりと動き始めた。

 

 

手を振り返して麗影さんを見送った後、ふと麗影さんの言葉を思い出した。

 

 

 

ばいばい、" 灯里ちゃん "

 

 

 

えっ?名前、呼ばれたの?

 

 

麗影さんに?

 

 

嘘でしょ?

 

 

暫く、心臓がうるさい音を立てて鳴り響いていた。

 

 

 

 

――――夜麗影Side――――

 

 

 

『うん、夜道には気をつけてね。ばいばい、灯里ちゃん。』

 

 

本当は送ってもいいくらいなのだが、流石に初対面では不味いので止めることにした。

 

 

灯里ちゃん、可愛らしい顔立ちしてるのに本当に勿体ないよなぁ…

 

 

 

彼女は目のクマが酷く、化粧でなんとか隠しているものの、酷い肌荒れがあるのが伺えた。

 

 

きちんとケアすれば、どんな男でも振り向く程可愛らしくなるのに…

 

 

きっと、こんな時間まで残業してたって事は彼女の勤める会社は所謂ブラック企業なのだろう。

 

 

 

なんてぼんやりと考えてると、嫌な着信音がなった。

 

 

若干の苛立ちを覚えつつ電話に出る。

 

 

電話の相手は、僕の腐れ縁のあいつだ。

 

 

『なンだよ、折角気分良かったのにお前のせいで台無しなんだけど。』

 

 

 

【まぁそう言わずに、新しい依頼が来たってだけだよ】

 

 

『依頼ねぇ……つまんなさそうだったら断るかんね。』

 

 

 

【きっと、お前を満足させるものだよ。】

 

 

 

『なンだよ、勿体ぶらずに早く言えよ。』

 

 

【警察からの極秘の依頼さ、ターゲットは、最近多発している通り魔事件の犯人。その犯人がどうやらこっち側らしくてね。送り込んだ特殊部隊も全滅で、もう警察の力じゃ対応仕切れないから、なんとかしてくれだってさ。】

 

 

『ふーん…面白そうじゃんか、なんだか久々に愉しめそうな依頼だね……』

 

 

【んで、この依頼どうするんだ?受けるか?】

 

 

『ん、決めたよ。受ける。それじゃ、後でターゲットの資料送って。頼んだよ〜』

 

 

そう言ってさっさとアイツとの電話を切る。

 

 

こっち側の相手なんて何年振りたろうか、最近手応えのない奴ばっかりだったから凄く楽しみだ。

 

 

 

 

 

早く殺りたいなぁ……久しぶりに愉しめそう……

 

 

 

心を躍らせながら見る夜景は、さっきよりも何倍も美しく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第2話です…………勢いとノリで書いているので、誤字や表現に誤りがあるかもしれないです。発見した場合は教えて頂けますと幸いです。

主人公の名前とサブタイトルに深い意味は特に無いです。
拙い文章ですが、ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
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